私とヨーヨーの付き合い
最近ちょっとヨーヨーに入れ込んでいる。入れ込んでいるとは言っても、つぎつぎに新しいトリックを身に着けたり、他の事をするさなかにヨーヨーのことを考えたり、というほどではない。
ただ、出かける際にはアンダーサイズのヨーヨーをかばんに提げてみたり、夜な夜なふと気が向いたときにちょろちょろと触る程度である。
すっかり身も心も入れ込んでいる人々からすれば、私などまだまだかもしれないが、本格的なヨーヨーを初めて触った頃からすれば、ずいぶん遠くに来たようなものだ。
初めて私が、何かのオマケでもなく、祭りの水風船でもない、しっかり梱包されたヨーヨーを手にしたのは……もう十数年よりもさらに前かもしれない。
大型のスーパーのおもちゃエリアで、細い鉄を組んだような展示台に吊り下げられた、黄色いヨーヨーを父にねだって買ってもらった。それらは随分と売りあぐねていたようで、500円や1000円ほどに値引きされていた。
当時から私は、いらないところでばかり遠慮をするたちで、この時も自分が衝動的に欲しがったのだからと500円の方を選んだ。父は高い方じゃなくて良いのかと確認してくれたが、私の悪癖を突き崩す力は無かった。いくらかの後に何かの本で、高い方の品がより回る素材だと知りあちらも欲しいとゴネたが、後の祭り、もうあるだろうとか、欲しかったのなら最初からそちらを選べなどと、真っ当に却下をうけた。
今になって調べてみると、あの時の黄色いヨーヨーは、第2期のステルスファイヤーという機種らしい。明るいボディと、暗い色をしたキャップの意匠に見覚えがある。私が選びそこねた赤いヨーヨーも、おそらく同時期に出たらしいステルスレイダーだか何かだったのだろう。こちらのデザインは流石によく思い出せず、外観を探し出すことはできなかった。金属ベアリングらしいことしか思い出せない。以来、よくわからないままに「金属ベアリング」というものに憧れを抱いて生きていた。
買ってもらった黄色のヨーヨーは、それからしばらく遊んでもらった。とりあえず、フォワード・パスとスリーパーはできたつもりでいた。フォワード・パスについては、親戚の集まりだかで披露しようとした際に閉所で危ないことになったので、今思えばなんもできてなかった気がする。そんな具合なのでタワーやらループ・ザ・ループにも尻込みして、そもそも説明書きを見ても何が何やら掴めずにいた。その後もそれ以上は挑まずに、半年もせずにどこかへ置きっ放して今ではすっかり行方も知れない。
それから十数年、もしかするとその上からもう数年立った頃か。Twitterなるサービスにめり込んでいた私は、そこでお互いの書き込みを認知しているフォロワーの一人が、ヨーヨーを始めたと言っているのを見かけた。彼は自身の身近な人に、共に練習する仲間を求めていた。
私は別段に彼と身近でもなく仲間として求められてもいなかったが、ファンだったのでホイホイと触発された。
ふらりと玩具店のあるショッピングモールを訪れ、薄い財布からくたびれた紙幣を震える手で取り出しながら、なるたけ安い品を購入した。
スピンギア製のスピンガジェット、ついで同社のルーピングスター。売りあぐねているわけでなく、単純に安くて1000円弱。そして専門店やヨドバシに行かなくても出会い得る。とりあえずヨーヨーで遊びたい!という人間にはこの上なく助かる品だった。
私は社会的な付き合いが致命的に不得手なので、これを切っ掛けとして誰かと集まるなどはしなかったが、狭い部屋でこの2機にはずいぶん遊んでもらった。
