ダンジョン・ワールド・ガイド(1)
『ダンジョン・ワールド』を読み理解しようとするなら、【INT】でダイス・ロール……
このガイドの中身と執筆理由
これを読んでいるってことはたぶん、『ダンジョン・ワールド』を遊んでみたくてたまらないけど、ルールがピンとこないってことだよね。ま、読み終えるまでには、得心がいくと思うよ。そんでもって、最終的に「おー、これはすごい」な気持ちになってもらえれば言うことなし。だって、『ダンジョン・ワールド』は正真正銘、素晴らしいゲームなんだから。
最初にルールブックを読み終えたとき、私はくつろぎながら「これこそ、求めていたダンジョン探索ゲームだ」という感慨を抱いた。『ダンジョン・ワールド』が、実際の冒険に適した、ルールと枠組みとを提供してくれていたからだ。そのルールは、プレイヤーがポカをやらかしても、アクションを停滞させずに進行させてくれるものだった。つまり、出目が悪かった場合でも、ってことね。GMのムーヴとプレイヤーのムーヴが積み重なっていく様は、さながら巨大な振り子のようだ。常に行きつ戻りつしながら、勢いよくゲームを進行させてくれる。このたとえで通じるかな? もしかすると妙な言い回しになっているかも。
けれども、オンライン上のいろんなフォーラムを覗いてみたところ、『ダンジョン・ワールド』を始めたばかりのプレイヤーの多くが、このルールに手こずっているのがわかった。ルールブックのよさげなところを目にして、ゲームを遊んでみようと意気込んでいるものの、ルール構造が既知のものとあまりにかけ離れていたってわけ。たしかに混乱するかもね。特に、『ダンジョン・ワールド』がベースとしている『アポカリプス・ワールド』を体験したことがなければ。思うに、『ダンジョン・ワールド』に手を出す以前のゲーム経験を、いったん捨て去る必要があるかもしれない。
この小冊子は、その助けになるはずだ。本書では、『ダンジョン・ワールド』を書き換えたりしないし、別ルールを提供することもしない。リソース本の類じゃないんだ。ゲームの運用に必要なアドバイスはすべて、コアルールブックにちゃんと記載されているからね。私がやったのは、もっとも頻度の高い質問を選び出し、平易な言い回しで答えを書き記して、詳細な例を添えること。読み終えるまでには、このゲームをすっかり理解できるはずだし、そうなれば「おー、これはすごい」と感じてもらえるだろう。
基本的なメカニズム:会話の働き
では、行く手を遮る最初の大きなハードルである「GMは、自分のアクションのためにダイスを振ることはない。絶対に」に取りかかるとしよう。望むならダメージ・ダイスを振ることはできるものの、NPCのためにダイス・ロールすることはない。ダイスを振る代わりに、GMは「ムーヴ」を行うことになる。では、ムーヴのひとつ「ダメージを与える」は、GMのターンに「よし、オークが君に5ダメージを与える」と述べるってことなのだろうか? 否! GMの気まぐれに委ねられるのではなく、プレイヤーのダイス目がGMのムーヴの成り行きを決めるに過ぎない。どういう仕掛けなのか、これから長ったらしい説明をしていくが、簡潔にまとめるとこうなる:
ダイスのメカニズムはわかりやすい作りだ。成り行きには3つの段階がある。10以上なら、プレイヤーは十分な成功を収め、問題はおきない。7-9なら、部分成功となる。望んだことすべてを成し遂げられない、もしくは望み通りになるものの何らかの犠牲を払う必要が生じる。6以下だと、失敗してしまう。
『ダンジョン・ワールド』における失敗と、他大多数のゲームの失敗は別物だ。『ダンジョン・ワールド』では、プレイヤーがダイス・ロールで失敗した場合、GMが「ムーヴ」を行える。混乱を招くだろうけど、ま、新しい専門用語だから仕方ないね。と言っても、ものすごくシンプルだ。ルールに「ムーヴを行う」とあるなら、実質的には、単なる失敗以外の何かが起こる、と考えればいい。プレイヤーが失敗の出目を振ったなら、停滞するんじゃなくて、新たな展開が生まれるってことだ。状況が悪化するか、犠牲を払う羽目になるだろう。
ほんとそれだけ。このゲームが指示しているのは、常に何事かを発生させ続ける必要があるということで、それこそがゲームを心躍るものにしてくれるんだ。プレイヤーをあてどなくさまよわせるのではなく、「次はどうなる?」と言わしめるような危険な状況をあてがってあげよう。「鍵開けに失敗したよ」と口にする代わりに、「素早く解錠できなかったので、最後のピンを正しい位置に収めている間に、衛兵たちが間近に迫ってくるよ」と述べよう。あるいは「甲高い警告音が響き渡る。魔法の警報を作動させてしまったみたいだ!」でもよい。スキルチェックの成否のみのとらわれるのではなく、リスクと努力に報いる点に着目しよう。7-9なら、プレイヤーが招くのは対処すべき成り行きだが、ミスの場合、この成り行きはさらに悪いものとなる。多くのムーヴには7-9の結果が組み込まれているものの、中にはGMが自力でなんとかしなければならないものもある。これについては後で詳しく触れるので、差し当たっては、7-9の成り行きが通常「ソフト・ムーヴ」、完全失敗(6-のミス時)の成り行きが通常「ハード・ムーヴ」と呼ばれることを、押さえておけば十分。単に後者の方がきつい、ってこと。
GMは失敗が代償を伴うような危険な状況を組み立て、プレイヤーたちはそれに対処する。コアルールブックにて述べられている本作における「会話」の基礎はこれに尽きる。プレイヤーの対応がムーヴを引き起こすものなら、プレイヤーはダイス・ロールを行い、GMが必要に応じて成り行きをもたらすことになる。GMはプレイヤーのダイス・ロールの結果を解釈することで、言うなればゲームをたゆみなく進行させ続けるってことだね。
GMのムーヴ
これは難しくない。プレイヤーが7-9を出したならGMは「ソフト・ムーヴ」を行い、プレイヤーがミスを出したならGMは「ハード・ムーヴ」を行使できる、というだけだ。じゃあ、ソフト&ハード・ムーヴの実体は? GMがムーヴを行っていうのは、別に難解で新奇なことじゃない。GMのムーヴ一覧に目を通し、注意深く読んだなら、あげられているのは普段みんながGMとしてやっていることそのものだとわかるはずだ。使いやすいように、成文化したってだけ。これまでにRPGのGMをしたことがあるならきっと、「誰かを困難な状況に置く」や「歓迎されざる真実を明かす」経験があるはずだ。ま、そんな風には呼んでいないだろうけど。
