変わりました|原智也
まず、このブログの書き出しはむぎきりで温かいとり天うどんを待ちながら書いている。
ここに来れば、色々とア式のことを思い出せると思ったからだ。
裏を返せば、引退して早一ヶ月が経ち自分からア式という存在はすっかり抜けてしまったようだった。
小学校まではサッカーをしていたものの、中高ではサッカー部に関わってこなかった。
読書や映画、アニメが好き。
そんな体育会未経験の私は、大学でア式に入り、変わりました。
そう書こうと思っていた。
ただ、そうではなかった。
一か月が経ち、改めて強くそう思う。
自分を取り巻く環境が変わっても、自身の根っこの部分は変わらない。
異なる人間が集まる場所で生き抜くための術を学んだだけ。
〇かわりましたか
話は変わるが、先日の一橋祭でとある小説家が講演に来ていた。
そこでの質問。
『人生を変えた本を1冊教えてください』
彼はこう答えた。
「1冊の本が人を全く違うものにすることはないと思う。色んな本に触れて、徐々に変わっていくのが人生だったり価値観だというものだ」
そう言った後、彼は数冊の本を紹介してくれたのだが、この言葉に関してはまったくその通りだと思った。
そして、読書とは違う人の人生を経験するものだということを鑑みれば、上の言葉の「読書」を「経験」に置き換えても同じことが言えるはずだ。
ア式に入らなければ味わえない経験はたくさんあった。
YouTubeの撮影で大人数を集めることも、一橋ア式という組織の数十年後を大真面目に考えることも、本気でサッカーに向き合うチームに内部の人間として関わることも、ア式でしか味わえない経験だろう。
その点において、私はこの部活に感謝している。
ただ、ここで自分自身に問いたい。
ア式のスタッフという経験で、あなたの人生は変わりましたか。
〇こびりついた意識
結論から言えば、わからないということだ。
素の自分、という言葉がある。
ア式は、私にとって素の自分からあまりにもかけ離れた場所だった。
冒頭に話を戻すと、環境が変わっても自身の根っこの部分は変わらない。
いくら部活で頑張って挑戦したところで、部から離れてしまえば形状記憶しているように元に戻ろうとする力が働く。
冬の寒さも相まって朝は起きられなくなっているし、プレイヤーに感化されて一人でこそこそやっていた運動もぴたりと止めてしまった。
数年と言わず、数か月もすればア式での経験は私の中からきれいさっぱりなくなってしまうのではないか。
私が危惧しているのはまさにこういうことだ。
もしもプレイヤーや他のスタッフのように、週六回の活動で大学生活の大半を部活に打ち込んでいたら、そんなことはなかったのかな、と思う。
ここで一つ、最後まで自分にこびりついていた意識のことについて話したい。
それは、私がこの部活に捧げる時間が他の人よりも短いことからくる部外者意識だ。
同じものを感じるスタッフが今のア式にいるのか知らないが、少なくとも私はこの四年間、ずっとそれを感じていた。
チームが試合に向けて一週間かけてじわじわと戦術を練り上げ、勝利を収める。
サッカーを愛する者として、これほどまでに尊い作業はないと感じるし、それを間近で見られることに喜びを覚えた。
ただ、自分がその中にいる感覚はなかった。
もちろん、観測者の位置にいる自分にしかできないことをやろうとしてきたし、SNSやYouTubeはそんな私にぴったりの領域だった。
与えられた時間は全力で取り組んだ。
だからといって部活への時間を増やそうともしなかった。
そういう人間がこの組織に及ぼした影響は、数年、数か月もしないうちに元に戻っていくのかもしれない。
暗い話を書いてしまったが、同情してほしいわけでもなければ、恨み節を書き連ねたいわけでもない。
ア式に、負の感情はまったく持っていない。
生まれてから最も長かった四年間、濃い経験をさせてもらった環境での感情を残しておきたいから書いた。忘れないうちに。
変わりました。
残念ながら今は胸を張って言うことはできない。
ただ、ア式のような場所で経験を積み重ねて、もちろんア式ではない場所でも積み重ねて、それらが今の自分を変えてくれている。
そう言い切ることが出来るように、生きていきたいと思う。
〇最後に
これまで自分自身とア式という組織のことしか書いていないが、何よりもここには出会いがあった。
最後に、何があろうと揺るがないア式での出会いに感謝の気持ちを述べて終わりたい。
先輩方へ。
色んな事を学ばせていただきました。
ありがとうございました。
特に、右も左もわからない入部したての私を迎え入れてくれた二人の先輩。
領域が違っても先輩として人として見習った部分が多くあります。
自分より後に入ったにぎやかな先輩二人には、仲間という言葉が似合いますね。
これからもよろしくお願いします。
後輩へ。
四年生になって、後輩の優しさに触れることが多くなりました。
気を遣わせていただけかもしれないけど、感謝しています。
頼りなかったと思いますが、貴方達に少しでも良い影響を及ぼすことができていたらいいなと願っています。
同期へ。
上級生になるにつれて、自分の領域が変わったりスタッフが多くなったりして、自分で関わりづらい人間になっているんだろうなと思っていました。
距離を取ってしまった部分もあって、本当に申し訳ないと思っています。
ただそれでも自分のことを認めてくれて、一緒にいたら笑ってくれるシ式が好きでした。
ありがとう。
ラストシーズン、力になれないのがもどかしかったけど、応援席から試合を見られてよかったと心からそう思います。
むぎきりの方へ。
美味しいうどんをありがとうございました。
また行きます。
原 智也