見出し画像

木曜日の夜は映画の話

勤めていたころ、木曜日あたりになると金曜日になんの映画を観るか考えた。金曜日の夜、疲れていなければ酒に合うつまみを作り、映画を観るのが楽しみだった。酒もつまみも映画の気分に合わせて作る。だから、木曜日に映画のことを考えて、金曜日の仕事帰りに買い物をする時には何を観るか決めておく必要があった。
近くのレンタルショップで3本の映画を借りるときは、1本をまた観たい好きな映画、2本を新しく観る映画にして、2週間かけて観ていた。サブスクで観ることもあった。
私はあまりたくさん映画を観ない。どちらかというと好きな映画を繰り返し観ている。新しく観る映画は年に50本だけだ。
その中からいくつか、好きな映画の話をしようと思う。



(500)日のサマー

映画って面白いと思ったきっかけの映画。
建築家の夢を諦めグリーティングカードのコピーを考える会社に勤めている冴えないトムは、ある日秘書として入社してきた傍若無人でセンス良くとっても魅力的なサマーに恋をする。
2人の物語が時系列をばらばらに比較しながら語られる。この構成がとても巧妙で面白い。
ブルーの着こなしがお洒落なサマーの自由な振る舞いに憧れてしまう。こんなふうに思ったことをはっきり言えて、自分のセンスを信じられて、可愛かったらどんなにいいだろう! だけどサマーは映画「卒業」を観て大泣きしてしまうほど、運命を信じていない女の子。根本的に人間不信で、傷がある。
恋だけではなくて、仕事の話や夢を追う話が少し入るところがとても好き。
トムの黒板つきの部屋いいなあ。

ビューティフルマインド

天才数学者の、孤独の果てのお話。まだ観ていなかったら、ネタバレを見ずに観てほしい…。
数学の天才、ナッシュは輝かしい功績をあげた結果、スパイの仕事を依頼されるようになる。誰にもばれずに暗号を解読しなければならない。だんだんナッシュは追われるようになり、息が詰まっていく。スパイの緊張感が最高潮に高まったところで、全てがひっくり返ってぞっとした。
もうすごくはらはらしながら観ていて、ひっくり返った瞬間にそのはらはらした気持ちが一気に冷えて、恐ろしくなったし、悲しい気持ちになった。
存在しているものは存在しているもの。生きるうえでの折り合いの付け方にとても励まされたし、孤独な人が尊ばれるお話が好きです。

シェイプオブウォーター

ティールグリーンで纏められた映像に赤が刺さっていくのがお洒落!
喉に傷があり発話のできないイライザは、映画館の上にある小さなアパートで暮らしている。毎日、夕方に起きては茹で卵とサンドイッチを作って、隣の部屋の友人と話し、バスに乗って仕事へ向かう。夜勤の仕事は宇宙研究所の掃除係だ。ある日、研究所に謎の生き物が運ばれてくる。
物語が冷戦の上に成り立っていて、初めに観た時にはらはらした。
イライザの素朴だけどお洒落な暮らしや、おしゃべりで温かい友人たちとの関係がとてもとても好き。やっぱり孤独な人同士が支え合う構図が好きなんだと思う。

燃ゆる女の肖像

結婚のための肖像画を依頼された女性画家と、描かれることを拒否するお嬢様のお話。
女達にまだ自由のなかった時代、画家は父の名前で絵を描くし、お嬢様は結婚の道具になる。お嬢様つきのメイドは望まない妊娠に対処する。
だけど悲観的な雰囲気はまったくなく、3人が笑って過ごした数日間が温かく、とても愛おしい。
静かな映画で、波の音や暖炉の燃える音が聞こえ、キャンバスをなぞる筆の音さえ響く。暖炉で燃えていた暖かな火は、中盤で大きな焚き火となり、2人の間に燃え移る。
振り返った彼女と振り返らなかった彼女、熾火のように燃え続ける愛の、永遠を記す28ページが愛おしい。