『ダンジョン・ワールド』では、GMのムーヴ一覧を非常に重視している。なぜなら、それによってゲームは停滞することなく進行するからだ。プレイヤーがGMの方を向いて次を促すなら、GMはムーヴを行うことになるけど、それは何かが起こるってだけのことだ。お忘れなく。
GMのムーヴの本質は、とにかく危険な状況を作り出すようデザインされているところにある。GMのムーヴ一覧は徹頭徹尾、ゲームマスターの心得(Principles)を守りつつ、プレイヤー・キャラクター(以下PC)を危険にさらしたり、彼らの生き様を興味深いものとすることにあてられている。「脅威が迫りつつある兆候を示す」こと、つまり行く手に待つよくないものを告げることで、プレイヤーの緊張状態を保つ。「歓迎されざる真実を明らかにする」で、「つけられている」とか、「ヴァンパイアは実は死んでいなかった」ことにする。どのような形を取るにせよ、GMが何らかのアクションを描写したり、プレイヤーがダイス・ロールでミスを出したりすることで、プレイヤーがGMに期待の眼差しを向けたときに、これらのムーヴがGMの想像力を燃え立たせてくれるって寸法だ。
といってもプレイ中に、GMがムーヴ一覧に目をやる必要はほとんど無いだろう。各々が身につけているGM手法がそれに取って代わるので、いつもやっているようにゲームの語り手を務めていけばそれでいい。ルールブックには、プレイヤーのダイス・ロールの結果によって、あるいはプレイヤーが働きかけてきたときに、ムーヴを行うことができると書いてあるが、それだって形式上の手続きだ。卓でダイスが振られたり何かがあるたびに、GMのムーヴに目を通すなんてことにはならないから、文字通りに受け取ってはいけない。普段はプレイヤーがダイスを振るときに、それが何に関わるものなのかを把握しておくだけいい。そんでもって、どうすればいいのか自信の持てない状況が発生したら、手元の一覧が助けてくれる。必要に応じて一覧を活用すればいいだけで、GMのやることなすことすべてをリストに照らし合わせるなんて、時間の無駄もいいところだ。
GMのムーヴを理解して、成功と失敗に対処する方法を頭に入れておけば、万事OK。じゃ、高頻度で発生する7-9の成り行き、つまり成否の狭間に話を移そう。
7-9の意味するところは?
まず肝に銘じておいて欲しいのだが、7-9の成り行きは基本的にPCが成功することになる。部分的な成功だったり、代償を伴う成功ってだけだ。プレイヤーが何を試みていたかに着目して、それから彼らの望んでいたことの半分か主要部分をもたらすようにしよう。つまり、プレイヤーはそれ以外のことを諦める羽目になる。PCがバルコニーに飛び移ろうとしているところで7-9だったなら? たぶんバルコニーに到達できるだろうけど、すんなりと足から着地はできないだろう。GMのムーヴ一覧を見て、適用可能なものがあるか確認しよう。例としては:
あるいは、ムーヴをもうすこし広く解釈してもよい。「一行を離散させる」を用いて、先に上に登ったパーティーのメンバーを、空飛ぶ敵に攻撃させることだってできるってこと。なお、プレイヤーがダイス・ロールでミスを出したから敵が攻撃してくる、なんて言わないようにしよう。だって変でしょ? そうする代わりに、「では、速度こそ亀の歩みだけど、君は着実に進んでいく。パーティの残りは君を待っているのだが、そこで遙か彼方から何かが接近してくるのが目に飛び込む。高速でやって来るのは……巨大な猛禽の類みたいだ! そいつは、岩の上で無防備な君を見つけて、餌食にしようと急襲してくるぞ!」みたいに述べてみよう。これはミスディレクションだ。「GMのムーヴの名称を決して口に出さない」と記述してあるのは、そういうことなんだ。フィクションの上では、PCが岩登りに手間取った結果、無防備な状態におかれ、怪鳥が攻撃をしかけてくる。けれども、GMからすると、怪鳥はダイス・ロールの成り行きとして攻撃をしかけているってこと。いいでしょ? では例をもうひとつ:
要するに、プレイヤーは望むものすべてを得られないか、さもなければ予想外のものがついてきてしまうってこと。多数の異なる状況に応用可能なアイデアの短いリスト、つまりGMムーヴの実行例をあげてみよう:
もうひとつ、昔ながらの難しい選択ってのも、7-9をたたき込む非常に有用な手段だ。アクションの異なる結果2つを提示して、プレイヤーに1つを選ばせよう。この選択は、2つとも同等によい結果か、同じぐらい悪い結果のどちらでもよいが、プレイヤーに何かを犠牲にする感覚を抱いてもらえるものが望ましい。プレイヤーが何をしようとしていたのかを思い出し、それを2分割できるか確認すること。そうして、その2つから1つを選ばせるわけだ。「裏口から逃げられるように、扉を封鎖したいんだよね? けど、連中はもう扉のところに来ているから、あまり時間はない。君にできるのは、扉を押さえて逃げるよう仲間に叫ぶか、全員で裏口から飛び出すも追われ続ける羽目になるかのどちらかだね」という感じで。
「武器を叩き落とすか、転倒させることはできるけど、両方は無理だ」
「この攻撃を防ぐか、ダメージを受ける代わりに反撃するかのどっちかだね」
「時間的余裕はないので、オーブを引っ掴むか、オーブに近づいているヤツを撃つかのどちらかしかできない。どっちがいい?」
ハード・ムーヴ対ソフト・ムーヴ
先に述べた通り、ムーヴには「ハード」と「ソフト」がある。ジョン・ハーパー氏はその違いを「ソフト・ムーヴは仕込みで、ハード・ムーヴは発動」と説明している。プレイヤーが大洞窟を探索して、GMが「地面が震動し始め、一部の岩が落ちてくる。君のいるところに土砂崩れが押し寄せつつある」と言ったなら、それはソフト・ムーヴだ。PCを危険にさらす何かが起きつつあるというのは、仕込みの一部だからね。「錯乱した人物が君にナイフを突き立てようとしてくる!」といった具合に、GMは危機をこしらえ、プレイヤーにどう反応するかを聞くってわけ。プレイヤーがダイス・ロールで失敗して、成り行きを述べるってことなら、たいていはハード・ムーヴだ。「轟音をたてながらそこら中に岩が崩れてくる。うちひとつが頭部に当たり、兜をへこませるので、5ダメージを受けるよ」とか「錯乱した人物は君の胴体に切りつけるので、6ダメージを受けてね」って具合。
