狭間の者たちへ 中西智佐乃を読んで
・他の読者の感想の謎
主人公は痴漢未遂または認定できない際どい状態(冤罪に近い)にもかかわらず、その場の空気によって犯人と決めつけられています。どう読んでも完全に痴漢しているようには見えません。それにもかかわらず、読者の感想では主人公が完全にアウトと言われ放題です。
もし、これで痴漢なら、男性は女性の半径1メートル以内にいるだけで痴漢になってしまいます。そもそも、においを嗅いだだけでアウトなら、満員電車やバスでもほぼ全員男性はアウトになります。しかし、彼女らはこう言うでしょう。イケメンはOKと。中年の弱者男性は何をしてもアウトだと。
さらに、女性の暴言や家庭内暴力に耐え続けるサラリーマンは、何をされても文句も言わずやられ放題でいい(サンドバック状態)という無秩序なルールが勝手に決められています。
私が読んだ感想では、主人公は一線を超えていない気がします。主人公は女子高生をストーカーのように付きまとっているわけではありません。日常のルーティンワークの電車で一緒になるだけのことです。もし、乗る場所を変えろと言われても余計なお世話でしょう。もちろん、密着の度合いにもよりますが、触ったという描写は描かれていません。
多くの読者は、たまに電車で一緒になるツナギの男性と主人公の行為をごっちゃにしているように見えます。ツナギの男性の行為は、おそらくアウトでしょう。しかし、取り締まる術がありません。ツナギの男性は盗撮と付きまといによる住所の特定を行っている。ストーリーの最後の痴漢で捕まった時のでっち上げは、すべてツナギの男性が仕組んだことです。
と、私は仮定しています。
ツナギの男性は、最初は主人公を同類と思っていたのかもしれません。最初に痴漢行為を止めたのは親切心ではなく、まだ痴漢する段階ではなかったからでしょう。ツナギの男性は間違いなく女子高生のストーカーです。女子高生の鍵垢を周囲の友達から手に入れて名前を知るほどです。そして、自分が特定されないように、名前も出身地も年齢さえも教えません。しかし、主人公の内情を知っています。ツナギの男性は主人公をだしに使って、女子高生の信用を得ようとしていたに違いありません。
おそらく、主人公がコンビニでお酒でつらそうにしているツナギの男性へ水のペットボトルと5,000円を上げた見返りに、主人公が好意を抱いている女子高生の写真の提供や居場所を特定しようとしたのも罠です。
主人公は女子高生の付きまといには断固として拒否しました。
ここで、すでに主人公はアウトの人ではありません。
もし、ここでツナギの男性の言う通りにしていたら完全にアウトです。
ところが、すでにツナギの男性の頭の考えではどちらにしても主人公を陥れるつもりでした。まず、女子高生に「いつも後ろにいるサラリーマンはあなたのにおいを嗅いでいます。」「いずれ、あなたに痴漢しようとするかもしれません。」「私があなたの後ろにいるので安心してください。合図するので、一緒に降りたら痴漢ですと大きい声で叫んでにらみつけてください。」ツナギの男性はそうやって女子高生に情報を伝えていた可能性が高いです。
もちろん、ツナギの男性が言っていたように女子高生にガラス越しに匂いを嗅いでいた表情を観られていた可能性はあります。が、どう考えても女子高生の真後ろはツナギの男性なので痴漢しようがありません。ツナギの男性のスマホでの「ありがとう」の表示は、いつも目障りで邪魔だったお前を排除出来るついでに、女子高生の信頼を得て、仲良くなることができたという意味にしか取れません。
主人公は結婚するべき人ではなかったのは事実ですし、おそらくグレーゾーンと呼ばれる境界認知機能の持ち主でしょう。職場での部下とのコミュニケーション不足、普通の人が1度で受かる簡単な試験に6度落ちたという事実と、職場での仕事ができない奴というイメージの確定。
職場での最初の3ヵ月で仕事ができる人かそうでないかを決められてしまう。それが日本の中小企業への就職です。
そのレッテルは転職か辞めるまでずっと続きます。