花とアリス

春になると毎年観たくなる。
仲良しの2人組が出てくる映画が好きで探していたところ見つかった。岩井俊二はこれが初めて。淡い映像と奇妙でどこかファンタジックな設定や世界観が、ふわふわとしていて好き。
父の記憶をなぞってデートするアリス、好きな先輩を追いかける花、花の落語をひとりだけ見ているアリス。
ふたりのきっかけのバレエ、学校に行けなかった女の子。海辺で見つけたハートのエース。
切なさと寂しさが重なってしまうと優しく見える。2人はもう大丈夫だし、離れる時が来ても、親友だったことを忘れないと思う。
蚊に刺された表紙の写真を笑いあう2人がとても好き。
サントラも好きでよく聞く。

蜜のあわれ

老いた作家と可愛い金魚のお話。
二階堂ふみちゃんがすっごく可愛くて、作家を「おじさま」と呼ぶんだけど、「おじさま↑っ↑?」という感じで語尾が上がるのがすごくすごく可愛いし、金魚なんだよ。金魚なの……。赤いお尻をふりふり。お可愛らしい。
老いてなお怖いものはあり続けるし、認められないことも、信じたくないこともたくさんある。それを一歩踏み越えたようなラストが愛おしくて好き。

リトルフォレスト 夏・秋

田舎の悪いところと周囲の無責任さが詰まっている部分があって、特に春・冬はそれが顕著で苦手だし落ち込むんだけれど、この夏の鬱蒼とした緑と湿度、BGM、丁寧なご飯が好きでどうしても梅雨に観たくなる。ごはんがおいしそう。真っ赤なグミや湿気を吹き飛ばすパン、命をもらう合鴨。

マリーアントワネット

12月から1月に毎年観たくなる。ソフィアコッポラの得意な豪華で可愛く、全てを持った女の子の孤独のお話。
史実よりもファンタジー寄りで、とにかく可愛い! 可愛いものが最初から最後までたくさん詰まっていて、観るたびにうっとりしてしまうし、可愛くて毒っぽいものが大好きでMILKやKatieを着ていたころの気持ちを思い出す。
マカロンみたいな色のドレスや可愛いケーキ、シャンパンの塔、お誕生日のパーティ、仮面舞踏会、花畑、全てが可愛くて流してるだけでうれしくなる。
可愛いもので埋め尽くされた背後にある空虚感や孤独。女性の立場というのはいつも同じだなと感じる部分があって少し考える。
ソフィアの映画、中間点が必ずパーティなところが好き。パーティの前後で世界が変わってしまうところ。

魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語

ほむらちゃんにとってまどかは、大好きな特別な親友。でもまどかにとってのほむらちゃんは、きっと大勢いる友達のうちの一人。繰り返すごとにずれていく気持ちをほむらちゃん自身もわかっていて、自分を罰し続ける姿が切ない。弱さからできた優しさを抱えているさやかちゃんの、「このままでもいいんじゃない?」の台詞がすごく好き。まどかがもっているのは強さからくる優しさだけど、さやかちゃんは、弱さからくる優しさ。弱いからこそ人に寄り添える、間違えた子にそういうこともあるよね、わかるよ、と言える優しさをもった子だなあと思う。
バレエやくるみ割り人形、炎の街、ケーキやぬいぐるみ、悪夢、好きなモチーフがたくさん詰まっていて大好き。毎年ハロウィンの時期に観る。

小さな悪の華

蝶の羽をちぎるような無邪気さのまま悪事を重ねる女の子2人、好き。
秘密の悪いことはどんどんエスカレートしていって、最後に2人を焼いてしまう。手を繋いでいれば平気。女の子2人組が大好きなんだけど、閉鎖的な世界になりがちでたちが悪い関係だとも思う。そこがまた好きなんだけど。

Swallow

広いお家に完璧な夫、お腹に赤ちゃんもいて、誰もが羨むような暮らしのハンター。だけど誰も彼女に寄り添ってはくれない。だからハンターは泣くのを我慢しているような表情で苦しさを飲み込み続ける。
こういう苦しみを抱えた人にどうしても共感してしまうし、そばへ寄ってもう我慢しなくてもいいよ、飲み込まなくていいよと声を掛けてあげたくなる。ラストが鮮やかで、とてもすっきりした。映像やインテリアもお洒落。

