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単なる記録にとどまらない、「ドキュメント文化」をチームに根付かせるために。マイベスト、バクラク、Gaudiy、Featured Projectsのドキュメント活用事例を紐解く

ドキュメントツールの導入はチーム作業において必須だが、そのポテンシャルを最大限活用できているチームはそう多くないかもしれない。とりあえず議事録を貯めておくだけの箱となっていたり、蓄積された情報がほとんど参照されなかったりと、行き詰まりを感じているチームも少なくないのではないだろうか。

2024年5月、Featured Projects × Notion 共同企画として、創造性とコラボレーションをブーストさせてくれるプラットフォームとしてのNotionやドキュメント作りについて学ぶ全2回の連続イベント「Designing Documentation Culture」を開催。第1回はマイベスト Engineering Manager・佐藤 直人とFeatured Projects 共同代表・相樂 園香、第2回は株式会社LayerX バクラク事業部 事業開発・稲田 宙人と株式会社Gaudiy HR/PR・山本 花香が登壇した。

本記事では、情報設計の基本を学び、さまざまな企業・チームが実践するドキュメント活用のユースケースを深堀りしていったイベントの内容をダイジェストする。個人にとって役に立つドキュメントの活用法、そして会社のメンバー全員でドキュメントをつくり、育てる–––「ドキュメント文化」を構築する方法とは?


イベントの様子はYoutubeからご覧いただけます。(第1回第2回

なぜ組織にはドキュメント文化が必要なのか?その目的と運用時のポイント

組織に会社のメンバー全員でドキュメントをつくり、育てる「ドキュメント文化」。まずはその重要性について、株式会社LayerX バクラク事業部 事業開発・稲田 宙人が語った。

稲田「ドキュメント文化があることによって、会社経営・事業成長に貢献したい全ての人が同じ議論の土俵に立てるようになります。そのためのツールとして、ドキュメントがあります」

では、「同じ議論の土俵に立てるようになる」とはどういうことか。ドキュメント文化を構築することで期待される効果を稲田は4つ挙げている。

ドキュメント文化を構築することで期待される効果

①コミュニケーションコストを下げ、意思決定のスピード加速させる

議論の前提となる情報を事前に共有し、疑問解消を行うことで、会議の場を有効活用できる。
②組織内の拡大再生産・仕組み化が働く
営業の勝ちパターンなどを共有する場合に、伝達者によってニュアンスが変化してしまったり、忘却してしまったりする事態を防げる。
③セレンディピティーを呼び寄せる・車輪の再発明を妨げる
思考のデータベースとして思いつきを書き溜めておくと、見つけた人がコメントしてくれることがある。すると、気づけば悩みが解消されたり、誰かがこれまで検証してきたことを発見し同じ轍を踏むこと(=車輪の再発明)を防いだりすることができる。
④意思決定の質を上げる
ドキュメントは情報を構造化する必要があり、つくる労力がかかる。しかしだからこそ、曖昧な表現も流されてしまいがちな口頭共有とは異なり、つくる過程で検討漏れや情報不足が明確になる。ドキュメントは形になって残るため、アウトプットの担当者が当事者意識を持ちやすい。

そして、実際にドキュメントを運用する上での注意点は6つあるという。

①「ドキュメント」の定義にこだわりすぎない
ドキュメントをつくる目的に応じて書き残すべき内容は変わり、良いドキュメントの定義も変化する。NotionやGoogle Docsだけでなく、SlackやSaleseforceの入力内容も立派なドキュメントであるため、定義にこだわりすぎないことが重要である。
②ドキュメントは熱いうちに書く

人間の記憶力は貧弱であるため、時間が経ってから思い出して書くことは容易ではない。それゆえ、会議後5分でまとめる、といったことを徹底する。
③直接話した内容もドキュメント化する
Slackでのやりとりから、コミュニケーションを電話に切り替えることがある。その場合、他の人がSlackの情報を追いかけても結論までわかるように、直接話したこともテキストで残しておく。
④ドキュメント・情報の相互参照構造を構築する
ドキュメントは情報のハブであるべきである。ドキュメントを単体でつくるのではなく、相互参照構造を構築する必要がある。(例:Notionに情報をまとめることになったのならば、Notionをつくるきっかけとなった情報をSlackに貼る)
⑤結論だけでなくそこにたどり着くまでの経緯も残す
結論のみ書き残しておくと、過程でなされた議論が共有されないため、同じ轍を踏むことになりかねない。思考のショートカットができるように、検討して切り捨てた選択肢も含めて残しておく。
⑥ドキュメントは書いて終わりではなく育てていくもの
ドキュメントは書いて終わりではなく継続的にアップデートをしていくのが重要。とりわけ時間経過によって変わり得る情報に関しては、ドキュメント自体をアップデートしていかないと、誤った情報が組織内に伝達、まずいケースだとお客様や外部関係者に伝わってしまう可能性もある。

