今来むといひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな 吉海直人(1953- )『百人一首を読み直す 2 言語遊戯に注目して』新典社 2020年9月刊 「第十章 素性法師歌(二一番)の「長月の有明の月」再考」
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して
新典社選書 97』
新典社 2020年9月刊
312ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4787968475
2021年6月18日読了
福岡市総合図書館蔵書
「第十章
素性法師歌(二一番)の
「長月の有明の月」再考」p.127-137
今来むといひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな
古今和歌集 巻十四 恋歌四 691
素性法師(そせいほうし 生年不詳-910?)
平安時代前期から中期にかけての歌人・僧侶。
桓武天皇の曾孫。遍照(良岑宗貞)の子。
古今集初出(入集三十六首、歌数第四位)。
新古今二首。勅撰入集計六十三首。
「これまで百人一首は、
出典たる勅撰集に遡って解釈されることが多かった。
それが勅撰集の入門書たる百人一首の享受のあり方ともいえる。
それに対して
島津忠夫氏[1926.9.18-2016.4.16]は、
百人一首の歌を勅撰集に戻すのではなく、
定家がどのように解釈しているか
を考えるべきだとの立場を主張された。」
p.130「一 問題提起」
「[「有明の月」は]
古典の用例では明け方ではなく、
暗い夜空に月が出ていることを指す方が多い。
空が暗いからこそ
「有明の月」が印象的に見えるからである。
男女の後朝の別れの時間帯である、暁の暗い時間。
古典の明け方は真っ暗な午前三時を指す例が少なくない。」
p.130-132「二 「有明の月」について」
長月 陰暦九月
https://ja.wikipedia.org/wiki/9月_(旧暦)
「勅撰集で「長月の有明の月」を
最初に詠じたのは素性で、
「長月の有明の月」を恋歌に用いているのも、
勅撰集では素性の歌が最初のようである。
通常の後朝の別れではなく、来ない男を待つ恋なので、
この場合の月は、待っている男は来ないで、
(待ちもしていない)「有明の月」が出てきたという意味だ。
月の出の遅い「有明の月」は、
もはや男の訪れる時間が過ぎた
(男はもう来ない)ことを察知させる。」
p.135-136「四 まとめ」
「「九月」ではなく「長月」という表記にこそ意味があり、
「長い」夜を待ち明かしたという掛詞としての技法が内包されている。
「長月」掛詞説はもっと一般化されるべきであろう。
おそらく定家は、『古今集』ならぬ百人一首において、
「長月」を掛詞と考えていたと思われるからである。」
p.136-137
「百人一首研究の指針として、
島津忠夫[1926.9.18-2016.4.16]氏の影響を多大に受けた私は、
島津氏の尻馬に乗って撰者藤原定家の解釈を重要視して研究を続けてきた。
百人一首は出典である勅撰集の解釈を受け入れるのではなく、
百人一首独自の解釈を模索すべきだと考える。」
p.117-118
「第九章 在原業平歌(一七番)の「水くぐる」再考
森田論を受けて」
「島津氏は定家の解釈を知る手段として
『顕註密勘』を最大限に活用されていた。
そこには確かに定家の説が書かれているのだが、
それはあくまで『古今集』の注釈でしかなかった。
一方で『古今集』と百人一首の違いをあげていながら、
『古今集』の注釈である『顕註密勘』によって、
それを定家の説として百人一首に応用するのは
詭弁ではないのかと思っていた。
もちろんそれ以外に定家の説は見当たらないので、
島津氏もそれを承知の上で
便宜的に活用されていたはずである。」
p.119-120
「水くぐる」論では初めて島津先生の論に異を唱えてみた。
先生がまだご健在の時にお見せできていれば、
と悔やまれてならない。」
p.310「後書き」
目次
はじめに
第一章
天智天皇「秋の田の」歌(一番)を読み解く
第二章
「白妙の」は枕詞か 持統天皇歌(二番)と山辺赤人歌(四番)の違い
第三章
柿本人丸歌(三番)の「ひとりかも寝ん」の解釈
第四章
柿本人丸歌(三番)の「長々し」の特殊性
第五章
大伴家持「かささぎの」歌(六番)を待恋として読む
第六章
阿倍仲麻呂「天の原」歌(七番)の再検討 上野論を起点として
第七章
在原行平「立ち別れ」歌(一六番)の新鮮さ
第八章
在原業平歌(一七番)の「ちはやぶる」幻想 清濁をめぐって
第九章
在原業平歌(一七番)の「水くぐる」再考 森田論を受けて
第十章
素性法師歌(二一番)の「長月の有明の月」再考
第十一章
『百人一首』の「暁」考 壬生忠岑歌(三〇番)を起点にして
第十二章
紀友則歌(三三番)の「久方の」は「光」にかかる枕詞か?
