矢野将文社長が語る今治.夢スポーツの2023年と大きな転換点への覚悟。
当社代表取締役社長の矢野将文に、2022年の振り返りと2023年の抱負を聞きました。今治里山スタジアムへの想いやリスタート9年目の覚悟も話してもらいました。
ファン・サポーターと心一つにやってきた
――2022年はどんな1年でしたか?
この1年をかけて今治里山スタジアムの建設が進んでいきましたので、会社としてさまざまな意思決定をし、大きなプロジェクトを進めてきた1年でした。新スタジアムの竣工をJ2で迎えようと、2022シーズン、トップチームは必死になってやってきました。体制を整え、バランスの良い選手補強をして迎えた昨シーズン。期待のFWラルフ・セウントイェンス選手が病気のため一時帰国したり、GK滝本晴彦選手が怪我で試合に出られなくなったりと、思うようにいかないこともありましたが、清水エスパルスから千葉寛汰選手、セレッソ大阪からGK茂木秀選手に来てもらうなど、その都度、J2に上がるためにできることをみんなで必死にやってきました。
それは、FC今治のファン・サポーターの皆さま、パートナーの皆さまも同じだったと思います。J2昇格争いが激しさを増すなか、超大型の台風が接近した9月18日のホーム試合。屋根のないスタジアムに1,500名を超える方にお越しいただきました。杖をついて支えられながら席に向かわれたご高齢の方、車椅子ごとびしょ濡れで応援してくださった方……ご来場いただいた皆さまのほとんどが、激しい風と雨にさらされても、最後まで応援してくださいました。その姿に選手たちはどれほど勇気をもらったことか。それでも、トップチームのJ2昇格は叶いませんでした。私たちにはまだ上がるに足りなかったと捉えております。
「今治モデル」構想は着実に、健康事業が軌道に
一方で、アカデミーは、U-12とU-15が全国大会に出場し、U-18が結成して初めてプリンスリーグ四国への昇格を決めました。これでアカデミーの全カテゴリーが四国リーグでプレーすることになります。レディースは、トップチームがなでしこ2部入替戦予選に出場し、NEXTが全国大会に出場しました。こうしたアカデミーやレディースの活躍を見ても、これまで8年間地道に取り組んできた「今治モデル」構想が実を結んできているように感じます。
私たちは「スポーツ」「健康」「教育」と3つの事業を展開していますが、昨年はエグゼクティブパートナーのアシックス様と連携したさまざまな体験型イベントを実施しました。決してまだ収益事業ではありませんが、お客様のなかにはリピーターも多く、健康事業が軌道に乗り始めたように感じています。
教育事業に関しては、対象年代に合わせたプログラムを提供できるよう、しまなみ野外学校の事業を整理し、小学校低学年向けのプログラム「しまなみリトル」をスタートしました。また、コロナ禍で中止していた「Bari Challenge University」を3年ぶりに復活させました。認定NPO法人ETIC.様のノウハウに支えられながら、オンラインワークも活用し、新しい形でのBCUが開催できたことに感謝しています。
前例のない、365日の営み作りへの挑戦
――2023年の抱負は?
まずは、今治里山スタジアム元年の2023年こそ、必ずやJ2昇格を勝ち取ること。もうひとつ大事なことは、2023年1月に竣工した今治里山スタジアムで365日のにぎわいを作っていくことです。
「スタジアムだけでなく、新しいサービスや皆が助け合えるコミュニティを作っていく」という私たちの想いに、日本中のサッカー関係者やスポーツ関係者が注目しています。私たちはこれまでもさまざまなことに取り組んできましたが、2023年は前例のない取り組みがグッと増え、本当にチャレンジングな1年になると思います。というのも、2016年の1月の時点ですでに「2023年2月には新しいスタジアムを稼働させる」というマイルストーンを置いていましたので、これまではある意味、必要だから作る、作りやすい目標がありました。ですが、ここからは、制約条件に基づく目標設定ではなくなるので、本当の意味で自分たちが新しい事業に取り組んでいくことになります。それに、Jリーグには30年の歴史があり、Jリーグクラブの運営会社は、中にいる当事者も周囲の皆さまも先々が予想できました。「上のリーグに上がるとクラブはこうなる」「大きな都市だとホーム試合日はこうなる」「小さな都市でもこういう盛り上がり方ができる」という像があったからです。ところが、それらはいずれも試合日におけるにぎわい像です。私たちがやるのは、365日のにぎわい作りです。試合がある日だけでなく、試合がない日もにぎわいが生まれ、クラブとの関わりが日常となる営みを作るのです。それは、Jリーグ30年のなかで前例のない挑戦です。道なき道を自分たちで切り拓いていく、新たなステージです。
――365日のにぎわいをどう作っていきますか?
