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『海賊になった貴族』ことOur Flag Means Deathに想いを馳せながらオレンジケーキを作った話

あらかじめ断っておきます。ケーキを作るまでの話がすごく長いです。

はじめに

『海賊になった貴族』というアメリカ発のドラマをご存知でしょうか。どうにもこの邦題がむず痒いので原題のOur Flag Means Death(以下OFMD)で本記事内は通しますが、2022年6月下旬からU-NEXTで放映開始されたこのドラマ。公式では「(主人公の)冒険を描いたコメディ」などと紹介されており、実際コメディには違いないんですけれども、蓋を開けてみるとコメディというよりラブコメだということが分かります。
主人公は、17世紀から18世紀にかけて実在した海賊、スティード・ボネット。史実での彼は貴族としての身分を擲って海賊になりますが、ドラマで描かれるボネットも同様に恵まれた暮らしと家族を捨て、海賊として生きることを決意します。そこには様々理由があるのですが詳細は是非本編をご覧いただくとして、そんな新米海賊のボネットくんがカリブの大海原で運命的な出会いを果たすのが、かの有名な黒ひげ船長ことエドワード・ティーチ。当代きっての海賊である彼とボネットは、歴史上でも一時期行動を共にしていたとされています。そんなエピソードを基にしてゆる〜く史実を反映したりしなかったりで作られたOFMDは、出自もありようも正反対、おまけになんなら己の生き方にちょっと嫌気が差してしまって中年の危機を迎えているといっても過言ではないスティードとエドワードが惹かれあい、人生で初めての恋に落ちるというラブコメです。お互いうまくいかずにすれ違ったり、当て馬ポジションの古参や昔の男が出てきたり、誰がどう見ても「あっ、これ、今落ちたな」と分かる瞬間があったり、気持ちを受け入れてもらえるか怖くておろおろしたりと、ラブコメ必修科目のオンパレードでいっそ笑っちゃうぐらい。笑ってしまいますが、本当に素敵なドラマなのです(他にもいいなと思うところは多々ありますが、その一部は本noteの最後で)。見てください。U-NEXT高いけど。
黒ひげことエドを演じるのは洋画界隈の住人ならみんな大好き、タイカ・ワイティティ。スティード役は、タイカの長年の友人でもあるニュージーランド出身のコメディアン、リス・ダービーが務めています。彼らの友人としての関係性が見事に生かされている点も見所のひとつで、二人の息が合ってるな〜面白いな〜〜なんて思うシーンは大体彼らのアドリブだったりします。怖いよ。
わたしは日本で放映が決まるより前にOFMDを見る機会があり、ドドドドドドハマりしました。いつか日本で放映されるときのために周りにもめっちゃ布教しました。日本放映が決まった瞬間に喜びのあまり軽い気持ちでツイートしたドラマ紹介が少しばかりバズったりもしましたがそれはさておき、今回こうしてnoteなぞを認めているのには理由があります。
ケーキを作るからです。

ここからしばらくは前日譚のようなものですが、『マンダロリアン』というスター・ウォーズのスピンオフドラマがOFMDと同じぐらいに好きなわたしは、急に思い立って作中登場メシを実際に作り、わざわざいい感じに撮影までしてもらったことがあります(経緯と詳細はこちらのnote参照)。
撮影会あるあるだとは思いますが、今回に限らずカメラマンこと成田さんとは何かしら撮るたびにいい感じのご飯を食べて解散するのが常でして(撮影なしでも会うと大抵ガッツリ食べてるけどそれはそれ、これはこれ)、その日も撮影終わりに絵師を見送ってからご飯を食べに行ったわけです。予約してくれたお店でローストビーフめっちゃ頬張りながら当日の反省をしました。嘘です、反省することなどなかったのでnote書いてる話とかしました。大人なのでそれなりに時流を踏まえた話とかもするんですけどそういうのはあまり記憶に残ら…じゃなかった、別にここで書くようなことでもないので割愛するとして、いつでも未来を見据えている我々はすぐに次回の話をし始めます。我がことながら素晴らしいです。じゃあ来月やろう!レベルの案件もあればそのうちね!なパターンもありますが、ひとまずその日は「もし次にまた映像作品のメシを作って撮るなら何がいい?」という話になりました。

