跳べホワイトムーン
「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」をみたあとは身体を動かしたくなる。私はスティーブ・カレル!と思い立ったが吉日、30分スロージョギングした。喘息もちで基礎体力が少ないほう(中学休みすぎて留年しかけたタイプ)なので、近所の土手をふらふら走る。
こんな日にかぎって晴天で、川沿いまっすぐ先の入道雲は僕の夏休みだし、川の流れはこころなしか早くて、未曽有の天災がはやくおさまりますようにとぼんやり考えていた。
中学のクラスに赤月くんという男子がいた。3年生になってからほぼ学校に来ず、たまに登校しても誰ともしゃべらない。あいうえお順で座り1年間席替えをしなかったクラスで、「あ」行ではじまる彼は教室の左前にぽつんと座っていた。ある日めずらしく学校にきていたので声をかけると先週好きなゲームの発売日だったらしく、徹夜でプレイしていたとのこと。たぶん、クラスメイトの誰かと共有したかったんだろう。自分からは声をかけないシャイな赤月くんはそれもできず、でもゲーム知識もない私相手にFFだかドラクエだかの話をしてくれた。
クラスメイトは赤月くんを陰でホワイトムーンと呼んでいた。お相撲さんのようなぽっちゃりで色白だったから。本人に聞かれたとき、私は「ホワイトムーンとか必殺技みたいでかっこよくない?いいじゃんよ!」とかハズした発言をして赤月くんに苦笑された記憶がある(小学生時代の私のあだ名はキングジョーかフリーザだったのでそれよりマシだ)
高校にあがって赤月くんとはクラスがバラバラになった。2年のときだったか、体育祭をふけてカラオケにいった帰り道、ひとりで本屋にいる赤月くんをみかけて声をかけた。中学時代より20㎏ちかくやせて、文科系眼鏡男子になっていた。「学校来てるの?」と聞けば「ぼちぼちね」とのこと。本屋で音楽雑誌を物色し、駅前のマクドナルドでバニラシェイクをおごってもらい、ふたりともハマっていた音楽とときメモの話をして、別れた。かれとの思い出はそこまでだ。
モーニング娘17メドレーとR.Y.U.S.E.Iを聞きながら(松岡茉優の罪は深い)土手の折り返しに近づいたとき、ふと赤月くんを思い出したのは、かれがライブ音源CDを聞くといってたからだ。マクドナルドで私が買った雑誌(パチパチ、音楽と人)をめくりながら好きなバンドができた、真っ暗な部屋でライブ音源のオープニングSEで拍手喝采を聞くと楽しい、と謎のライフハックを教えてくれた。かっこいいな!と思ったものの、はずかしさが邪魔して私は一度も試してない。でもGLAYのTERUみたいな、両手をバーンとひろげて音にひたっている赤月くんはきっと最高に気持ちいいんだろう。
そんなことを考えながら川に目を向けると、むちむちぽっちゃりのウミネコがひらりと飛んでいった。マジか。赤月くん。
拝啓、赤月くん。
名前をよぶのは20年ぶりですね。高校卒業後、同窓会にも行かない私ですがひさしぶりにあなたのことを思い出せてよかったです。これからも会わないとおもうけど、どうかお元気で。
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