失敗に対する成り行きとして、ソフト・ムーヴを重ねることもある。そうやって、雪だるま式に状況を大ごとにできるだろう。プレイヤーにとって事態は悪化していくものの、それを脱する奮闘は継続しているって形だ。こんな感じで:
厳密に言えば、GMはこの時点でPCが捕らわれたことにもできる。それこそが失敗の代償というものだろう。あえてそうせずに、状況を悪化させて緊張感を高めるために、GMはソフト・ムーヴを行って、プレイヤー・キャラクターを「困った状況に置く」ことにしたわけだ。こんな風に、思い浮かぶことがあれば、細かなルールは蹴っ飛ばしてしまおう。物語のペースをしっくりくるよう調整するのは、GMである君に委ねられている。ルールには「ハード・ムーヴを行う機会が訪れたときに、シチュエーションにより適していると思えば、GMはソフト・ムーヴを行うこと」ができるとあるので、頭の片隅に置いておこう。
よしよし、これでGMムーヴとプレイヤー・ムーヴの使い方を軽くさらえたぞ、と。要約しようか。GMムーヴはPCを危険な状況に置き、起こり得る成り行きをとことん追求するようデザインされている。プレイヤー・ムーヴはそういった状況に対処しつつ、ダイス・ロールの結果を語るための指針をGMにもたらしてくれるものだ。プレイヤーのダイス・ロールはもれなくGMからの反応を誘発し、GMのムーヴはもれなくプレイヤーの対応を引き出す、というわけ。行きつ戻りつ。ほら、振り子みたいでしょ!
こういったムーヴと成り行きについての話題はすべて、最高にクールで、素晴らしくエキサイティングで、『ダンジョン・ワールド』初心者を混乱させること請け合いの、戦闘に直結している。
戦闘:どういう仕組み?
初心者GMの多くはとりわけ、『ダンジョン・ワールド』の戦闘処理に面食らうものだ。ダイスを振る機会がなく、アクションをターンやラウンドといった区切りで分割していないからね。大丈夫、初見で困惑するのは仕方ない。すぐに腑に落ちるはずだ。じゃあまず、RPGの運用について知っていることをしばし忘れようか。小さな子供に返ったと思ってくれ。ドラゴンの描かれたボックスを手に取り、戦闘ラウンドやイニシアチブなんていう先入観を持たない子供だ。そんな君は戦闘をどのように語るだろう? グリッド・ベースや、ターン進行にはまずならないだろうね。そういうことはボードゲームにお任せだ。おそらく、読んだことのあるファンタジー小説に近いものになるんじゃないかな。緊迫した場面から次の場面に飛び、活劇の間ずっと主要人物たちを追いかけ、ハイペースな交戦を続けざまに描くような。それこそが、『ダンジョン・ワールド』流というものだ。
んでもって、そういう慌ただしい戦闘シーンは、GMがダイスを振らなくても発生する。ダイスを振る代わりに、GMはムーヴを用いて、プレイヤーのために危険な状況を組み立てていく。敵に攻撃を仕掛けさせ、それからプレイヤーの対処を活用しつつ、その攻撃がどう帰結するかを決めるといった塩梅だ。
とてつもなくシンプルな例:
つまり、危険や好機に出くわしたならりダイスを振るのは同じなんだけど、PCがダイス・ロールを行い、GMがその結果を解釈するという形をとるんだ。こうすることで、戦闘は実にスムーズに進行し、全員が手番を回しながら互いに殴り合うのとは異なるプレイ感になる。流れるように状況が行き来するようになるのさ。ほら、思い出してみよう。GMとしてやるべきことは、危険な状況を組み立て、プレイヤーたちの対処を求めることだったよね。GMの設定した状況がどうなるかは、プレイヤーの対処に委ねよう。
D&Dのセーヴィング・スローを思い浮かべれば、わかりやすいかも(訳注:D&Dで説明すればだいたい通じるという米国流)。つまり、「邪術師が呪文をかけてくる。意志力でセーヴして」って感じ。こういった瞬間は、おおむね『ダンジョン・ワールド』のプレイと変わらない。GMはNPCが何をしようとしているのか述べて、それから、プレイヤーのダイス・ロールのもたらす成り行きを待つことになる。プレイヤーがダイスを振り終えるまでは、魔法にかかったと宣言できないからね。『ダンジョン・ワールド』の運用は、まさにこのやり方を毎回行うことなんだ。
さて、ちょっと前にGMが危険な状況を組み立てると書いたけど、少しの間、そこに戻って欲しい。この「危険な状況」は、ゲームのあらゆるレベルで実行できる代物だ。フロントや冒険のフックのデザインはすなわち、危険な状況を組み立てることだ。戦闘は同じことをごくごく小さくやっているに過ぎない。GMがプレイヤーに語りかけるときはいつでも、プレイヤーを奮闘させるような物事を強調して、それにどう対処するかを聞いてみよう。
プレイヤーの対処がどのような結果になるのか決まったなら、再度GMが反応を返する番だ。というわけで、先のムーヴで起きたことの流れを汲みつつ、次なる危険な状況を組み上げることで、投げ返してあげよう。ゲーム内で起きていることを自然な形で展開すればいいわけで、たいていの場合、やることはすぐにわかる。オークが棍棒を振り回し、プレイヤーが反撃することにしたなら、ボールはGMに戻ってきている。プレイヤーのダイス・ロールが7-9だった? なら、オークに傷を負わせるものの、オークも攻撃を命中させる。GMは危険な状況をお膳立てしていることを意識すること。だから、単なる「両者ダメージ・ダイスを振る」よりも踏み込んだものしよう。「オークが君の肩に切りつけてくるけど、それによって隙が生まれる。君はオークの粗雑な鎧を切り開き、ヤツは痛みに叫びをあげるも、君の武器を掴んで取り上げようとしてくる」みたいに述べるわけだ。前のダイス・ロールの結果を解釈して、次に備えて新たな危機を考えてみよう。これこそが、『ダンジョン・ワールド』の戦闘全体の流れだ。次に、プレイヤーが再びこの新たな脅威に応じ、おそらくはダイスを振ることで、起こることをGMに投げ返す。会話を行き来させつつ、お互いに状況を組み立て、それに応じていくわけだ。
イニシアチブがないんだけど、どーすんの?
