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いわゆる論証パターン(論パ)について

法学セミナーの最新号(2024年12月号)では、「刑法研究者が作った論証パターン」という特集が組まれています。非常の興味深い特集であり、考えさせられることもありましたので、この特集の内容に触れながら、いわゆる論証パターンについて、思うところを書いてみたいと思います。

論証パターンは必要か

私が受験生のときは、予備校が出している論証パターンの本は持っておらず、使っていませんでした。理由はいろいろありますが、そもそも論証パターンが判例・学説の到達点として十分なものか、信用できるものか怪しいこと、取り上げられているものが本当に今も論点として論じるべきものか微妙に感じるものがあったこと、パターンとしてひたすら暗記するのがつまらないと思ったこと、などでしょうか。
しかし、論証パターンの準備そのものの必要性については、まったく否定しません。むしろ、主要な論点について、試験時間が限られている中、無駄のない規範を定立するための準備として、論証パターンを用意し覚えておくことは、試験対策として有益であると思います。冒頭の法学セミナーの特集では、企画趣旨の中で、東大の樋口亮介教授が次のように述べられています。
「法律学習にあたって、判例学説を理解した上で、その内容をコンパクトにまとめることは必須である。事例問題で出題される論点が多岐にわたる以上、判例学説を短い説明に落とし込んだ論パの準備は不可欠であろう。」
その一方で、「研究者からみれば、判例学説の十分な理解を示すだけの論パを予備校が提供できていない論点はある。」とも述べられています。この点は、私が受験生のときに予備校が出している論証パターンに対して抱いていたものと同じ印象です。

論証パターン作成の難しさ

法学セミナーの特集では、樋口教授の企画趣旨の下、数名の大学教授が刑法の主要な論点について、論証パターンを示していきます。その中では、とりわけ刑法総論について、条文自体が簡素であり、判例において十分な規範や理由が示されていないものが多く、学説と実務の最大公約数としての論証パターンを示すことの難しさがにじみ出ています。
司法試験が法律実務家になるためのものである以上、独りよがりの独自の見解に基づいて規範を定立するわけにはいきません。基本的には判例・通説をベースにするわけですが、その判例・通説の内容を端的な文書にまとめるというのは、かなり難しいです。判例自体が事例判断にとどまっているものも多く、判例の積み重ねを理論的にどう説明するか、法律実務家が使いやすいように・理解しやすいようにどう整理するかは、論者によって多少の差があるといえます。実務で通用するような「判例・通説」を特定のものとして明らかにすることは、容易ではありません。そんな存在である論証パターンを、予備校の出しているよくわからない本に頼って準備するのか、それで大丈夫なのか。不安ですねぇ・・・。

論証パターンを作るために

基本書をしっかり読んで、法的論点についての問題の所在、学説の対立点、判例の立場、通説の理解をまずは押さえます。そして、判例集や判例解説、演習書等を通じて、更に個別論点の理解を深めていきます。そうすると、ある論点が試験で問題になったときに、自分が採用する学説や判例の見解を、自分なりの理解に基づいて要約することができるようになります。論証パターンを作るというのは、試験で実際に使うことを想定して、ある論点について自分なりの理解に基づいた要約をしてまとめるということだと思います。
大事なことは、中途半端な理解では、学説や判例が述べていることの表層的な暗記にとどまってしまうということです。理解できているからこそ、柔軟に、自分の言葉で要約し、正確に表現することができます。上述の法学セミナー特集でも、「論パを単なる丸暗記の対象ではなく、理解した上で暗記する学習を支援できるものにしたいと考えました。そのような論パは、実務に出てからも有用と期待しています。」と述べられており、要約したものを覚えて瞬時に出せるようにしておくとともに、それをきちんと理解できていることが重要なのだろうと思います。

論証の実際

試験問題を解く際には、自らの論証を書く前段階として、どの条文のどの論点が問題になるのかに気づくことが重要です。また、問題に現れている事実のうち、どの事実が法的に意味のあるものか、結論を導くために重要な事実は何か、その事実は法的にどう評価できるのかという点も見逃せません。答案構成の段階では、まず法的に問題となる論点が何かを抽出し、その論点に対する自身の見解を下に、どの事実が重要かを押さえ、結論を定めます。そして、答案を起案する段階では、まず、問題の所在を明らかにした上で、論証パターンを踏まえた規範の定立を行います。
そこでの論証は、結論を導くために必要な限度で行えば足り、結論を左右すると思われる事実(当てはめる事実)を意識しながら表現します。その意味で、試験問題における規範定立は、その問題ごとに異なってくるものではないかと思います。試験問題における論点の現れ方やそこで出てきている事実の経過を無視した、必要のない論証、無駄の多い論証、聞かれていないものをだらだら書いている論証は、必要ありません。採点していて高得点となる答案は、概ね論証の理由付けや表現が非常に端的な傾向がありました。
なお、論証を表現するに際して、多少、表現が判例の叙述と違っていることなどは、大した減点対象になりません。採点する方として、当該論点について問題なく理解できていることがわかればよいのです。

おわりに

法学セミナーの特集では、「当てはめを規律できるだけの規範とその理由を過不足なく書き込んだ論パを作るのは想像をはるかに超える難題でした。」と述べられています。刑法研究者が、法学雑誌上で公式に論パを披露する以上、それなりに責任を伴うともいえますし、この観点からは間違いなく難題でしょう。特集でも述べられているところですが、学説や判例の最大公約数をうまく整理するというのは、まさに理論と実務の架橋の一側面なのであり、論証パターンを作るということは、そのような営みに密接に関連しているということです。非常に興味深いですね。
論証とは、結局のところ、ある法的論点に対する自己の見解とその理由付けを、試験の中の問題設定状況と現れている事実(当てはめることになる事実)に合わせて、自分の理解に基づき、自分の言葉で要約して表現したものということになりそうです。そのような論証をあらかじめ用意したものとしての論証パターンを作るのであれば、徹底した基礎固め、地道な判例の読み込み、演習の積み重ねが必要になってきます。

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