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鹿児島キャンプリポート前編「トレーニングマッチから見えてきたもの」

J3優勝、そしてJ2昇格を目指して、2024シーズンがいよいよ動き出しました。新たに服部年宏監督が率いるFC今治は、いったいどのようなサッカーで勝利をつかみ、目標を達成しようとしているのか。1月27日から2月4日まで行われた鹿児島キャンプを取材してきました。リポート前編は、キャンプの初めに行われた、鹿児島ユナイテッドFCとのトレーニングマッチについて、お届けします。


1月28日、チームはJ2に昇格した鹿児島とのトレーニングマッチに臨みました。会場は、キャンプ地の鹿児島県南さつま市から車で約1時間の指宿市にある「いぶすきフットボールパーク」。メイン側にはスタンドがあり、約700人の観客が集いました。

試合は始まって早々に失点し、トータルで2-5の敗戦でした。特にスコアは、プレシーズンのトレーニングマッチとはいえ、少々ショッキングなものだったかもしれません。鹿児島は昨シーズン、最後まで昇格を争ったライバルですから、なおさら『いつの間に水を開けられたの?』と不安になっても不思議ではないでしょう。

しかし試合の中身に目を向けると、確かな収穫がありました。負け惜しみなどではなく、好材料をたくさん発見できたのです。

まず強い印象を受けたのが、風下ながら反撃して鹿児島を押し返し、チャンスを作り出した試合運びです。

当日は冷たく、強い風がずっと吹き続ける難しいコンディションでした。取材エリアはスタンド最上段に設けられ、写真やテレビカメラは立って撮影していましたが、時折、風にあおられ体がぐらつくほど。

そんな気象状況ですから、押し込まれたところを挽回しようとロングキックを蹴ったとしても、効果的ではありません。何より、むやみに蹴ってしまえば、チームが目指すスタイルを表現できなくなってしまうのです。

その部分について、今シーズン、奈良クラブから移籍加入し、鹿児島戦ではセンターバックでプレーしたDF加藤徹也選手が説明してくれました。

「今は、チームとしていろいろなことにチャレンジしている段階です。立ち上がりに失点してしまいましたが、そこからチームでやろうとすることを意識しながら立て直せたと思います。僕たち今治が目指すボールをつなぐサッカーにトライする上で、いい相手、いい試合になりました」

風上の鹿児島は、どんどん前からプレッシャーをかけてきました。ですが、今治の選手たちは逃げ腰になりません。前後左右にパスをつないだり、相手の逆を突くボールコントロールで、プレッシャーの“餌食”になることを回避していったのです。

「練習を重ねるにしたがって、徐々にみんながどう動きたいのか分かってきました。やりたいサッカーが、少しずつ形になり始めています」(加藤選手)

加藤選手は左腕にキャプテンマークを着けて、冷静なプレーでチームに落ち着きを与えていました。ゲームキャプテンに指名した理由について、服部監督は「今季のキャプテンはまだ決めていません。加藤も奈良でそういう役割をしていたこともあり、今日は任せてみようと。それによって、何が起こるかも見たかったし。キャンプ中にいろいろ個人面談もしながら、キャプテンを決めたいと思います」と話してくれました。

話をトレーニングマッチに戻しましょう。鹿児島のプレスを剝がせば、一気に視界が開けます。そこからコンビネーションやサイドを変えるミドルパスを繰り出すことで、次第にチャンスが増えていきました。

特に目を引いたのが、左サイドの可能性です。中盤にMF近藤高虎選手、サイドバックには明治大学から新加入のDF阿部稜汰選手という、FC今治U-18とのトレーニングマッチでも見られたコンビが、アイディアを出しながら積極的にチャレンジしていました。

高虎選手がボールをキープして、後方から阿部選手が駆け上がってくる。そのコース取りも、タッチライン際の外側を回るだけでなく、インサイドにも侵入するので、守る側は対応が難しかったでしょう。

2人のコンビネーションで左サイドを突破し、阿部選手の正確なクロスにFW阪野豊史選手がドンピシャのタイミングで飛び込み、ヘディングで合わせるビッグチャンスもありました。相手の意識が阿部選手に向けられて中央の警戒が緩めば、高虎選手が得意のドリブルですかさずカットインし、右足を振り抜く。左サイドのコンビネーションに、これからどう磨きが掛かっていくのか。実に楽しみです。