当初は、今治里山スタジアム内に宿泊施設を建てたり、BBQ場を作ったりする方向で話を進めていました。オープニング時にそれらはなく、あるのはカフェ事業とドッグラン事業です。収支計画を作り、信頼できる専門家の方々に相談したうえで決定したことです。今治里山スタジアムで実施する新規事業はスモールスタートとなります。大きく始めるのではなく、小さな成功体験を積み重ねながら、皆さまが真に今治里山スタジアムに求めるもの、私たちが持っている経営資源と新たな協業者との連携によって提供できるものを見極め、この里山を育んでいきます。
会社としてはもちろん、さまざまな仕掛けを考えていきます。例えば、2月1日から今治里山スタジアムを含む今治市内エリアで「乗合交通サービス」の実証実験が行われているのですが、そんなふうに今治里山スタジアムや今治市で実証実験を行いたい企業を誘致して、「FC今治はまたこんなユニークなものを持ってきたのか」という状況を作り続けていきたいと思っています。
私たちが作るのは、スタジアムだけではなく、そうした新しいサービスや、皆が助け合えるコミュニティです。これまでのスポーツ、健康、教育に加え、交通、農業、食、衣料といったインフラ的なコミュニティから、芸術、観光、動物、イベント、通貨といった発展的なコミュニティまでを意識した事業を展開していきます。すべての事業を私たちだけで担うことはできませんから、協業者の皆さまとともに事業を積み上げ、自然だけでなく、人々の営みや関係性が成長していくスタジアムを作っていきます。
資源を生かして、高みを目指して
――トップチーム以外のサッカー、健康、教育事業の2023年の目標は?
アカデミーは、「日本一質の高いピラミッドを作る」という目標を継続して、全国大会レベルでのさらなる活躍を期待しております。また、自立した選手を育て、自律したチームを作ることを目指し、トップチームに昇格する選手の輩出に繋げられればと思います。レディースは、トップチームが過去2年間なでしこリーグ2部入替戦予選に挑戦していますが、残念ながらその壁を突破できていません。地域の女子サッカー選手の憧れの存在になるという尊い目標を掲げているチームなので、3度目の正直でなでしこ2部参入を目指します。ホームグロウンは、「今治モデル構想」の土台を担う重要なセクションですから、力を入れ、FC今治ファミリーを増やしていきます。グローバルは、中国の浙江緑城と提携をして育成チームの強化を担っており、成果をあげ続けたいと思います。一方で、このコロナ禍でさまざまなリスクを抱えています。大変な状況ではありますが、当社のミッションステートメントのひとつは「世界のスポーツ仲間との交流を進め、世界平和に貢献します。」。W杯の盛り上がりを見ても、サッカーは最もグローバルなスポーツで、サッカーという言語で人がつながり、世界平和に貢献できるものだと理解していますので、中国とのご縁を継続し、中国以外のアジア進出の足掛かりも掴んでいきたいです。
健康事業に関しては、引き続きアシックス様と、健康意識の向上や運動習慣の定着を追求するさまざまな取り組みを進めていきます。これまでの活動拠点は、ありがとうサービス.夢スタジアム®のフットボールパークやしまなみアースランドでしたが、2023年からは今治里山スタジアムも加え、参加者の皆さまにより楽しんでいただきたいと思っています。
教育事業に関しては、今治市から指定管理を受託している「しまなみアースランド」は、よりアースランドの独自性を生かした事業展開を考えていきます。アースランドのサテライト場所が今治里山スタジアムであり、今治里山スタジアムのサテライト場所がアースランドになるようなハイブリッドな展開も考えていきます。また、しまなみ野外学校は、人員を2名増やして体制を整えます。この3年ほどは、お客さまのニーズは高まるものの、コロナの影響で受注案件が伸びず、人員を抑えたままにしておりましたが、これからはコロナと共存していく時代になります。当社に対するニーズをしっかりと受け止め、今治の自然と私たちの経営資源を生かしながら、お客様に安全安心で満足度の高い教育を提供していきます。
変わり続けなければ、まだ見ぬ景色は見えない
――新スローガン「突き進め、光射す方へ」に込めた想いは?
2023年は、新しい何かがはじまるという感覚があります。と同時に、行くべき方向はすでに決まっています。明確な目標、新しい世界、確かな希望という「光」が射す方へ、クリアしなければならないたくさんの荒波を越えて、私たちは突き進みます。ポスターや幟に書かれたスローガンや、突き進む私たちの姿を見た皆さまにも、「新しい世界へ進んでいくんだ」「達成していくんだ」と自分事に感じていただき、ともに成長していただきたいと思います。
――最後に、今治ファミリーの皆さまにメッセージをお願いします。
小さなサッカーチーム、たった数名のスタッフから始まった航海は、たくさんの仲間に出会い、時に悩みながら、迷いながら、舵を切って進んできました。そして、多くの荒波を乗り越え、里山という島にたどり着いた私たちはまた、まだ見ぬ景色を目指して、次の航海へと出航します。
リスタート9年目の私たちにとって、2023年は大きな転換点です。激動の1年になると思います。これまでとは異なるさまざまな荒波に直面することは間違いないでしょう。それでも、私たちは「変わり続けること」に臆病になってはいけません。私たち一人ひとりが「自分の舵取りで会社全体が変わるんだ」という当事者意識を持って、自ら舵をとって進んでいく覚悟です。関わってくださっている皆さまも、同じ船に乗る仲間として、それぞれの舵を切っていただけると幸いです。大いなる航海はまだ始まったばかりです。
取材・文/高橋陽子