成田さん「海賊のドラマのやつは何かあるの?」
わたし「ケーキ」
成田さん「あるんだ」

あるんだなこれが。
このあまりにもニッチな記事を読んでくださっている方はおそらくそのほとんどがOFMDを視聴済あるいはまさに今ご覧になっている真っ最中かと推察しますので詳細な説明は省きますが、第7話で"40 orange glaze cake"なるものが出てきます。同話で船員のひとりがビタミン不足により体調を崩してしまうくだりがあり、その原因が「ボネット船長に命じられて、船にたくさん積んでいたはずのオレンジを料理担当がありったけ使ってケーキを作り、その結果在庫が底をついてしまった」というスーパーくだらないものなのですが(しかも料理担当は在庫管理がなっていない、あんなにオレンジ使ったのにいまいち味しなかった、などと船長から責められる始末)、料理担当の船員ことローチ役の俳優さんが「今度こそ船長に認めてもらうんだ!」とばかりに作中では言及されるのみで実物は登場しなかったケーキを自ら作り、オリジナルレシピまで公開するという神のような所業を成し遂げたのです。

このレシピ、よく見ると分かるのですが俳優さんではなくローチ名義の体裁を取っていて、そこかしこに「ルシアス、ちゃんと全部メモしてる?」など作中の登場人物たちがこっそり出てくる遊び心たっぷりの仕様で最高オブ最高。ちなみにスティード役のリスさんもすごい!と褒めていて、ローチ役の俳優さんもキャプテンに認めてもらった!と喜びのリプライを送っていました。仲良いね。
これを受けて海外のオタクたち、大喜びでケーキを作り始めました。

6月頭時点で、ご本人のところへ報告が行ったものだけでも合計765個ものケーキ写真がファンより送られてきたらしい。すごい(アメリカの友人たちが楽しそうに作ってたやつもしっかりまとめに入ってて笑った)。わ、わたしも作りたいが…!?とひとり歯噛みしていたのですが、でもせっかくなら日本でドラマ放映されることになったらそのお祝い代わりに作りたいなと思い直してこのときは我慢しました。一年ぐらい待てばU-NEXTでやってくれるかな、ぐらいの気持ちでのんびり待つ覚悟だったんです。

このケーキが発表されたのは4月、ちょうどイースターのお祝いがあった時分で、ひと月経ってマンダロリアン飯を撮る頃にはケーキも「どうせ作るんなら撮ろう」になったわけですが、やはり断られることをまったく想定していないわたしは成田さんに「ケーキ作る、他にタパスとかマーマレードジャムの朝食セットとかもあるにはあるけどやっぱりケーキがいい、だってあれおいしそうだし、ただこの海賊ドラマは全然海賊らしいことをしていないので周りに置く小道具をどっちに寄せたらいいか迷う、海賊っぽく金貨とか宝箱とか出すべきなのかそれとも赤いシルクのスカーフあたりで彼らっぽい雰囲気を重視すべきか」みたいなことを言いました。同じことを絵師にもフォロワーにもリア友にも言いました。ひと月ぐらい言い続けてた気がする。
結局、その日は「でもまだやらなくていい、ドラマ決まったらやりたい、他の新作ドラマの日本解禁タイミング見てる限りだともしかしたら6月ぐらいにワンチャンあるかもしれないけど分かんない、決まったらやる」と話を収めたいんだか収めたくないんだか判然としない依頼をして終わりました。マンダロリアン飯の撮影画像を選別しnoteも書かなければいけなかったのでケーキのことも一旦忘れました。それからわずか10日足らず、U-NEXTの6月新作リストに『海賊になった貴族』とかいう、あまりにもトンチキかつどう考えてもOFMDでしかなさそうなタイトルが挙げられているのに気付くまでは。
ざわざわするわたしを見た成田さんが「思ったより早く撮ることになりそうだな…」とコメントしていたのには笑いたかったんですが正直笑う余裕がなかったです。欲しい欲しいと散々騒いでいたくせにその欲しがっていたものを急に与えられるとどうしたらいいか分からなくなる、それがオタクというもの。なお「もうお察しかと存じますがオレンジケーキを作るので撮っていただきたいです」「話が早いな?」で正式依頼は完了しました。

ケーキを作ろう!

