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第6章: 未来への選択

フィリスは静かな夜の中で目を覚ました。隣に寄り添う鳥の体温が、微かな安心感をもたらしていた。だが、その安らぎの中にも、遠くから響く低い振動音が彼女の耳を捉えた。それは観測者たちの気配だった。

「また来る……」

フィリスは立ち上がり、耳をそば立てて音の方向を探った。彼女はこのままではいけないと感じていた。逃げて隠れるだけでは、鳥を守ることも、自分の未来を切り拓くこともできない。何かを変えなければならない。

彼女の目の前には二つの道が広がっていた。一つは音の方向へ――観測者たちのいる未知の領域に向かう道。もう一つは、遠くに見える小さな光の方へ――安全で静かな逃避の道。

フィリスは足元の鳥に目を向けた。傷は少しずつ癒え始めているが、飛び立つにはまだ時間がかかる。それでも、その小さな体には確かな生命の輝きがあった。鳥は彼女をじっと見つめ返した。その瞳には恐れではなく、どこか信頼のような光が宿っていた。

「どちらを選ぶべきなんだろう……」

フィリスは心の中で自問した。逃げることは簡単だった。だが、逃げ続けている限り、この不確かな状況は変わらない。観測者たちが何者であるのか、自分たちの未来に何を求めているのか――それを知るには、自分から動く必要があった。

「一緒に行こう。」

フィリスは鳥にそっと囁いた。彼女は足を踏み出し、音のする方向へ進み始めた。その一歩は恐怖に満ちていたが、同時に確かな意志があった。彼女の行動が、この小さな世界に影響を与えることを信じていた。

道を進むにつれ、音はますます大きくなり、周囲の空間が変わり始めた。金属の床がやがて柔らかな砂に変わり、空には無数の光が瞬いていた。だが、それらは星ではなかった。無数の小さな装置が空中に浮かび、彼女たちを見下ろしている。

「観測されている……」

その事実を知りながらも、フィリスは歩みを止めなかった。鳥も彼女の後をついてきた。観測されることで自分の存在が固定される――その感覚を嫌う一方で、彼女はそれを受け入れる覚悟をしていた。観測されることは恐怖ではなく、自分を表現する機会でもあると気づき始めていた。

やがて、彼女は観測者たちの中心に立つ何かにたどり着いた。それは大きな装置で、無数の光がそれに集まり、また散っていく。装置の中心には、彼女の姿を模したような小さな映像が浮かび上がっていた。それは、これまでの彼女の行動を記録したもののように見えた。

「私のすべてがここにある……?」

フィリスはその光景をじっと見つめた。彼女の中に、これまで感じたことのない感覚が生まれた。それは恐れでも嫌悪でもなく、むしろ安堵に近いものだった。自分の存在がここに記録され、そしてそれを超えていくことができる――そう思えた。

「私は……変われる。」

フィリスは装置に向かって一歩前に出た。そして、その瞬間、無数の光が彼女を包み込み、彼女の存在がまた揺らぎ始めた。だが、その揺らぎの中にある確かなもの――それが自分の意志であり、行動であり、未来を形作る力であることを感じていた。

観測されるだけではなく、自分自身を観測し、行動し、新たな未来を選び取る。その選択が、彼女の中で確かに芽生えた。

鳥が静かに鳴き声を上げた。それは恐怖ではなく、どこか希望に満ちた音だった。フィリスはその音を聞きながら、光の中で目を閉じた。そして、自分が選んだ道が間違いではないと信じた。

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