「リテールテックのトップランナーとして走り続けたい」フェズ経営者×投資家 特別対談
フェズのビジネスモデルは何が特徴的なのか? 将来性はあるのか?
誰もが気になるテーマを第三者目線も織り交ぜながら明らかにするために、代表取締役の伊丹とこれまでシリーズB、シリーズCでリードを務めてくださったベンチャーキャピタル「ニッセイ・キャピタル」の三野隆博さんとの対談を実施。
三野さんは、フェズのどのような点に期待しているのか。経営者と投資家が、フェズのビジネスモデル、そして事業の可能性について語り合いました。
“小売業界に入り込めている”というゆるぎない事実
ーまずは、お二人の出会いから教えてください。
伊丹:
当社のクリエイティブディレクター・堤(つつみ)の紹介ですよね。
三野さん:
以前私が参加していたスタートアップを離脱するタイミングで、もともと知り合いだった堤さんから「いい会社がありますよ」と紹介してもらったのがフェズでした。2019年の夏頃だったかな。すぐに連絡して、伊丹さんとお会いしました。
伊丹:
そうですね。カジュアル面談をして、僕から会社説明を差し上げました。まだ従業員数も40名程度で、「Urumo」というブランド名も決まっていなかったと思います。リテールテックのモデルを立ち上げたばかりで、当時は販促の領域に注力していました。
三野さん:
立ち上がったばかりとはいえ、インパクトは大きかったですよ。私が前職でドラッグストア領域にデータ分析の切り口でアプローチをかけようとしていた関係でそれなりに業界構造への理解があったので、まずは小売業界にきちんと入り込めていることに驚きました。そして、事業の構想を聞いて「そういう手で来たか!」と驚いたのを覚えています。
ーどのあたりを見て「小売業界に入り込めている」と感じたのでしょうか?
三野さん:
店頭の棚、しかもエンド棚(※)を確保し、ID-POSデータを取得できていた点ですね。
実は私も前職でフェズのクライアントにいくつかアプローチしたことがあったのですが、まぁ相手にされないわけですよ。小売業界のDXに対するハードルの高さを身を持って実感していたので、フェズの現状はかなり驚きでした。
※エンド棚…商品が陳列されている棚の両端の棚。陳列棚の顔となるので最も目に留まりやすいと言われる
140兆円とも言われる市場規模のインパクト
ーその後、三野さんはニッセイ・キャピタルにご入社されます。そこからの流れは?
三野さん:
事業会社に転職する道もあったのですが、最終的にVCに決めました。報告もかねて伊丹社長と話したときに「もし資金調達でお役に立てることがあったらお声がけください」というやり取りをした記憶があります。その後も継続的にコミュニケーションをとっていました。動きがあったのは、2019年の年末ごろですよね。
伊丹:
シリーズBですね。資金調達の計画を持ちかけて、年明けぐらいから準備に入りました。
ー三野さんは社内にどのようにフェズをプレゼンしたのですか?
三野さん:
すごくシンプルに「ドラッグストア領域でトップを走るリテールテックの会社です」と伝えました。
リテールテックという言葉自体は古くから出回っていて「ID-POSのデータを分析しよう」という概念も認知されています。
しかし、本業としてビジネスを回せているところは非常に限られている。この時期にドラッグストアチェーンを6000店舗近くカバーして、購買データ分析まで提供できる状態の会社なんて、本当に一部です。業界を知っている人間であれば「リテールテックの会社」と名乗れることの重みがわかります。
さらに次の展開にもまなざしを向けているのですから、トップランナーといっても過言ではないと感じました
ーとはいえ、ビジネスモデルが複雑だったり、収益性が見えづらかったりする中でチャレンジすることはVCとしてはリスクだと思うのですが、そのあたりはどういった意思決定を?