戦闘ラウンドとイニシアチブがないことも、みんなを混乱させる一要因だろうね。戦闘もゲームにおけるその他の状況と同じように運用される、と理解するのが最も手っ取り早いかな。通常ルールとは別の戦闘システムがあるわけではないので、戦闘ラウンドなんかが突然割り込んできたりはしない。誰かが剣を抜いただけで、ゲームの流れが変わったりはしない。城への潜入を描くのと同じ要領で、戦闘で何が起きたのかを描写するってだけだ。当然、緊迫する瞬間もあれば、軽く扱われるものもある。場合によってはクローズアップする手法をとって、「岩棚の向こう側をどの程度覗き込むの?」のようなちっぽけなアクションを描写するわけだけど、そこにイニシアチブや標準/移動アクションは不要だよね? ま、そゆこと。
イニシアチブがないため、アクションとリアクションからなるゲームの流れを、通常通り行き来させることになる。たまに、プレイヤーが複数のことをやろうとするかもしれない。「〈雄牛の怪力〉を唱えて、猛攻をかける!」といった感じに。問題なし。自然な流れにあるなら、自「ターン」に1アクションみたいな制約は課されない。プレイヤーがアクションを詰め込みすぎるようだったら、いったん止めて、他のプレイヤーたちにそのあいだ何をしているのかをたずねてみよう。状況をアクション映画になぞらえて、その場面を監督しているものとして思い描こう。あるPCにしばしカメラを近づけて、クリフハンガーで終わるワクワクするようなシーンを見せ、それから次のPCにカメラを切り替えるって寸法。私の場合はたいてい、時計回りに卓を一周させる形で、各パーティーメンバーに「出番」を与えている。こうすることで多少構造っぽさは残ってしまうけど、ダイスを振ることなく進行できる。
私は可能ならいつでも、あるプレイヤーの「ターン」を次のプレイヤーへとよどみなくつなぐよう心がけている。PCに降りかかる脅威を変化させたり、影響を及ぼすことのできるムーヴに光を当てる感じ。「よし、ファイター、君の攻撃はゴブリンの群れを追い散らす。そのゴブリンのうち1体が、レンジャー、君の方に真っ直ぐ向かってくる。どうする?」みたいに。GMがこれを行う場合は、順番を無視してPCを危機にさらすことにより、時計回りの構造を破っても差し支えない。プレイヤーAの手番中に突然プレイヤーCに向いた矛先に焦点を当て、プレイヤーCにどうするか聞くんだ。そのPCに短時間脚光を浴びせたら、通常の時計回り順に戻そう。
「さて、彼はアックスを放り投げると、ファイター、君に組み付こうとする。で、そのアックスなんだけどさ、シーフ、実際には君に向かって投擲されているんだ。アックスが頭めがけて飛んでくるけど、どうする? …よし、シーフは刃をかわした。素晴らしい! ファイター、ヤツは君の喉元めがけて腕を突き出してくるけど、どうやって阻止する…?」
こうすることで、ボードゲーム的な感じが薄まり、みんなで戦闘を描写しているという認識が強化される。自分の「ターン」やモンスターの「ターン」などのみに危険の降りかかるのではなく、常時脅威にさらされているだという感覚も行き渡る。安穏としていられなくなるから、プレイヤーはイニシアチブ順のターンをただ待っているのではなく、常に油断せず身構えるようになるはずだ。
戦闘中のムーヴのトリガー - どのムーヴ? いつ? なぜ?
個別の攻撃タイプが設定されていたり、受け流の代わりに回避するなどのルールが定められていたりするゲームとは違い、『ダンジョン・ワールド』では、プレイヤーに多大な自由が委ねられている。『ダンジョン・ワールド』において、PCのアクションは、ゲーム内のフィクションに基づくものにしなければならない。だから、望むことは何でも試みることができる。一覧から《ムーヴ》を選ぶ必要もなければ、記載されているムーヴに制限されることもない。時には、ムーヴを発生させない行動をとることだってあるだろう。例えば、無力な敵や不意を打たれた敵を攻撃するなら、《ハックアンドスラッシュ》を行うのではなく、問答無用でダメージを与えることができる。
どのムーヴを用いるのか、あるいはどんな順番で適用すればいいのかが、わかりにくいこともあるだろう。まったくもって問題なし! プレイヤーが自キャラクターのアクションをどう描写するかに耳を傾ければ、どのムーヴが合っているかは自ずと見えてくる。いつでもゲーム内のフィクションに重きを置いて、卓の参加者にとって得心のいくものを活用しよう。GMは厳格な規範に縛られたりはしない。ある状況において特定のムーヴが合っていたからといって、毎回同じとは限らないのだ。あらゆる状況は独自性をはらむのだから!