レシピを翻訳しようの回

さて。
日本での放映が決まってしまった(?)のでケーキをいよいよ作ることにしました。となるとまずは、何がなくともレシピの確認です。上述したローチ役の俳優さんが公開していたレシピに従って作ろうと今回は考えていたのと、お菓子なのだから慎重を期すべきだろうと思ったのもあり、一応前もって訳しました。分量もアメリカ準拠から日本のものへとあらかじめ換算しました。アメリカのレシピの分量は大抵が計量カップあるいはスプーンすり切り1杯をベースにしているので、換算するときに液体と固体ではグラム数が異なることを念頭に置かねばなりません。粉でも砂糖と小麦粉ではまったく違います。同じ砂糖だとしてもグラニュー糖と粉砂糖ではやっぱり変わってきます。キレながら計算しました。料理なら適当にやってしまうんだがお菓子はそうもいかない…。
そして、ひと通り必要な材料と工程を把握し終えたところでふと(ここにひとりOFMDにハマってうっかりケーキを作ろうとしている日本のオタクがいるわけだから、もしかしたら日本でドラマが流れた暁にはこのケーキの存在を知って自分も作りたい!と考えるファンがもうひとりぐらい出てくるかもしれないな…???)と思いました。思ってしまったので、レシピ作成者であるローチ役の俳優さんに「レシピを日本語に訳してSNSへ投稿しても差し支えありませんか?」とDMで連絡を取ってみることにしました。
普段だったら絶対こんな公式凸みたいな真似はしない。絶対しないんだが、このローチ役の俳優さんやOFMDのショーランナー(ドラマの総責任者みたいなもの)は、メンションのついていないオタクの呟きを自ら拾って引用リツイートやリプライ飛ばしてくるタイプのひとで、それで流れ弾食らって死んだアメリカのOFMDファンをこの数ヶ月たくさん見てきたため、この感じならもしかしたらお返事頂けるかもしれないし、レシピをシェアするにしてもご本人の了解があってこそと決めていたので、彼の気が向いて回答を頂戴できたらウルトラミラクルハッピーぐらいの気持ちでいました。ちょうどシーズン2の制作が正式に決まったタイミングだったのもあり、レシピの件と併せてドラマの感想と日本でも今月から放映されるので楽しみにしていること、シーズン2おめでとう、といったコメントを簡潔にまとめて送りました。そしたら。

優しい

24時間も経たずに返事来ちゃった。ありがてえな…。
和訳したレシピはTwitterに投稿しました。若干の意訳や材料の読み替えも含まれますがご容赦ください。そして英語が分かる方は是非、サンバさんのレシピを参考にされてください。上記のとおり、ドラマを見ている方なら分かる、クスリと笑える仕掛けがあちこちに隠された素敵なレシピです。作ったケーキの写真もシェアしてみるとご本人も喜んでくださるかもしれないです。
OFMDは、シーズン1の最終回がいわゆるクリフハンガーというやつだったことに加え、本国での爆発的な人気にも関わらずシーズン2の告知がされるまでに最終回の放映日から2ヶ月を要したこと(実際のところ5月中旬には関係者にお達しは行っていたそうで、6月に入ってすぐの発表だったのは、6月がプライド月間であることからも多少は狙っての可能性も想定されますが)もあって、続編制作の正式発表までの間に視聴者たちがたくさんのファンアートをSNSに上げて応援し、出演者やスタッフたちもそれをシェアして広めるという流れがかなり確立されていて、当時は#RenewOurFlagMeansDeathという続編希望タグがよくトレンドに上がっていました。このケーキもその機運を盛り立てる一助だったのだろうなと思います。見てきた中で一番すごかったのは、第7話でエドとスティードが「もしエドがレストランを開いたらどうなるか」という会話を冗談で繰り広げる場面、そのレストランの看板を小道具並みのクオリティでガチ造形してたやつ。作者、オークションにかけて落札金は寄付に回すみたいなこと言ってたけど結局どうなったんだろうなあれ…。
ちなみにケーキの件とはまったく関係ない、インスタグラムに書いたただの個人的な壁打ち感想にショーランナーから🏴‍☠️🏴‍☠️🏴‍☠️❤️❤️❤️という絵文字の返信コメントが来たときは本当にビビり倒しました。心臓に悪いよ。

