院試俯瞰、それと勉強法(京大物理合格体験記)
こんにちは、Naoです。
気づけば院試が終わってから2ヶ月近く経っていました。あんなにストレスフルだった院試も、終わってみれば思い出が美化されつつあるのを感じます。
さて、前回は本格的な院試勉強に入る前までの話を書きました。院試勉強以前の準備段階について知りたい方は、こちらの記事も読んでみてください。
今回は具体的な院試対策の方法についてです。
自分が志望する研究室によって目指す基準は異なります。しかし、院試で求められる物理の力は変わりません。普遍的な物理力を身につけることを意識しながら院試勉強に励んでみてください。
サムネは7月頭に旅行で行った三重県鳥羽市の答志島から帰るフェリー内で撮りました。フィルムカメラを趣味でやっています。
情報収集
4月以降の勉強計画を立てるためにも、まずは情報を集めましょう。前にも述べましたが、院試対策はいかに情報を集められるかがカギとなります。先輩や友達のつてを駆使して、自分が有利になるための情報をできる限り集めましょう。
集めるべき情報としては、
必要な書類
研究室のボーダー
面接で聞かれること
などがあります。1については前回の記事で話しています。どの書類についても手遅れにならないように、事前事前の準備を心がけることが大事です。
2については、研究室ごとに異なります。さらに、年度によっても基準は大きく変わるので、参考程度に留めて勉強の目標にしましょう。例えば、京大における素粒子・宇宙・原子核系の分野での院試難易度の目安としては、
素論>天体核>原子核>・・・>宇宙線>宇宙物理
という感じです。やはり素論が一番人気で、外部からの受験者が多いこともあって合格を目指すなら相当の覚悟が必要だと思います。しかし、これも年度によって実質的な難易度は変わります。
例えば、今年の場合だと素粒子理論全体で10名の合格者が出ています。これに対して、天体核研究室の合格者は6名なので、倍率としては天体核の方が高かった可能性もあります。今年素論が10人も取った理由としては、前年度に物理学第二教室の素粒子論研究室で合格者4名の内、3名が合格を辞退したという事情があるからかもしれません。このような動向を探るのは難しいですが、合格のためのヒントくらいに考えて情報を集めてみてもいいかもと思います。
京大物理学第二教室(素粒子・宇宙・原子核)の理論分野の話ですが、心理的に楽になれる話もあります。というのは、物二の理論分野に関しては研究室ごとではなく理論分野全体で(おそらくボーダーを超えた)20人程度合格者を決めるという話があるからです。これは教授が話していたことなので、信憑性は高いと思います。研究室ごとの人数調整はあると思いますが、この話を信じると、戦うべき相手は周りの賢い人たちではなく自分自身ということになります。見えない敵と戦って神経をすり減らすのではなく、ボーダーを越えるための勉強を忍耐強く行うことが肝要かもしれません。
3についてですが、試験本番までは気にしなくていい気がします。僕の周りでも、試験が終わってから提出したレポートを見直したり、前期の研究ゼミの内容を復習したりしている人がほとんどでした。気になる人は事前に院試体験記などから情報収集しておくと良いでしょう。僕も面接についてはいずれ触れます。
院試俯瞰
何事もそうですが、院試を終えてからの院試に対する見方は変わりました。書類集めから院試ゼミなど様々な対策をして、試験も面接も乗り越えた上でどの部分が合格に効いてくるのかが大体感じ取れます。院試対策全体を見渡すための話としてここで述べますが、やはり院試の合格に直結するのは
試験本番での成績
です。志望理由書や面接での出来も大事ですが、試験での出来が何よりも大切です。それを踏まえて、試験で高得点を取るための対策に力を入れましょう。
院試の傾向
自分が目指す大学の院試問題の傾向を探ることも得点アップにつながるでしょう。これは過去問を解き進めると大体わかってきます。例えば京大に関する前年度までの特徴をまとめると、
力学分野でハードな剛体問題が出る(2023年)
安定・不安定を問う問題、微小振動(2022年)
物質中のMaxwell方程式(2023年)
電気鏡像法(2024年)
一様磁場中の荷電粒子の運動(2024年)
波動関数の接続条件を上手く使う問題(2019年)
量子統計(2023年)
(特殊な)イジングモデル(2022年)
正準方程式(解析力学)、熱力学は出ない
というような感じだと思います。かっこの中は、関連した問題の中でも難易度が高かった直近の年度を書いています。過去問を解く中でこのような傾向がありそうということを把握し、これらの問題は特に重点的に対策しました。
しかし、ここからが重要なのですが、次年度以降はこれらの傾向対策があまり意味をなさないかもしれません。というのも、今年の試験で出題傾向ががらっと変わったからです。
