見出し画像

若手裁判官の1日(月曜)

若手裁判官の1日の様子を、月曜から金曜まで紹介してみます。今回は週明けの憂鬱な月曜です。受験生の方には、ちょっとした息抜きとして読んでもらえれば幸いです。
判事補に任官し、初任地の地方裁判所本庁の民事部に配属された左陪席裁判官を想定しています。左陪席の主な仕事は、合議事件の主任裁判官として、期日の進行を検討したり、判決を起案したりすることになります。合議事件の開廷日はとりあえず木曜としておきます(部によって異なります。)。

午前

  • 9時15分登庁。パソコンを開いてメールチェック。

  • 今週木曜の合議事件で提出された準備書面の写しを軽く読む。

  • 部に配点された新件の記録に速やかに目を通す。

  • 先週金曜に期日のあった合議事件の調書を決裁して部長に回す。

登庁時間

裁判官の多くは、だいたい9時頃から登庁し始め、10時までには裁判所に来るというイメージです。裁判官には勤務時間の概念がないので、期日が入っていなければ何時に来たって構わないのですが、一般職(同じ部の事務官や書記官。勤務時間は8:30~17:00です。)の手前、10時までには登庁するのが暗黙のルールです。昔は宅調といって、自宅に記録を持ち帰って家で仕事をするという裁判官もおられたそうですが、今はほとんどいません。

準備書面等の提出期限

合議事件では、期日の1週間前が準備書面等の提出期限となっていることが多いです。合議事件の場合、開廷日が木曜であれば、遅くとも月曜には書面が提出されていないと、裁判長、右陪席との合議の俎上にのらないので、合議体に正面から受け止めてもらえません。部によりますが、合議事件で提出された準備書面は、書記官が写しをとって左陪席に渡していることが多いです。
準備書面の提出期限を守ることは、代理人にとってとても重要です。特に合議事件では、期日の直前に出しても読むのは左陪席だけかもしれませんし、評議に上がらないので、代理人が伝えたいことが合議体に伝わりません。知らず知らずのうち敗訴の方向に進むことになります。

新件の訴状審査

裁判所には、毎日新たな民事事件が民事訟廷という部門で受け付けられ、機械的に各部に配点されます(特定の事件を集中的に扱う集中部というものもあり、例えば、行政事件や医療事件は、大きな裁判所だと集中部が存在して、その部にすべて配点されることになります。)。配点された部では、裁判長による訴状審査(民訴法第137条)がなされますが、その前の段階で、係書記官のチェックのほか、左陪席が一通り目を通すのが通常です。左陪席は、当該事件が合議相当か否かを判断します。典型的には、医療事件や建築事件、国賠事件、当事者多数の複雑な事件、名誉毀損事件等が合議相当ですが、刑事と異なり、法定合議事件はありません。また、訴状段階では単独相当でも、いずれ合議相当の事件に発展する可能性もあることから、合議事件の主任裁判官として、部に係属する事件は一度すべて見ておく方が良いという考慮の下、このような実務の運用になっているのでしょう。左陪席のみならず、右陪席と裁判長にも、新件をすべて見てもらうという部もあります。部全体で、どういう事件が係属しているのかを把握し、チーム体制で事件に臨むことができます。

期日の調書

口頭弁論期日や弁論準備期日の調書は、書記官が作成し(民訴法第160条第1項)、裁判長が認印します(民訴規則第66条第2項、第88条第4項)。合議事件の場合は、主任書記官が合議事件を担当していることが多いので、主任書記官が調書を作成し、裁判長が認印することになりますが、左陪席は、合議事件の主任裁判官として、裁判長が認印してよいかどうかを確認します。口頭弁論の方式に関する規定の遵守は、調書によって証明することができる(民訴法第160条第3項)とされており、準備書面の陳述等、当事者や裁判所の重要な訴訟行為が記載されるほか、期日でのやり取りのうち重要なもの(例えば、争点整理の結果)や、次回期日までの当事者の宿題を記載することが多く、重要なものです。左陪席は、期日のやり取りをきちんとメモに残し、それを踏まえて慎重に調書の決裁を行います(書記官によっては誤字脱字が見られるので、要注意です)。

午後

  • 今週の合議事件の記録読み、合議メモの作成。

  • 来週の簡裁判事勉強会について、当日のロジや配布資料等について担当部長と相談。

  • 合議事件で提出された書面について、部長と打合せ。

  • 夕方以降、合議メモの仕上げ、途中になっている判決起案を進める。隣の部の左陪席と途中雑談。22時30分に退庁。

合議メモの作成

合議事件の主任裁判官は、評議の資料として合議メモを作成します。これは、事件ごとに、期日当日の流れ(提出された準備書面や書証、当事者に確認する内容)や、暫定的な心証、検討すべき論点、必要に応じて重要な書証の写し、文献の写し等を一式にまとめたものです。合議事件の評議は、期日の前々日や前日、当日の朝に行われることが多く、部によって違います。左陪席は、毎週、評議の前の決められた期限までに合議メモを作成し、右陪席と部長、主任書記官に渡します。合議メモは、合議体における充実した評議の前提となるもので、個々の裁判官や部ごとに創意工夫をこらしています。

雑務

大きな裁判所になると、委員会や勉強会が多数存在し、左陪席裁判官は、その事務局としてロジや連絡、調整を担当します。裁判所にもよりますが、それなりの業務負担になることも多いです。
民事事件の場合、簡易裁判所の判決に対する控訴審は地方裁判所になります。したがって、地方裁判所の民事部では、簡易裁判所からの控訴事件も審理しますが、これは法定合議事件ですので、左陪席が主任として事件を担当します。簡易裁判所の裁判官とは、控訴審としての地方裁判所から見た簡易裁判所の判決の内容や審理の進め方等について、意見交換を行う場を設けているところがあります。

評議のタイミング

合議体の評議は、日時を決めて実施しているもののほか、適宜のタイミングでも行っています。当事者から提出された書面の内容や、急ぎ合議体の判断を要するものについては、その都度評議をしています。右陪席は、通常、単独事件で忙しいので、簡単なものは部長と左陪席の2人で相談して検討することも多いです。

判決の起案等

隙間の時間で、判決の起案を進めていきます。平日だけではたいてい時間が足りないので、土日に集中的に起案することも多いです。合議事件の場合、部長のほか、右陪席にも記録を検討してもらう時間が必要なので、スケジュール管理がとても大切です。
自分の担当している事件で悩みがあれば、同期や先輩の左陪席に雑談がてら相談することもあります。左陪席に限らず、裁判官は、同じ部の裁判官だけでなく、他の部の裁判官と事件についてよく相談します。右陪席や部長クラスになると、その経歴もさまざまで、例えば、交通集中部に在籍したことのある裁判官であれば交通事件にとても詳しいなど、分野ごとのスペシャリストに相談にいくということがあります。専門的な事件でなくても、感覚としてどうかくらいの相談もよくあります。裁判官は、最後は自分で判断できるのであり、それが魅力ですが、検察官のように決裁を経るわけではないことから、自分の判断が正しいか不安になります。しかし、孤独なわけでもないという点が重要です。周りの裁判官に相談することで、正しい衡平な判断ができるように努めています。

おわりに

いかがだったでしょうか。次回は、合議事件の評議が行われる火曜の様子を投稿します。いつ投稿するかは未定ですのであしからず。

いいなと思ったら応援しよう!