〜創作談義〜創作歴は「物心付いたときから」、カラーの塗りは「「今でも(2011年次)一切納得いかない」」|ヤマシタトモコ×えすとえむ対談 「物語」への欲望を語り合う(2/4)
対談公開第二弾! 2015年に発売された『ヤマシタトモコのおはなし本』(祥伝社)の電子配信解禁を記念して、ヤマシタトモコ先生×えすとえむ先生のスペシャル対談(初出:『onBLUE』vol.2(2011年4月25日))を一挙大公開中! 同い年でかつ作家としてもほぼ同期、「執筆の場が一番かぶってる」というおふたりがたっぷり語り合ってくださいました。
■ 物心付いた頃から
―お二人がフィクションを作り始めたのはいつぐらいからですか。
えむ 小学1年生か、もっと前からかも。
ヤマシタ 物心付いたときからありますよ。
えむ 常にありましたよね。
ヤマシタ 自分だけの友だちみたいな。
えむ それ私にはいなかったわ(笑)。
ヤマシタ あ…カエルのぬいぐるみが…。その子と私の物語。いわゆるプライベート妄想なんですけど。
えむ 私の場合は少し形は違ってて、外野でいたい感覚。私はソレに対面したくないんです。「どこかにいるかも」くらいで。
ヤマシタ 異次元への憧れ、とかですね〜。私、小学生のときにフィクションで「おばけが出る」という設定のミニコントを披露して遊ぶのが好きだった。ただ、ある子から突然「何でうそつくの」って言われてショックだったなあ。うそって言うかさあ…と。
えむ 何かしら作りますよね。小学2年生のときに母のワープロを借りて、いろいろしたためていました。シナリオとか。
ヤマシタ へー!
えむ 小学2、3年の頃の学童保育のイベントでは、誰にも頼まれていないのに、「あいつが劇をやるんだろう」という暗黙の了解ができ上がってました。嫌な目立ちたがりです。学童保育から卒業しても、妹にくっ付いて行って手を出していました。すごく迷惑な…(笑)。
ヤマシタ あはは。
えむ 創作はそのあたりからですね。
―それは、漫画を読み始めるのと同時くらいに、ということでしょうか?
えむ 漫画は関係ない気がします。
ヤマシタ うん。多分。
■ 塗り方は習わなかった
ヤマシタ カラーって、何で塗っています?
えむ 『作品集 このたびは』(祥伝社)以外はフォトショップとSAI。紙のテクスチャや自分でバシャバシャっと塗ったものを取り込んで、それを貼る。
ヤマシタ へえ、そんなやり方があるのか。
えむ ヤマシタさんは何ですか?
ヤマシタ カラーインクと水彩です。ホルベインの絵の具、ずっと持つんですよね。
えむ 日本画では、絵の具を漆のパレットに全部乗せて、一度乾かして使うんですけど、そのパレットを先日ほぼ10年ぶりに開きました。予備校時代のつらい思い出ばかりが蘇る蘇る…。「色を重ねると濁るって言ってんだろ」って怒られてね…。
ヤマシタ 日本画専攻?
えむ はい。
ヤマシタ そうなんだ。確かに、日本画っぽさを感じさせるときがありますもんね。
えむ デジタル着彩も、もっと学ばなきゃと思います。イラストレーターさんをはじめ、研究してる人は本当にガッツリ研究してるし。ただ、時間に追われていると〝自分の塗り方〟で仕上げるので精いっぱい。
ヤマシタ 自己流で塗れるようになった、ていう漫画家は多いですよね。それで、新しいツールに意欲的になれるかどうかは、余裕のある時間の有無とか性格ですよね。私はデジタルは目が痛くなる。
―漫画やイラストの色の塗り方はどうやって覚えました? 学校で習う美術の塗り方とは違いますよね?
ヤマシタ 絵を描いたら塗りたくなりますよね。それが人情ですよね。
―漫画の肌の塗り方って習わないですよね。
ヤマシタ でも、漫画って世の中にいっぱいあるじゃないですか。
えむ いっぱい見ていくうちに、塗り方とかも自然と見てる。
―ご自身で満足いくよう塗れるようになったのはいつくらい?
えむ&ヤマシタ 今でも一切納得いかない。
えむ 肌色嫌いです。
ヤマシタ でもリアルな練習は仕事で漫画描き始めてからですよ。
えむ 何かしら「もっとこうしたかった」を更新していく日々。漫画はある程度見えるけど、カラーは見えない。
ヤマシタ そんなにたくさん描く機会ないし。
えむ イラストレーターさんとかイラストがきちんと好きな人みたいに、1枚できちんと伝えるよりも漫画は世界観をプレゼンしている絵の方が多い。
ヤマシタ 「こういうお話ですよ!」っていうプレゼン。
えむ 〝ひとつの完成した絵〟とは違う気がする。
ヤマシタ 単行本だと、帯がのる部分は基本的に見えない、と思わないと。
―思いっきり時間を使ってカバーを描くとしたら、どれくらいの時間が必要と感じますか?
