【ブンアン2への融資決定】ベトナムに石炭火力発電を建て、気候変動を加速させる日本。問題点の整理
2020年12月29日付の日本経済新聞の記事で国際協力銀行(JBIC)が、三菱商事などがベトナムで計画する石炭火力発電所建設「ブンアン2」に対し、約17億6700万㌦(約1800億円)の協調融資を決めたと発表したと報じられました。この融資には三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行の日本の3メガバンクや韓国輸出入銀行などが参加しています。日本の3大メガバンクは、石炭火力発電開発プロジェクトに融資する銀行として融資額ランクの世界第1位から3位までを占めており、すでに世界中から批判されていました。それにも拘らず、またしても日本のメガバンクは気候変動に加担するような融資を行うことを決めてしまいました。
さらに今回は日本政府がすべての株を保有していて日本の政策金融機関である国際協力銀行(JBIC)も融資を決定しました。JBICは日本の対外経済政策の遂行を担う銀行です。つまり、日本政府をあげて、ベトナムに石炭火力発電所を建てるという決定をしたのです。今回の決定は気候変動・気候正義の観点から看過できるものではありません。
気候変動対策が求められている現状や、ブンアン2の問題点、メガバンクのグリーンウォッシュなどについて見ていきます。
1.気候変動対策は予断を許さない状況
IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)によると、2030年までに世界全体のCO2排出量を45%以上削減できなければ、地球の平均気温は産業革命前と比べて1.5℃以上上昇してしまい、海面上昇、干ばつ、水不足、生物多様性の喪失、食料不足などが壊滅的な規模で引き起こされます(IPCCの特別報告書「Global Warming of 1.5 ºC」を参照)。1.5℃目標を達成するためには日本をはじめとした先進国は2020年から毎年10%以上のCO2排出の削減が求められます。そのためには今すぐにでも世界中の石炭火力発電所は次々と廃止していかなければなりません。
(参考:https://www.climateinteractive.org/ci-topics/climate-energy/scoreboard/early-ambition/)
2.ブンアン2の問題点~気候変動、大気汚染、ベトナムの人々への影響~
今回JBICらが融資を決めたブンアン 2とは、ベトナムのハティン省に計画されている1,200MW(600MW×2 基)規模の石炭火力発電所です。ブンアン2は建設されてから25年間にわたって発電を行うとJBICは発表しています(参考:https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2020/1229-014147.html)。
上で見たように、気候変動という観点から石炭火力発電所を新設する自体あり得ないことですが、そのうえ、ブンアン2は日本で建設されている発電所に比べ大気汚染物質の排出量が数倍も高いことが指摘されています(以下のグラフを参照)。エネルギー・クリーンエア・リサーチセンター(Centre for Research on Energy and Clean Air)の分析によれば、ブンアン2プロジェクトによる大気汚染物質の排出量が日本の同規模の石炭火力発電所に比べ5~10倍高いことが判明しています 。日本を含む先進国では、発電事業として認可されないような大気汚染を引きおこす発電所なのです。
(参考:https://www.nocoaljapan.org/ja/the-5-reasons-the-vung-ang-2-coal-power-plant-is-a-financial-and-environmental-disaster/)
そして、議論の俎上にのぼってもいないのは、現地に住む人々への影響です。昨年2020年10月、ベトナム中部に上陸した台風18号(モラヴェ)は、20年に一度の規模で、ベトナムを襲った台風で最も強い台風の一つでした。この台風で250万人をはるかに超えるような数の子どもたちが、家屋が損壊し、食料備蓄は失われ、飲み水、洗濯、調理のための清潔な水を手に入れることができず、水や衛生設備の被害を受けていると言われています。また、激しい暴風雨と増水に対するトラウマがあり、多くの人が泳げないために恐怖を感じ、心の健康にも影響が及んでいるともされています。(参考:https://www.unicef.or.jp/news/2020/0228.html)
少なからず温暖化の影響で台風の被害が深刻になり、現在進行形で被害を受けている国に対し、温暖化を加速させ、かつ深刻な大気汚染を発生させる可能性が高い発電所を立てようとしているのです。
3. パリ協定との整合性、メガバンクらのグリーンウォッシュ
今回の決定は日本政府が順守すると約束したパリ協定に反すると言えます。言うまでもなく、気候変動対策は日本国内だけのカーボンニュートラルを達成すればよいわけではなく(昨年2020年10月に菅首相は2050年までに二酸化炭素ネット排出量ゼロにするという政策目標を発表しました)、世界各国が協力して進めなければなりません。とりわけ先進国は二酸化炭素を多く排出しており(日本は世界で5番目に二酸化炭素を排出している)、進んで気候変動対策を行っていくべき立場です。そのような立場にある日本が、他の国に石炭火力発電所を建てるというのは、気候変動対策を本気を進める気がないと見られてもしようがありません(*)。
また、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行は石炭火力発電の新規建設への投資を行わないという方針を示していました(参考:https://pps-net.org/column/82111)。さらに、みずほフィナンシャルグループは2030 年度までに2019 年度比 50%に削減し、2050 年度までに石炭火力発電への投資の残高ゼロとするという目標を持っています。ブンアン 2への融資は明らかにこれらの方針の精神に反しています。三大メガバンクは環境NGOや海外からの批判にさらされ、石炭火力発電の新規建設への投資を行わないという方針をたてましたが、今回の融資の決定でこれらの方針は建前でしかなく、より率直にいうと嘘に過ぎないことが分かりました。
また、今回協調融資を行う三菱商事もその経営資料の中で「エネルギー需要の充足という使命を果たしながら、SDGsやパリ協定(2℃目標含む)で ⽰された国際的な目標達成への貢献を目指す」と宣言していながら、融資を決定しました。三菱商事のサステナビリティ・CSR部長は気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures( TCFD))のメンバーであり、ESG投資の旗振り役として各種セミナーや講演会に登壇し、その啓発を行っているとのことです。しかし当の三菱商事はESG投資に反するような融資を行っており、それらの活動は気候変動対策への貢献をしているという外向きのポーズを示すだけの「グリーンウォッシュ」でしかありません。
4.利益追求 VS 気候変動
気候変動対策が急がれる中でなぜ、それに逆行するような動きが出てきてしまうのか。それは、石炭火力発電を立てることで利益をあげることができるからです。銀行もただの金を貸しているわけではありません。利益が追求できる事業に投資し、その「利ざや」を収入としているのです。そのような一部の企業、金持ちの利益追求によって、私たちの未来が奪われ、グローバルサウスの人々の人権が侵害されているのです。
海外の投資家たちは、若者や環境NGOからの圧力に屈し、環境に悪い投資を行うことは好ましくないものとみなしてきています。最初に見たように、日本の銀行は世界で最も気候変動を推し進めているといっても過言ではありません。日本でも気候変動を加速させてしまうような投資は許さないという声を上げていき、投資撤退を達成させましょう。
FFF仙台、FFFJAPANとしてもこの動きについては反対の声を上げていく予定です。
*JBICは、「ベトナムにおける脱炭素化に向けたエネルギー政策転換への取り組みを行ってきており、かかるエンゲージメント強化も踏まえ、本プロジェクトを支援してまいります」とも言っており、脱炭素化を取り組む一方で石炭火力を建てるという、支離滅裂なことを言っています(参考:https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2020/1229-014147.html)。
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