作家としての方向性を定めたときの話。
前回の続き。
精神的にずたぼろだった大学院卒業後の私は、その半年後に企画展を開いてくれたとあるギャラリーのオーナーの言葉に救われる。
「あなたの作品は彫刻的でおもしろいなぁ」
彫刻的?
自分の作品が彫刻だなんて思ってみたこともなかった。
それに当時はバッグや帽子など身に着けるものしか作っていなかったから尚更である。
確かに私の作品は立体的である。
フェルトの作品といえば表面は割と平たんでペタンとしたものを見かけることが多かったかもしれない。
私は、フェルトについてあまり知識のないうちに独学で開拓してしまったので一般的なフェルト作品というものを意識していなかった。
フェルトに対して先入観も固定観念も持ち合わせていなかった。
フェルトの作り方を模索しているうちに3Dの方向へ凹凸が作れないか、360度好きな方向へ突起が作れないかという事に心血を注いできたところがある。
だから私の作品はぽこぽこしていたり、とげとげしていたり、つんつんしたりしている。
普通のトートバッグやクロシェを作るよりも何倍も体力、時間、根気がかかる作業である。
でも冒頭のギャラリストの言葉で自分の作品に少し自信が持てたし、方向性が定まった。
それからはひたすら作って、ひたすら展示しての繰り返し。
でも作家としては一番充実していたときかもしれない。
その恩人である方は少し前に天国へ行ってしまった。
私は数年前から白い彫刻をドローイングのように作っているのだが、そんな作品、どうなんだろうかと自信を持てず、おずおずとsnsに上げたらすぐに反応してくれて
「面白い!たくさん作ったら個展しよう!」
と言ってくれた。私はまた、その言葉に後押しされて作り続けた所、海外からとても良い反応がたくさんあり、世界中に励ましてくれる人ができた。その方のギャラリーで展示をすることは叶わなくなってしまったが、いつかどこかで白い羊毛彫刻の展示をしたい。
きっと天国から応援してくれているといつも勝手に思っている。
続く。
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