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臨月妊婦、欲まみれ。

出産予定日の1ヶ月前。
臨月に入ると、赤ちゃんはいつ生まれてもおかしくない状態まで成長しているらしい。

いつ生まれてもおかしくないって、いつ生まれるの?
今週? それとも明日? 
もしかして今夜なの?。

臨月を迎えてからというもの、こんな感じで毎日ソワソワしっ放し。
前駆陣痛と呼ばれる痛みと頻尿も相まって、眠れぬ夜を過ごすことになった。

しかし、出産予定日が来ても陣痛は来ず。
赤ちゃんはお腹の中でゴニョゴニョし続けていた。

今まで現代人していた私にとって、出産予定日は締め切りであり、ゴールだった。

ゴールがあるからこそ、そこに向けてツワリも、恥骨痛も、腰痛、睡眠不足、便秘、むくみ、塩分と体重コントロールなども耐え凌いできたというのに、なぜ産まれない?

一体あと、どのくらい妊婦で居続ければいいの?

ゴールが見えない私は肉体的にも、精神的にも追い詰められていた。



これも欲しい。あれもしたい。あそこに行きたい。



自由で歯止めの効かない欲望に反し、妊婦・オブ・ザ・妊婦のわたしは制限だらけ。

動きたくても動けないし、食べたくても食べられない。

中でも、妊婦はナマモノ全般、基本的にNGのため、お寿司、ユッケ、ローストビーフ、チーズ、明太子、卵がけゴハンのほか、ビタミンAの過剰摂取を避けるためウナギが制限されている。

食べちゃいけない。
食べたらダメだ、と思えば思うほど余計に食べたくなる、欲してしまうのが人間の性なのでせうか。

頭の中は常に食べ物のことで一杯。

それなのに、妊娠中期から後期にかけてツワリが出始めた私の身体が受け付けてくれるのは、

パイナップル、スイカ、桃、梨、バナナ、ブルーベリー、トマト、
キュウリ、レタス、サツマイモ

といった、南国に住むサルが好みそうな野菜や果物ばかり。
お金が掛かるだけではなく、毎時、毎分で好みが変わる。

頭では欲している食べ物を身体が受け付けてくれない状況を経験して、自分の欲が脳によって日常的にコントロールされていることを改めて知った。

日常的に出来ていたことも出来ない。
自分で満たせていた欲も満たせない不自由さに、空っぽになった気がした。

そんな私を救ったのは大食い系YouTuberのロシアン佐藤さんの動画だった。


明太子まみれのクリームコロッケや、計算したら、とんでもないカロリーになるであろう大量のドーナッツなどなど……

いくらツワリで気持ち悪くとも、私の代わりにロシアンさんが美味しそうに食べるのを見ているだけで脳が満たされ、何とも言えぬ快感と癒しが訪れる。

中でも、私の心を打ち抜いたのは、ケンタッキーフライドチキンを食す彼女の姿だった。

大量のチキンやビスケット、ポテトにコールスローサラダ、ツイスターを4口で3本食べていく彼女の姿にウットリした。

出産したら、私もケンタッキーを好きなだけ食べよう。

そう心に誓い、いつか来るXデーについて想像してみたが、ある日、彼女が2、3キロほどのローストビーフを食べる様子を見た。
2、3キロといえば、今、私のお腹の中にいる赤ちゃんと変わらない重量になる。

そう考えたら、何とも言えぬ感情に襲われ、自分の立派な腹を繁々と見つめた。

本気で、本当にこの中に赤ちゃんがいて、私が、この私が赤ちゃんを産むんだよね?

お腹越しからも赤ちゃんの脚や手がニョキっと突起する様子やシャックリしていることがわかる。
それなのに、妊娠してからというもの、ずっと夢を見ているみたい。

今の状況は頭ではわかっているけど、やっぱり、どうしても信じられない。自分の身体に今、起きていることより、AIとかバーチャルの世界の方が現実的だとさえ感じた。

しかし、スイカより大きくなった今の腹のままではケンタッキーも、ウナギも、明太子も、お寿司も、ユッケも、ローストビーフも、チーズや卵がけゴハンも食べられない現実がそこにはあって、どうにかなりそう。


それなのに……


出産予定日が1週間過ぎても、お腹の中の赤ちゃんが産まれてくる兆しはない。

今思えば、出産予定日は、予定日にしか過ぎず。
出産が早まることも、遅れることもある。

しかし、そんなこと全く想定せず、予定日をただひたすら目指してきた私は焦った。

私のお腹も欲も爆発寸前なんですけど!?