三野さん:
まずは小売業界における市場規模の大きさですよね。140兆円とも言われる市場規模は非常に魅力的です。
先ほどもお伝えしたように業界全体としてDXのハードルが高く、「どういうパーツが揃えば、本丸までたどり着けるのか」がわかりにくいマーケットでもあります。数多くのプレイヤーが模索している中でフェズはすでに小売業界に入り込み、データを取得できている。ある意味、料理のための食材はすべて揃っているような状態です。すごいところまで手が届いています。
さらに、チームとして小売業界の経営レイヤーと向き合える状態ができており、役員クラスの方たちと商談していたため、組織の意思決定を支援できるポジションを確立している。一般的なスタートアップでは考えられませんよ。常識的にできなさそうなところをきちんと実践できているので「この人たちは山を動かせるだろうな」という確信に近い想いがあります。
伊丹:
マーケットの何十歩先を見て意思決定してくれたのは、三野さんのすごいところです。業界の知識がなければ「儲からない」と判断されがちな部分ですが、三野さんは「フェズが進む先にすごい鉱脈がある」と気づいてくれた。非常に、ありがたかったですね。
三野さん:
自分も小売業界にしかけようと思っていた過去がありますからね。しかも、叶わなかったという(笑)。でも、だからこそ、フェズのすごさを理解できるし、期待できた。
VCとしては少なからずワクワクしたいし、投資した会社にはワクワクしたことに取り組んでほしいですからね。もしかしたら自分も一緒にワクワクしたいだけかもしれません(笑)。
誰よりも小売店と同じ目線で
ーフェズがそれほどまでに小売業界で存在感を発揮できた要因は?
伊丹:
いろいろと要因はあると思いますが、大きなポイントはスタンスの取り方ですね。小売業界にとって“一緒にマーケットをつくっていく同志”と自負しています。
同じようなビジネスモデルを展開している企業もあります。
たとえば、「広告」というアプローチでサービス提供をする企業、「システム開発」というアプローチでサービス提供をする企業などです。ただ、小売事業者側の重点課題が変わった際に、それらのアプローチだけでは、サービス提供が難しくなるケースが発生します。
しかし、私たちは何も気にするところはありません。小売業界と同じ目線で、売上拡大に向けて取り組んでいけるわけです。
三野さん:
「小売業界からお金をもらおう」ではなく、「どうやったら小売業界がより良くなるのか」というスタンスですよね。すごくピュアなんですよ。だから小売業界も真正面から向き合って信頼してもらえる。ビジネスモデルの成り立ち自体が、広告代理店のモデルとは大きく違います。
ーあらためてビジネスモデルの成り立ちについて教えてください。
伊丹:
僕のキャリアがすべて物語っています。P&Gで小売業界が本当に悩んでいることを知り、Googleで課題の解決方法を理解しました。その上で立ち上げたのがフェズです。
手前味噌ですが、リテールテックのビジネスモデルは、ローンチ当時相当芯をとらえたものだったと思います。より小売業界に貢献できるようリニューアルを重ねていますが、もし僕に「金儲けしてやろう」という気持ちが少しでもあったら、今のフェズはないと思います。
ーフェズの強みをひと言で表現すると?
伊丹:
シリーズBあたりまでの話だと圧倒的な営業力ですね。単に行動力だけではなく、コンサルティング力、さらにはGRITみたいな成し遂げる想いの強さを含めた営業力です。フェズにとってその点は最強だと思います。
三野さん:
ちなみに、私は前職ではプロダクトドリブンでした。すると、全然相手にされないんですよね。「データを活用したらもっと良くなりますよ」と技術的な説明をしても全く刺さらない。いくら相手のためを思っていたとしても、長年やってきた方々にとっては自分のやり方を否定されているとも思われかねない文脈ですからね。
伊丹:
そうなんですよね。ロジックだけだと人に動いてもらうことはとても難しいので。
ー営業の場面ではどのようなことを意識したのでしょうか?
