風そよぐならの小川の夕ぐれはみそぎぞ夏のしるしなりける 吉海直人(1953- )『百人一首を読み直す 2 言語遊戯に注目して』新典社 2020年9月刊 「第十九章 従二位家隆歌(九八番)の「夏のしるし」に注目して」『解釈』第63巻9・10号 2017年10月
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して
新典社選書 97』
新典社 2020年9月刊
312ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4787968475
2021年6月18日読了
福岡市総合図書館蔵書
「第十九章
従二位家隆歌(九八番)の「夏のしるし」に注目して」
p.293-305
『解釈』第63巻9・10号 2017年10月
風そよぐならの小川の夕ぐれはみそぎぞ夏のしるしなりける
新勅撰和歌集 巻第三 夏歌 192(巻軸歌)
寛喜元年[1229]女御入内屏風
「最初に家隆歌の本歌とされている『拾遺集』神楽歌の、
みそぎする今日唐崎におろす網は神のうけひくしるしなりけり
拾遺和歌集 巻第十 神楽歌 595
平祐挙
粟田右大臣家の障子に、からさきに祓したる所にあみひくかたかける所
をあげておきたい。」
p.296「二 勅撰集の「季節+しるし」の用例」
「従来は『古今六帖』所収の、
みそぎするならの小川の川風に祈りぞわたる下に絶えじと
古今和歌六帖 第一冊 歳時 118 八代女王[やしろのおおきみ 生没年未詳 聖武天皇嬪]
[新古今和歌集 巻第十五 恋歌五 1376]
及び『後拾遺集』所収の、
夏山の楢のはそよぐ夕暮はことしも秋の心地こそすれ
後拾遺和歌集 巻第三 夏歌 231
源頼綱
俊綱朝臣のもとにて、晩涼如秋といふこゝろをよみ侍りける
の二首が本歌としてあげられていたが、
この歌から「夏のしるし」という表現は出てこない。」
p.304「注(2)」
「ここでは必ずしも夏の訪れが歌われているのではなく、
むしろ秋の訪れが主題になっている。
まだ暦の上では夏(晩夏)なのに、
夕暮れに吹く涼しい風に秋(初秋)の訪れを察知している
ことが眼目であった。この発想は『古今集』の、
秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる
古今和歌集 巻第四 秋歌上 169
藤原敏行朝臣 秋立つ日よめる
を踏まえていると見て間違いあるまい。
その上で視覚と聴覚・触覚のずれを問題にし、
あえて「夏のしるし」を表出することで、
かえって秋の到来を看守させている。
率直に「秋のしるし」とせず、
ひねって「夏のしるし」と表現した点こそ、
家隆歌の巧みさ・斬新さといえそうだ。
従来は定家が『明月記』に
「今度歌頗非秀歌」とか
「今度宜歌唯六月祓計尋常也」
と記していることに引きずられて、
この歌の斬新さに
思いが及ばなかったことを反省したい。」
p.302「四 「秋のしるし」について」
「あまり待ち望まれない季節である
「冬のしるし」など勅撰集に一首も詠まれておらず、
「夏」にしても勅撰集は当該歌一例だけであった。
そういった季節の推移表現の中で家隆歌は
秋の到来を主題とせず、
あえて夏の残像に目を向け、
それを「夏のしるし」と表現した。
これには定家も驚いたことだろう。
だからこそ望まれない
「夏のしるし」表現が可能なわけで、
まさしく本歌取りの技巧の成功例といえる。」
p.303-304「五 まとめ」
「第一章
天智天皇「秋の田の」歌(一番)を読み解く」
『日本語学』2017年6月号(第36巻6号)
https://note.com/fe1955/n/n586a12682eab
「第二章 「白妙の」は枕詞か
持統天皇歌(二番)と山辺赤人歌(四番)の違い」
https://note.com/fe1955/n/n62266db52edf
「第三章
柿本人丸歌(三番)の「ひとりかも寝ん」の解釈」
https://note.com/fe1955/n/n0ba90ea3e6c6
「第四章
柿本人丸歌(三番)の「長々し」の特殊性」
https://note.com/fe1955/n/n8a17ee829b0e
「第五章
大伴家持「かささぎの」歌(六番)を待恋として読む」
https://note.com/fe1955/n/n4f431d990faa
「第六章
阿倍仲麻呂「天の原」歌(七番)の再検討
https://note.com/fe1955/n/n33fa91b5395e
「第七章
在原行平「立ち別れ」歌(一六番)の新鮮さ」
https://note.com/fe1955/n/n1e1c79d9cfff
「第八章 在原業平歌(一七番)の
「ちはやぶる」幻想 清濁をめぐって」
https://note.com/fe1955/n/ncf668d55a127
「第九章 在原業平歌(一七番)の
「水くぐる」再考」
https://note.com/fe1955/n/nd7cbc56bb2ef
「第十章
素性法師歌(二一番)の「長月の有明の月」再考」
https://note.com/fe1955/n/n0cd814798890
「第十一章『百人一首』の「暁」考
壬生忠岑歌(三〇番)を起点にして」
https://note.com/fe1955/n/nf5c13c161a9f
「第十二章
紀友則歌(三三番)の「久方の」は「光」にかかる枕詞か?」
https://note.com/fe1955/n/na4105dc83b68
「第十三章
清原元輔歌(四二番)の「末の松山」再検討
東北の大津波を契機として」
『古代文学研究』第二次23 2014年10月
https://note.com/fe1955/n/nb4ff7c92d48c
「第十四章
藤原公任