手持ち無沙汰だったり、嫌なことを控えて落ち着かないときなど、これを振り下ろしたりして、回転の振動やキャッチの衝撃などをぼんやり浴びる。
いわば、一人でキャッチボールをしているようなものだ。壁も相手も要らず、好きなペースでやれる。
ただ、買った直後は本当に酷かった。
このヨーヨーたちの紐は先が結ばれて輪になっているが……昔触ったからいけるだろう!と、あろうことか輪にそのまま指を突っ込み、何を血迷ったか窓めがけてフォワードパスをかまそうとしたのである。
知識のある人間なら想像に難くない事だろう。この輪はしっかり結ばれて、結び目がズレることは、そうそう無い。
よって、なんなく指を通した輪は、フォワードパスそのままの勢いに、再びなんなく指を通り抜け……あなや買ったばかりのヨーヨーが勢いよく窓にすっぽ抜けて飛んでいった。
あの時わが家の窓を死守してくれた当時のカーテン君には、今思い出しても感謝の念が溢れてくる。マジで怖かった。
それからしばらくは、この2つのヨーヨーに遊んでもらっていた。他の趣味があったことも重なり、とくに技を増やすようなことはなく、たまにループザループができまいかと挑戦する程度だった。それでも、ぼんやりと回しているだけでも満足感があるので得な買い物をしたと今でも思っている。
その2年ほど後だろうか。もう少し経っているかもしれないが、ともかく2か4年ほど、諸事情によりそれなりに遠い場所へ引っ越した。もちろん、たびたび私の心を和ませてくれたヨーヨーたちも一緒であった。
新しい生活がしばらく過ぎ、ちょっとずつ行き慣れてきたショッピングモールの玩具店を散策していた時、ふとヨーヨーの販売コーナーを覗き込んだのである。
そこには、見慣れたスピンギア生まれのコンビと、ヨメガ産ファイヤーボールの3種。もちろんこれらを見て、見知った顔が相変わらずある事にニヤニヤするのが目的だったのだが、この店は、その隣に別の顔もあった。
スターバースト。私が以前から使っているルーピングスターの近縁種。彼よりもちょっとだけお高いモデルである。そして何より、かつて憧れたメタルベアリングが搭載されている。
迷わず、いやだいぶ迷った。なんせまだ収入がちゃんとしてない時期だったし。それでも決意してしまった。溢れる好奇心と憧れに背を突き飛ばされ、新たな仲間を迎えたのである。
結論から言うと、わかりやすい差は無かった。
というのも彼らルーピングヨーヨーは、投げた後さっさと手元にとんぼがえりするのが役目であり、長時間の空転は必要ない。そして我が家のルーピングスターはベアリングこそナイロンだが、基礎的な技も覚えきれてない私には十分すぎる性能をしていた。ついでにうっすら目論んでいた彼らのベアリングの交換は軸の太さやパーツの違いによって断念した。そういう意味では知見の深まる買い物でもあった。今は2機とも気分的に下火だが、たまに持ち出して遊んでもらっている。
さて、スターバーストは思ったほど劇的な性能差を感じることは無かった(もちろん、私がその微妙な差を感知できるほど技術を身に着けてないというのが大きな理由だろう)が、それはそれとして私の生活にいろいろと変化をもたらした気がするので、ここで振り返ってみる。
この後、しばらく私は、転職先を求めてあちこちを駆け回っていたのだが、なにぶん面接や応募、さらには電話など、まったく知らない相手とのやり取りが多い。