伊丹:
非常にシンプルですよ。とにかく小売店のビジネスがよくなるための提案をすることです。ビジネスに直結しないようなことも結構やりました。
バイヤーの方が「データ分析が苦手で……」と話していたら横に張り付いてサポートしたり、アプリ開発を検討していたら制作会社を無償で紹介してあげたり。私たちにとってはリテールテックを推進する方が利益は得られるのですが、まずは小売業界と同じ目線でビジネスと向き合い続けました。
今の基盤があるのは、そのときのおかげです。シリーズAやシリーズBで出資していただいた資金はそのときかなり投資しましたが、おかげで小売業界と向き合う体力ができました。ある大手ドラッグストアチェーンの役員は「フェズのそのスタンスで何か起きたとしても、僕はずっと味方だから」と言ってくれています。
恐怖心を捨てた経営者
ースタートアップあるあるなのかもしれませんが、銀行口座の残高がみるみる減っていく過程に不安を感じたことは?
伊丹:
どうなんでしょう……「恐怖心はない」と言ったら嘘になる……? いや、ないですね。恐怖心、ないです(笑)。
僕、自分自身が恐怖を感じると周りが不幸になると思っているので、メンタルコントロールをとても大事にしています。普通、銀行口座の残高が減っているのであれば、現状把握のためにチェックすることが正しいアクションですよね。でも、僕は必要以上に銀行口座を見ていません。正しいアクションを起こせている自覚があるのであれば、あえて不安要素に接する必要はないので。
なんというか、創業以来ゾーンに入っているんですよね。もちろんアラートが上がるようなことは対処しますが、基本的には気にしないことがベストだと思っています。
三野さん:
そうですか(笑)。私はCFOをやっていたので、見ちゃいますね。どうしてもディフェンス側の思考になりがちです。
伊丹:
もしかしたら「恐怖」という感情を忘れてしまったのかもしれません(笑)。ただ、ひとつ言えるのは、一度も会社を疑ったことがないんです。勝てると思っているし、同じ志の信頼できる仲間もどんどん集まってきているので。
あと、取締役副社長・赤尾の存在は大きいですね。「こういう言い方に気をつけたほうがいいよ」とアドバイスをしてくれることもあるし、社内の揉めごととかも調整してくれている。「赤尾が僕のメンタルコントロールをしてくれているんじゃないか?」という疑惑もあるほどです(笑)。いずれにせよ、仲間には支えられていますね。
ーVCとして、トップの人柄や社内の雰囲気やカルチャーはどう見ていますか?
三野さん:
まず伊丹社長の人柄は、非常に実直ですよね。私は腹の探り合いは嫌なので、正直に話してくれる方とお付き合いしたい。最初にお会いしたタイミングから伊丹社長には好印象を抱いていました。今に至るまでちゃんと信頼関係を構築できていると思います。
まぁ、どこか楽観的でグッドニュースが多いので、何かトラブルが起きていないか心配になることはままあります(笑)。チームとしても営業マインドの強い若い方が多く、イケイケムードなので、赤尾さんのようにアンカーとしてバランスをとってくれるタイプの存在は重要だと思います。
いずれにしても、気骨の強さは他に類を見ません。やはり、覚悟が決まっているんでしょうね。真正面からぶつかることを恐れていない印象はあります。ストレートしか投げない投手というか。
伊丹:
マーケットの特性もある気がしますね。小手先では勝負できないんですよ。
大手小売店の役員クラスの方々と目線を合わせたくても、最初はどうしても「ベンチャーに何ができる?」と思われてしまう。そこから「フェズが会社の将来には必要だ」という状態までひっくり返さなければいけないので、気持ちは絶対に負けてはいけないし、目先の売上を求めたらすぐに見透かされますからね。「四半期に一回は打ち合わせしよう」とまで言われるようになったのは、気持ちの強さがあったからこそだと思います。
あとはほかの経営者のように、変化球は投げられないので(笑)。
三野さん:
個人的には小手先の変化球を覚えるのではなく、ストレートの球速をどんどん上げていってほしいですね。できないことをカバーするのではなく、得意なところを伸ばしてほしい。当然こぼれるものも出てくると思いますが、そこは得意な人にお願いすればいいので。
リテールテックのトップランナーとして走り続けるために
ーそこまで自身をのめり込ませた小売業界の魅力とは?