妊娠42週を超えた「過期産」は、全体の4~10%程度。
「過期産」は、お母さんと赤ちゃんの出産リスクが上昇するため、42週に入る前に陣痛を促進させる薬を点滴する「分娩誘発」を行うことが一般的だと言う。

「君のタイミングで良いよ。待ってるから」

お腹の中の赤ちゃんには、ぜひとも自分のタイミングで産まれてきて欲しいと思い、臨月に入ってから毎日お腹の中の赤ちゃんに向かってそう言ってきた。

でも、このまま42週目を迎えたら、そんな流暢なことは言っていられない。

お産を早めるため、焼肉やカレー、パイナップル、オロナミンC、ウォーキング、スクワット、トイレ掃除に月の満ち欠けなど、陣痛ジンクス(陣クス)と呼ばれる様々なことを試してみた。

しかしどれも、効果はなし。

で、あれば、やはりアレをしてみるしかない……ゴクリ

頭によぎるのは「お迎え棒」と呼ばれる陣痛を促すために行うセックスのこと。

お迎え棒の話を初めて聞いたときは、何を根拠に?!
と思っていたが、精液には子宮収縮作用を持つ「プロスタグランジン」という物質が含まれているため、陣痛促進作用が期待されるらしい。

そう聞くと、上記した陣クスの中でもお迎え棒は信憑性が高い部類に入ると思った。

しかし、先日産婦人科で内診した際、「もう頭が触れる」くらい、赤ちゃんが下に降りてきていると医師から言われたのだ。

そんな状態でセックスするって、アリなのだろうか……。(羊水で守られているため大丈夫らしいです)

妊娠して性欲がなくなった訳ではない。
けれど「頭が触れる」くらい赤ちゃんが降りてきている状態でセックスすることを想像すると性欲が消え失せていく。

陣痛を促すために彼を誘うのも、何か違う。とも思う。

で、あれば、やっぱり赤ちゃんのタイミングを待つしかないのだけれど、私の肉体とあらゆる欲は爆発寸前。

このまま陣痛が来なければ、3日後に入院することになっていた私は、お腹の中の赤ちゃんに訴えた。

「私的には結構限界なんだけど、今どんな感じ? このままだと、無理矢理外に出されちゃうよ。それより、自分のタイミングで世界に誕生した方が、良いんじゃないかなぁ〜???」

ロシアン佐藤さんの動画もほぼ全て未漁ったし、もうこれ以上待っていられない状況になった私はお腹の赤ちゃんにそう訴え、その夜も眠りについた。

とにかく、産まなければ何も始まらない。
そして、このままの状態で居続けるわけにはいかないのだ。

焦らせるのも申し訳ないが、赤ちゃんにとっても、お腹の中は手狭になってきているはず。十分成長しているのだし、何と言われても、私の身体は私のものなんだ。自分の主張を赤ちゃんに言う権利はある。

「そろそろ、新しい人生をお互い始める時が来たんじゃないかな?」

前駆陣痛の痛みに耐えて朝を迎えたり、本陣痛だと思ったら、ただの下痢だったり。

その度に

本当に私、産めるのかな。
いや! 私は産む。絶対産む!!!

と、不安と葛藤と自問自答を繰り返し、覚悟をしてきた妊婦生活は、あまりにも長く感じた。


そして、朝方。

いつもと同じ痛みが続く中、「ボフン」と下半身で何かが弾けた衝動を感じ飛び起きた。

急いでトイレに駆け込むと、生理初日のような薄い出血。
そして、下痢のような下腹部の痛みが襲ってくる。

いつもと次元が違う痛み。

ついに本陣痛がやって来たんだ。


続きますん……


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詢川 華子(じゅんかわ はなこ)
「性、ジェンダーを通して自分を知る。世界を知る」をテーマに発信しています^^ 明るく、楽しく健康的に。 わたし達の性を語ろう〜✨