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モドキの何が悪い
「『擬態人間』は我々の隣にいる。社会にへばりついて、人間のフリをしている。彼らにも心がある?間違いだ。アレは人間の真似事しか出来ない」
「『モドキ』なんですよ。怪しいと思ったらまずXXXに電話。そして駆除スタッフの指示に従い、落ち着いて行動を───」
ぶつり、とテレビを切ってやった。赤いボタンが少しめり込んだ。知ったことか。
朝飯が不味くなった。
俺はハルを見る。ハルは少し怯えたような、肩身の狭いような表情をしている。
「……正しいよ」
ハルの口がかすかに動く。喉に詰まったものを整理して、言葉を紡ぐ。
「だって、『モドキ』だよ。仕方がないよ」
「大丈夫。全部デタラメ。分かってる」
好き勝手言うあいつらの方が、よっぽど『モドキ』だ。会心の目覚め、ハルの朝食、ポジティブが全部パーになった。
「行ってくる」
振り返らずリビングを出る。これ以上ハルに怖い顔を見せたくなかった。
玄関で靴を履く。左足つま先の部分、ほんの少し溶けている。普段は気にしない所だ。今日は目についてしまう。
振り返って、廊下の壁。絵画で誤魔化しているが、穴が開いている。ハルが溶かしたものだ。悪気はない。
賃貸のマンションだ。時間に余裕が出来たら、あれも何とかしなければ。
ドアを開けて、仕事へ。階段に差し掛かったところで、お隣さんと遭遇した。
少しまごついてから、軽い会釈で先制。お隣はギロリと睨み、足早に階段を降りて行った。
いい関係とは言えない。既に二度、悪臭のクレームを貰っている。ゴミのせいにして何度も謝ったが、信頼は失ったままだ。
嫌われるならまだいい。通報となれば話は別だ。駆除の人間はきっとハルに容赦しない。子供が虫を壁にこすりつけるように、徹底的にやるだろう。
問題が迫ってくる。ハルと歩むと決めた時から、覚悟の上だ。
秘密を明かさず生きることだって出来たはずだ。それでも二年前の夏、俺に明かしてくれた。その意味が分からないほど、愚かじゃない。
【続く】