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【靴下売りのサンタクロース】

俺の親父は田舎で靴下を作っていた。ほとんどが無地で、たまにワンポイント付きの靴下。うちの靴下は10年経っても穴が開かないと、親父はいつも言っていた。

そういう仕事をしていたからだろうか。クリスマスの日になると、親父はサンタクロースに変身する。赤い服に白いひげを蓄えて、幼稚園や施設にプレゼントを届けに行く。

いつもはパッとしない親父も、その日だけは違った。子供たちを笑顔にするために、町中を歩き回る。親父の姿を見て、町の大人も笑顔になっていく。俺はそんな親父が誇りだった。サンタは本当にいると思ってた。

幼稚園の頃、僕の親父はサンタなんだと熱弁してみんなに笑われた。それが架空の存在だと知ったのは、いつからだったか。俺がサンタを信じなくなった後も、親父はあのおじいさんの変装をつづけていた。

なんで毎年サンタを続けているのか、俺は親父に聞くことが出来なかった。サンタなんていないのにって、はっきり言うのが怖かった。

去年の12月26日、親父が死んだ。晩年ほとんど寝たきりだった親父が、最後のサンタになった、その次の日だった。身体のガタなんて吹っ飛んだように、クリスマスの親父は動いていた。

親父が死んだ後、靴下業の仕事を継ぐことになった。そして自然と、サンタの仕事も俺に回ってきた。サンタの恰好をして鏡を見た時、似合ってないなと思った。

「誠也、似合ってるよ。お父さんにそっくり」

俺の母親は嘘が下手だ。

サンタになって初めて知ったのは、幼稚園の子供は簡単に笑わないということ。メリークリスマスと言いながら高らかに登場して、プレゼントを渡す。子供達のつまらなさそうな視線が突き刺さる。

幼稚園の先生のフォローが、心を抉る。親父なら、この子たちを笑顔にできただろうか。何が違う。俺と、親父と。

「サンタなんていないんだろ」

そんな声が聞こえた。声の主は子供だ。昔の俺と同じ目をした、子供。

【続く】

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