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佐川恭一「シスヘテロ男性の三類型とその傾向分析」
プロローグ
私の考えでは、シスヘテロ男性(以下簡単のため、本稿における「男性」はシスヘテロ男性を指すものとする)のとりうる形態は極言すれば「童貞」「素人童貞」「下半身先行型排泄機械」の三通りしかない。したがってある人間が男性を批判する様式も、究極的には三通りに集約できる。本稿の目的は、現代における代表的な文学作品や最新の研究成果に着目することによって、この仮説を論証することである。
童貞
まず一つ目の類型は「童貞」である。ここで私は、擬似私小説的手法で世界的な童貞文学ブームを巻き起こしたR・シコティウスの傑作『鈴宮パリピの消失』を取り上げたい。この作品の主人公ド・ピュンは、えっちな自撮りをアップしてイイネを集めることで承認欲求を満たすタイプの女子の自撮りを熱心に蒐集している。ある夏の日、ド・ピュンは日課の自撮り蒐集のためスマホでインターネット(ここではツイッターを指す)の海にダイブしていたが、ある女の子の信じられないほどえっちな自撮りを目にして仰天した。「鈴宮」と書かれた手書きの名札を胸につけたそのパリピ女子大生は、学生たちの飲み会が行われていると思しき大学の講義室の教壇上と思しき場所でスカートを脱ぎ捨て、下半身のみ下着姿となって女の子座りをしつつ後ろを半分振り返るような感じでお尻に食い込んだパンツを強調した圧倒的自撮りを惜しげもなくアップしていたのである。ド・ピュンのスマホを握る手はブルブル震え、そのためにうまく画像を保存できなかった。ド・ピュンは叫び声を上げながら一度ツイッターを閉じ、なんとか精神の態勢を立て直し再びツイッターを開く。その間わずか四秒だった。しかしそこにあの圧倒的自撮りはなかったのである。学生たちの飲み会が行われていると思しき大学の講義室の教壇上と思しき場所でスカートを脱ぎ捨て、下半身のみ下着姿となって女の子座りをしつつ後ろを半分振り返るような感じでお尻に食い込んだパンツを強調した圧倒的自撮りは、すでに消えていたのだ。その時、驚愕と落胆のあまり脂汗まみれになりながらド・ピュンは言う。
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さまざまな個性を持った7編の小説からなるアンソロジーです。参加作家は、佐川恭一・河野咲子・旗原理沙子・林やは・二宮豊・竹中優子・和泉萌香。…
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