ムーヴのトリガーとなる実例をいくつかあげるので、目を通して欲しい:
これらはゲーム内のフィクションが、ムーヴを引き起こすこともあれば、引き起こさないこともあるという例だ。場合によっては、プレイヤーがダイスを振ることなく、達成できてしまうこともある。無力化されている/油断している敵への攻撃が好例で、上記のような常識的に判断できる状況も同様だ。
では、どのムーヴが発動するかを決める、ゲーム内のフィクションに目を向けよう。次の2つの例で、プレイヤーは基本的に同じことをしているわけだが、手法のわずかな違いにより、異なるムーヴが引き起こされている。これはよくあることだ。キャンペーンの基調を固めるのに役立つ上に、エンカウンター(遭遇戦)の難易度を増減させるのにも活用できる。試してみよう:
例3では、ゴブリンがうろたえているため、GMは《ハックアンドスラッシュ》を引き起こさなかった。注目すべきは、こうするようにルールで指示されているわけではないことだ。ゲーム内のフィクションをGMが解釈することで、そうなったのだ。ゴブリンがダガーを抜いたと言ってしまってもよかったのだが、猛烈な移動がプレイヤーに優位な状況がもたらすとするのがしっくりきたのだろう(それに、その過程でダメージを受けていることは、優位を得るに値する)。例4において、GMは、ゴブリンがダガーを抜く時間があると判断している。この場合も先と同様に、ゴブリンが不意を打たれたと裁定することもできたが、回避とジグザグ移動で意図が見え見えになってしまったから、ゴブリンは反応する猶予が生まれたと思ったわけだ。こういったことを織り交ぜることで、戦闘は味気ない数値のゲームではなく、変化に富んだ興味深いものとなる。ゴブリンの中には、他よりも賢いもの、素早く反応するもの、すぐに怯えるものがいるだろう。各敵対者には多少の差異があれど、『ダンジョン・ワールド』において、それを下支えするルールなんて必要ないのだ。
あらゆる戦闘、そして戦闘中に用いられるすべてのムーヴは、ひとつひとつが独自性を持つ。ゲーム内のフィクションを中心に据え、どうすればしっくりくるのか考え、すべてのムーヴがそこに依拠するようにしよう。
戦闘時の7-9
戦闘が始まれば、何度もダイスを振ることになるだろう。つまり、7-9が頻繁に顔を覗かせ、新たな結果を考えるのが難しくなることもあるってこと。《ハックアンドスラッシュ》と《射撃》には7-9の結果が備わっているけど、戦闘が面白味のないダイスの振り合いに堕するを避けるべく、可能な限りいろいろ織り交ぜたくなるだろう。
いつものように、まずはゲーム内のフィクションに着目して、方向性を考えてみること。主人公が凄まじく巨大/力あるクリーチャーに立ち向かっている場合、GMはPCの盾を持つ腕を負傷させたり、PCを吹っ飛ばしたり、転倒させたりできる。攻撃は届くものの、このクリーチャーが機先を制し、PCは苦境に置かれることになるかもしれない。PCは、動きを封じられたり、壁を背にすることになったり、組み付かれてしまったり、包囲されたり、叩き潰されたりするわけだ。この敵は、PCの剣を腹部に突き刺したままよろめくことで、実質的には武器を奪うかもしれない(こっそりと「リソースを消費させる」やり口)。モンスターの一覧にあるムーヴは実に便利で、戦闘中に敵がどう振るまい応対するのかを決めるのに使える。
仲間を脅威にさらすタイミングとしてもぴったりだ。7-9は、ダイスを振った当人だけでなく、他のパーティーメンバーを危険にさらすこともできるので、GMはムーヴの流れを遮ることなく、そのキャラクターの応対を求めることができる。アクションの思いもよらない意外な結果を引き起こそう。敵が集団で守りを固めたり、罠を起動したり、敵がPCを欺いてチームメイトと切り離したと判明したりするわけだ。プレイヤー側の作戦が結果的に、敵側に戦術的優位をもたらすことだってあるかもしれない。
プレイヤーのムーヴが思わぬ面倒を招きはしないか、いつも注意しておこう。ささいなものでもかまわない。プレイヤーが攻撃のために突進すると描写したなら、7-9は「突撃中、側面が隙だらけになって…」と口にするチャンスだ。プレイヤーが防御に専念しているなら、位置取りよりも敵の攻撃に注意を払っているため、危険な場所に誘導されていると気づかなかったことにできるだろう。
この戦闘はどれぐらいの難易度?
「初期作成のパーティーにどれぐらいの敵をぶつければいいの?」は本当によくある質問だ。その答えは「GMの望むだけ」となる。遭遇戦の難易度の増減は超簡単。ムーヴをハード多めにするかソフト多めにするかで調整できる。戦闘をもっと困難なものにしたいなら、ハードなムーヴを多めに用いよう。敵をすばしっこくするか、見つかりにくくすればいい。敵がスピアを用いて、PCたちを武器の届く距離に足止めする様子を描写しよう。素早く身をかわして縦横無尽に動き回る様子、あるいはPCたちを包囲するやり方、牙と爪で戦う様子を述べるのだ。「攻撃はゴブリンの腹部に突き刺さったものの、そいつは君の腕を掴むと噛み付いてくる。2ダメージ喰らってね。ゴブリンは狂乱しており痛みを感じていないようだ」という塩梅。ここでもフィクションを重要視することを忘れずに。これは、アーマー・クラスとダメージ・ダイスがすべてを制するゲームではないのだから。モンスターはデータ的な違いではなく、描写的な差異によって区別される。巨人は単なるヒット・ポイントの塊ではない。恐るべき巨躯をほこる存在に、どのように近づいて攻撃する想定なのだろう? 身長20フィートで、小さな建物ほど範囲に腕が届く。その腕でネズミか何かのように払いのけられてしまうので、《ハックアンドスラッシュ》に持ち込めない。プレイヤーは、接近しようとするだけでも、創造性を発揮する必要が生じるわけだ。
逆に戦闘を易しくしたいなら、その場の判断で造作なくそうできる。敵の頭を悪くするか、訓練不足にしてしまおう。PCたちを追い詰めるためにスピアを使うなんてもってのほか。代わりに、乱暴的で危険を顧みずダガーで刺してくることにしよう。巨人が攻撃を仕掛けてくる相手を軽くはじき飛ばす描写も差し控えよう。むしろ、巨人が大馬鹿だったり、注意散漫だったりる様子を述べることで、攻撃者が容易く肉薄して、巨人の脚を刺すことができるようにするのだ。
まずはこちらの例を見て欲しい:
その反対の例はこうなる:
上記の例は両方とももっともなのだが、2つ目の例では、GMは戦法とフィクション上の形勢に重きを置くことで、簡単にこのコボルドの危険度を引き上げている。このGMはゲーム内のフィクションにおける恐るべき脅威としてコボルドを設定したわけだ。コボルドは単なる雑魚ではなく、狡猾さと能力を持ち合わせた敵となった。GMはこういうちょっとしたトリックを用いて、いつでも、必要なら戦闘を調整することができる。他のゲームをGMしているときに、自分のダイス目を誤魔化したことはないだろうか? 誰でも、たまにやっているはずだ。この手法は『ダンジョン・ワールド』で同じことをやるようなものだ。ダイスの出目をいじるのではなく、ゲームの世界を飾りたてることで、思い描いた敵の難易度に近づけるってだけだ。大切なのは、戦いの中心にゲーム内のフィクションを配して、すべてのムーヴがそこに依拠するようにしておくことだ。
著者の経験上、一番よいのはゲーム世界とシチュエーション(ゲームマスターの心得のひとつ「冒険で求められることを述べる」を思い出そう)を考慮して、どれぐらいの数の敵がそこにいるのかを思い描き、何が起こるのかを眺めてみることだ。実のところ、パーティーへの心配は無用だ。PCたちはGMの想像の埒外の手法をひねり出し、GMはその手法に応ずることを楽しむことになるのだから。グールのでかい一団をPCたちにぶつけよう。そして、どうするのかを眺めよう。巣穴のコボルドの総力でもってPCたちを攻撃しよう。パーティーはコボルドを脅して追い払う方法を見つけたり、逃げ出して心躍るチェイス・シーンを作ったりするだろう。GMはモンスターの能力値や特殊ムーヴといった制約を受けない。モンスターたちはGMの口にする行動に打って出るのだ。GMは「バランスのとれた遭遇戦」の何たるかを考えあぐねて途方に暮れたりはしない。モンスターのコントロール権を完全に握っており、実際、望み通りの難易度にすることができる。CRやxpプールを基準にするよりもずっと簡単であること請け合いだ!