桜桃の味

土埃をあげてがたがたと車が行く。主人公は自分に土をかぶせてくれる人を探しては、何度も断られる。ほとんどが社内での映像で面白い手法。
オムレツを一緒にどうかと誘われた時、私も嬉しかった。何が救いになるかなんてわからないし、ふとした風景や言葉が希望になることもある。私もずっとそんな希望や、一緒にオムレツを食べてくれる人を探している気がする。どこか寓話のようなお話でありながら、ラストは現実に引き戻されて、自分の人生を生きろと鼓舞されるような気持ちがする。

君の名前で僕を呼んで

どうして同性愛ものっていつも悲劇だったり、相手が不倫してたりするのか、まずそこに怒ってしまう。幸福なだけのお話ってなかなか見つからない。アプリコットのなる庭に、夏の日差し、影がレースみたいで美しい。
湖、読書、ピアノや楽譜、そして恋も、夏の美しいものを切り取って閉じ込めたみたい。
映画に憧れてアプリコットを買って食べてみたけど、酸っぱかった。

叫びとささやき

じっとりした気持ち悪さと恐ろしさがあって気が狂いそうだった。
何もかもが赤い部屋で、末期の病気に苦しむ女、仲の悪い姉妹たち、召使いだけが聖母のように胸に抱き締めてくれる。他愛もない幸せな日の日記。
苦しそうな叫び声と時計や鐘の音が耳にいつまでも残る。
神様なんていないんじゃないかと思う。死すらも私達を救わない。
描いている漫画のキャラクターを把握するために短い小説を書くことがあるけれど、その中でこの映画を引用したことがある。

わたしの叔父さん

いつもの朝食に牛たち、食後のコーヒーとゲーム。主人公は20代後半の女性で、怪我をして充分働けない叔父さんと一緒に暮らし、牛舎の仕事の手伝いをしている。両親はいない。獣医になる夢があったけれど、淡々と暮らしを続けている。
主人公が叔父さんを愛しているし大切に思っていて、叔父さんも主人公を大切に思って心配していることが伝わる。切ない。でも、主人公は大切な人を失うことがトラウマになってしまっていて、必死でしがみついているようにも思える。変わることって恐ろしい。だけど変わらなきゃいけない。
テレビが消えた。さあ、話をしよう。

バベットの晩餐会

仕事とは、芸術とは何でどういう姿勢で向き合うべきなのか、自分の役目は何なのか。黒が多めのフェルメールみたいな映像が美しく、出てくる御馳走もとてもおいしそう。未知の食材に怯えながらおいしく食べているのが愉快。バベットと姉妹の交流も暖かくて、とても好き。

いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46

2018年ころの、一番輝いていた乃木坂を、私は知らない。このころに出会いたかったとひたすら思う。
自分がグループから卒業することを寂しく思う人たちが大勢いて、メンバーも寂しく思うし、最後の握手会にこんなにたくさんの行列ができるのってどんな気持ちなんだろう。周囲の混乱を招くからと成人式に席が特別に用意されなきゃならないってどんな気持ちなんだろう。愛を交換しあう仲間がいるってどんな気持ちなんだろう。
大晦日、歌番組で最高のパフォーマンスをして、卒業する七瀬ちゃんは活動終了。ひとり残されて取材に答えた時、どんな気持ちだったのかな。
七瀬ちゃんを欠いて年始の歌番組に向かうメンバーはどんな気持ちだったのかな。彼女たちのことを考えると、いつも切なくなる。



私が映画を観始めたのは大人になってからで、大好きなガーリーカルチャーに導かれてロリータやエコールから映画を観始めた。
可愛くて映像の綺麗な映画を観るうちに、観る機会のある観たい映画はほとんど観てしまったので、ここ数年はいろいろと観ている。
好きな映画というとその可愛い映画になりがちなので、偏りすぎないように選んで書いてみた。
まだ好きな映画はたくさんあるので、そのうち書きたい。
観たい映画もたくさんあり、ピクニックatハンギングロックはリバイバル上映が楽しみ。プリシラも楽しみだし、ファルコンレイク、イノセンツ、クローズ、ピンククラウド、トゥウォークインビジブル、八月の鯨、そういえばナイトメアアリーもまだ観てない。ベッソンの新作も観てない。
最近は映画を観る精神的な余裕がなく、随分前にベイビードライバーを半分観てそのままになっている。続きを観ようかな。


いいなと思ったら応援しよう!