【怖い話】掲示板の話
掲示板、というと最近はネット上の電子掲示板を当たり前のように思い浮かべる人が多いかも知れない。
最近になってきてめっきり情報量は減ったが、街にあるアナログな掲示板を利用する人はいまだにいる。
よくある掲示物としては地元のピアノ教室の生徒募集の張り紙、◯◯の会のメンバー募集、あとは選挙ポスターが一番見かける人が多いかもしれない。
いずれにせよ人を集めるための機能として、人に見られるための機能としてそれは今でも現存している。
自分の住んでいた名古屋のとある地域にも掲示板があった。
その町内では習い事教室や、グループ・サークルなどの活動が盛んだったのか掲示板にはいつも何がしかの張り紙が貼ってあったのを覚えている。
例に漏れずピアノ教室の生徒募集、選挙ポスター、変わり種だとゲームクラブなるものを募集しているという張り紙が半紙に達筆でサラリと書いてあったりと見ている分にも中々楽しかった。
出勤途中の道に掲示板はあったため、必ず毎日見ることになる。
知らず知らずのうちに見ることが楽しみにもなっていたし、日課にもなっていた。
その日も確か出勤の途中で掲示案を見たのだと思う。
自分は自転車での出勤だったのでマジマジと見る、というのではなく走りながら掲示板の前を通りがかるときに減速して少し見る、というのが決まったパターンではあった。
減速してチラリと見る。すると、いつも見た掲示の中に混じって少し異質なものが混じっていた。
それはチラシとして印刷されたとはとてもじゃないけれども思えない、A4ぐらいのサイズ感のコピー用紙に明らかにボールペンで書かれた様に思えた。
「さがさないでください」
まるで子供が初めて覚えた言葉を練習のため気まぐれに書いたのかのようにひらがなで、決して丁寧とは言えない筆跡で紙のど真ん中に少し小さめの文字で、書いてあった。
大小さまざまの貼り紙はある程度乱雑に、しかし秩序を持って貼ってある中にそれは右下の端に角を合わせて几帳面にきっちりと貼ってある。
毎日のように掲示板は見ていたがそれがいつからあるのかは分からなかった。
「さがさないでください」
掲示板に貼るにしても異様な文言ではある。
迷子の犬や猫を探す張り紙の文言にある「探しています」のように、何かを探しているから貼り紙をするのが大半のケースだ。
にもかかわらず、この貼り紙は「さがさないでください」とある。
仮にもし本当に「さがさないでください」であれば、貼り紙などはしないだろう。
異様、その一言だった。
その文言がひらがなで書いてある、というのも異様さに拍車をかけていた。
何を意図して掲示されたものか全くわからない。
それを見つけた日から、その貼り紙を観察するのが日課になってしまった。
といっても掲示板を毎日流し見するのに付け加えてそのA4の紙にちょっと注意を向ける、程度のものではあるが。
その日も出勤の途中に掲示板を見ていた。
随分と天気が良く、あぁ雨上がりだからなぁなんてことを思っていた。
前日の雨の影響を受けてか掲示物が随分と濡れていた。中には破れかかったものやインクが滲んで内容がわからないものさえあった。
随分ひどい雨だったことを思い出す。雨音が部屋にそこそこの音量で響くくらいにはひどい雨だった。
A4の紙の方に半ば無意識に目をやると、その紙はいつもと変わらずそこにあった。
あー今日もあるなぁなんてことを思いながら自転車で通り過ぎる。
信号待ちで止まった時に何気なく先程の掲示板を思い返す。
あの貼り紙、そういや全く濡れてなかったよな
そんなことを思った。
その後、職場から転勤の辞令を受けとある県に移った。
引越し先は古い街並みが残る場所で、空気も柔らかくとても気持ちのいい場所だった。
それに呼応してか人も柔らかい空気感で、住むには本当に居心地がいい。
とある日、通勤に使っている自転車がパンクを起こしてしまい、立ち行かなくなったので家のすぐそこにある自転車屋に持っていって直してもらう運びになった。
持っていくと、15分ほどで直るとのことだったので店のすぐ横のタバコ屋でタバコを吸って待つことにした。
そのタバコ屋は道路の丁度角にある店ですぐ前が横断歩道になっていた。
タバコに火をつけ無心で吸っていると、丁度横断歩道を挟んだ向こう側に地域の掲示板が見えた。
あーそういえばおかしな掲示板が向こうであったっけなぁ、となんとはなくぼーっと見ているとひとつ、目に止まったものがあった。
白い、A4ぐらいの紙が掲示板のど真ん中に貼ってある。
一瞬どきり、と心臓が大きく脈打った
こんなことあるのか?としか思えなかった。
タバコを吸いながらなるべく下を向いてそれを見ないようにしていた。
何故かはわからないが、あまりまじまじと見てはいけないと思ったからだ。
しかし、気になるものは気になる。
タバコの煙に目を隠しながら薄目でしっかりと見てみる。
そこにはたぶん、同じ筆跡で紙の真ん中に大きく書いてあった。
「なんで?」
そこから掲示板は見ていない。