脅威を明確化する
『ダンジョン・ワールド』の戦闘の全体像は、ここまで述べてきたような危険な状況を構成することにつきる。従って、GMにやれることのうちだと、脅威を明確化することの優先度が非常に高い。「悪漢が荒々しく打ちかかってくる」とPCに言うなら、GMはそれを裏打ちする必要がある。それに先立つ攻撃をそのように描写するのだろうか? あるいは迫り来る攻撃をそのように描写したのだろうか? フレーバーテキストにそう記載されているのだろうか? あるいは新たな危機をそのように言い表すのだろうか?
以前、私は戦闘中に次のようなミスをやらかしたことがある。ま、反面教師にしてくれ。私の卓のプレイヤーたちは雲の巨人たちのいる禁断のレルムを襲撃し、狂える巨人の王と戦っていた。この戦闘は壮大で、混沌としており、情勢は絶えず移ろい、番狂わせや危険極まりない大胆な行いであふれかえっていた。ある時点で、PCたちは隠れていた場所から出ることを余儀なくされた。私は「雲の巨人の護衛は、ついに姿を見せた君たちのそばの地面に拳を繰り返し叩き付け、部屋全体が揺れ動く。どうする?」と述べた。さて、私はこれが危機的な状況であり、巨人がPCたちを虫のように潰そうとしているものとして思い描いていた。なので、クレリックが「大急ぎで出ていって、瀕死のウィザードに〈ヒール〉する」と言ったとき、これは身を挺してかばっているのだと解釈した。「巨人の攻撃をかわさないんだね?」と私は怪訝な様子でたずねた。「横殴りの一撃を受けるので、8ダメージ」
けれども結局は、私が明確化できていなかったとがわかった。プレイヤーたちは、叩き付けられる拳を、直接攻撃だとは考えていなかったのだ。つまり、巨人がPCたちを追い詰めているだけで、叩き潰してミンチにしようと試みているとは思わなかったってこと。ま、私の脅威の配置がヘボかったんだよね。私は「巨人は床を繰り返し殴りつけて、君たち全員を潰そうとしてくる。レンジャー、こういった拳の一撃が、君に向かってくる。拳は馬ぐらいの大きさだ。どうする?」みたいに伝えるべきだったのだ。
プレイヤー・キャラクターの直面している危機と、それがどのような危険であるかを、明確化しよう。曖昧なまま、疑念を差し挟む余地を残さないように。PCが防いだり阻んだりする行動を取らなければ、何が起きるのかをしっかり理解させよう。プレイヤーが何に対処するつもりなのか説明しないのであれば、GMはダメージを宣言することすらできないのだから。
複数の敵を処理する方法は?
複数のPCが巨大な敵1体に集団で攻撃する、もしくは1体のPCが大勢の敵に包囲されてしまうことは、よく起こる。『ダンジョン・ワールド』はこれを、他のゲームよりも上手く処理している。メカニズムではなくフィクションに重きを置いているからだ。PCをゴブリンどもで包囲したところであっさり壊滅することはないし、反対にPCたちがオーガを1ターンの側面攻撃で落とす必要もない。
とりあえず、PCが複数の敵から一度にダメージを受けた場合、GMは敵の中の最大のダメージ・ダイスを手に取って、敵の数と同じ回数振る。ゴブリン(d6ダメージ)2体と、ノール(d8ダメージ)1体が、全員で不運なPCをめった刺しにするなら、3d8をダイス・ロールして、一番高い出目を採用するってこと(ここに攻撃してきた敵の「総数-1」を加えたものが合計ダメージになる)。これは敵1体のみの攻撃が命中したということではない。PCを一撃のもとに葬り去ることはないものの、確実に高いダメージを与えるいい手だ。
いつもと同じで大切なのは、ゲーム内のフィクションで敵に包囲されているという困難な状況に焦点を当てることだ。おそらくPCが実際戦闘状態に持ち込めるのは、集団のうちの敵1体ということになるだろう。敵方の攻撃を余さず描写して、PCがその状況にどう対処するかをたずねよう。その対応は、PCがどの敵を最重視して、どういったダイス・ロールを求めていけばいいのかを、GMに教えてくれる。敵1体に対して《ハックアンドスラッシュ》をして、その他の敵に対し《危機打開》ということになるかもしれない。集団全体に対する《危機打開》もあり得る。あるいは、ゴブリン1体に《ハックアンドスラッシュ》できるものの、その他の敵にはダメージを与える簡易処理ということもあるだろう。
では、次の例を見ていこう:
さて、複数のPCが敵1体を集団で攻撃するなら、GMは「この敵は全員からの攻撃をどの程度うまくさばけるのか?」を決めることになる。小型または訓練不足の相手なら、PCのひとりが《ハックアンドスラッシュ》を用いて、残りのPCはそのままダメージを与える公算が高い。なぜなら、このモンスターは全員からの攻撃をしのげないからだ。とはいえ、そういった露骨な言い回しは避け、「さあどうぞダメージを与えて」よりは興味をかきたてるように伝えること。敵はレンジャーとの戦いに完全に気をとられていると述べたり、PCが活用できる好機を描写したり、腰の引けてしまったクリーチャーがもがきながらPCたちを押しのけて逃げようとする様子を語ったりするわけだ。
敵が、複数のPCに立ち向かえるぐらい大型か、十分な技量を備えているとGMが考えたなら、そのことを物語ろう。「オーガは君の攻撃で5点のダメージを受けたが、拳を叩き付けることでそちらに4ダメージを与えてくる。君は転びそうになる。君がバランスを取り戻している間に、オーガは急に振り向くと、後ろにいたシーフめがけて一撃を加えてくる。シーフ、君はどうする?」みたいに。決められたアクション回数や、しっかりとしたターン構造による制限をGMは受けていないことを忘れずに。敵が十分に素早かったり、巨大だったり、腕利きだったりするなら、戦闘におけるそれぞれ行動を語るだけで、複数の相手にしっかりと対処して、さらに脅威をもたらすことができる。カンフー映画を想像して欲しい。ブルース・リーに1ターンあたりの攻撃回数なんてあるだろうか? また、彼なら複数の相手にも対処できるんじゃなかろうか? 同じようにやればいい。
