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ワンタヌキアーミー

『今何人いるクソ狸』「おれ一匹っす」
『そこに何があるクソ狸』「葉っぱしかねぇっす」
『それで軍隊を編成しろクソ狸』「無理っす」

某戦争の最前線に、化け狸が放り込まれた。

作戦はこうだ。狸のまやかしを用いて偽の軍隊を作り、攪乱を行う。荒唐無稽なミッションだ、だが成功すれば敵軍に大打撃。失敗しても損害は狸一匹。実行に移された。

問題はこの狸、自分の姿しか変えたことがないのだ。上層部はこのことを知らない。黙っていたからだ。なぜ正直に言わなかったのか。後悔が狸を満たす。

逃げ出そうとすれば、首輪の爆弾を起爆される。外では銃声が聞こえる。作戦区域には自分一匹。生き残るには、兵士の幻を作り上げるしかない。

箱には大量の葉っぱ。床に一枚置き、念じてみる。何も起こらない。もう一度葉っぱを置き、必死に念じてみる。すると葉っぱが茶碗になった。大きな前進だ。茶碗では、死ぬ。その後何度も試してみたが、茶碗以上のものを作れなかった。

床には大量の茶碗。銃声はどんどん大きくなる。やけくそじみたように、茶碗に向かって念じてみる。

気が付くと、茶碗が茶釜になっていた。もう一度念じてみる。茶釜が大釜になった。さらに念じる。大釜が、戦車になった。

「これだ!」もう一つの茶碗に向かって念じる。茶碗を洗う女中が現れ、兵士になった。茶碗と箸が、プレートアーマーとアサルトライフルになった。これならば、いける。土壇場で掴んだコツを手放さず、必死に念じ続ける。

十分後、茶碗製の軍隊がズラリと並んでいた。狸の馬鹿力の成果だ。後はこれを敵軍にぶつけるのみ。

「さあ行け!」狸が命じる。兵士は動……かない。うんともすんとも言わない。葉っぱを変化させたはいいが、独りでに動かすほどの技量はなかった。狸は兵士の一人の肩をゆする。兵士が茶碗に戻り、鋭い音を立てて割れ、葉っぱに戻った。衝撃を与えてもダメなのだ。

敵作戦区域侵入まで三分。このままでは、死ぬ。

【続く】


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