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“本物”のフットボールから学んだこと|七條拓【#卒部note】

七條拓
大阪府立茨木高校出身

「最前線には、タクがいる」
それだけで、その存在だけでチームの方向が揃う。

GMとして、プレッシングの起点として、苦しい時にゴールを決めるエースとして、チームのベクトルの先頭には必ず七條がいた。

チームを救ってきた幾多のゴールの数よりも、さらに多くのものをクラブにもたらした。

七條拓の最後のメッセージ。

“本物”のフットボール

昨シーズンも最終盤のリーグ戦、武蔵大学戦と東京理科大学戦の試合中。
“本物”のフットボールってこういうことか、とピッチの中で自分は感じていた。サッカーはこんなにも美しいスポーツなんだと、これまで約18年間、このスポーツと向き合ってきたにもかかわらず感じたことのなかった、自分の中に強烈に湧き上がってくる何かを感じながらプレーしていた。

自分にとっての最後の試合だからというのも多少は関係していたのかもしれないけども、間違いなく主な理由はもっと別のところにあったと確信できる。

目まぐるしく状況が変わるピッチ上の瞬間瞬間でベンチも含めたチーム全体が同じ意図を共有して一つの生き物のようになってプレーする。相手チームの情報も踏まえながら、攻・守・守から攻・攻から守の4局面においての、その試合での振る舞い方の基準を共有した上で各人が責任を持って躍動する。ベンチからはもちろんのこと、ピッチ上のあらゆる方向から聞こえてくる指示や共有の声を聞きながら、仲間を動かし、仲間に動かされてプレーしていた。もちろんすべての時間でそのようにプレーできたわけではないが、3人4人のユニットだけでなく、ピッチ上の11人が本当の意味で繋がっていると感じた時に、何とも言えない感情が湧き上がっていた。

サッカーはチームスポーツだという小さい頃から何度も聞かされた言葉の本当の意味を、初めて体感することができた瞬間だったように思う。

ここに自分たちが至るまでの道のりは、今思い返しても、全く簡単なものではなかった。

新シーズンが始まった時に戸田さんとした会話を鮮明に覚えている。
戸田さんに初めてコーチとして入ってもらった一昨年のシーズン、コロナの影響で準備期間がほとんど取れなかったこともあって、チームとしての明確な基準の下でのフットボールにまだうまく馴染めない選手が多くいた。かくいう自分もそれまでは、比較的自由に自分のやりたいプレーをしていた選手であったので、プレーすることが窮屈に感じてうまくいかなかったり、いろいろ考えて無駄な力が入りすぎて、それまで簡単にできていたはずのこともできなくなったりして、自分のプレーを見失った時期もあった。
それを正直に伝えたところ、戸田さんは、「俺からすれば、本物の競技スポーツとしてのフットボールとはそういうものだ。伸び伸びとか思いきりのプレーもチームとしての共通の基準、土台があって初めて成立するものだと思うよ」と教えてくれた。

文字にすると当たり前で、簡単にできることのように思えてしまうけど、自分たちにとってそれは大きな挑戦だった。

まずはチームとしての基準を自分たちが持つ特徴に合わせて作りあげて。それを週6回、1日1日のトレーニングを通して、頭に体に染み込ませて。映像を個人でもチームでも何回も見て。覚えることは覚えなきゃいけないし、理解すべきことは理解しなきゃならない。そして最後にはピッチ上で気持ちを爆発させながら、頭を動かし続けて躍動しなくちゃならない。コミュニケーションを取り続けて仲間と繋がり続けないといけない。フットボールというスポーツを正しく捉えて、自分と仲間と向き合い続けなきゃならない。少なくともピッチで一つの生き物になるためには、そのような覚悟を持つ選手が数人じゃなく、大勢いなきゃ話にならない。

もしかすると、初めのうちは、自分が1.2年生の時にそうだったようにそれぞれが思い思いのプレーをした方が勝てる試合だってあるのかもしれない。さらに言えば、それを目指しても、先に書いたような体験をすることなく引退していた可能性だってあったかもしれない。もしくは、感じることなく引退した仲間もいるかもしれない。そして、そうやってチームが繋がりを持ってプレーできるようになったとしても、勝てる保証なんてどこにもない。

だけど、自分はこの”本物”のフットボールを追求するプロセスから本当に多くのことを学んだし、今後の人生の糧になる経験ができた。その経験こそ自分がこのチームで活動していた意義だと自信を持って言える。引退した今、誤解を恐れず書くと、自分たち一橋大生にとっては、間違いなく勝つことだけが全てではなく、部活動を通じて、フットボールを通じて何を学ぶかが大切で、何を学べる場所にするかを自分たちで決めなくちゃならない。そういった意味でも、この方向性は今後も追求する価値のあるものだと自分は思う、だから自分が学んだことのいくつかを最後のブログで整理して伝えておきたい。

