見出し画像

Fender LEAD Seriesのシンクロナイズドトレモロユニット


画像1

 Fender LEAD Seriesのブリッジは、オリジナル・現行ともハードテイルブリッジが標準となっています。ただ、海外の中古市場において明らかに改造を加えて種々のトレモロユニットを後付したと思われる個体は散見されます。ところが本邦の中古市場においては、稀ではありますが販売時すでにシンクロナイズドトレモロユニットを搭載していたと思われる個体が見つかることがあります。
 本稿ではこれらの非標準的な個体について触れたいと思います。


オプション?

画像2

 上の画像はリットーミュージック社のギターマガジン1983年7月号に掲載されていた山野楽器によるFender LEAD Seriesの広告です。時期的には既に生産が終了し、在庫を販売していた時期だと思うのですが、画像下部には

「News➡リードギターにトレモロユニットがオプションでつけられることになりました。詳しくは山野楽器海外事業部までお問い合わせください。」

との記載があります。海外においてこういった広告が打たれたという記録は確認できておらず、おそらくは輸入はしたもの在庫が残っていたLEAD Seriesに対する、日本国内における販売テコ入れとしての独自措置ではないかと考えられます。
 つまり、前述のオプション措置は米国のFender社工場で生産時になされるものではなく、ハードテイルブリッジが搭載されている個体に対し、輸入後に日本国内でボディー切削、シンクロナイズドトレモロユニット搭載の加工が行われたのではないかと推測する次第です。
 そこで、上述の推測について、いくつかの根拠に基づいた検証を行っていきたいと思います。


キャビティー画像

画像3

 上記のキャビティー画像は、筆者が所有するシンクロナイズドトレモロユニットが搭載されたLEAD2(オリジナル)のものです。ご覧の通り、リアピックアップキャビティー内には丸い穴が空いていてボディー後面のスプリングキャビティーへと貫通しています。通常シンクロナイズドトレモロユニットが搭載されたギターにおいてこのような「貫通」が起こっていることはありません。


「穴」の正体

画像4

 この穴について推測すると、元々は貫通していたものではなく、1979年頃以降ハードテイルブリッジ搭載のFender社のギターに見られるキャビティー内の窪みではないかと思われます(上の画像参照)。この窪みの目的は不明ですが、その他のいくつかの加工とともにNCルーターを加工に導入した後の特徴の一つであると言えます。

画像7

 上のTelecasterのボディーではフロント・リアのキャビティーの両方で丸い窪みが認められます。

画像16

Telecaster Deluxeのボディーでもリアピックアップキャビティーに丸い窪みが認められます。

 オリジナルのLEAD Seriesの生産開始は1979年ですので、既に述べたとおりハードテイルブリッジ搭載のギターに共通したキャビティー内の丸い窪みがあるわけで、後からシンクロナイズドトレモロユニットを搭載するための木部加工を加えれば、その深さにもよりますが結果として窪みは「穴」として貫通してしまうことになります。
 では、標準的にシンクロナイズドトレモロユニットが搭載されていたStratocasterの場合はどうかというと、キャビティー内に丸い窪みはないため当然貫通もせず「穴」は空いていません。また、ハードテイルブリッジ仕様のStratocasterではNCルーター導入以降にLEAD SeriesやTelecaster同様の丸い窪みがリアピックアップキャビティー部に認められますが、当然貫通の恐れはありません。

画像6

画像7

画像12

上の画像はシンクロナイズドトレモロユニットが搭載されたLEAD2のスプリングキャビティーのアップです。キャビティー内もボディーカラーと同色の黒で塗られていますが、光沢がなくおそらく木部切削後に黒く塗られたものと思われます。


搭載されたユニット

画像9

 搭載されたシンクロナイズドトレモロユニットですが、詳細は不明です。上の画像の通りベースプレートとトレモロブロックは一体形成されていて、ブリッジサドルと合わせて亜鉛合金製ではないかと思われます。


画像10

 ブリッジサドルは、形状的には同時期のStratocasterなどに搭載されていたサドルと類似していますが、幅は約10.2mmと狭く、当時国内で流通していたものを搭載したのではないかと推測します。これまで市場に出回った個体の仕様を画像で確認した限りでは、同様のユニットが搭載されているようです。


ピックガード

画像11

 この個体を入手した際に搭載されていたピックガードは黒ー白ー黒の3プライで、おそらく元々搭載されていたピックガードに加工を加えたものと推測できます。


画像12

 ノーマルピックガードと比べて分かる通り、ブリッジプレートの形状に合わせた形状でネジ穴ギリギリの追加加工がなされていることが推測できます。


現行モデルへの搭載の可能性

画像14

画像15

 さて、それでは現行のLEAD Seriesへのオプションの可能性について考えてみたいと思います。上の画像の通り、現行のLEAD Seriesにおけるピックアップキャビティー内の窪みは、オリジナルLEAD Seriesと比べて浅く、仮に後付で搭載された場合でも穴の貫通は避けられそうです。だからといってFender社がオプションの設定に及んでくれるかといえば、現行LEAD Seriesの販売価格帯なども踏まえると難しいと言わざるを得ません。どうしても、ということであれば個人で工房等に依頼して改造をする他なさそうです。


画像13

 現在この個体は、ピックガードを新調しピックアップにはBill Lawrence社製のL-250を搭載してThe Grooversの藤井一彦氏仕様となっています。シンクロナイズドトレモロユニットは米国Callaham社製のものに置換しており、なかなかいい感じで鳴ってくれています。

画像17

 その後藤井一彦氏同様にローズウッド指板のLEAD3ネックと換装しました。音の変化はよくわかりませんが、トレモロユニットの操作感が何故か変わってしまい、スプリングを弄ってもいないのにアームのタッチが柔らかくなりました。
 既に述べたとおり市場に出回ることは稀なシンクロナイズドトレモロユニット搭載のLEAD Seriesですが、全く出回らないわけではありません。興味をお持ちの方に於かれましては、発見次第速やかな捕獲に努めていただけますと幸甚です。

【了】




いいなと思ったら応援しよう!