スキャット5

 退廃的な若いレズふたり、仲良し三人組、吐きまくって泣き真似してる一人で。
 僕は時間によって3つの中から一つを選ぶ。時間がなかったら全部選べる。
 僕は地下から地上に繋がる階段を上がる。
 壁はまんべんなく金槌で打ちつけたような、銅色のスチールパンに似ていて、端っこは酸化して色がくすんでいる。
 生暖かい風は地上より増して地下の階段に吹き付け、合唱のように聞こえる。
 じっとりと汗をかいて、銅の壁と同じような気分で地下階段を上がった。
 僕は汗を流すため大浴場に向かった。そこではバンドのロネッツがホアウダズイットフィールを響かせている。
 包み込まれるようで、地下で聞いた突風と同じハーモニクスが奏でられている。
 僕はのぼせて気絶した。ホテルの部屋で目覚めると、大浴場から救い出してくれたらしい(後に彼女から聞く)が考え事をするように両の手を合わせて座っている。
 けれど僕の方をじっと見ている。
僕   お姉さんは誰ですか?
雪   喋らずに安静してて
僕   でも聞きたいことが沢山あって
 僕が控えめに本心を告白してから会話は途切れた。
 あまりに気持ちのいい沈黙だった。少しレモンの匂いがする。そのまま僕も黙っていたら彼女は名前を教えてくれた。
 雪という名前らしい。
いい名前だと思った。下の名前しか聞いていないが本人曰く、下の名前だけで呼んでほしいからだそうだ。それだけでも、この小旅行における刺激としてはあまりにも甘いしびれだった。




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