GitLabから学ぶ、ドキュメント文化のベストプラクティス

では、ドキュメント文化を構築するためにはいかなることに気をつければいいのだろうか。

おすすめ商品比較サービスのマイベスト Engineering Manager・佐藤 直人は、「こうすれば必ずうまくいく」という「銀の弾丸」はないと念を押したうえで、ベストプラクティスとして世界最先端のフルリモート組織・GitLabの事例から得られる学びを紹介した。

①「かすれたインクは鮮明は記憶に勝る」
・情報:「人間の記憶」よりも記憶が正確である
・伝達:ドキュメント化していなければ、本人に尋ねる必要がある。一方でドキュメント化していれば各自が検索が可能。もしくはリンクを共有することで済むため安易に伝達することができる
②ミーティングは必ず議事録を残す
<なぜ議事録を残す必要があるのか>
・参加していない人でも内容が確認できる
・認識の不一致が起こりにくい
・意思決定の透明性が担保される
<議事録の準備はミーティング前に徹底する>
・議事録にアジェンダを書く
・カレンダーに議事録を添付する
③デフォルトは公開設定
公開してなならないものを除き、誰でも必要な情報にアクセスできるように基本的には公開設定にしておく。公開してはいけないものは以下のSAFEフレームワークを参照。
<公開してはいけないものを定義するSAFEフレームワーク>
・Sensitive:センシティブ
・Accurate:正確な情報
・Finacial:財務情報
・Effect:影響
④SSoT(Single Source of Truth):信頼できる唯一の情報源
「最新正確な情報が一箇所にだけ存在する」状態をつくるようにする
・最新:四半期に一度など定期的に見直して更新する
・正確:誤りを見つけたら誰でも更新できる
・一箇所:ツールを統一する。もしくは、どこにどのような情報を書くかルールを定める

さらに、ドキュメント文化の構築に向けた重要なポイントを踏まえた「はじめの一歩」として、佐藤は以下の3点を挙げた。

①ミーティングの議事録を全て残してみる
議事録のテンプレートを作成し、議事録を作成してみる。
②個人メモで機能を試してみる
ボタンの押し間違いなど失敗したとしても誰にも迷惑がかからない。また、ノウハウを溜めることで自社内での活用イメージに繋がる。
③仲間を探して一緒に進める
一人で文化を構築するには限界があるため、共感してくれる仲間を探す。理想は定期的に勉強会を開催すること。

「繰り返し機能」や「投票機能」をフル活用:マイベストの事例

では、実際に登壇者のチームでは、どのようにドキュメントを使用しているのだろうか。本イベントでは、登壇者それぞれが、自社でどのようにドキュメントを活用しているのか事例を紹介した。

はじめにユースケースについて語ったのは、前段に引き続いて、マイベスト の佐藤。同社では主に4つの場面でドキュメントを活用しているという。

①社外公開用のブログ連載LP
マイベストではNotionを使って、社員であれば誰でも簡単に更新できるブログを運用している。社内で更新するとそのまま社外公開のページも更新されるため、更新漏れが発生することはない。
②議事録データベース
議事録は全ての部署が一括で見えるように表示し、部署などでフィルタリングすることで目当てのものを見つけやすいようにしている。定例はテンプレートを作成し、「繰り返し機能」により該当曜日に繰り返し自動生成されるよう設定している。
③デザイナー夕会
直近デザインした制作物を共有する場でNotionを用いているという。Figmaなどさまざまな他媒体を埋め込み、表示することができる。
④振り返り
話す内容が多いとき、👍ボタンを生成することで投票数に応じて話す優先度をつけている。

定例はテンプレートを作成し、「繰り返し機能」により該当曜日に繰り返し自動生成されるよう設定している。
👍ボタンを生成することで投票数に応じて話す優先度をつけている


情報の書き手と受け取り手を想像する:Featured Projectsの事例

続いてユースケースを紹介したのは、Featured Projects 共同代表の相樂 園香だ。

①企画書や定例のテンプレートをつくる
頻度高く使用する企画書や定例ミーティングのドキュメントはテンプレートを作成する
カスタムボタンでアジェンダの粒度を揃える
議論を円滑に進めるための観点や項目をカスタムボタンに設定しておくことで、誰でも粒度を揃えてアジェンダを持ってくることができる。
Portalでベースキャンプをつくる
全体像が把握できる場所をつくることで、目当てのものを探す際に迷うことが減る。
④ページの概要・問い合わせ先をコールアウトにて記載する
冒頭にページの概要・問い合わせ先を記載する。
同期ブロックで目指せSSoT(信頼できる唯一の情報源)
企画書のテンプレートや、参加者の異なる定例ミーティングで共有するプロジェクト進捗状況……などページは分けるが、同様の内容を記載する際、「同期ブロック」という機能が有用である。毎回人の手で更新作業をすると、人為的なミスが起こり得るが、同期ブロック機能を使えば、一箇所のみ編集すれば全てが一斉に更新される。
⑥ご案内をWeb公開すればSSoT?
登壇者に向けたご案内をメールで送ると、更新されたことに気づかずに古い情報を見てしまう可能性がある。Web公開のサイトを共有することで参照先が限定され、常に新しい情報にアクセスすることができる。
⑦ギャラリービューで鳥の目、虫の目
Featured Projects が主催するデザインフェスティバルに出展するクリエイターの一覧をギャラリービューという機能でまとめている相樂氏。ビジュアルで全体像をまとめつつ、詳細ページにはクリエイターの属性や進行状況を記載している。同じデータベースで簡単に行き来することができる点が使いやすいという。