第十三章
清原元輔歌(四二番)の「末の松山」再検討 東北の大津波を契機として
第十四章
藤原公任「滝の音は」歌(五五番)をめぐって 西行歌からの再検討
第十五章
小式部内侍「大江山」歌(六〇番)の掛詞再考 浅見論を契機として
第十六章
清少納言歌(六二番)の「夜をこめて」再考 小林論の検証
第十七章
俊恵法師歌(八五番)の「閨のひま」再考
第十八章
参議雅経歌(九四番)の「さ夜更けて」の掛詞的用法
第十九章
従二位家隆歌(九八番)の「夏のしるし」に注目して
初出一覧
後書き
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す』
新典社 2011年5月刊
262ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4787967916
https://www.facebook.com/tetsujiro.yamamoto/posts/796282843779690
吉海 直人(よしかい なおと)
1953年長崎県生まれ
同志社女子大学表象文化学部日本語日本文学科特別任用教授
https://www.dwc.doshisha.ac.jp/talk/japanese/detail01/
吉海直人さんの本を読むのは7冊目です。
読書メーター
吉海直人の本棚(登録冊数7冊 刊行年月順)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091377
百人一首の本棚(登録冊数13冊)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091294
その半分7冊は吉海直人さんです。
https://note.com/fe1955/n/n586a12682eab
秋の田のかりほの庵(いほ)の苫をあらみ我が衣手は露にぬれつつ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第一章 天智天皇
「秋の田の」歌(一番)を読み解く」p.15-24
『日本語学』2017年6月号(第36巻6号)
https://note.com/fe1955/n/n62266db52edf
春すぎて夏来にけらししろたへの衣ほすてふ天の香具山
田子の浦にうち出でてみれば白妙の富士の高嶺に雪はふりつつ
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第二章 「白妙の」は枕詞か
持統天皇歌(二番)と山辺赤人歌(四番)の違い」
https://note.com/fe1955/n/n0ba90ea3e6c6
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝ん
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第三章 柿本人丸歌(三番)の
「ひとりかも寝ん」の解釈」
https://note.com/fe1955/n/n8a17ee829b0e
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝ん
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第四章 柿本人丸歌(三番)の
「長々し」の特殊性」
https://note.com/fe1955/n/n4f431d990faa
かささぎのわたせる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第五章 大伴家持
「かささぎの」歌(六番)を待恋として読む」
https://note.com/fe1955/n/n33fa91b5395e
天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出でし月かも
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第六章 阿倍仲麻呂
「天の原」歌(七番)の再検討 上野[誠]論を起点として」
https://note.com/fe1955/n/n1e1c79d9cfff
立別れいなばの山の峯におふるまつとし聞かば今帰り来む
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第七章 在原行平「立ち別れ」歌(一六番)の新鮮さ」
https://note.com/fe1955/n/ncf668d55a127
ちはやふる神代も聞かず竜田川から紅に水くぐるとは
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す 2
言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第八章 在原業平歌(一七番)の「ちはやぶる」幻想
清濁をめぐって」p.97-113
『同志社女子大学大学院文学研究科紀要』17
2017年3月
https://note.com/fe1955/n/nd7cbc56bb2ef
ちはやふる神代も聞かず竜田川から紅に水くぐるとは
吉海直人(1953- )
『百人一首を読み直す
2 言語遊戯に注目して』
新典社 2020年9月刊
「第九章
在原業平歌(一七番)の
「水くぐる」再考 森田論を受けて」
https://note.com/fe1955/n/nce8e9a0c3675
後鳥羽院(1180.8.6-1239.3.28)
『新日本古典文学大系 11
新古今和歌集』
田中裕・赤瀬信吾校注
岩波書店 1992.1
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
『後鳥羽院 第二版』
筑摩書房 2004.9
『後鳥羽院 第二版』
ちくま学芸文庫 2013.3
https://note.com/fe1955/n/n8dfcbf3d6859
式子内親王(1149-1201)
田渕句美子(1957- )
『新古今集 後鳥羽院と定家の時代(角川選書)』
角川学芸出版 2010.12
『異端の皇女と女房歌人 式子内親王たちの新古今集』
KADOKAWA(角川学芸出版) 2014.2
平井啓子(1947- )
『式子内親王(コレクション日本歌人選 010)』
笠間書院 2011.4
馬場あき子(1928.1.28- )
『式子内親王(ちくま学芸文庫)』
筑摩書房 1992.8
https://note.com/fe1955/n/n47955a3b0698
後鳥羽院宮内卿
(ごとばのいんくないきょう、生没年不詳)
『新日本古典文学大系 11
新古今和歌集』
田中裕・赤瀬信吾校注
岩波書店 1992.1
https://note.com/fe1955/n/n34d98221cddf
たとへば君 ガサッと落葉すくふやうにわたしを攫つて行つては呉れぬか
永田和宏(1947.5.12- )
『あの胸が岬のように遠かった
河野裕子との青春』
新潮社 2022年3月刊
318ページ