ヤマシタ うーん、あればあったで飽きちゃうかも。
えむ 3、4日あればいいんじゃないかな。朝起きて、昨日の欠点を見直し。
ヤマシタ やり直したくなっちゃいそう。厚塗り、厚塗りになってしまう。
えむ そっか、直したくなっちゃうね。制限がある中でやるからいいのかも。ちゃんと、ばしっと。
ヤマシタ 何枚もまとめてやってしまうな。やだから。カラーは好きなんだけど。結局1枚カラーやるとテンションがそれだけになって、その日は他の作業ができなくなる。
えむ 確かに。
ヤマシタ いやしかし、これ(ケンタウロスのオリジナル同人誌のカラー)美しいな。単行本、楽しみです。
えむ ありがとうございます。
■ 春から漫画の授業を
―お二人は連載も多く、お忙しい日々ですよね。
えむ そうですね、頑張ってください。
ヤマシタ そっくりそのままお言葉をお返ししますよ。
えむ (2011年)4月から某大学で漫画の授業を持つので、けっこうバタバタしそうです。
ヤマシタ 複数の連載抱えた状態で先生を始めるって面白いですよね。
えむ だから意味があると思います。
ヤマシタ 漫画家が楽しいことばかりではない、と教えるのは大事ですよ。
えむ よくある〝漫画家像〟という妄想があるなら、それは壊していこうかと。ひどいけどね。でも漫画とかかわる方法は、いわゆる連載漫画家だけではないし。
ヤマシタ ぶっ込んでいきましょうよ。私、デザインの勉強をしに大学に通ってたんですが、30個ロゴデザインを作ってきなさいという課題が出たときに、30個考えられない男の子がいて先生が「何で考えられないんだ。お前寝たんだろ」って詰めよって。
えむ 怖い。現場臭すごい。
ヤマシタ その先生は人気はあったんですが、現にハイデザインを作成するデザイナーで厳しくもあった。そのとき「プロってすごい」って思いましたよ。
えむ そんな立派な方のようには、私…。大学院生だったとき、漫画の専門学校の講師をやっていたんですが、先生なのに寝ちゃったことがあるんですよ。
ヤマシタ やるなあ。
えむ 生徒に課題をやらせている間にプロットやるか、と目をつぶったら3秒後に寝ていたという。
ヤマシタ あはは、のび太だ。
えむ その後は「えむ先生は寝ている」というレッテルが。
ヤマシタ えむ先生が教える自由奔放。実に「あなたの知らないえすとえむ」じゃないですか。特集テーマに沿ってる。えむ 実は、すごく適当です。
―掲載号は2011年4月25日発売なので、学校がすでに始まっていますね。
えむ 学生に「先生は…」って言われてしまうのかしら。まあ、社会を学び直すために社会に行ってきます。以前より、人数も多いから頑張らないと。
―授業覗きに行きたいです。
ヤマシタ 「やってる?」って言ってね。
―私は後ろの席で原稿待ちの担当編集者の演技をいたします。
えむ それはリアルに見せたら面白いと思いますよ。「私はまだ原稿が上がっていないので、あそこに編集さんがいらしています」。…って、うわ〜、ヤな授業。
ヤマシタ いいな〜、それは面白い。
えむ いろんなバリエーションの作家を見せていくこととか、若手の声を聞かせることとか、勉強になると思うんですよ。現場の声が一番。
ヤマシタ うん。必死にやってますっていうのを見せるのはすごく良いと思う。
えむ ヤマシタさんもどうですか、授業。
ヤマシタ ニヤニヤしながら、トーン削り手伝いましょうかね(笑)。
えむ ぜひ、来て来て。
ヤマシタ あはは「私は原稿が終わっているので来ました。このあとは遊びに行きます」って言いたいなあ。
えむ ヤマシタさんも何かかましに来てくださいよ。
ヤマシタ 「漫画っていいよね。漫画は自分の可能性を広げてくれるんだよね」とか、気怠げにかましたりしましょうか。とはいえ、小心者なので結局はまじめなことを言いそうですけど。
えむ はじめは漫画の技術的なことから授業を持つんですが、先々は短編漫画の授業もあるんです。
ヤマシタ その授業、普通に受けたいなあ。
えむ 野放しだと思いますよ。
ヤマシタ 大丈夫、ネームを描いてえむさんに提出する。「お願いします!」って。
えむ プロジェクターで映して、いろいろ指摘するの? 怖いわ!
ヤマシタ そして、えむ節たっぷりの短編にでき上がると。
(取材・文/「on BLUE」編集部)
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