伊丹:
マーケット自体はすごく旬だと思います。プレイヤーがどんどん増えてきているし、注目度も上がってきている。トップランナーとしての覚悟で、イノベーションを起こしていきたいですね。
さらに、個人的にはリテールテックこそ日本が世界に勝てるビジネスだと思っていて。というのも、海外はEC化率がどんどん上がっているのに対し、日本はあまり伸びていない。日本のマーケットが世界に誇れるポイントは、“消費者の目”です。たとえばティッシュを購入する際も、日本だと陳列された商品の箱が少しへこんでいたら、後ろにある箱のへこんでいない商品を選びますよね。海外だったら考えられません。そんな状況で商売をやっている日本の小売、メーカーは世界でも勝てると思っていますし、そのパートナーの我々も一緒だと思います。
でも、それだけ厳しい目を持った日本人の消費者を納得させられるビジネスモデルができたら、絶対に海外でも支持されるはず。日本発のビジネスモデルが世界を席巻するチャンスがあると思うと、とてもワクワクします。
ー三野さんはフェズの現状をどう捉えていますか?
三野さん:
まだまだチームとして欠けている部分は多いです。でも、リスクを取って投資するのがVCの存在意義です。先ほど伊丹社長にお話しした内容と重なりますが、「欠けている部分をどうにかしてください」とツッコむのではなく、伸ばせるところに力を注げるようサポートするのがVCの役目です。なんなら、足場が固まっていない状況でも、新しい世界を描こうとしていることに託したいと思っています。
組織ができあがっているに越したことはないのですが、採用するにも必要なスキルセットが完全に備わっているケースなんてありえないじゃないですか。足りないものは認識しつつも、きちんと得意分野でファイティングポーズを取れているのであれば、充分ではないでしょうか。
伊丹:
三野さんのような理解ある存在は非常にありがたいですね。正直なところ、2022年前半は経営者として至らない点が多かったと思います。でも、三野さんといろいろと言い合えたことで自分の弱点にも気づけたし、軌道修正もできたような気がしています。投資はもちろんありがたいのですが、それ以上の付き合いをしてくれていることには、感謝したいですね。
三野さん:
まさに2021年から2022年にかけてはサービスがスケールし、向き合うべきところも広くなっていったタイミングでしたよね。
一方で、各戦線での戦い方や価値の言語化が行き詰まってしまっていた部分もあって。それが、伊丹さんが言う“経営者として至らない点”ですね。ですから、私も経営陣の議論に混ぜていただいて、徹底的にディスカッションしました。
常に新しいチャレンジをしているスタートアップに「これが正解」というものはないのですが、歴史を紐解きながら、お互いの想いをぶつけ合った末で結論に辿り着いたので、少なくとも自信を持って戦えているのではないでしょうか。
伊丹:
おっしゃる通りですね。もしかしたら、半年後に「ちょっと違ったね」となる可能性もあるかもしれないけれど、今回膝を付き合わせて話したからこそ、次に困難と直面したときの議論のレベルも上がると思います。
ー最後に、それぞれの今後のビジョンについて教えてください。
伊丹:
大きく分けて2つあります。1つは、「マーケットのリーダーはフェズ」と思われるようなポジションを確立することです。今後の資金調達計画やローンチ予定のプロダクトの見られ方も含めて、マーケットリーダーとしてのブランディングを意識したいと思っています。
2つ目は、店頭のデータ化ですね。これまでは「広告を打っても肝心の商品が陳列されていない」なんてことがザラにありました。小売店はもちろん、消費者にとっても、大きな機会損失ですよね。根本的な原因は店頭がデータ化されていないからです。フェズは本当に手が届くところまできているので、店頭のデータ化を推進し、イノベーションを起こしたいと思います。
三野さん:
以前から「広告・販促・店頭をデータでつなぎたい」という話はしていましたよね。今まで誰も実現したことがないので難しいことは明らかですが、だからこそそれぞれをつないで新しいデータの流れをつくれたときは、フェズがリテールテックの王者として君臨するときだと思います。ぜひ、データのつなぎ手として、ワクワクする未来を描いてほしいですね。