Fender American Performer Mustang搭載のDynamic Vibrato(American Performer Mustang Bridge and Tremolo)について
American Performer Mustang Bridge and Tremolo
Fender社は2019年1月のThe NAMM Show 2019でTHE AMERICAN PERFORMER SERIESを発表しました。このシリーズに通底する特徴としては、ギア比を18:1としたClassicGearチューニングマシン(オリジナルKlusonは12:1、復刻版は15:1)や新開発のYosemiteピックアップ、トーンを絞った際に低域も同時に適量アッテネートするGreasebucketサーキットなどが挙げられます。
American Performer Mustangには、American Performer Mustang Bridge and Tremoloと呼ばれる新開発のDynamic Vibratoが採用されています。
2022年2月現在単品での販売はされていないAmerican Performer Mustang Bridge and Tremolo(以下AP)ですが、細部の特徴を見ていきたいと思います。
ベースプレート部
まずはベースプレートです。オリジナルにはFender社のロゴとDynamic Vibratoの文字が刻印されていますが、APではほぼ同じ位置に3つのネジ頭が見えます。また、APのトレモロバーは両側のトレモロスプリングポスト用の穴の間にも穴があり、トレモロアーム差し込み穴の中にはテフロン製と思われるブッシュが入っています。
裏面を見るとAPの方ではトレモロスプリングポストの部分にナイフエッジ加工がされたプレートが取り付けられており、前述の表面から見えた3つのネジ頭はこのプレートの固定用であったことがわかります。
また、トレモロバー中央の穴の延長線上にプレートを貫く形で穴が空いています。
DynamicVibratoは上の画像の通り、トレモロスプリングポストのねじ込まれている部分(「黄丸」部)を六角レンチ等で回すことで、トレモロバーのベースプレートとの距離(=トレモロバーの「高さ」)を変え、弦の張力との釣り合いを調整することが可能です。トレモロバーがベースプレートから離れる(=高くなる)ほどアームアップ出来る量が増え、逆に近づく(=低くなる)ほどアームダウンオンリーの状態に近づいていきます。
弦の張力がない状態では、上の画像の通りトレモロバーはブリッジ後端方向に傾きます。ただ、APのトレモロスプリングポストにはナイフエッジに相対する部分の直上に「つば」があるため、オリジナルほどには傾きません。
前述のトレモロバーおよびベースプレートを貫く穴に六角レンチ等を通すことでトレモロバーを固定することができます。この状態で弦の張力との釣り合いを取れば、アームアップ・ダウンがともに可能な位置に楽に設定することができます。
2022/3/1追記:Charley Yangさんが設定方法を詳細に紹介されています!
通常のDynamic Vibratoはベースプレートが直接トレモロスプリングポストを受けているのに対し、APでは取り付けられたプレートのナイフエッジ加工部で受けていることがわかります。また、トレモロスプリングポストのスプリング取り付け溝は3本とオリジナルの2本から増やされています。
ちなみにオリジナルの最初期では溝は1本ですがその後2本に増やされます。
スプリングとトレモロスプリングポストを外したところです。と言っても実際にトレモロスプリングポストを外すには、一旦ナイフエッジプレートを外す必要があります。
このナイフエッジプレートがあるため、ユニットをボディーに取り付ける場合には、通常のザグリに加えてナイフエッジプレート用のザグリを追加する必要があります。
ブリッジプレート・サドル
ブリッジプレート部ですが一見すると大きな違いは無いように見えます。
「足」の部分の長さはオリジナルが約22.2mmに対しAPでは約19.2mm、直径はどちらも約6.35mmです。イモネジの長さはオリジナルの約9.3mmに対しAPでは約16mmで、使用するレンチのサイズもオリジナルでは約1.27mm、APでは約1.5mmと異なります。
サドルですが、幅はオリジナルの約11.2mmに対しAPでは約10.7mmとなっています。高さ(直径)ですが2・5弦および3・4弦用ではほとんど同じ値であるのに対し、1・6弦用ではオリジナルの約7.9mmに対しAPが約8.6mmと大きく、American Performer Mustangの指板R(約9.5インチ)に対応していると思われます。ちなみにこの1・6弦用サドルの直径は多くのリプレイスメントパーツに於いてもオリジナルとほぼ同様の数値となっております。
リプレイスメントパーツの中にはイモネジによる弦高調整が可能なタイプのものもありますので、それを採用すれば幅広い指板Rへの対応は容易ですが、イモネジのないルックスを維持しつつ対応したい場合にはAPのサドルの存在は魅力的ですね。
サドルの材質ですが、磁石に反応はすれど鉄ほどの反応ではないことからステンレス製ではないかと想像しています。ちなみに所有しているチタン製のサドルは磁石に対し全くの無反応でした。
まとめ
American Performer Mustang Bridge and Tremoloの特徴についてまとめると以下のようになります。
ベースプレート下にナイフエッジプレートが取り付けられており、トレモロスプリングポストを支持している。
トレモロスプリングポストにはナイフエッジに相対する部分の直上に「つば」があり、弦を緩めた際でも過度に傾くことはない。また、スプリング取り付け溝は3本である。
トレモロバーのトレモロアーム差し込み穴の中にはテフロン製と思われるブッシュが入っていてアームのガタツキを抑えている。また、トレモロバーおよびベースプレートを貫く穴を利用しトレモロバーを固定することで、フローティングの状態を楽に設定することができる。
ブリッジサドルのうち、1・6弦用の高さ(直径)が約8.6mmと大きく、約9.5インチの指板Rに対応している。
取り敢えずブリッジプレートとサドルのみをCharモデルコスプレLEADに搭載してみました。弦高ですが、スタッドアンカー部にRetroTone社のBridge Fixing Bush for JM,JG,MGを装着しつつ、ネックジョイント部にシムも入れていないため、ベタベタに低いところまでは下げられていません。ただ、指板のRにはより適合したような気がします。
いずれはボディーのザグリを追加し、ベースプレート部も搭載したいと思っております。
搭載(2022/3/16追記)
Provision Guitar社にザグリ加工をお願いしました。これでいよいよ搭載することが叶います!
問題なく取付可能でした。
ブリッジプレートも問題なく搭載できましたが、前述のネック仕込み角の関係で高さは低めとなり、前述のCharley Yangさんが紹介されている設定方法どおりに行おうとしたのですが、うまくいきませんでした。
結局かなりトレモロバー(テイルピース)の高さを下げ、ダウンオンリーのセッティングとしました。交換前のユニットと比較してアームの戻りは大変滑らかで、交換した甲斐はありました。音質的な変化はよくわかりませんが、少なくとも悪い方に変化したとは感じません。その後しばらく弾いて馴染ませたところどうやらいわゆる生鳴りやサスティンが以前よりも向上しているように感じます。ダウンオンリーのセッティングではトレモロスプリングポストの「つば」がベースプレートに接触しているわけですが、このことが関係しているか否かはもちろん不明です。
ただ、状態としてはStratocasterのシンクロナイズドトレモロをノンフローティングにしたのと同様な変化がありそうだとは思います。ちなみに英語では"Decking"と表現されるようで、エリック・クラプトンモデルのようにイナーシャブロックを木材を挟んで全く動かないようにした状態は"block"と呼び区別されています。
上の動画の4:17くらいからそれぞれのセッティングにおけるサスティンの違いについて検証しています(詳細はhttps://theguitarpages.com/float-deck-or-block-an-exploration-of-the-strat-bridge/)。やはりノンフローティングの方がフローティングよりもサスティンが長くなるようです。
【了】