「滝の音は」歌(五五番)をめぐって
西行歌からの再検討」
https://note.com/fe1955/n/n3b8dec0bafab
「第十五章
小式部内侍
「大江山」歌(六〇番)の掛詞再考」
https://note.com/fe1955/n/n16dc1cc3dbeb
「第十六章
清少納言歌(六二番)の
「夜をこめて」再考証」
『日本文学論究』79 2020年3月
https://note.com/fe1955/n/nf6a845025e47
「第十七章
俊恵法師歌(八五番)の
「閨のひま」再考」
『解釈』第66巻3・4号 2020年4月
https://note.com/fe1955/n/nfda49d0f8bf2
「第十八章
参議雅経歌(九四番)の「さ夜更けて」の掛詞的用法」
https://note.com/fe1955/n/nd0476d50dc9f
「第十九章
従二位家隆歌(九八番)の「夏のしるし」に注目して」
初出一覧
後書き
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す』
新典社 2011年5月刊
262ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4787967916
https://www.facebook.com/tetsujiro.yamamoto/posts/796282843779690
吉海 直人(よしかい なおと)
1953年長崎県生まれ
同志社女子大学表象文化学部日本語日本文学科特別任用教授
https://www.dwc.doshisha.ac.jp/talk/japanese/detail01/
吉海直人さんの本を読むのは7冊目です。
読書メーター
吉海直人の本棚(登録冊数7冊 刊行年月順)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091377
百人一首の本棚(登録冊数13冊)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091294
和歌の本棚(登録冊数57冊) https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091215
https://note.com/fe1955/n/n586a12682eab
秋の田のかりほの庵(いほ)の苫をあらみ我が衣手は露にぬれつつ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第一章 天智天皇
「秋の田の」歌(一番)を読み解く」p.15-24
『日本語学』2017年6月号(第36巻6号)
https://note.com/fe1955/n/n62266db52edf
春すぎて夏来にけらししろたへの衣ほすてふ天の香具山
田子の浦にうち出でてみれば白妙の富士の高嶺に雪はふりつつ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第二章 「白妙の」は枕詞か
持統天皇歌(二番)と山辺赤人歌(四番)の違い」
https://note.com/fe1955/n/n0ba90ea3e6c6
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝ん
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第三章 柿本人丸歌(三番)の
「ひとりかも寝ん」の解釈」
https://note.com/fe1955/n/n8a17ee829b0e
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝ん
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第四章 柿本人丸歌(三番)の
「長々し」の特殊性」
https://note.com/fe1955/n/n4f431d990faa
かささぎのわたせる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第五章 大伴家持
「かささぎの」歌(六番)を待恋として読む」
https://note.com/fe1955/n/n33fa91b5395e
天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出でし月かも
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第六章 阿倍仲麻呂
「天の原」歌(七番)の再検討 上野[誠]論を起点として」
https://note.com/fe1955/n/n1e1c79d9cfff
立別れいなばの山の峯におふるまつとし聞かば今帰り来む
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第七章 在原行平「立ち別れ」歌(一六番)の新鮮さ」
https://note.com/fe1955/n/ncf668d55a127
ちはやふる神代も聞かず竜田川から紅に水くぐるとは
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す 2
言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第八章 在原業平歌(一七番)の「ちはやぶる」幻想
清濁をめぐって」p.97-113
『同志社女子大学大学院文学研究科紀要』17
2017年3月
https://note.com/fe1955/n/nd7cbc56bb2ef
