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価値あることを「社内ボランティア」にしない - Automagic Podcast 感想
こんにちは!はのめぐみです。
先週末に「がんばっている活動をアクセシブルにしてほしい」というポッドキャストを聴きました。約1時間の会話の中にアクセシビリティ活動に関するアプローチのヒントがたくさん詰まっていて、とてもいいポッドキャストでした。
ここで語られていたことは、たしかに「アクセシビリティ」を文脈にした内容です。私が持った印象としては、「アクセシビリティ」はあくまで変数のひとつにしか過ぎず、あらゆる場面において応用可能な組織デザイン論のような気がしました。
ポッドキャストの要旨
「ひとりで頑張る」から「チームで取り組む」に至るまでに遭遇する様々な「壁」。それを乗り越えるためにどのようなプロセスをたどればいいのか。株式会社サイバーエージェントでウェブフロントエンドデベロッパーとして働く桝田草一さんをゲストに迎え、主催の長谷川恭久さんが番組を進行します。
課題
取り組みを簡単に始められても評価されるとは限らないので、下手をするとただのボランティアになってしまう。アクセシビリティ活動の商業的な投資価値も問われている。定量的な計測はどこまで可能なのか。
対個人
具体的な評価基準をつくり、取り組みに対してベネフィットが還元される体制をつくる。サイバーエージェント社では、2段階のスキルを設定。
1. 特別な実装コストをかけずに「当たり前品質」を担保できる
2. 能力に特性をもつ人や支援技術を必要とする人に対して品質を担保できる
対プロダクト
「守るべき質」のガイドラインを設け、基準を明示する。サイバーエージェント社ではアクセシビリティガイドラインを策定。サービスにおける基準(内部評価)が、WCAG (外部評価) においてどのレベルに達しているかを明文化。
- Ameba Accessibility Guidelines
- FRESH LIVE Accessibility Guidelines
対組織
取り組みを会社や事業レベルのビジョンやミッションに結び付ける。桝田さんは Airbnb の Belonging ( どこにでも居場所がある ) というビジョンをアクセシビリティにつなげた事例を紹介。さらに、桝田さんはサイバーエージェント社の企業理念、Ameba の「100年愛されるメディアをつくる」ビジョン、アクセシビリティ活動が地続きになっていると実感する。
結論
山の頂上がビジョンだとして、川が流れる先を意識する。職種を越えて「自分ごと化」できるためのストーリーをつくる。日々の業務と大きな意味での目的として「自分はなぜこの仕事をしているのか」の結びつきを感じられることが、主体性をもって取り組むうえで重要になる。
このポッドキャストを聴くためには「アクセシビリティとは何か」をある程度理解している必要があります。会話中に専門用語も出てくるので、全く知らない状態で聴くのは難しいかもしれません。ウェブアクセシビリティ基盤委員会の説明を読むと、アクセシビリティの概要がつかめると思います。
質を担保するための仕組み
アクセシビリティのようにエンジニアリングやデザインのスキルにも関わる場合、いずれはプロダクトの質の良し悪しにつながります。それは巡り巡ってユーザーやビジネスへのインパクト、サービスや会社のブランディングや風評にも関わることです。アクセシビリティだけでなく、質を担保する要素は他にもたくさんあります。
ガイドラインはメッセージ
チームやアサインされたメンバーによってアウトプットの質がバラバラになるのは防がないといけません。アクセシビリティに関しては、サイバーエージェント社ではガイドラインを策定して「守るべき質」の基準を明文化しているとのこと。
- Ameba Accessibility Guidelines
- FRESH LIVE Accessibility Guidelines
ざっと見ただけでも質の高さに驚きました。さすがサイバー...といった感じです。ガイドラインは公開していること自体が価値をもつと思います。こうしたガイドラインを策定することで、「アクセシビリティを重要視し、力を入れている」ことを内外に意思表示するメッセージになるからです。
評価基準の明示によって仕組み化する
サイバーエージェント社では、Web フロントエンドエンジニアに対してアクセシビリティに関する評価基準を2段階設けているとのことです。( デザイナに対しては分かりませんでした ) アクセシビリティを担保する実装を、特別なコストを掛けずに「普通に」できるようになることがまず第一ステップ。さらに、能力に特性のある人や支援技術が必要な人に対して情報が届くような実装ができることが第2ステップです。これらの評価は「そもそも人は様々なデバイス・環境で情報にアクセスする」ことを前提にしています。
ポッドキャストでは、評価基準をつくることで、アクセシビリティ活動に対して個人がベネフィットを享受できるという視点で語られていました。
仕組み化のメリットはそれだけではないと思います。仕組み化すると「めんどくさいと思っていてもそれに従わなければならない」強制力がはたらき、行動を規定します。結局上記にあげた実装ができない限り、エンジニアとして次のステップに進めないですから、必然的に個人レベルでのスキルアップにもつながります。個人のスキル面での成長は、プロダクトの質向上に還元されます。
それは抑えつけるための強制力ではなく「我々が考える理想のエンジニア像」を個人に対してきちんと明示し、ナビゲートする役割だと思っています。評価基準があれば、1on1 でマネージャーと振り返りもしやすいので「自分は今どの地点にいるのか」「何が課題で何ができているのか」がクリアになるでしょう。
特に、こういった基準は新卒などの「これからの人」に対して特に有効な気がしました。覚えることはたくさんあるし、先輩やマネージャーからは日々レビューとフィードバックの嵐のはずです。何をどういう順番で、どんな方法で学べばいいのか分からなくなるときもあります。そういったときに「次のステップに進むにはこれらの項目をクリアすればよい。アクセシビリティはそのうちのひとつだ」という道標があるだけでも心持ちは変わってくると思います。
自分ならどうする?