今年はⅠ-1でなんと光学が出題されました。その中で解析力学の正準方程式や母関数、ハミルトンヤコビの理論の理解が問われる出題があり、ほとんどの受験者が面食らったと思います。
また、Ⅰ-3では熱力学のジュール・トムソン過程が出題されました。熱力学が大問になると思ってなかったので驚きです。
さらに、Ⅱ-3ではラプラス変換も出ました。
今年度だけで、今まで全く出ていなかった3分野からの出題がありました。出題側の意図として、今までの院試問題とは大きく変えたいという思いが伝わってきます。試験を解いてみてもわかると思いますが、今年度からは物理に関するより総合的な理解力・問題を解く力が問われていると感じます。上記の分野は重点的に対策するとして、これからは解析力学や熱力学、物理数学も含め、物理学について全般的に学習し習得することが重要になってきます。
以上の院試に関する情報を踏まえて、具体的な勉強法に移っていきたいと思います。
院試勉強の流れ
院試はそれぞれの時期に適切な対策を順序よく行なっていくことが大切です。試験本番から逆算して計画を立ててみましょう。僕が行なった勉強の流れは以下の通りです。
4月初め
弱点分析→院試勉強の計画を立てる
院試ゼミが始まる
4月から6月
教科書を読むことを優先する
院試ゼミも並行して過去問の傾向を探る
7月から8月
問題演習・過去問演習に力を割く
足りないところだけ教科書で復習
東大や京大の過去問を使って院試模試
4月から6月
4月はほとんどの(まともな)人が本格的に院試勉強を始める時期です。春休み遊んでしまった人も、この時期からは真剣に対策に取り組み始めた方が良いでしょう。
恥ずかしながら、僕も4月までは全くと言っていいほど勉強に手がついていませんでした。今年が始まってから、(勉強に対して無気力になるタイプの)鬱っぽくなってしまい、勉強モードに切り替え始めたのがようやく4月です。
僕は3回生後期にアメリカに留学していました。そのため京大で授業を取っておらず、院試勉強を決意したときには量子統計やスピン、摂動論などについてほとんど無知でした。このような状況から4ヶ月の対策によって第一志望合格を勝ち取れたので、僕の対策は少しは参考になるかもしれません。
まずはじめに取り掛かったことは、自分の弱点分析です。といっても当初はほとんどの分野で理解不足を痛感していたので、まずは理論の理解を盤石にすることを最優先にしました。そこで、4月から6月は各分野の教科書を読み、理解を深めることを優先すると決めました。
しかし、院試問題から離れてもいけません。そこで、友達から誘われて院試ゼミに入り、一週間で一年分過去問を解くことも並行していました。
最初は院試問題が全く解けませんでした。教科書や過去の演習を見ながらようやく解けるという感じです。教科書を読むことを優先していたので過去問を解くのは割とサボっていましたが、4月から6月にかけては両方をバランスよくこなすのが大事だと思います。
ここで、それぞれの分野で読んだ教科書を紹介します。教科書の選び方としては、今まで読んだことのあるものを優先するといいと思います。僕も大体の教科書は4回生までに読んだことがあるものを復習で読み直していました。
力学
一冊目は、基幹講座の『力学』です。力学の基本的なことがほとんど詰まっており、理解不足の部分について辞書的に読むこともできると思います。また、例題も多くて理解しやすい構成になっています。散乱や天体の運動、非慣性系の運動や剛体など、多くの分野の復習に参考になりました。
二冊目は植松さんの『力学』です。これは一冊目と構成は似ていますが、扱っている例題が豊富で参考になる部分も多かったです。天体の運動や剛体の扱い方などが特に参考になりました。
三つ目はランダウ、リフシッツの『力学』です。これは院試のためというよりも、洗練された力学の考え方を学ぶために読んでおいた方が良いと思います。
電磁気学
続いて電磁気学です。電磁気学について最も基礎的な理解が得られるのは横山さんの『電磁気学』だと思います。大学一回生のときに読んでおり、院試勉強においても簡単な復習をするために参考にしました。
また、より網羅的な理解を目指すためには、やはり砂川さんの『理論電磁気学』が適しています。僕は第9章の電磁波の放射まで3ヶ月ほどかけて一通り読み直しました。
京大の院試では物質中の電磁気学もしばしば出題されます。物質中の電磁気学に詳しいのは、基幹講座の『電磁気学Ⅱ』です。僕は読もうとして時間が全然足りなかったので、前々から読んでおくことをおすすめします。
量子力学
量子力学の基礎を固めるためには、清水さんの『量子論の基礎』が適しています。5つの要請をもとに公理的に量子力学を記述しており、まとまった理解が得られます。ブラケット記法に慣れるためにもおすすめです。
また、量子力学の基本的な考え方からしっかりと理解するためには、J.J.サクライの『現代の量子力学(上)』が最適です。僕はこの本がなければ院試に落ちていたと思います。この本のおかげでブラケットや角運動量、スピンについての理解が飛躍的に深まりました。しかし、井戸型ポテンシャルにおける波動関数の計算などは載っていないので、他の本で演習する必要があります。また、院試の一部の例外を除いては、(上)の内容だけで十分です。