先述の通り、社会的なやり取りが不得手な私にとって、電話ほど気の重い作業もそうそうない。探せばたくさんあるが近寄ってくるのはもっぱら電話である。経歴を書くのもそろそろ手間な歳になってきたため、履歴書を用立てるのも面倒である。わりと面接のたびに使い捨てになるので、ちまちま書き直す。見本のためにコピーしたりワープロソフトを使ったりしなさい。
そんなイヤイヤな作業に立ち向かう時、スターバーストやルーピングスターを握り締めていた。もちろんその前に一通り振り回すことも多いが。
言ってみれば、注射をうけるのが怖いので身内に手を握ってもらう、などの延長線である。だが、机の上に彼らを並べることで、何度も気力を揺り起こしてきた。彼らと、支えてくれる家族のおかげでどうにか食費にありつけた。すまん今度またそのうち支えてくれ。
もうひとつ変化がある。それはストリングの購入である。
付き合いの長いスピンガジェットはもとより、激し目の挙動になるルーピング兄弟も、それぞれボディ内部にあるギザギザ、すなわちスターバースト部分との摩擦で紐がどんどん摩耗していく。
気まぐれにボディを分解して内部を見てみたとき、ベアリングに掛けられた紐の先が、なんとも頼りなく細くなっているのを見て、とうとう替え紐の購入を決意した。数年間も耐え続けた当時のストリングありがとう。君の努力で我が家は破壊を免れた。
つまり、それまでただ投げる玩具にすぎなかったヨーヨーが、とうとうパーツを取り替えてメンテナンスをする趣味へと変わり始めたのである。
書いててふと思い出したが、かつての黄色いハイパーヨーヨーも、替え紐を母にせがんでインターネットで買ってもらった記憶がある。たぶんスピンガジェットについても買わねばと思いはしたのだろうが、玩具売り場でヨーヨーを扱う店は驚くほどにストリングを扱わないので、おそらくそこで諦めたのだろう。送料でちょっと高くなるのも一因か。今はバンダイの影響でスピンギア製のストリングを扱う店も見かけるので善いことである。
そして、もうひとつの変化。いや、たぶんこれは私のスターバースト購入とは関係たぶん全然ないけど。しばらくの後、彼を買った玩具店に、また新たなヨーヨーが飾られていた。まるで「ここの商品なんか意外と買うやついるし新しいのも仕入れるか」と言わんばかりに。たぶん自意識過剰。ともあれその新しいヨーヨーが、
STEP3 メタルウィング Dサイズ。寡聞ながら、おそらく唯一ではないだろうか。量販店に、金属製のヨーヨーが置いてある。
今だからこそ思うが、そりゃ紐で振り回せる金属塊なんぞ、きちんと扱えない人間の手に渡れば確実に悲劇を招く。そうそう卸さないだろう。
実際、このメタルウィングでさえ「STEP3」と銘打たれ、他のヨーヨーで基礎を学んでからの方が良い(意訳)みたいな但し書きがパッケージ裏にほどこしてある。
だが、おかげで、遠い存在だったはずの、かつて眺めていた人々が手にしたような存在に触れられる。私の意思は再び突き動かされた。続いて体も突き動かされた。主にATMに向かって。
余談だが、このメタルウィングちゃんを見つけた時に、同じくスピンギア生まれのヨーヨーがもうひとつ陳列されていた。
名前をスリースターという。なんともキラキラしたラメ入りのボディや王冠の箔押し、時代錯誤とさえ感じるような円盤を重ねたような形状。そして何より、安い安いと思っていたこれまでの品を下回る、600円を切るお手頃価格(だった気がする。少なくともその時の印象は)!