側面攻撃にルール的な利点はないものの、ゲーム内のフィクションの領域だと側面攻撃は必ず恩恵があるはずだ。たとえ、その敵が2体を同時に相手取ることができるとGMが考えていたとしても、やはり不利な状況に置かれるのは確かなので、PCたちにはチャンスがもたらされるというわけだ。側面攻撃しているキャラクターは、攻撃に応じた《危機打開》が不要かもしれない。あるいは、《危機打開》をする必要はあるものの、喰らうダメージ少なくて済むなど、出目が悪いときの損失が軽減されるかもしれない。
さらなるアイデアと着想元
これで、基本的な戦闘の流れを飲み込めたはず。ここからは、このゲームをGMしているうちに私が身につけたコツをあげていこう。『ダンジョン・ワールド』の戦闘は、大多数の他RPGのような戦術的なターン・ベースの戦闘とは、全く異なる。だからこそ、刻々と移り変わる危険いっぱいの戦いの場で、テンポの速い戦いが繰り広げられる。この利点を活かしつつ、フィクションの中でPCたちに奮闘してもらおう。『ダンジョン・ワールド』の実に楽しい戦闘を運用する中で、身につけた秘訣もいくつかある。君もこういった「戦略」を戦闘に組み込んで、戦いを興味深く変化に富んだものにしたくなるはずだ。
ムーヴは難しい選択を指向する
「〜・ワールド」のゲーム群(訳注:『Apocalypse World』に端を発する同じルール・ベースのシステム)は、難しい選択を中心に構築されているため、それを戦闘にも取り入れよう。「防御か攻撃か?」といったいずれも代償を伴う対になる選択肢を、絶えずPCに突きつけてみよう。この敵と交戦する場合、異なる形の敵にもさらされることになるわけだ。2つの物事が同時に脅かされる状況を組み立てて、プレイヤーに選択させよう。両方をひどいものにする必要は、必ずしもない。同じぐらい値打ちあるもの2つを並べ、1つを選ばせるのもありだ。「君は、船長かウォーロックのどちらかに、見事命中させることができる。どちらに狙いをつけていたの?」「堕落した神の像を、カルティストよりも先につかみ取るだけの猶予がある。あるいは、神像めがけて走っているカルティストに射かけてもいい。どうする?」みたいに。
ダメージを与える以上のことをする
もちろん、プレイヤーが《ハックアンドスラッシュ》でミスしたときは、ダメージを課すことができる。でも、他にもできることがある。ルールには「モンスターはダメージを与える」ではなく、「モンスターは攻撃を行う」とある。ダメージを与えることは、多くの選択肢のうちのひとつに過ぎない。GMのムーヴ一覧に目をやり、ひとつ選ぼう。PCを殴り倒し、PCの武器を奪い、味方を脅威にさらし、PCを困難な状況においやり、PCの防具を損傷させ、掴みかかり、包囲しよう。映画的な戦闘がルールのもとで活気づくからこそ、『ダンジョン・ワールド』は最高なんだ。大いにはしゃごう。
「手番終了」 なんてあり得ない
前に書いたけど、いいことだからもう一度強調しておこう。素早く卓を見回し、PCたちに何をしているのかたずねつつ、そのやりとりをラウンドやターンで分割しないよう心がけよう。もしも、発生したことが別のPCを危機に陥れるなら、そのプレイヤーの方を向いて、対処させよう。会話を少し行き来させることで、プレイヤーたちにも割り込みが許容されていることを示していこう。
次の例は、私のゲーム卓からそのまま持ってきている:
お分かりいただけただろうか? 「ふむ、クレリック、ミスを出したね。では負傷タイムだ」と言えばそれで事足りた。でもそうせずに、近くにいたファイターの方を向き、対処する機会を与えたんだ(彼の「ターン」ではなかったけれども)。難しい選択を強調するために、他のコボルドがウィザードに攻撃を仕掛けようとしていることも述べて、仲間がふたりとも危険にさらされていることを示した。もちろん、ファイターがクレリックを《援助》すべく急行したあとで、ウィザードには敵に対応する機会を与えたわけだが、このような選択を迫ることで緊張感を高め、ファイターにプレッシャーをかけたというわけだ。プレイヤーたちは大喜びだった。
イニシアチブ順にターンを得てNPCを行動させるセッション進行に、慣れているGMもいるかもしれない。『ダンジョン・ワールド』でこのやり方はうまく機能しないので、無理強いはやめておこう。それよりはむしろ、モンスターが思いのままに攻撃することでプレイヤーからアクションを引き出してくれる、この混沌とした状況を大いに楽しもう。
アクションのズームイン、ズームアウト
ここまで挙げてきたメカニズムの見事な点は、ささいなアクションにも、大規模なアクションにも適用できることだ。『Apocalypse World』はこれをよりいっそう掘り下げているわけだが、本作にも当てはまる。時には「この剣の一撃を回避して、反撃に移れる?」のような、ほんの一瞬のアクションのために《危機打開》を振ることもあるだろう。また、「灼熱の大穴にかかった狭い橋を走り抜けつつ、矢の雨を回避する」みたいな、より大掛かりで連続するアクションを描くために、ダイスを振ることもあるだろう。ダイス・ロール1回で、ちょっとしたアクションでも大きなまとまりのアクションでも解決できちゃうんだ。GMの判断次第なので、織り交ぜるのが吉だろう。アクション映画の監督気分でいこう。戦闘地帯の一箇所にしばし脚光を浴びせ、緊迫した状況の決着を付けないまま、別の場所にカメラを向けよう。あるダイス・ロールでは危険度を高め、それから元に戻すのもいい。
7-9の結果を重視する
