眼科診療における感染対策② 医療器具の洗浄・消毒・滅菌
感染症看護CNSのしんかいのりこです。
前回、眼科診療における具体的な感染対策その①「手指衛生」について書かせていただきました。今回はその②「医療器具の洗浄・消毒・滅菌」について書かせていただきます。
医療器具の再処理サイクルとは
眼科診療に限ったことではありませんが、診察や手術で使用する医療器具は、使用した後、中央滅菌材料室などの洗浄エリアに回収して、洗浄・すすぎ・乾燥をし、その後器具の点検・組み立を行い、包装・滅菌をして汚染がないように保管し、払い出した後再び診察や手術で使用します。再処理の医療器具はこのようなサイクルを踏みます。
この再処理サイクルでは、洗浄、消毒、滅菌、それぞれの工程において精度を管理することで質を保証していくことが重要になります。ただ単に洗浄、消毒、滅菌を行えばよいということではないということを意識して欲しいと思います。
医療器具の洗浄とは
洗浄とは、医療器具に付着した有機物や汚染を物理的に除去する作業のことを言います。洗浄方法にはウオッシャーディスインフェクターや超音波洗浄機などの機械洗浄や、浸漬洗浄・ブラシを使った手洗浄などがあります。
どの洗浄方法を行う場合でも、洗浄が不十分であればその後の消毒や滅菌が不十分となるため、洗浄は極めて重要な工程であることを押さえておいて欲しいと思います。
誰が行っても同じレベルで効果的に洗浄できることが大切になるため、精度管理は重要です。例えば手洗浄の時、すすぎが1回の時もあれば2回の時があったり、内腔を有する器具の洗浄では、ブラシを使用する人と使用しない人がいるかもしれません。また、器具の内腔とブラシの太さが合っていないなど、人によって手順が異なることが往々にしてあります。洗浄の質を保証するためには、マニュアルや手順書を作成して、全員が同じ手順で実施する精度の管理が重要になると思います。
洗浄時の個人防護具
洗浄業務は、血液や体液などで汚染した水しぶきが飛び、作業者の目にかかることがあります。特に眼科器具には内腔のある器具が多数あります。ウオーターガンやエアガンなど頻繁に使用することがありますので、作業者が感染するリスクが高い業務と言えるでしょう。適切に個人防護具を着用すること、特に目を保護するゴーグルやフェイスシールドの着用は忘れずに着用して頂きたいと思います。
滅菌とは
滅菌は、芽胞を含むすべての微生物を殺菌することを目指す処理工程のことで、眼の粘膜に直接使用する器具は滅菌が必要と言われています。
滅菌には、高圧蒸気滅菌、過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌、酸化エチレンガス(EOG)滅菌などがありますが、どの滅菌方法でも、滅菌できていることを確認する必要があり、その一つが日常的な滅菌工程のモニタリングです。日常的モニタリングでは、滅菌機が適切に作動したことを保証するために、滅菌の温度や圧力、時間が記録されたことを記録用紙などで確認すること(物理的モニタリング)、滅菌物に化学的インジケーターを入れて、変色を確認すること、生物学的インジケーター(アテスト)を行い、陰性を確認してから払い出すこと、そして、これらのモニタリング結果を毎日保管することで、質の保証を行います。
滅菌物の保管と取り扱いについて
滅菌物は使用直前まで滅菌状態を維持する必要があり、使用時は化学的インジケーターの変色していることや、有効期限を確認して使用します。
特に注意して頂きたいことでは、滅菌物を使うまでに不潔になるようなイベントが発生していないか気を付けることです。滅菌物が濡れていないこと、破損や破れがないこと、化学的インジケーターの色調が変化していること、有効期限内であることを確認します。
滅菌物は人が取り扱うためエラーが発生しがちです。例えば滅菌パックを落とした場合、見た目の破損がなくても、パックにピンホールがあいているかもしれません。不潔になるようなイベントが発生したときは、滅菌物を不潔とみなして、洗浄からやり直す必要があります。全員が同じ認識や行動ができるように、教育を繰り返し、手順のマニュアル化によって、質を保証していくことが大事でしょう。
下記の書籍を参考にしました。ご参考になれば幸いです。
NPO法人HAICS研究会、眼科診療における感染対策ガイドブック(2022.12.12閲覧)https://www.haics.jp/download/ipecguidebook.pdf
一般社団法人日本感染管理支援協会、IAHCSMMセントラルサービステクニカルマニュアル第8版(2022.12.12閲覧)https://www.jicsa.net/hanbai/8th.pdf