おそらく、難しいことは求めないけど、安くちょろちょろっと遊べるヨーヨーをちびっ子に与えよう!となった際に、即日バラバラになる粗品を掴まない為に……みたいなコンセプトなのだろう、と解釈し、とりあえずその時はニコニコしながら見送った。これもカワイイですよ。
さてメタルウィングを買ってしまった私だが。
当時の私はうろ覚えながら「なんか……こんなことをする人を見たんじゃ……」と、見様見真似でトラピーズやインサイドループを身に着けつつあった。トラピーズは今でも安定しない。
その時に練習に付き合ってもらったのは、もちろん最初に買ったスピンガジェット。隙間の開いた彼でしか成功するイメージはできない。
メタルウィングをこそこそと開封し、指に取り付ける。見つけた時の存在感に反し、かなり小さい。材料費のせいだろうか?などとぼんやり思いながら、サイドスロー。
メタルウィングは真っ赤なボディを走らせ、よく回る静かなベアリングを震わせ、私の突き出した人差し指を乗り越え…………みごと、紐の上に着地した。
あれだけ不安定だったトラピーズを一発で成功させた。しかも、跳ね上げてキャッチした際にはまだ余力を感じさせる。メタルボディの可能性と、まるでヨーヨーに選ばれたかのような興奮に、思わず身震いをしてしまった。その後は普通にトラピーズを失敗しまくったし今でもちょくちょく失敗する。
メタルウィングを手にして、さらにヨーヨーが楽しくなった。相変わらず、やれることは少ないが、スローダウンやトラピーズ、ブレイクアウェイ。基礎的な技でも満足感があるのが良いところである。
だが、人の欲に限りはなく。特に流されやすい私のような輩には。
今の自分にやれることを調べるうち、とうとう「バインド」について理解してしまったのである。
隙間を拡げ、ベアリングを面の大きく曲がったものにし、超長時間の空転を実現したヨーヨーたち。引いても戻らず、不可思議なトリックさえ実現してしまうが、代償としてバインドというテクニックを使わなければ巻き戻せない。それゆえバインド必須やバインド仕様と呼ばれる未知のヨーヨー。
そしてメタルウィングは、このDサイズシリーズに限っては、ただベアリングを差し替えるだけでその仕様になるらしい。
早速というほど早くも速くもなかったが、それなりの逡巡のすえ、断固たる意思で私は専用のベアリングを注文した。サイズを何度も確認して、メーカーが同じっぽい場所から。
実を言うと、最初に買ったスピンガジェットの親戚にメタルボディの品があるらしく、替え紐やら換装用のベアリングも付属しているセットを通販サイトで見かけたのだが……欲しいけど高い買い物怖い!と尻込みしているうちに売り切れた。あそこで欲を出していたらまた違う未来が続いたのだろう。
アマゾンで注文し、コンビニで支払い、待つこと1週間ちょっと。まさに一日千秋、ここまで「最短n日!最長nn日!」で最長を叩き出してくる事に焦れた事はそうそう無かった気がする。
そうして手に入れた新たなベアリング。飛び付くように開封し、メタルウィングのパーツを取り替える。さっそく振り下ろしてみる。手を引く。……戻ってこない。戻ってこない!
そっと、見聞きしたバインドとやらの手順を踏んでみる。食い付くような感触!一気にヨーヨーが駆け上ってくる!ああ、取り落とした!もう一度巻いて試してみよう。戻らない、戻らない!帰ってきた!
そうやってはしゃぎながらも、メタルウィングの引き戻した感触が好きだったので、そこを引き換えにしてしまったのは残念であった。この小さなボディ、平らながらも角の丸いエッジ、ズシリとしたまるまるつるつるの感触。これが片手でポンと呼べば、パシリ、と手に飛び込んでくる。この感触は実に得難いものであった。
なので、元の薄いベアリングは、新しいものと入れ替えに梱包し、後生大事に保管していたのである。気分が乗ったら付け替えようと。
メタルウィングにカスタマイズをほどこし、1ヶ月も経ったろうか。たびたび体調は崩すものの初夏をどうにか乗り越えた頃には、ブレインツイスターやらレーリングトラピーズやらが、少しずつ身に付き始めていた。
