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あなたといつか日本全国踏破したい【はじまり編】

 行きたいところはたくさんあるけれど、いつかは行けるだろうと思って実行できないことは多々ある。時間があってもなくても「まあ、また今度でいっか」とゲームのコントローラーを握ってしまう。しかし「今度でいっか」が簡単に言えなくなってしまう日が来るなんて・・。
 2020年2月頃から全世界に広がったウイルスにより外出自粛の”おうち時間”が当たり前の時代に変わった。海外はもちろんのこと、国内旅行も難しくなっていた。人間は与えられていると欲しがらないのに抑えられると欲しがってしまうもので、そんな期間が続いた私は旅への欲が非常に高まっていた。欲に耐えられず2020年7月に県内観光(黒部宇奈月)に出掛けたが、やはり外に出て見知らぬ土地の景色を見るというのは本当に気持ちがいい。満足感に少し欲が収まるかと思いきやより高まっていく。止まらない気持ちにインターネットやSNSの検索履歴は旅行関係のものばかりになっていった。
 旅番組、旅動画、旅漫画・・様々なメディアの中で特にハマったのが旅エッセイだ。旅に出るきっかけから準備、旅行中のトラブルや感動をおもしろおかしく、それでいて素直な思いが綴られていてリアルな旅描写を感じられるのがたまらない。初めて手にした旅エッセイは、益田ミリさん著の『47都道府県女ひとりで行ってみよう』で、なんともゆるい旅描写に衝撃を受けた。
 月に一回と設定されたその旅は都道府県各所を大体3ページでまとめており、日帰りの日もあれば帰省中に立ち寄る場合もある。他人と話すことや何か体験する勇気が出なくてホテルに籠りっきりだったりご当地名物に全く興味を示さない描写に「これは旅・・なのか?」と困惑したが、そんな中でも新しく見つけたものに感動し、これまでの日常に目を向けたりと、旅をしたから見えたもの大切さがこのエッセイを通じて感じられた。これを読んで、私の中の旅行に対するハードルがガクンと下がった。旅行というとその土地を楽しむためにたくさん調べてルートを考えて、一日三食のどれかはご当地のものを食べなくてはいけない、気合いを入れて取り組まなくてはいけないものという認識があった。上手くいかないことが一つでもあると焦って嫌になってしまうことが多々あったが、益田ミリさんのエッセイを読んで「旅は最後によかったと思えればそれで良い」「ダメだったことは次の旅でやればいい」というゆるさで取り組んでも良いのかと思えるようになった。
 そう感じた途端、軽い気持ちで47都道府県達成してみたいと思えてきた。職業柄出張が多いのであくまで旅行としてのみカウントすることとしよう。そんな軽い意気込みを、富山に遊びに来ていたパートナーにその本を勧めると共に話してみた。彼女は基本インドアだが、旅自体は好きで何より自由気ままなゆるい旅が好きなのだ。私一人では自由気ままがいつの間にか生き急ぎみたいなプランになりかねないのでそんな存在がいてくれると嬉しいし、何より彼女と見知らぬ土地に行くこと自体が魅力的だと思った。彼女は二つ返事でOKしてくれて、さらに「二人で行った都道府県のみカウント」「二人でいつか制覇しよう」という新たなルールを提案してくれたのだ!
 そう言ってくれただけでもう旅しなくてもいいやくらいの満足感なのだけれど、行動に移さなければ。金銭面はもちろん、二人で予定を合わせる必要もあるしこのご時世では頻繁に旅行することは難しい。一体いつ47都道府県を制覇できるのかわからないが、ゆっくりと少しずつ、この旅を楽しんで行きたい。
 早く気軽に旅行ができる日が来ておくれ。

幻冬舎文庫
益田ミリ著 『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』

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