なぜ私たちがバングラデシュとの連帯を目指すのか vol.1 マタバリで何が起きているのか
私たち「マイノリティから考える気候正義プロジェクト」は、マタバリ石炭火力発電事業に抗議しながら、バングラデシュやグローバル・サウスの人々との連帯を模索しています。一見すると、バングラデシュは日本からも遠く離れた国で、そうした国の人々との連帯を目指すのは難しく、遠回りなことと思われるかもしれません。そんなことよりもまず、日本の気候変動対策、排出量削減目標について議論すべきだと言う人もいるでしょう。
この連載では、私たちがグローバル・サウスとの連帯を目指す理由、そしてその中で考えたことなどを記録していきたいと思います。
石炭を燃やし続ける日本
きっかけは、バングラデシュのメンバーから日本のメンバーにメッセージが送られてきたことでした。「バングラデシュに日本が石炭火力発電所を作っているから、一緒に抗議アクションをしよう。」そのメッセージを見た瞬間、日本で環境運動に携わっている私たちが絶対に取り組まなければならない問題だと感じました。
今、まさに気候危機の時代。気温上昇や熱波、台風や森林火災といった災害から、生態系の破壊や食糧危機まで、地球に暮らす私たちは、決してその影響から逃れることはできません。産業革命以降の気温上昇を1.5度以内に抑えるには、二酸化炭素排出量を2030年までには半分に、2050年までにはゼロにしなければいけません。世界では気候変動対策が議論され始めている中、日本での危機感は薄く、COP26でも化石賞を受賞する始末。石炭火力発電所を稼働するどころか、新規に建設し海外にも輸出する日本の態度は、世界中から注目を浴び、批判されています。
さらに、バングラデシュは世界で最も気候変動の被害を受ける国の一つ。2000年から2019年の間で、バングラデシュでは気候変動の影響によって57万人が亡くなりました(1)。そんな国に石炭火力発電所を新しく建設するなんて、許されることではありません。しかし、マタバリで起きていることは、それ以上に言語道断な人権侵害でした。
マタバリで起きていること
マタバリ石炭火力発電所は、バングラデシュ最大の港湾都市チョットグラム(旧チッタゴン)コックスバザール地区マタバリに建設されている、1200MWの石炭火力発電所です。JICA(国際協力機構)が「ODA(政府開発援助)」として融資し、住友商事などの日本企業が受注しています(2)。この非常に大きな規模の発電所は、日本の新規石炭火力発電所に適用される環境基準を満たしておらず、平均的な日本の新規石炭火力発電所の21倍の二酸化硫黄、10倍の致死性粒子が排出される見込みです(3)。驚くべきことに、フェーズ1事業のみによって、運用期間中に最大1万4000人の早死を引き起こすと言われています(4)。
さらに重要なのは、被害が予想されているというだけでなく、すでに起こっているということです。発電所を建設する土地を得るために、現地の人々は生活や仕事を失うことになりました。移住を強いられた人々は、約束されていた住宅施設に移ることができませんでした。また、エビや塩の養殖に関わっていた2万人の人が職を失い、生計を立てられなくなりました。多くの人々が、十分な補償を受けることができなかったのです(5)。
そして、この事業のために、すでに死亡事件が起きています。バングラデシュは、地理的に水害が多い国です。その影響は、気候変動によってより深刻なものになっています。マタバリ事業に関する工事が、洪水に対処するための排水システムを妨げてしまい、雨水が配水されず、地元の人々に甚大な被害をもたらしました。2018年には、21の村が水浸しになり、5人の子どもが亡くなりました。また、通学中のボートが沈没し、7人の児童が重傷を負いました。
日本の基準を超える汚染を引き起こし、人々の生活や仕事を奪い、死亡事件も起きている事業を継続していいはずがありません。バングラデシュの人々に電気を供給し、生活を向上させるための支援だとしたら、どうして現地の人々がホームレスになり、失業していることに対処しないのでしょう。どうして、日本に作れない規模の発電所をバングラデシュに作ろうとしているのでしょう。
私たちは何をすべきか
これほどの被害を引き起こす、またすでに引き起こしている事業を押し進めているのは日本企業と日本政府です。現地では反対運動やストライキも起きていますが、JICAや住友商事は事業をやめようとしません。
反対しているのは現地の人々だけではありません。世界の潮流に反して石炭を使い続け、環境破壊と人権侵害をしている日本への厳しい視線は、世界中から向けられています。こうした問題が知られず、反対の声が目立たないのは日本国内だけです。
以前、ある環境NGOで活動する学生が、日本の石炭火力発電に対する抗議行動を、他国のNGOが連携して計画していることを教えてくれました。彼女は、「日本が行っていることなのに、日本の運動が参加しないのは恥ずかしいことだと思います」と言っていました。また、アジアの若者が連帯し、気候変動などの諸問題を乗り越えていくことを目的とするセッションに、通訳を準備したにもかかわらず、日本からの参加が全くなかったという話も聞いたことがあります。
日本企業がバングラデシュで環境を破壊し、人権侵害をしていることは報道もされません。この問題に、日本で運動をしている私たちが取り組まないのは「恥ずかしいこと」だと、私も思います。日本企業がバングラデシュで行っている環境破壊に取り組まず、日本国内の排出量に一喜一憂していては、気候変動など止められるはずがありません。海外に合流できる反対運動を、日本でも作らなければいけません。
このような破壊的な開発に反対する動きがないために、ODAの真実は見えなくなり、日本国内ではODAは「国際貢献」だと、素晴らしいことだと思われてしまいます。世界の貧困や気候変動に関心を抱いている若者さえ、こうした事業を押し進めるJICAやSDGs企業を目指してしまいます。
この運動を通して、アジアの若者たちと連帯し、そして国内の若者たちをオーガナイズし、気候変動や開発に反対する人々の新しい関係を築くことができるのではないか。人々の連帯こそが、大企業や政府に抵抗し、社会を変えることができます。そうした思いから、私たちはバングラデシュとの連携を模索し始めました。
(1) https://www.afpbb.com/articles/-/3330296
(2) https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/news/release/2017/group/20170823
(3) https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2019/09/2b53ab74-20190905_doublestandard_jpn.pdf
(4) フェーズ1とフェーズ2が現在建設中。日本政府は、さらにフェーズ3とフェーズ4への投資を検討しています。
(5) http://waterkeepersbangladesh.org/report-of-a-fact-finding-mission-on-possible-risks-of-having-coal-based-power-plants-in-coxs-bazar/