だがある時、メタルウィングを振り下ろした瞬間、それまでシャーーーーと音を鳴らして回っていたベアリングが、シリシリシリシリとけたたましく高い異音を出し始めた。
その時はもうずいぶん怯えたものである。もちろん、これまでの買い物からしてメンテナンス用品など持っていなかった。今思えばオイルも挿さずにここまで元気に回るあたり大したベアリングである。すごいぞSGHGベアリング。
これ以上の使用は破損を招く。そう判断し、ベアリングは元に戻し、そっと仕舞い込んだのである。
それから1ヶ月は経ったろうか。その日は、いや、その週の私はなかなか荒んでいた気がする。それというのも、数ヶ月前に入った仕事先の管理職が、どうにも気の合わない人物であるためだ。いや、他の社員もどうにも気に入らない。それについて詳しくは触れないが、想定した通りのシフトにならないこともあり、仕事先やそのスタッフについて邪な考えを抱く日々をくらしていた。
その心を鎮めるためもあり、ヨーヨーストアの通販ページを眺めていた。近年はヨーヨーの専門店がある上にそれぞれでネット購入もできるんですよ。便利。
見ていたのは、もっぱらメタルヨーヨーのスタートセット。本体に加えて、メンテナンスオイルや替え紐、三徳ツールなど、色々と便利な付録をつけて、破格の割引で販売してあるのだ。これだけで紐とオイルが尽きるまで存分に使い倒せるんですよ。便利。
そう、高性能なメタルヨーヨーに加えて、替えのパーツやオイル。個々で買うなら、それなりに出費も嵩むが、これならば一気にまとめ買いができて送料無料。ただメタルヨーヨー価格なのが心残り。
このショップサイトには似たようなセットがいくつかあったが、私の関心はクラウンという機種を軸としたセットだった。
シンプルなカラーリング、性能に対する評判の良さ、そしてこのショップを動画サイトで目立たせようと奮闘している、動画担当の元世界チャンピオンが設計に携わった!という触れ込み。期待は膨らむ。だが、これぞ!という色に限ってどんどんと売り切れてゆく。皆さんお目が高い。私としては真っ青や真っ赤が好ましいが、狙ったのは緑色。そんな色を好む家族がいるので、つい優先してしまうのだ。
好ましからぬスケジュールの仕事を浴び、不機嫌な目でブラウザを開き、じわじわと売り切れてゆくクラウンたちを眺めていたある夏の日。
なにやら売り切れていない色がめちゃめちゃ増えた。青色も復活してる。再入荷だ。そして在庫の中には緑色もある。
その時の私はかなり頭の中が吹き飛んでいた気もするが、あえて思い起こしてみると、やはり「また売り切れるやもしれない」「先月は良くない相が出てたが再入荷ならマシかもしれない」などと勢いに飲み込まれていた気がする。仕事先での鬱憤晴らしとしての欲もあったのだろう。苦痛から物欲が溢れ出す者もいるのだ。私とか。
届いたクラウンセットは小さなダンボールの小箱に詰め込まれ、しっかりと配達された。クラウン本体は薄いプラスチックの小さなケースに収まっている。対象年齢がそこらのceroBより高い。そして紐やオイル、三徳ツールや教則DVD、元チャンピオンの元気そうな姿が描かれたポストカードやら今年の春シーズンのカタログやらをひとつひとつ珍しげに改める。いや多いなこうしてみると。
クラウンはメタルウィングに比べると軽い。サイズは大きいのに重量は軽く、多彩な技に対応できるそのボディは使い勝手も変わる。さっそく付属の紐を取り付け……る前に、きちんとオイルを注入する。まずはボディをねじり……。ベアリングが、くっついている。
今まで見たヨーヨーは軸に直接ベアリングが載っている。だが、このクラウンは違う。軸をねじ込んだ根本の周りに、溝が掘ってある。その溝にベアリングが、がちりと嵌っているのだ。おそらくは、これによりボディの幅がより自由になったりベアリングを固定してブレなんかが抑制されたり、動きを安定させる効果でもあるのだろう。
仕様の違いに関心を寄せながら、オイルを注ぎ、ボディを組み立て、紐を取り付ける。紐を先につけると組み立てに巻き込まれたりして恐ろしい事故に繋がることもあるらしい。怖い。
