『ダンジョン・ワールド』のプレイスタイル

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『ダンジョン・ワールド』は、参加者の会話がゲームの中核をなすTRPGです。
そんなのあたり前じゃないか、とお叱りを受けそうですが、この会話とゲームのルールとの関係が少し独特なのです。今回は抄訳を交えつつ、そのあたりの話を少しさせてください。

*イラストは『ダンジョン・ワールド』日本語版の表紙絵を描いてくださった鹿間そよ子さんによる下書きです。引き続き、クラスのイラストも依頼しておりますので、個人的にも仕上がりが楽しみです。

1.ゲームのプレイ

一般的なTRPGにおいて、ルールとは、成り行きを決めるためにGMの指示で(あるいは戦闘処理のようにルールブックの記述に従うことで)適用されることがほとんどだと思います。それに対して、『ダンジョン・ワールド』の第2章「ゲームをプレイする」冒頭では次のように書かれています。

ダンジョン・ワールドをプレイするのは、会話することを指します。誰かが何かを口にして、あなたがそれに応じたところで、おそらく他の誰かが割って入るといった会話です。私たちが話すのは、卓で共有される物語、すなわちキャラクターたちとその周辺で起こる出来事をひっくるめた世界についてです。プレイを進めるにつれ、ここにルールも割り込んできます。ルールは、世界に関する何らかの主張を持っています。ダンジョン・ワールドにターンやラウンドはありませんし、話の順番を指定するルールもありません。プレイヤーたちは自然な会話の流れに従い代わる代わる話すことになります。会話の常で、それはある程度とっちらかったものとなります。GMが何かを述べたら、プレイヤーが応答します。プレイヤーは質問したり発言して、GMは次に何が起こるのか言います。ダンジョン・ワールドをひとり芝居にしてはいけません。ダンジョン・ワールドはいつだって会話なのです。

ルールは、プレイにおける会話の方向づけを手伝ってくれます。GMとプレイヤーが話しているところで、ルールと卓の物語も話を交わしているのです。あらゆるルールには、明確な物語上のトリガーが備わっており、それにより会話に介入しなければならないときがわかるようになっています。

一般的な会話と同じく、耳を傾けている時間は、話をしている時間と同じぐらい重要です。卓についている他参加者(GMと他のプレイヤー)によって定められたディテールは、あなたにとっても大切だからです。そのディテールにより、どんなムーヴを行えるか、いかなる機会がもたらされるか、相対すべきどのような困難が生み出されるのかが、変わってくるかもしれないからです。この会話は、全員が耳を傾け、質問して、互いの発案にのっかってことを進めるとき、最も効果を発揮します。

つまり、ルールは卓上の会話にて、決められた行動や状況が発生した時にのみもちこまれる、ということです。もちろん、目の前で起きている状況が、ルールの引き金になるとGMが指摘することはあるかもしれません。また、プレイヤーがルールの適用を意識しながら行動を考えることもあるでしょう。それはそれで全く問題ありません。重要なのは、卓で共有されている物語と会話がゲームの根幹をなしているということなのですから。

『ダンジョン・ワールド』における基本的なルールのまとまりは、ムーヴと呼称されます。プレイヤーサイドのそれは、「トリガーとなる行動や状況」「その際に実行するルール処理」「結果から卓の会話に投げ返されるシチュエーション」を内包したものです。
例えば、近接戦においてよく使われる基本ムーヴ《ハックアンドスラッシュ》は次のような記述となっています(ダイス・ロールは、2D6に能力修正値[-1~+3の値をとる]を加えることを指します)。

近接戦闘で敵 1 体を攻撃するなら、ダイス・ロー ル +STR。*10+ なら、ダメージを与え、反撃をよける。反撃に身をさらす代わりに、ダメージに +1d6 することを選択してもよい。* 7-9 なら、 ダメージを与えるも、反撃されてしまう。

