【きの散歩】雨の日の森は
雨の日の森の公園は
すれちがう人もなく
「おはよーございます」
「きょうもステキな朝ですね」と
声をかけようか
ドキドキすることもなく
鳥の声だけにつつまれる
時々帽子のつばに当たる
雨の粒が「プッ」と音を立てる
ながーく息を吐いて
腕を上げてながーく吸う
じゅうぶんに湿った空気が
内臓に沁みる
雨に濡れた木の葉にしずくが揺れる
蜘蛛の巣が雨でひかる
石の階段がすべるので
そーっと歩く
足元の草の白い花が揺れて
水滴を「チリン」と落とす
目の前を
野うさぎが通り過ぎる
そして振り返って言う
「きょうもゴキゲンですか?」
ぼくは、びっくりして、立ち尽くす
野うさぎは
ヒゲをピンと伸ばして言う
「人生でいちばん残念なことは
きょうを機嫌悪く生きることです」
シッポをすこし震わせて
黒いボーラー帽を取って
お辞儀をする
「では、ごきげんよう」
南の空があかるくなってくる
そしてまた
雨の日の森は鳥の鳴き声につつまれる