マガジンのカバー画像

逆噴射小説大賞2020

6
運営しているクリエイター

記事一覧

ワンタヌキアーミー:ラスト

ワンタヌキアーミー:ラスト

前回の話

Ω軍はすでに制圧を終えつつあり、残存勢力を排除するフェーズに移行しつつあった。捕虜となるもの、抵抗するもの、一人また一人と戦闘不能になっていく。圧勝であった。既に九割がた探索を終え、残るはあと一部屋のみ。「葉」とだけ書かれた扉を兵士たちが囲み、そのうちの一人が手をかける。

瞬間、大量のΣ軍兵士が部屋の中から雪崩のように突き進んできた。人数が明らかに多い。一部屋に入っていたには余りにも

もっとみる
ワンタヌキアーミー3

ワンタヌキアーミー3

前回の話

Σ国とΩ国の戦争は、誰も予想していなかった15年目に突入。
「あと少しで終わるはずだ」を何年も繰り返し、ただ疲労だけが積み重なっていく。
国も民も、兵も将も、みな平等にくたびれていた。

Σ国のタヌキ投入作戦は、「使えるものならタヌキにも縋りたい」という、無限地獄による狂気の発露だったのかもしれない。もし運よく狸の化け術でΩ国を翻弄することが出来れば、この苦しみから解放される。そう思っ

もっとみる
ワンタヌキアーミー2

ワンタヌキアーミー2

前回の話

敵作戦区域侵入まで三分。何か突破口を見いださねば、まず間違いなく死ぬ。作戦区域で、狸が転げまわっていた。

彼らは見境なく鉛玉を叩き込む。下手に動けばすぐ撃たれ、「何だただの狸か」で片づけられるのがオチだ。訳も分からないまま戦場に放り出され、誰にも看取られることなく死ぬ。そんなのはごめんだ。

ではほとぼりが冷めるまで身を隠し、何もかも投げ出して逃げ出すか。無理だ、首輪の爆弾がそれを許

もっとみる
ワンタヌキアーミー

ワンタヌキアーミー

『今何人いるクソ狸』「おれ一匹っす」
『そこに何があるクソ狸』「葉っぱしかねぇっす」
『それで軍隊を編成しろクソ狸』「無理っす」

某戦争の最前線に、化け狸が放り込まれた。

作戦はこうだ。狸のまやかしを用いて偽の軍隊を作り、攪乱を行う。荒唐無稽なミッションだ、だが成功すれば敵軍に大打撃。失敗しても損害は狸一匹。実行に移された。

問題はこの狸、自分の姿しか変えたことがないのだ。上層部はこのことを

もっとみる
殺"殺人鬼"鬼の名はハルクェイヴァス

殺"殺人鬼"鬼の名はハルクェイヴァス

普段より少し明るい夜に、99人の殺人鬼が殺された。ハルクェイヴァスと名乗る男によって。

その知らせは、東京の殺人鬼コミュニティの間ですぐに広まった。殺された殺人鬼の中には、東京の治安低下に貢献した、「レッドラムズ・ネスト」のメンバーも含まれていた。22世紀初めから数十年続いてきた殺しの楽園神話を揺るがす出来事だった。

多くの殺人鬼の脊髄に、ハルクェイヴァスという単語が刻まれた。次は自分が殺され

もっとみる
金娘龍ガリア

金娘龍ガリア

路地裏に二つの人影。何かが、女を突き当りに追い詰める。

それの瞳は爬虫類のように鋭く、身長は2メートル半、異常発達した筋肉と鱗。異形だ。人と呼べるものではない。

少女は蛇の怪物を見つめている。黒いショートに、金の瞳。右手にジェラート。最後の晩餐かの如く、甘味を口に運ぶ。そして、口を開いた。

「味、よく分からなかったんだけど!」

彼女を見よ、両腕に金炎が走る。路地裏が、一瞬メインストリートよ

もっとみる