ここまで散々わかったような口で書いてきましたが、私はマネージャーでも何でもありません。誰かをマネジメントした経験もなければ、評価基準をつくったこともありません。あくまでチームに属するデザイナの1人です。
なぜガイドラインと評価基準に注目したかというと、私がもっているデザインや Web フロントエンドのテクニカルスキルが、自分の中に閉じているのではないか...と日々の業務を通して思うことがあるからです。
チーム事情を少し書いておくと、私が所属する「デザイン戦略部」は様々な出自のメンバーで構成されています。その中でデザイナを本業として活動してきたのは私ひとりです。エンジニアリングチームには、Web フロントエンドを専門スキルとするメンバーがいません。
他のメンバーのアウトプットに対するレビューを通して気づいたのは、わたしの当たり前は、他人の当たり前ではないということです。質を担保するために自分が自然にやっていることでも、他の人には思わぬ知見になりうることだったり、課題が課題として認識されていないこともあります。
プロダクトの質を担保する基準や「我々が考える理想のデザイナ像」が社内で明文化されているわけではないので、「守るべき質」が誰にとってどんな価値があるのか、チーム内で共有する時間が必要かもしれません。
一方で、必要だと思って時間をかけてやっていることが、本当に誰かのためになっているのか分からなくなるときがあります。単なる自分ルールになってはいないか、必要性がマネージャー含めてデザインチーム内で認識されているのか。例えばエンジニアにデザインを共有するときに仕様書もセットで渡すのですが、どの程度まで精度高くすべきかはルール化されていないので、各デザイナごとにプロセス含めてアウトプットの方法が異なるのです。
ガイドラインと評価基準という形で、重要性が個人単位で十分に自分ごと化され、ベネフィットとして還元されるような仕組みがあれば、解決できるのかもしれません。
「自分ごと化」できるストーリーを作るには?
山の頂上がビジョンだとして、川が流れる先を意識する。職種を越えて「自分ごと化」できるためのストーリーをつくるのが大事だといいます。意思決定に関わる人や、隣の席の同僚との対話のアプローチとして「自分だったら何を意識するだろう」と考えてみました。
仮に筋の通ったストーリーを作ったとして、その先にある共感や納得感が得られないと、人の心を動かすのは難しい気がします。
乱暴な言い方をすると、アクセシビリティはそれを必要とする人以外にはどうしても「他人事」になりがちです。例えば、色覚特性を持たない人にとって、特性を持つ人が見ている世界や肌感覚を完璧に理解することは不可能です。人は自分が体験したことの範囲でしか物事を考えられないのです。
「“リサーチなし”ではじめるUXデザイン」という記事に、チームに自分ごと化をインストールするためのヒントが UX デザイン観点でまとめられていました。
1. ユーザーと似たような体験をしたことがないかを問う
2. (ユーザーと同じ)体験してみる
3. 魔法のコトバをチームにかけ続ける
「似たような体験をしたことないですか?」
「そのとき自分だったらどうしてほしかったですか?」
アクセシビリティを例にすると、「情報にアクセスするのが困難な状況」は色覚などの能力による特性以外にも、通信環境や言語の壁などが要因でたくさん起こります。必要な情報を得られないときの不安感やいらだちといった肌感覚が共有できれば、自分ごと化しやすくなると思います。
まずはオープンにすることから始める
記事途中で、「自分のスキルが内に閉じているのではないか」と書きました。みんなが納得できるストーリーを作ったり、評価基準をつくるのはもちろん大事なことですが、それにはたくさんの人の協力と時間が必要です。
サイバーエージェント社のような素晴らしい取り組みを見ていると、どうしても「自分の会社でもやりたい!」と思ってしまいます。他社事例を鵜呑みにして理想化するのはよくあることで、「自社やチームにとって最適な方法は何か?」「明日から自分ができることは何か?」を問いかける姿勢は常に忘れないようにしたいです。
番組の終盤で、個人レベルで取り組めるアクセシビリティ活動として「隣の人に声をかけてみる」をやってみようと桝田さんがおっしゃっていました。
「ちょっと何かをやった」を自分のなかで抱え込むと、誰もアクセスできない。それをオープンにすることが、アクセシビリティをやりたい人にとっての勇気やモチベーションにつながる。
「声をかける」は比喩として捉えれば良くて、大事なのは自分がやりやすい方法でオープンにしていくことです。どんなに課題意識を持っていたとしても、それを発信しないと何も始まりません。Slack のフリートークチャンネルに投稿してもいいですし、朝会のちょっとした雑談で話題にするのもいいです。note に書いて情報発信するのもいいかもしれません。
会話だけだと話したことで満足してしまって流れてしまうので、個人的には「みんなの目が届くところで文字情報として記録が残る」方法がいいなと思っています。
まずは自分の思考や活動をアクセシブルにすることが第一歩ですね。
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