13日の金曜日 in 虎跳峡。

【1998年2月13日(晴)中国:虎跳峡】

虎跳峡、、、嗚呼、なんと男らしい響きだろう。

一度聞いたらトレッキングに行かずにはいられない響きである。「虎の穴」出身の覆面レスラーである我らならなおさらである。

中国語読みではフーティヤォシャ(虎跳峡)。 アルティシアとも聞こえなくないのでキャスバル兄さんが百式に乗ってア・バオア・クーから度々訪れていることが確認されている。そんな長江(揚子江)の源流である。

我等3人はそんな嵐が吹き荒れる白いマットのジャングルに降り立った。(峡谷だけど)

当初、このルール無用の盗賊(悪党)が出る峡谷のトレッキングには 「ちびっこハウス」出身のこの私と、大理~麗江と生死を共にした巨〇好きのY君と二人で行くつもりであった、、、が、何故か坊主頭の酔っ払いお姉さんのM女史もついてきた。まぁ当時、麗江まで来たら「虎跳峡」でトレッキングするのが旅行者の流行りでもあった。

、、、でも危険が危ない。

「虎の穴」出身の私達2人なら途中で襲い掛かってくるルール無用の悪党共を簡単に薙ぎ払いも出来ようが、女性がいるとなるとでは話が違う。無事に「ちびっこハウス」のルリ子お姉さんを守りきる事は出来るだろうか?緊張を強いられるトレッキングになりそうだ。なんてたって白人をも殺す盗賊がでるのだ。

できればフジヤマタイガーブリーカーを2度と使わずに済みたいものだと、ひねくれて星を睨んだ僕なのさ。(再確認しますがこれは旅行記です。)

トレッキングスタートの地点、橋頭の村から早朝6:00こっそりと虎跳峡の入り口ゲートを抜ける。

天気が変わりやすい山々では早朝から歩き始めるのが常識だ。

決して入り口ゲートは7:00を過ぎないと人が起きて来ないので入場料を払わなくてもすむらしいぜ、へっへっへ、、、とかではない。

今回も写真が無いので、たまには真面目にトレッキングの事でも語ろう。

世界山脈にバックドロップ!!!

【タイガーフクシマスクのトレッキング講座その1】

1. 行動は早朝から。

山はやはり午後から天気が崩れるので早めに切り上げるべし。歩き始めて遅くても15:00には目的地に辿り着こう。

2. 準備は万全に。

水や軽食はもちろんの事、地図、コンパス、雨具、ヘッドライトなどは忘れず用意。

3. 単独行動はなるべく避ける。

何かあった時に独りの場合は即、死につながる。

4. 道に迷ったら判る所まで引き返す。(もしくは見晴らしの良い山頂の方向へ)

疲れてしまって道をロストした時は人間はルートを下へ下へと取りがちだが間違い。崖に挟まれて体力も無くなって進退窮まって遭難してしまうのがオチ。 いざとなったら来た道を引き返す勇気が必要である。個人旅行者は道を間違っても、いつか合流するだろうとばかりに引き返すのを頑なに拒む傾向があるが良くないので改めるように。

5. 目当ての女性を同伴しよう。

男性は女性の前では思わぬ力を発揮するものだ。疲れきった彼女の荷物をひょいっと背負い山々を駆け巡る。そんな凛々しい貴方にあの子もメロメロ。ラッキーアイテムは杖。いつの間にか彼女も、食欲不振、睡眠不足、動悸に眩暈に神経衰弱、ドキドキとまらない、、、頭痛、生理痛、情緒不安定、悲しくないのに涙が出ちゃう、ズキズキ恋煩い、、、たぶん。と、その頃にはヘトヘトに疲れて動けない山小屋のベットの上で、彼女は覆い被さってくる貴方の欲望を拒めなくなってしまってる筈だ。(きゃっ)

そーそー、誰とは言わないが、トレッキング中にトイレに入って用を足している女の子のお尻を目撃してしまったのが縁で、とうとう結婚してしまった友人もいる。あの時に彼にお尻を見られたのが私であったら、、、今頃彼と結婚しているのが私かもしれないと思うとまったく惜しい事した。

トレッキングも油断してはならない。

、、、第一回の今回はこのくらいでいいだろう。ヒマラヤ、アトラス、パミール、アンデス、アルプスと走破した私のあまり高度なテクニックを紹介しても読者もついてこれまい。もしトレッキングについて何か聞きたいことがあったらこの「虎の穴」出身のタイガーフクシマスクを訪ねてきて欲しい。面倒見の良い動物占い「虎」の私が優しく貴方をリードするだろう。

(今回、虎で引っ張り過ぎ●1点)

、、、で。

日も暮れかけた18:00過ぎ。

私達はすっかり道に迷ってしまっていた。(涙)

滝に阻まれて進退窮まってしまっていた。(涙)

しかも手持ちの水なんかとっくに無くなっていて滝の水をがぶ飲みしていた。(号泣)

どうしよう。

今更、来た道を引き返すなんてもったいない真似はしたくない。(本気)

M女史はお尻を彼に見られたのがショックなのか、死にそうになっている(あっ、言っちゃった)。

「Good for health!」

だなんて調子の良い事言っていた白人のおばちゃんたちに騙されてトレッキングなんてするんじゃなかった。やっぱりこれからの流行りはダイビングなのだ。海だ。

今度生まれ変わったら海に行こう。

そして南の島で恋をするんだ、、、。

独りでトレッキングしていたなら、そのまま現実逃避の一人遊びに逃げていたかもしれないが、そうも行くまい。

迫り来る世紀末、、、こんな所で世界の至宝たる私を失うわけにもいかないだろう。

私は頑張ってルートを探した。凄く、凄く、頑張った。滝をよじ登り、木々を払いのけ頑張った。その頑張りを、日本での仕事に活かせていたら辞める必要も無かったのではないか?と、言うくらい頑張った。

頭上には日本でみる五倍くらい大きな北斗七星が輝いている。そばに死兆星が見える。そんな事はどうだっていい。今こそ頑張らねばどうする。

そういえば中学時代の恩師は「今が人生で一番大切な時だから、今頑張らなくてどうする」と言っていたが、「人生で大切じゃない時があんのか?」と、今こそ問いただしたい気持ちになった。中学の頃の事など思い出して、かなり取り乱している事を自覚した。

、、、日もとっぷり暮れた20:30。

ようやく村の明かりを見つけ半ベソをかきながら辿り着いた。

村に辿り着いたとき3人は「エイドリアーン!」とばかりにロッキーの勝利のテーマを歌った。

勝利の杯だ。

英語がペラペラのルーシーという宿の子供がビールを持ってきてくれた。

ひとしきり騒いだあと私は気絶するようにチェックインした「スプリングゲストハウス」のベッドに沈みこむ。枕元ではM女史が「3人で一緒に風呂にはいろーぜっ!!!一緒に風呂にはいろーぜっ!!!」と五月蝿い。

あまりに五月蝿いので他の宿泊客に怒られていた。

私はそんなやり取りをニヤニヤしながら聞き流し、いつの間にか引きずり込まれるように眠りに落ちた。

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