ワンタヌキアーミー2
前回の話
敵作戦区域侵入まで三分。何か突破口を見いださねば、まず間違いなく死ぬ。作戦区域で、狸が転げまわっていた。
彼らは見境なく鉛玉を叩き込む。下手に動けばすぐ撃たれ、「何だただの狸か」で片づけられるのがオチだ。訳も分からないまま戦場に放り出され、誰にも看取られることなく死ぬ。そんなのはごめんだ。
ではほとぼりが冷めるまで身を隠し、何もかも投げ出して逃げ出すか。無理だ、首輪の爆弾がそれを許さない。任務に失敗すれば間違いなく起爆される。二度目を期待するほど、軍は自分の能力を評価していない。
いっそ、敵国に投降するというのはどうだろう。それもできない。狸の投降など聞いたことがない。状況を理解できなかった兵士が、銃弾を浴びせてくる危険性は0じゃない。運よく成功したとしても、また首輪の爆弾だ。敵国の基地で狸爆弾として一生を終えるのが望みか?違う、断じて違う。
現状を乗り切るためには、葉っぱ兵士に動いてもらうしかない。しかし動かない。動かし方が分からない。時間は刻一刻と迫る。土壇場での急成長を信じて、ありったけの力を込める。しかし動かない。敵が作戦区域に侵入する。狸は今まで祈ってこなかった神様仏様に助けを求めながら念じた。兵士たちが、動いた。
それは望んでいたような滑らかな動きではなく、一切体が動かないホバー移動じみたものであった。しかし、動いた。それだけ分かれば十分だ。狸は残った兵士や戦車を展開し、見様見真似の布陣を作る。葉っぱの兵士達は素早く、風に吹かれるかのように動いた。最後に自身を煙玉に変えて、敵を迎え撃った。
敵は統率の取れた動きで進み続ける。本来ならば、ここに兵を展開しているという情報はない。故に、急に爆ぜた煙玉に対して、一瞬判断が遅れた。急に現れた存在しないはずの兵士たちに、再度判断が遅れた。その隙は、狸がヘリに化け、背後から強襲するには十分だった。
よく見れば、ヘリのディテールはお粗末だ。機関銃は動いているように見えるが、実際に弾は出ていない。挟み撃ちをかける兵士に至ってはホバー移動だ。それで十分だった。虚を突かれた敵を化かし、士気を粉砕するには、たったそれだけで良かった。彼らは銃の恐ろしさを知っている。奇襲の恐ろしさを知っている。そして、兵器の恐ろしさを知っている。いつの時代も、狸は人の心に巣くう恐怖を利用して、イタズラを仕掛けてきた。昔は妖怪で、今は戦争だ。
散り散りになった敵の兵士たちは、後に口をそろえてこう言った。「狸に化かされたようだった」と。
【続く】