撮影用の小物や材料を揃えようの回

あまりにもわたしがOFMDの話をしまくったので、周囲の様々な方から心配されたり協力があったりしました。ほんとすみません。

●ケーキに入れる酒
レシピ通りに作るならリキュールかコニャックなんですが、この酒を見つけてしまった瞬間から色々と狂い始めました。

ドラマ本編において、船乗りたちを導く灯台と、海に棲まうと言われたこの蛸みたいな怪物クラーケンはとても重要な存在です。灯台のように家族を導けと諭されたスティード、そしてエドがまだ幼かった頃に目撃したことがあるというクラーケン。この二つは、とある理由からスティードとエドの象徴ともなっていくのですが(英語圏における彼らのカップリング名のひとつにkrakenhouse=kraken + lighthouseが存在するぐらい)、撮影用にクラーケンのフィギュアとかないかな〜なんて鼻歌キメながらGoogleに相談していたわたしに先方が提示してきた回答は、フィギュアではなくクラーケンという名の酒でした。しかもラム。海賊つったらラム。おまけにカリブ海の島国トリニダード・トバゴのラム。ボトルもラベルもパーフェクツ。買うじゃん。リキュールの代わりにいっそラム入れちゃうじゃん。
という話を日頃お世話になっているフォロワーと友人にしました。前者から追加でお勧めされたのがライトハウスという名前のジン(しかもよく見たら主演両名の出身地、ニュージーランドの酒だった)。

は?買うじゃん。わたしのよわよわな腕力と肩の都合上、撮影に持っていくのは泣く泣く断念しましたが、しっかり買ったので家にあります。この記事書き終わったら開封する予定です。
友人はわざわざクラーケンをググって「氷砂糖に漬けるとめっちゃうまいらしいぞ、それコーヒーに入れて飲むと最高らしいぞ」という情報もといリクエストをくれました。ので、ケーキと一緒に作りました。

もっとおしゃれに撮れば良かったんですけどね…そんな余裕はどこにもなかった…

キャンディスと言うのですね。作り方は至って簡単、密閉できる容器にラムと氷砂糖を入れるだけ。時々様子を見つつ氷砂糖を足してもOK。あまりアルコールに強くない方は一度沸騰させてアルコール分を飛ばすのが良きかと考えますが、お酒好きな方はそのままでもいいと思います。詰める前に瓶の煮沸消毒をお忘れなく。完全に溶かし切ってシロップにするもよし、砂糖ごと紅茶やコーヒーに入れるもよし。来週あたりに飲みたいと思います。おいしいといいな。
これは余談ですが、今、この記事を書くのでクラーケンの製造元のウェブサイトを見に行ったらクラーケンを飲んでイカ観測ツアー(クラーケンは実在しないので代わりにイカということらしい)inハワイを当てよう!というキャンペーンが実施されていて、そのキービジュアルのひとつに灯台にクラーケンの足が絡みついているものがありました。何。なんなの。

●いい感じの布
前回マンダロリアン飯を撮影した際は、品数がたくさんあったのと、あとは何より等身大ベビーヨーダさんのつよつよな存在感のおかげであまり真面目にセッティングを考えなくても良かった(放棄したともいう)のですが、今回はケーキ一本勝負なのである程度の飾り付けはしたいなと考えていました。
そうしたらですね、なんと、ここにちょうどいい布が!

5mの塊が届いた

本編をご覧になった方はお気付きかと思います。あれです。元々はボネットくんが着ていた、そしてのちにエドもちゃっかり羽織っていた、赤いガウンの布地です。
なんでそれが我が家にあるのかというと、わたしにOFMDの話を最初に振ってきたアメリカ人の友人が「同じ布地が特定されてたから買っちゃった〜!ガウンの型紙も有志が公開してたんで作っちゃおうかなぁ!あっ布多めに買ったしついでに送っとく!」と急に知らせてきてマジで有言実行しちゃったから。日本からでも海外通販できるサイトがいくつかある様子ですので、コスプレなり何かしらお考えの方はトライしてみてはいかがでしょうか…。イラレなどで使えるパターンのデータをオンラインで公開していたファンもいたような記憶があります。
この布地は見てのとおり花柄なのですが、ショーランナーによると「エドに出会って花開いたスティードを象徴する柄」だそうです。確信犯です。なんなの???
ちなみにこの話を前述の友人にしたところ「イベント出るときの敷き布にできるじゃん」と言われました。まあ確かにそうだな。そうなんだが。出るとは言ってないぞ!?