また、具体的な計算演習をするためには猪木・川合の『量子力学1/2』も良いと思います。しかし、少し読みにくいところもあるので、J.J.サクライで量子力学の理解を深めてから読むことをおすすめします。
統計力学
統計力学に関しては、古典と量子のそれぞれから考える方法があります。まず、古典的に考える統計力学に関しては、高橋さんの『統計力学入門』を参考にしました。少し難しいですが、統計力学の成り立ちについての理解が深まると思います。
量子統計に関しては、やはり田崎さんの『統計力学(1)/(2)』が最適です。この二冊に関しても、読んでいなければ院試に落ちていたと思います。各分布の成り立ちについて理解でき、具体的なモデルでの計算も載っているので理解が深まりやすいです。熱力学量との関連にも詳しいのでおすすめです。
熱力学
熱力学は院試のためにはあまり勉強しませんでした。。。ですが、おすすめの本を挙げるとすれば前野さんの『よくわかる熱力学』です。これは昔に読んでいたのですが、熱力学的な考え方についてよくわかる構成になっています。前野さんらしい書き方で楽しく読めます。余裕がある人は田崎さんの『熱力学』もおすすめします。
7月から8月
以上が理解を深めるために読んだ教科書たちでした。7月くらいからは各分野の理解も深まってきたので、問題演習に力を割き始めました。大学院入試のための問題演習本はあまりないのですが、一つ確実におすすめできるものとして『詳解と演習 大学院入試問題』があります。これは様々な大学の院試過去問から、物理の各分野の理解増強につながる問題を集めたものです。先輩におすすめされて4月くらいから解いていたのですが、問題を解く力を高めるのに非常に役立ちました。
問題演習に関して言うと、基本的には過去問を解くことを優先していました。過去問で解けなかった問題の類題を演習書から探すというような流れです。過去問は大学の先生方が力を入れて作っている(はず)なので、理解がブラッシュアップされるものが多いです。そのため、過去問対策を基準にして演習を進めることをおすすめします。
過去問を解くだけでも相当な時間がかかるので、他の演習書に手を出すならかなり早めの時期からするか、苦手な分野を重点的に解くなど、深入りしないようにした方がいいかも知れません。
僕が辞書的に使った演習書もあわせて参考程度に載せておきます。
演習書
”カステラ本”と呼ばれる詳解系は辞書的に使いました。全部解こうとしないことが大事です。
演習しよう系は解いてみると案外理解が深まる問題が多いです。これらに載っている解き方を積み重ねて院試問題を解くというようなイメージです。中でも、熱・統計力学と量子力学はおすすめできます。量子力学については基本的な理解を確立するのに本当に役立ちました。
物理数学についても、時間がなかったので過去問や演習書で対策を進めました。先ほどと同じ演習しようシリーズですが、物理数学についてもおすすめできます。僕は院試に出やすいベクトル解析や複素関数論について重点的に読み直しました。
院試模試
そして7月終わり頃から東大や京大の過去問を使って院試模試も始めました。教科書や演習書を見ながらだと解ける問題も、制限時間内に何も見ずに解くことはかなり難しいです。試験本番の肌感覚を身につけるためにも、院試模試を行うことをおすすめします。A3サイズで大きい問題用紙の扱い方とかを決めておくと、本番で焦ることも少なくなると思います。
院試模試におすすめの年度もあげておきます。まずは、平成29年度です。この年は問題自体も難しいのに加え、計算もハードで時間内に終わらすことは不可能だと思います。自分の実力を試して現実を見た上で、悔しさをバネに頑張るために良いと思います。
同じ種類の難しさを感じるのは令和6年度です。この年も計算がハードで、合格最高点も7割8分ほどでした(うろ覚え)。時間内に解き切ろうとせず、高得点を目指す戦略を立てるために解いてみると良いでしょう。
最後は今年度の令和7年度です。前にも述べましたが、この年から問題傾向が大きく変わりました。実力を試すとともに、この先求められる物理力を早めに見極めておくためにも解いておくと良いと思います。
終わりに
以上が僕の実体験に基づく院試対策の方法です。先輩や友達と情報を共有しつつ、自分に合った対策法を早めから見つけておくと楽だと思います。
院試対策は苦しい部分も多いですが、自分の成長をわかりやすく感じ取れる楽しい経験でもありました。人生がかかった試験という事実はストレスフルですが、自分の成長や友達との関わりなどの楽しむ要素を見つけることが大事だと感じます。
自分なりの対策法を見つけて院試合格を勝ち取ってください!
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