このムーヴのトリガーは、太字になっている「近接戦闘で敵1体を攻撃する」部分です。この状況にならなければ、ルールは適用されません。例えば「反撃する意志のない相手に攻撃する」とか「大暴れして大地を揺り動かす巨獣が相手で、まともな近接戦闘が行えない」といった状況なら、卓で展開している物語に沿って、何が起きるのかをGM(時にはプレイヤー)が判断します。

前者は「ダイスを振ることなくダメージが発生する」と判断するかもしれませんし、対象が知的生物なら「相手は君の足にすがりついて命乞いしてくるけど、どうする?」とPCの意志を確認するかもしれません。後者の場合はそもそも近接戦に入れないので、「巨獣の足を止めて一撃を加える方法」を模索するか、遠隔武器など他の手段で攻撃する(別のムーヴが使われる)ことになるでしょう。

なお、ここに記述されている「反撃」は、単にダメージを食らうことを意味しません。状況と相手から起こりうる、様々な攻撃に身をさらすことを意味します。例えばトロールと吊り橋で激戦を繰り広げているなら、太い腕に持ち上げられて、奈落に叩き落とされそうになるかもしれません。あるいは粘液状の怪物が鼻と口に入り込んで窒息させてくるのかもしれないし、ゴブリン魔術師が酸を放って目潰ししてくる可能性もあります。
GMは、それまでに卓で共有されてきた物語、プレイヤーの取ろうとしたアクション、目の前の材料を目一杯活用して、いかなる「反撃」であるかを語り、次の状況を作り出すことになります。

ダイス・ロールの合計が6以下だった場合は、何が起きるかをGMが自由に決定することになる(たいていは状況が悪化する)のですが、詳細はムーヴの説明やGM手法についての話に譲ります。

卓で語られる物語がルールを引き起こし、その結果は卓の物語に返ってきて、新たなシチュエーションを生みます。それが次なるPCのアクションを呼び……そうやってセッションを進めていくことで、アクションが思いもよらない方向に進んだり、プレイヤーのアイデアから意外な解決策が生まれたりします。それこそがダンジョン・ワールドを遊ぶ醍醐味のひとつなのです。

2.プレイヤーの心得

では、このような共有される物語に重きが置かれるRPGにおいて、プレイヤーはどういう気持ちでのぞめばよいのでしょう? 第1章にはこのように、単純明快な指針が示されています。

なぜ?
 どうしてダンジョン・ワールドを遊ぶのでしょうか?
 第一に、登場人物が心躍る何ごとかをなすのを見るためです。未踏の地を探検し、不死なるものを殺し、世界の底の底から天空の頂の果てに至るまで旅するのを目にするためです。この世を揺るがす事件や大いなる悲劇に巻き込まれるのを目撃するためです。
 第二に、共に奮闘するのを見るためです。互いの違いを乗り越えて団結し、共通の敵に立ち向かったり、宝物をめぐって言い争ったり、戦闘計画を相談したり、苦労の末勝ち取った勝利の祝宴に参加したりするのに居合わせるためです。
 第三に、世界には探検する場所がまだまだ多いからです。盗掘されていない墳墓や竜の宝物庫が僻地に点在し、指先巧みで武勇に優れた冒険者たちに発見されるのを待っています。そうした未踏の世界には独自のしくみがあります。それが何なのか、そして登場人物の生き様をどのように変えていくのかを見るために、ダンジョン・ワールドを遊ぶのです。

そんな物語をみんなで目指し、わいわい会話しながら、心躍る冒険譚をつくっていく。そんな気楽な心構えで遊びましょう。
このゲームの目的は、正しい道のりとか、最適解を見つけるところにありません。そんなのはもっと正統派のRPGに任せればよいのです。GMも含めた参加者全員で楽しく語らい、ルール介入させ状況を転がしていけば、いずれは予想もしなかった物語が目の前に広がることでしょう。

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