●海賊っぽい小物
件の友人が模造ピストルと単眼鏡を買ったということで貸してくれました。OFMDの説明をしたら「鉄は熱いうちに打てって言うから」とAmazonで即座に注文していました。模造ピストルをベルトや腰にさすとテンション上がるよ!と言って実演してくれました(分かる)。単眼鏡はポーチ付属で、そのポーチにベルトへ引っ掛けられるループがついていてめっちゃいいよ!と教えてくれました(分かるよ)。一緒にディズニーシーのホテルミラコスタのレストランでごはん食べたときに持ってきてくれたので、単眼鏡はともかくピストルは見つかったらやばいだろとコソコソ受け渡ししたのがそれっぽくて良かったです。ありがとうね。お礼はケーキ4分の1カットとキャンディスだよ。
写真にある金貨と赤いシルクのスカーフは自前。

●グラスとティーカップ
撮影当日の午前中にケーキを作る段取りだったこともあり、噂のクラーケンラムを撮影にも持っていくつもりだったので、せっかくならグラスに注いでケーキの横に置いちゃったりなんかしたらいいのでは?と思いました。
わたし「グラスをお借りできると助かります」
成田さん「了解でございます!」

完了。マンダロリアン飯のときもお借りしました。ありがとうございます。別件で元々お使いになる予定だったこのロックグラス、購入の場にたまたまわたしも居合わせたのですが、結局わたしがめちゃくちゃお世話になっている。
そんなわけで、エドがラムとロックグラスだとしたら、スティードはやっぱり紅茶でしょ!と思いました。せっかくだから対で置いてやらねば。
わたし「ティーカップとソーサー貸して」
母「は?」

というリアクションだったので適当に拝借しました。マンダロリアン飯のときに皿を借りに行った際は懇切丁寧な対応だったんだけどな。娘よりもベビーヨーダさんの方が母の心を動かすには適任らしいです。まあしょうがないな。かわいいもんね。

●アイシングクッキー
友人(既出のとは別)のお姉さんが趣味でアイシングクッキーを作っていらして、以前より何度か試作品のご相伴に預かっていました。わたしも自分で作った経験があるので分かるのですが、趣味とは思えないレベルの素晴らしさ。
(6/26追記:ご本人のインスタグラム @junsweets とっても素敵なのでご興味ある方は是非!)

我が最推しことバッキーバーンズさん(おまんじゅうのすがた)
ウッディとバズ!すごい!すごい!!と言いながらバリバリ食べた

で、今回も、作ってくださった。

わざわざ試作品まで作ってくださったとのこと

ケーキの上に載せるしかないではないか。
第8話のラストシーン。?と思われた方は是非ともドラマを見直してください。そっとエドが右足をスティードの方に寄せて、爪先をコツンと当てます。割と緊迫した状況のため足と足を触れ合わせてハッピー🤗などという場合ではないのですが、二人は完全に自分たちの世界に入り込んでしまっていて、あっもう好きじゃん、お互いしか見えてないな、好きなんじゃん!知ってた!と全力で叫びたくなる場面です。そう、このドラマ、ラブコメなので
ここでわたしは気が狂ってしまってしばらく気付きませんでしたが、スティードもエドの爪先に自分の足をゆっくり添えています。アメリカの視聴者たちを阿鼻叫喚の地獄へと叩き込んだこのシーン、アドリブです。どうかしてる。
なおわたしとしては、ドラマ本編も勿論そうなのですが、エド役のタイカ・ワイティティ氏が相方スティード役のリスさんのお誕生日に「Happy Birthday to my onscreen crush(スクリーン上での我が想い人どの、誕生日おめでとう)」とコメントを添えてこの写真を投稿していたのが、あまりにも分かられている感がすごくて絶望したのを覚えています。

●ケーキの材料
やっと本題だよ。
マンダロリアン飯のときとは異なり、今回は材料集めに苦労することはほぼなかったです。気にすべき点があるとすれば、レシピにもあるように生クリームの脂肪分ぐらいかなと思います。あとはオレンジコンフィ。コンフィといえば豚とか鴨でしょぐらいの感覚でいたのでオレンジでも作れるんだなあと謎の感心をしましたが、考えてみればコンフィとはフランス語で保存するという意味の動詞(confire)から来ていて、すなわち風味をキープしたまま長期保存できるよう油なり砂糖なりに浸したものということなのですね。
シロップ漬けの缶詰とかでも代用できなくはないのかなと思いましたが、我らが富澤商店でオレンジコンフィを発見したので、わたしはそちらを使いました。