ちはやふる神代も聞かず竜田川から紅に水くぐるとは
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第九章
在原業平歌(一七番)の
「水くぐる」再考 森田論を受けて」
https://note.com/fe1955/n/n0cd814798890
今来むといひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十章 素性法師歌(二一番)の「長月の有明の月」再考」
https://note.com/fe1955/n/nf5c13c161a9f
有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十一章『百人一首』の「暁」考
壬生忠岑歌(三〇番)を起点にして」
『同志社女子大学大学院文学研究科紀要』13
2013年3月
https://note.com/fe1955/n/na4105dc83b68
久方の光のどけき春の日に静(しづ)心なく花の散るらむ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十二章 紀友則歌(三三番)の
「久方の」は「光」にかかる枕詞か?」
『解釈』683集(第61巻3・4号)
2015年4月
https://note.com/fe1955/n/nb4ff7c92d48c
契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山波こさじとは
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十三章 清原元輔歌(四二番)の
「末の松山」再検討 東北の大津波を契機として」p.179-199
『古代文学研究』第二次23 2014年10月
https://note.com/fe1955/n/n3b8dec0bafab
滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなを聞こえけれ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十四章 藤原公任
「滝の音は」歌(五五番)をめぐって 西行歌からの再検討」
https://note.com/fe1955/n/n16dc1cc3dbeb
大江山いく野の道の遠ければふみもまだ見ず天橋立
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十五章 小式部内侍
「大江山」歌(六〇番)の掛詞再考
浅見論を契機として」
p.213-236
『古代文学研究』第二次 28
2019年10月
https://note.com/fe1955/n/nf6a845025e47
夜をこめて鳥の空音にはかるともよに逢坂の関はゆるさじ
吉海直人(1953- )『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十六章 清少納言歌(六二番)の
「夜をこめて」再考 小林論の検証」
『日本文学論究』79 2020年3月
https://note.com/fe1955/n/nfda49d0f8bf2
よもすがら物思ふ頃は明けやらぬ閨のひまさへつれなかりけり
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十七章 俊恵法師歌(八五番)の
「閨のひま」再考」
『解釈』第66巻3・4号 2020年4月
https://note.com/fe1955/n/nd0476d50dc9f
み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第十八章 参議雅経歌(九四番)の
「さ夜更けて」の掛詞的用法」p.279-291
『解釈』第61巻9・10号 2015年10月
https://note.com/fe1955/n/nce8e9a0c3675
後鳥羽院(1180.8.6-1239.3.28)
『新日本古典文学大系 11
新古今和歌集』
田中裕・赤瀬信吾校注
岩波書店 1992.1
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
『後鳥羽院 第二版』
筑摩書房 2004.9
『後鳥羽院 第二版』
ちくま学芸文庫 2013.3
https://note.com/fe1955/n/n8dfcbf3d6859
式子内親王(1149-1201)
田渕句美子(1957- )
『新古今集 後鳥羽院と定家の時代(角川選書)』
角川学芸出版 2010.12
『異端の皇女と女房歌人 式子内親王たちの新古今集』
KADOKAWA(角川学芸出版) 2014.2
平井啓子(1947- )
『式子内親王(コレクション日本歌人選 010)』
笠間書院 2011.4
馬場あき子(1928.1.28- )
『式子内親王(ちくま学芸文庫)』
筑摩書房 1992.8
https://note.com/fe1955/n/n47955a3b0698
後鳥羽院宮内卿
(ごとばのいんくないきょう、生没年不詳)
『新日本古典文学大系 11
新古今和歌集』
田中裕・赤瀬信吾校注
岩波書店 1992.1
https://note.com/fe1955/n/n34d98221cddf
たとへば君 ガサッと落葉すくふやうにわたしを攫つて行つては呉れぬか
永田和宏(1947.5.12- )
『あの胸が岬のように遠かった
河野裕子との青春』
新潮社 2022年3月刊
318ページ
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