[自分が学んだこと]
・自分を変えること、自分の可能性を広げることの大切さ。

チームとしての基準がある以上は、1つ1つのプレー、位置取りにはある程度正解と間違いがある。CBがボールを受ける位置、FWがプレスをかける方向やタイミングにもそれぞれの試合ごとにチームとしての正解がある。

自分がやりたいプレーと、自分の特徴を踏まえてチームの一員として自分がやるべきプレーが違うことだって何度もあるし、最終的には自分がやるべきプレーと自分がやりたいプレーを一致させなきゃならない。そこを外したら例外なくチーム内から指摘の声が上がった。もちろん自分だって北西だって、何回も何回もエラーを起こして、反省して自分の頭の中を変えていった。

だからこのチームでは、客観的に見た自分を、弱さや情けなさも含めてまず真正面から受け入れて、自分を変えることを強く求められた。

これはプレーだけの話ではなくて、ピッチ内外での振る舞い、コミュニケーションの部分もそうで、チームの求める基準で照らすと足りなかった選手がほとんどだったと思う。大人しい性格だからといっても足りないものは足りないので、ピッチ内では性格を変えてでも、主体的にコミュニケーションをとることを全員が強く求められた、そうでないとこのスポーツは決してできないから。

そうして過ごすことは楽じゃない。弱い自分自身にも目を向けなきゃいけない。20数年の人生でできた殻を破るのは簡単なことじゃない。だけど、社会に出る前に自分自身についてそんなふうに目を向けられることはものすごく尊いと思う。ここで、自分はより逞しい人間になれたと思うし、組織に合わせて自分の可能性を広げること、そこでの振る舞い方も沢山学べた。


・目の前の1試合、1日の練習に最大限集中すること。

サッカー選手にとって大切なのは、今この瞬間だけだ。というコンセプトが自分たちにはあった。例え過去に良いプレーをしていても、中心選手であったとしても、未来の保証は全くない。トレーニングで気の抜けたプレーをしたことで週末の試合に出れなくなる選手も沢山いたと思う。

自分はGMとして、毎試合、毎練習、目の前の瞬間瞬間で自分が何者なのかを態度で示すことが求められたし、毎日、俺これで大丈夫か?って自問する日々だった。求められるものは多少違えど、最高学年としてとか、レギュラーとしてとか、一橋大学ア式蹴球部の部員としてとか、皆それぞれが自問していたと思うし、それを踏まえて毎回のトレーニングにはそれ相応の熱量と覚悟が必要だったはず。

後から振り返れば、そういった毎日が自分の自信になるし、かけがえのない宝物として自分の中に残っていくんだろうと思う。


・結果ではなくプロセスに、そしてチャレンジにこそフォーカスすること。

サッカーの結果はどれだけ努力したとしても確実に得られるものではない。それでも集団として、そこに向かって挑戦することに意義がある。
だからこそ、自分たちが目を向けるべきは、結果ではなくプロセスで、日々の心構え。毎日毎日個人が1歩でも前に進めること、進もうとすることを大切にしてやってきた。そんな環境になると、みるみる成長して人が変わって行った後輩を沢山見た。この言葉の意味を肌感覚で理解できていることはとても大きいんじゃないか。

これも今後の自分の人生においての重要な指針の一つになると思う。


自分の同期のほとんどは、程度の差こそあれ、今あげたことに共感できるんじゃないかと思うし、社会に出る前にそれ相応の逞しさや心構えみたいなものは身につけられてるんじゃないかと思う。

もちろん、そうやって毎日を過ごすことは簡単なことではないけれど、上にあげたような考え方とか、心構えをサッカーを通じて一人でも多くの人間が身につけられる組織は素晴らしいものだと思うし、自分の願いとしては、そのような経験ができる場所であり続けて欲しい。自分たちにとって決して簡単ではないリーグ戦での勝負とそこにチームで向かうプロセス、もしくは、一橋のア式蹴球部だからこそできる様々な活動を通じて、サッカーの美しさと楽しさを感じるとともに、今後の人生の土台になりうるような心構えを学んで行って欲しい。

とここまで偉そうに書いたけれども、このクラブをこれからどんな組織にするかはもう後輩達次第です。前のGMはこんなことを言っていたなと思いながら、自分たちが思う最善を話し合ってクラブの未来を作って行ってくれれば良いなと思います。成長したみんなの姿を楽しみにしています。頑張ってください。自分もこの組織のOBとして、恥ずかしくないような社会人になろうと思います。

ここまで読んでくれた方々ありがとうございました。

多くの人に支えられたおかげでこのチームで最高の4年間を過ごすことができました。
自分に関わってくれたすべての人に感謝します。本当にありがとうございました。

七條拓

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