ケーキを作って撮影しようの回

ケーキは時々作るのですが、家で消費するだけでそれを外に運ぶことがまずないので、ケーキ用の台紙に崩れ防止で留め金がついているものがあるのだと今回初めて知りました。便利ィ。
本当はケーキの作成過程も記録用に撮るつもりではありましたが、当日バタバタしていてその余裕が欠片もなかったため泣く泣く諦めました。また機会があれば。

そして撮りました。せっかくなのでスタジオで撮影したのですけれど、この週末、気温がとんでもなく高かったため、徒歩10分ほどの道のりかつ保冷剤てんこ盛りで運んだとはいえ、ガチガチに冷やしたグレーズもバタークリームも順調にゆるゆるしていきました(ので完成時はサンバさんの作例と同様の見た目だったんだけど、撮影時点ではすっかり溶けてゆるゆるしたケーキになった)、が、それ以外はいい感じでした。あとホイップクリームも諦めた。どう考えても運んでる間に移動中に溶けちゃうんだよな。

ゆるゆるオレンジコンフィ、すぐ倒れる

いい感じのスタジオでいい感じに撮ってもらいました。
成田さんには事前に映像をチェックしていただいて、スティードの船長室の中はどれぐらいの光量があるのか、色味はどんな感じか、などなど想定して撮ってくださいました。さすがなんだぞ。

これは昼
こっちは夜
シャンデリア越し!エモい!

撮影では、マンダロリアン飯の際にも手伝ってくださった絵師も召喚して一緒に見守ってもらいました。やったね。ひと通り撮影し終わったのちにケーキも頂きましたが、マンダロリアン飯とは結婚のち離婚した絵師もオレンジケーキとは無事結婚してくれました。おいしかったとのことで何よりです。

最後に頂いたアイシングクッキーを乗せてみた。

急に別のケーキになった…

「いきなりウェディング感出たね」「結婚…?」という戸惑いが一同の間で発生しましたが、ひとまず気にしないようにして撮影続行しました。

カモメが見ている

おわりに

ケーキ、バタークリームのこってり具合をいい感じに打ち消してくれるオレンジグレーズの風味が爽やかで美味でした。暑い季節にぴったり(ただし撮るのには向いてない)。わたしはレシピよりも砂糖控えめ&オレンジエッセンスを多めに入れて作りましたが、勿論レシピ通りでもおいしいと思います。それと、オレンジはレシピより気持ち多めに用意しておいてもいいかも。グレーズに使う用の生搾りオレンジがギリギリでした、わたしの搾り方が甘かっただけという可能性もあるけど。握力ないからな。あるいはアメリカのオレンジはもしかしなくても日本のものより大きいのかもしれない…。
いやでも本当においしかった。これが食事の席に出てくるリベンジ号、あまりにも海賊船として異質すぎるな??と実感しました。スティードどうかしてる。褒めてます。それとローチ、料理の才能がありすぎる。素敵な朝食セットもタパスもケーキもお手のものなシェフ、わざわざ海の上でなくても引く手数多なのではという気がするけども、一切の躊躇なく片手煙草で仲間の指を切り落とそうとするあたり、まあやっぱりなるべくして海賊になったんだろうな。

イラストを描いたり、文章を書いたり、コスプレをしたり、聖地巡礼したり、好きな作品に向けての表現方法はたくさんありますが、おやつやごはんもありだなとマンダロリアン飯に続いて今回ケーキを作ってしみじみ思いました。食べに行くのも良き、自分で錬成するのもまた良き。まあでもそんな理屈はさておき、おいしいケーキですので気になった方は是非!