「最初は阿部選手の特徴が分かりませんでしたが、練習を重ねるにしたがって、持ち味を理解しつつあります。もちろん、まだズレる部分もあるので、しっかりコミュニケーションを取って連係を高めていきます」

手応えあり、という高虎選手の表情でした。

阿部選手も、風下で鹿児島のプレッシャーをよりきつく受ける状況でのプレーでしたが、実に積極的。守りで手一杯になるのではなく、アグレッシブな攻め上がりを見せてくれました。

「鹿児島は今シーズンJ2なので、なおさら練習試合であっても負けたくない気持ちで臨みました。自分がオーバーラップしてクロスを上げる場面は作れましたが、そこから得点は生まれていないし、質はもっと上げなければなりません。

自分の通用する部分、逆にまだ足りない部分が明確になって、その意味でとてもいいトレーニングマッチになりました。特に、攻撃についてはトライしようと思っていて、虎さんとのコンビネーションや、自分がオーバーラップするシーンをたくさん作れたのは良かったです」

阿部選手は高虎選手としっかりコミュニケーションを取り、自分が外側を上がっていくのか、内側をインナーラップするのか判断していたといいます。

「相手のサイドバックが、けっこう守りづらそうにしていて。サイドバックがボールを持った虎さんに寄せていけば、それによって生まれた背後のスペースに自分が出ていく。そうでなければ、僕が内側に走ったり、虎さんが自分で仕掛ける。いい形を作れました」

鹿児島戦では、ボールを奪って素早く攻めることでもチャンスを作り出しました。実際、新加入のFWアンジェロッティ選手が決めたPKも相手陣内で鹿児島のパスミスを見逃さなかったところから得たものだったし、髙瀬太聖選手が右クロスを流し込んで挙げたチーム2点目も、高い位置でボールを奪ってからのものでした。

自分たちでボールを動かしながら前進するだけでなく、速く攻められるのであれば、迷わず選択する。強風でゲームコントロールが難しい中で、チームはバラバラにならずにゴールを目指し続けました。

もちろん、5失点したことも事実です。課題を明確にして、改善していかなければなりません。特にミスが起きたとき、そこで誰かがカバーすれば悪い流れを断ち切れる。しかしカバーしきれず、ミスを重ねてしまえばたちまちピンチになり、場合によっては失点につながる。勝負どころの厳しさを、このトレーニングマッチから選手たちも肌身に感じたでしょう。

起こったミスも、風の影響を受けたものだけではありません。単純な技術的なミスや判断ミス、意思の疎通を欠いてのミスなど、トレーニングで解決していかなければならない、たくさんの“宿題”を得られた鹿児島戦でした。]

最後にもう一つ、印象的だった光景を。

それまでのハードなトレーニングから来る疲労など、選手のコンディションを考慮して、チームは鹿児島とのトレーニングマッチに限られた人数で臨みました。そのため、途中からはキャンプに帯同している今治U-18の選手や地元の学生などが練習生として出場。そして、ピッチ上の選手たちが力を尽くしていることは伝わってくるものの、やはり連係不足や力の差は否めず、点差が開いていきます。

『これはちょっと仕方ない展開かな……』。そう思っていた矢先のことでした。インターバルを挟み、最後のセッションが始まると、チームは改めて戦う姿勢を取り戻していたのです。

ゴールを目指してチャレンジし続ける姿は少しもブレない。服部監督は、いったいどんな言葉をかけて、選手たちを送り出したのでしょうか。

「ただ何となく残りをプレーするのと、気持ちを込めて取り組むのとでは、得るものはまるで違うということを伝えました。それから、『練習生かどうかは関係ない。今、ここにいるみんなでFC今治なんだよ』と。あとはもちろん負けていましたから、『勝ちに行くぞ!』と選手たちには話しました」

凍えるほど冷たく、嵐のように強い風が吹くだけでなく、ときにザッと雨が降り、そうかと思えば日が差す時間帯も。太陽が顔を出せば、『さすが南国』という暖かさ――。

トレーニングマッチの間、目まぐるしく変わる空模様は、何だかこれから始まる長いシーズンのようでした。決して良いときばかりではない、難しいときもあるだろう。それでも、どんな状況でも、チームはミスを恐れず、戦う姿勢を貫く。鹿児島戦の最後、ピッチサイドから服部監督は、「やり切ろう!」と選手たちを鼓舞していました。

FC今治らしく、チャレンジする。それを鹿児島キャンプで身につけて、チームは戻ってきてくれたはずです。

取材·構成/大中祐二