コールアウト形式のブロックは「/call」で作成できる

誰でも情報にアクセスできるようにするために:LayerXの事例

次にユースケースを紹介したのは、LayerXの稲田。氏はLayerX社内でドキュメントを活用している場面と工夫について語った。

①全社共通のメモ・議事録DB
代表の思考メモ、特定のタスクに取り組むための検討メモ、個人ブログ用のメモ・思考の過程だとしても入れてもらっているという。個人のメモにヒントが隠されている可能性があるにもかかわらず、以前は個人でメモを持っているのみで検索できないことが多かったという。そこで、メモを一括にまとめるページとして「汎用メモDB」をつくった。
②社員名簿・自己紹介
ギャラリービューの形式で、社員名簿を作成している。
ニックネーム文化ゆえに顔とSlackの表記名が一致しないということが時々生じるというLayerX。ギャラリービュー形式で顔写真と名前を並べていることで、ミーティング前に確認することができる。
③プロジェクト管理・Issue/タスク管理
「課題・Issue・タスク」を一枚のページで分かるようにまとめている。全社共通にするよりもプロジェクトごとに作成する方が使いやすいという。
④社内報(月報・週報)
社内報をつくることが億劫になってしまう人も多い。この社内報では読んだ人から👍がもらえる形にすることで、書き手のモチベーションにつながっているという。

書き慣れていない人もドキュメント文化に巻き込む:Gaudiyの事例

最後に登壇したのは、株式会社Gaudiy HR/PR・山本 花香だ。Gaudiyでは、ドキュメンテーションに対する考え方として大事にしていることが4つあるという。

①きれいじゃなくてもドキュメントを残す人がえらい
②迷ったら共通データベースに放り込む
③読み手を想像して「思いやり」を持つ
④書いて終わりではなく、みんなで育てる
 
そのうえで、山本はGaudiyでの具体的な活用方法を語った。

①全社Portalで情報の地図を作成
Gaudiyでは全社向けの情報や各チームのメインページを集めたポータルサイトを作成している。週一で開催される全社定例の議事録に記載される「お知らせ」をPortalトップに同期。定例にて口頭で共有し、ストックとしてPortalで見返せるようにしているという。
②全社共通DBは「Knowledge」と「MeetingNote」の2つ
全社に関連するものでなくても、全ての「MeetingNote」を入れてもらっている。そして「Knowledge」はLayerX同様何でもOKで、全社共通DBに入れてもらうようにしている。
③事業部/機能別に個別ポータルを運用
事業部(「HR」「PR」など)の下に機能別(「リクルート」など)のPortalをつくっている。KnowledgeとMeetingNoteに該当するものはフィルタリングしてトップページに表示している。
④PRの事例:記事の設計〜管理まで同一DBで完結
記事設計のテンプレート、記事の下書き作成、発信カレンダーをNotionの同一DBにて行っている。
⑤記事設計テンプレートを複数用意
記事設計テンプレートを複数用意しており、Notionギャラリーにて公開している。
⑥個人が自由に使えるPlayGroundを用意
書き慣れていない人が全社共通DBに投稿する心理的ハードルを下げるために、雑多なメモ書きや個人用のPortalとしてPlay Groundを用意している。


それぞれの事例が紹介された後は、第1回、第2回ともに、イベントの終盤にゲストのプレゼンを元に深堀りするパネルトークも実施。「特定のメンバーしか書いていない」状況をいかに避けるか、ドキュメントをアップデートし続けるためにどのような工夫を凝らしているか……こうした話題について一層深堀りする議論が交わされた。

組織にドキュメント文化を根付かせることは容易ではない。だからこそ、ドキュメントの重要性に共感し、共に文化をつくろうと奮闘する“仲間”がいることは心強い支えになる。本イベントのような場もきっかけに、社内外にさまざまな“仲間”を増やし、ユースケースやノウハウを交換しながらドキュメント文化を構築していくことが肝要ではないか。

[企画・主催]Notion, Featured Projects
[執筆]並木里圭
[編集]小池真幸

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