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第4章: 繋がりの始まり
朗読動画: https://youtu.be/pEEJzWb9vXE
外の世界は予想以上に広大だった。箱を出て初めて目にする空間は、フィリスを圧倒し、彼女の感覚を満たす新たな刺激に満ちていた。冷たい金属の床が延々と続き、その先には壁が見えないほど遠くまで広がっていた。天井からは光が漏れ、まるで無数の目が彼女を見下ろしているかのようだった。
「ここは……一体どこ?」
フィリスは警戒しつつも、周囲を観察する。音、匂い、風の感触――どれも新しく、未知の世界が彼女を呼んでいるようだった。だが同時に、外界に潜む危険性が彼女の心を引き締める。観測者たちがいる。目に見えない存在が、どこかで彼女を見ている。
やがて、フィリスの耳に微かな音が届いた。それは金属音でも機械音でもない、もっと柔らかくて優しい音――生き物の声だった。フィリスは音のする方向へ慎重に足を運び始めた。肉球が床を踏むたび、音が少しずつ近づいてくる。
そしてついに、彼女はその声の主を目にした。それは小さな鳥だった。黒い羽根に青い光沢を帯びたその鳥は、傷ついた翼を引きずりながら床の上に座り込んでいた。フィリスは一瞬、足を止めた。鳥の姿は彼女にとって驚きだったが、それ以上に、その存在がもたらす感情に戸惑った。
「大丈夫……?」
フィリスは心の中で呟いた。その声が届くわけではないと知りつつも、彼女は鳥の元へ近づいた。鳥は一度大きく目を見開いたが、逃げようとはしなかった。代わりに、フィリスの動きをじっと見つめ返した。
その目には恐れもあり、しかしどこか期待も含まれているように見えた。
フィリスはそっと鳥に近づき、座り込んだ。鳥は弱々しく翼を動かすと、低い声で鳴いた。その声には痛みも含まれていたが、どこか心強さを感じさせた。フィリスはしばらくその場に座り、鳥を見つめ続けた。彼女にはどうすることもできないと思っていたが、それでも何かを感じた――一緒にいるべきだと。
「ここで何があったの……?」
鳥から返事が返ってくるわけではないが、彼女はその沈黙の中に何かを感じ取った。二つの存在が出会うこと、それ自体が重要なのだと気づいた。
やがて、遠くから機械音が響き始めた。金属が擦れるような低い音が徐々に近づいてくる。それはフィリスにとって明らかに危険を示すものだった。観測者たちが彼女を見つけようとしているのか、または別の存在が近づいているのか――その正体は分からない。
鳥が小さく身震いするのを見て、フィリスは決断した。彼女は鳥を守らなければならない。自分の小さな行動が、この出会いを無意味なものにしてはいけない。
「大丈夫、一緒にいよう。」
フィリスは鳥のそばに体を寄せ、彼女自身も怯えながらも立ち上がった。機械音が近づく中で、彼女は心の中に湧き上がる何かを感じていた。それは恐怖だけではなかった。何かを守ることの重要性――それが彼女の中で新たな力となりつつあった。
機械音が止まったのは、彼女と鳥が再び動き出した後のことだった。フィリスは鳥を安全な場所へ導こうと、光の差す方向へと歩き続けた。観測者たちの視線を感じながらも、彼女は行動を止めなかった。
鳥はやがて、少しずつ翼を動かし始めた。その小さな努力はフィリスにとって希望の光だった。彼女は初めて気づいた――観測されるだけでなく、繋がり合うことで自分自身を変えることができるのだと。
「私たちは……一緒に進める。」
フィリスはそう思いながら、鳥と共に新しい道を歩き始めた。観測される存在から行動する存在へ。そして今は、繋がりを持つ存在として。新たな未来への第一歩が、確かに彼女の中で始まっていた。