7-9の結果は基本的にPCの成功だが、その成功は値札付きだ。つまらない「5ダメージ」よりも心躍る対価を払わせてやろう。7-9の場合、6以下と同じようにGMはムーヴを存分に行える。ハード・ムーヴではなく、ソフト・ムーヴとなるものの、それでも多くのことが可能だ。ソフト・ムーヴは、将来的な大ごとへの仕込みだというだけのこと。だから、フィクションを強化するような面白い状況を組み立ててみよう。「君は確かに彼に切りつけたが、彼は相次ぐ斬撃で仕返ししてくる。4ダメージを受けて。彼は激しく攻め立て、君は後退し始める…」程度で十分。こうすることで、情勢が組み立てられ、緊迫の度合いが増すのだから。実際には、すべてはキャラクターに対価を支払わせることに帰結する。7-9が出たら、犠牲を払う気分を味あわせればいい。
複数の敵を一個の群れとして運用
私の知る限り、そうするようルールに書かれてはないのだが、非常に効果的に使えている。たくさんの敵でPCを危機にさらしたいなら、その集団に多量のHPプールを与え、そのHPが尽きたなら撃退されることにすればよい。フィクションにおいては、バラバラに攻撃してくる敵を個別の存在として扱い、各々HP少量のザコ敵のようにやっつけさせよう。つまり、ファイターが巨大な剣を叩き付け8ダメージを与えたなら、3~4体の敵が切り捨てられることになる。HPプールからは8点を差し引くだけ。この3~4体の損失はグループの士気をくじくというわけだ。言うまでもなく、PCはそれぞれ、攻撃してくる小さな集まりと戦うことになり、通常通りにダメージを受けるだろう(攻撃者1体につきダメージダイスを1個振り、最も高い出目を採用)。群れのHPプールが尽きたなら、撤退・逃亡・降参するほどの犠牲を被ったことになる。PCたちを数十体のモンスターに立ち向かわせ、2~3体ずつ削ることで、なんとか群れを食い止めるという、映画的な戦闘をやってのけることができるってことだ。
GMのムーヴを思い出す
言うまでもないことかもしれないが、これも取り上げておく価値があるだろう。GMのムーヴは戦闘が始まったからといって途切れたりはしない。むしろ戦闘の方がより適しているムーヴもある。「一行を離散させる」のようなムーヴは、敵方の配置と地形によって起きるようにしよう。「装備品の否定的側面を示す」はぴったりだ。ファイターが[長物]付きのウォーハンマーを使っていたなら、小型のクリーチャーの群がらせることで、しばしその武器を無用の長物にできる。そしてこれらのムーヴは、将来的な厳しい選択の下準備に過ぎない。
GMのムーヴの中には、当てはめにくいように思えるものもあるだろう。だが、じっくり吟味すれば、どれも解釈の幅が広いことに気づくことになる。「歓迎されざる真実を明らかにする」どうするのかだって? ここで言う真実には、キャラクターが知りたくない事柄なら、文字通り何でも当てはめることができる。「彼はローブの下にミスリル鎧を着込んでいるようだ」「トロールは再生能力があるみたいで、君の攻撃を受けてもほぼ無傷だ」「さらに何人もの護衛兵が近づいてくる音が聞こえるよ」などだ。それに続けて、いつものように「どうする?」と付け加えよう。
このシステムがうまく機能する理由
『ダンジョン・ワールド』の戦闘がうまく行くのは、論理的でこまごまとしたターンに分割して、全員が移動のあとに攻撃を行うといったことはせずに、映画のような移動とアクションあふれる戦いにしているからだ。攻撃が真に迫った成り行きを生めば、リアルに感じてもらうことができる。敵の脚に切りつけたなら、相手はおそらく転倒するだろう。剣士の武器を持つ手を使えなくすれば、戦いには勝ったも同然だろうけど、そうするために専用の特技や遭遇毎パワーはいらない。プレイヤーがやろうと思えばできることなのだ。各プレイヤーのムーヴとGMのムーヴはすべて、雪だるま式にアクションが膨れあがっていくようにデザインされている。状況をどんどん押し進めることで、戦闘を、ハチャメチャで混沌とした、やり甲斐のある試練にしてしまおう。
ロールプレイング・ゲームが初めてというプレイヤーたちを相手に、私は何度もGMしてきたが、戦闘が始まるといつも同じことが起きた。私が「ゴブリンがソードで攻撃してくるよ」みたいなことを言って、ダイスを振ろうとしたところで、RPG初体験のプレイヤーが「回避できる?」と聞いてくるわけだ。d20系のシステムを遊んでいた頃は、無理だと答えざる得なかった。そして抽象的なアーマー・クラス、セーヴィングロールという考え方について説明する必要があった。我々は何年も遊んできているからこそ、その手のルールがあたり前になっているってだけだ。けれども『ダンジョン・ワールド』では、新規プレイヤーが「回避できる?」と口にすれば、GMは「もちろん、ダイス・ロールしてDEXを加えてね」とニコニコしながら返答できる。
これこそシステムがうまく機能する理由だ。だって、いつでも「イエス」と答えることができるのだから。
他に知っておく必要のあることは?
よし、これで『ダンジョン・ワールド』初心者にとって、乗り越えるのが難しい難問についてはおおむねカバーできた。プレイヤー/GMのムーヴ構造についてすっかり見通せるようになって、喜び勇んでGMしてくれるととても嬉しい。
次の数セクションは、ゲーム運用の助けとなることを扱っていく。ルールブックには、『ダンジョン・ワールド』でGMするにことについての、本当に素晴らしいアドバイスが載っているから、ちゃんと通読しよう! とはいうものの、この本書ではここから、私が目にした、新規GMがつまずく事柄を、すなわち「カスタム・ムーヴの執筆と、まとまりのあるフロントの構築」扱っていく。さらに、SAフォーラムのユーザーEmongによる素晴らしいコンペンディウム・クラスも収録されている。キャンペーンに採用したり、アイデアの着想元に使ったり、プレイヤーがコンペンディウム・クラスの自作を希望するときに活用してくれ。
本書の最後には、満を持して長いプレイの実例が掲載されている。注釈も満載なので、このアドバイスを実際のゲームの卓で活用する方法を思いつかせてくれるだろう。