余談

最後に、OFMDというドラマに対して個人的に感じるところを少しだけ記しておきたいと思います。ドラマ視聴済で興味のある方以外は読み飛ばしてくださって構いません。

OFMDはコメディとしても秀逸なドラマですが、何より多様性を認める、多様な状況を主要人物たちがただあるがままに受け入れている描写が評価されているのだと思います。
少し前にもある映画の同性愛描写で色々と意見が挙がっていましたが、実際のところ、わたしたちの目に留まらずとも(すなわち周囲の目を気にしなければならないという現状がそこにはある、ということでもありますが)どこにでも存在するもので、それ以上でも以下でもないのです。6月はプライド月間と称されますが、本来別に6月だからどうとかいうのではなく、5月だって7月だって本当は変わらないのです。
アメリカでOFMDが支持を集め、ムーンナイトすら抑えて7週連続でトップの人気を獲得するほどにヒットした要因のひとつはおそらくそこにあるでしょう。何よりドラマに勇気をもらって親にカミングアウトした、といったような感謝のツイートがいくつも俳優やプロデューサーたち宛で送られていることがその証です。
たとえば主要人物のひとりであるジムは、ノンバイナリーであることを公言する俳優さんが演じるノンバイナリーのキャラクターです(ジムがノンバイナリーであることは製作陣も役者も明言しています)。バイナリーとは二進数や二元論を意味していて、性自認の文脈で語られる場合は男性/女性、そこから転じてノンバイナリーは自らの性自認を男性にも女性にも当てはまらない、あるいは当てはめたくないという考え方を指します。
作中、ある出来事をきっかけに周囲の面々はジムを指し示す際、男性を示すheでも女性を示すsheでもなくtheyを用いるようになります。男女の区別がないtheyをノンバイナリーの人に向けた三人称単数とする使い方です(ただしtheyを使うからといってその人がノンバイナリーであるとも限りませんし、その逆も然りです)。ジム役の俳優さんも脚本を読んだときに驚いたそうです。ドラマの中でこの件に関するはっきりとした説明は成されません。皆当たり前にそう切り替えるのです。海賊黄金期の17〜18世紀にそんなのあり得ないというツッコミはなしです。
個人的には、日本で放映されるにあたり字幕や吹替ではどう表現されるのだろうと初見時から内心思っていましたが、いずれにしても日本語でこの差異を1ワードで明確に表すことはなかなかに困難であり、それに日本ではそもそもこのジェンダー代名詞という考え方が一般的に知られているわけでもないので、落とし込める日本語のワードがないというのは当然といえば当然かもしれません。日本語は元々主語抜きでも文章として成立しがちな言語ですから、代名詞に対する関心は英語等のスピーカーよりはおそらく薄いでしょう。ただこうした表現が多く使われている欧米の現状と、では果たして日本でも同様に使われるべきか、は必ずしもイコールではないであろうことも申し添えておきます。
いずれにせよ、OFMDはアメリカで作られたドラマですから、今現在のアメリカのありようが脚本の土台になっていると認識する必要があります。アメリカとはあまりにも文化背景や取り巻く状況が違う日本において、OFMDが日本でどのように受け入れられるのかは分かりません。笑える楽しいボーイズラブと取られるかもしれませんし、あるいは受け入れられないかもしれません。どちらが良い悪いという問題ではなく、ただひたすらにそれが我々に取っての現実なのだという話です。

OFMDの作り手たちは主役の二人、スティードとエドの物語をラブストーリーだと言い切っています。ブロマンスでなくロマンスだとも。これはとても重要なメッセージで、つまりそういうことなのです。彼らの恋に口を挟みたがる当て馬ポジションのキャラクターだって相手が同性だから文句を言っているわけではないし(もっとも当時の海賊たちにとってはさして珍しいことではなかったはずですが)、決して良いものとは言えなかった結婚生活から一方的に逃げ出した夫がそのあと男を愛したと知って取り乱す妻もこのドラマには登場しません。ありのままの姿を受け入れられて祝福される、そんなの現実と比べたら出来過ぎかもしれない、これほどまでにうまくいってたら苦労なんてしていない……、だけどそんな世界もあるんだよと見せてくれたことこそが、たとえそれがフィクションだったとしても、そこが日本でもアメリカでも地球上のどこかの国でも、きっと意義があるのかもしれないと思うのです。わたしはそう思いました。
ただ前言を翻すようですが、一足先にアメリカでの受容のされ方を眺めていてつくづく感じたのは、どんなスタンスであっても楽しめたならそれがそのひとにとっての受け止め方で、真実で、それ自体にはきっと正解も不正解もないということ。なので、これから日本でもたくさんの方々に見てもらって、OFMDの話がいっぱいできるようになったらいいなあと願っています。まずはどうやったら2人が幸せになれるかみんなで考えよう!?!!?

ともあれ、日本配信、おめでとうございます。シーズン2も楽しみにしています。


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