そして紐を臍のあたりで切り、輪を括り、指に取り付け、いざ発振。なんとも軽やかな手応えと振動音。メタルウィングのごろごろとした静音やバインド仕様時のシャーーーーとはまた違う、ころころとした音が響く。そして紐がなにやらフカフカとしている。おそらくはバインドがしやすい適切な紐なのだろう。
しばらく遊んでみて、ふと思う事があった。
クラウンは本格的な作りで、それなりの価格をしている。なんなら購入した直後に泣きの値上がりまでした。
なので、もしかするとメタルウィングにはもう見向きもしないほどの性能をしているのでは、などと思ってすらいた。
だが、いざ振ってみると……メタルウィングは、負けずにぶんぶんと回っている。オイルを手に入れたので試しにまたバインド仕様に戻してみたが、基本的に見劣りを感じない。感触もまるまるして愛着がつのる。
小難しいことをすると、流石にメタルウィングの方が力尽きやすいが、私の腕はクラウンでも庇いきれない程に未熟だったので、どちらを使おうと最終的にはよろよろと回転を止めたり、猛スピードで横回転を始めたりするのである。
あえてネガティブな見方もできるのだろうが、それ以上に、比較的安いところにいた、ちっぽけな品が、見劣りのない力を見せたのが格好良く見えていた。
それからしばらくの間はこの2機と、スピンギア製のプラスチックヨーヨーたちにかわるがわる遊んでもらっていた。少しずつできることも増え、ジッパーの手順を覚えたり、トラピーズからヨーヨーを跳ね上げてトラピーズに戻したり、ローラーコースターなどのコンボトリックの手順も覚えたりした。
そんな状態で誕生日の前月を迎えたものなので、家族に「何か、欲しい物はあるかい?」と聞かれた時にも、頭の中に広がったのはヨーヨーストアの商品ページであった。まだ欲しがるか、欲深め。
間が良いのか悪いのか、ちょうどその頃、6回か7回かくらい世界チャンピオンになったという怪獣みたいな選手のイメージカラーが付いたお高いヨーヨーが発表されて少し話題になっていた。
非常〜〜に格好良い。だが、何も知らぬ家族にたかるには、高い。さんざん悩んだ。自分自身からも、お前には勿体ない、猫に小判だ、出番なんて来ない、などと嘲弄が飛んできた。
なので突然キレ始めた。私には我慢ならないものが2つある。こちらの心や行動を決め付けられる事と、その他私をナメて気に障ってくるもの全般だ。片付け下手にも程がある。ともかく、己が相手であろうと、勝手に決め付けてくる思考を許せなかったので、粉砕してやるべくそのヨーヨーをさっそく自分で買うことにした。誕生日プレゼントのくだりはどうした。
とはいえやはり高い。なので、せめて価格が多少おさえられるカラーリングのものを選ぶことにした。世界チャンピオンカラーのくだりはどうした。
そんな狂気によって手にしたのがスーパーシンチレーターである。本当にそれで良かったのかお前は。良いのだ。後悔はない。
彼については別個に記録を書いてあるので詳しい話は割愛するが、しばらく使ってみた感想としては、サイズに対してかなり軽めな気がする。
あと、大きくて端が重いので、止まった状態でも紐に乗る。つまりストリングトリックの手順を動画などで確認する時にもすごい便利。彼もこんな方法で重宝されるとは想像しなかったろう。
大きいのでダブルオアナッシングにさえ苦労するが、そのぶんイーライホップの練習などには都合が良い。何やら大掛かりな動きの技を、視認性の高いこいつで、人目のもとで披露する様などをぼんやり考えてしまう。
ボディは普段選ばない色となったのもあり、これまでの私を少しばかり蹴散らす味方となってほしいと思っている。
今のところ、私の心を支えて盛り上げてくれたヨーヨーはそんな具合である。半年ちょっとで本当に遠いところまで転がり込んだ気がする。頼もしい仲間に恵まれたことだし、今後は何か買うにしても替えのパーツに注力して、彼らが存分に暴れられるよう技術を身に着けたいと思っている。
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