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新宿武蔵野館で鑑賞。水曜日の映画サービスデーだったので8割埋まっていた。今泉力哉監督作品。LGBTQテーマで話題にのぼっていたけれどなかなか食指が動かず、そろそろ上映終了では?と気づき重い腰を上げたのが昨日のこと。本作に関しては、こちらに素敵な感想をみつけたのでとくに書くことないのだけど、一応備忘録を残しておく。
あらすじ:主人公の井川迅(宮沢氷魚)は、周囲にゲイだと知られることを恐れて東京から田舎町に移住し、一人暮らしを送っている。そこに突然、元恋人の日比野渚(藤原季節)が、6歳の娘・空を連れて現れる。「しばらくの間、居候させてほしい」と言う渚に戸惑いを隠せない迅。しかし、いつしか空は懐き、周囲の人々も3人を受け入れていく。そんな中、渚は妻・玲奈との間で離婚と親権の協議をしていることを迅に打ち明ける。迅と渚は、空と3人で一緒に暮らすことを望むが、離婚調停が進む中で自分たちを取り巻く環境に改めて向き合うことになっていく――。 映画.comより
予告をみずに、勝手に「ムーンライト」のような淡い初恋話かな~と想像していたら180度違った。まさかの主人公・ゲイ、その元恋人・バイ、恋人の元妻・離婚真っ最中のブチ切れママ(しかも私と同じ名前なので肩身狭さマックス)という、えぐい三角関係から物語は始まる。唯一の救いは幼い空ちゃんかと思いきや、こちらも6歳と自我が目覚めつつある年頃なので大人にはいえない台詞を積み上げる。
「どうして?みんなでくらせばいいじゃん!」
「どうしてしゅんくんとパパがキスしちゃだめなの?」
「どうしてママにごめんねっていわないの?」
「どうして?」
「どうして?」
その年で5WHY戦法をしかけるとは。空、恐ろしい子…!無邪気さはひとのこころをえぐる。あとかたもなくえぐるのよ。
■映画として感じたところ
今泉監督作品でみたのは「愛がなんだ」「パンとバスと2度目のハツコイ」の2作のみ。愛がなんだはパンチが聞いてたな~刺さりすぎて公開年の映画ベスト3にいれたくらい。「his」は、前出の2作品とはちょっと毛色がちがったけれど、丁寧に誰かを愛すること、それは痛みと喜びと綯い交ぜであること、をもらさず描かれていて今泉ワールドなんだなぁ、とひとりごちてみたり。
「マリッジ・ストーリー」を飛ばしてたら、離婚裁判の場面はきつかっただろうな…弁護士チーム、いやってほどいい仕事してくださった。
お葬式の精進落とし?の食事シーンで、渚への愛とカミングアウトをする姿は(ないないないない)と首を赤べこのようにふってしまったのだが、よくよく考えればこれ、男女ロマンスのドラマや映画でもありうる「ありえない」場面だ。この手の演出を「ないよね~」といいながら、エンタメとして何度楽しんだことか。「ザ・エージェント」の" you had me at hello" につながるこっぱずかしい告白スピーチまでが遠足です。ふつーやんねーよ!みてみろお客様ドン引きだよ!でもあり!ありよりのあり!大好きだよ!ありがとう監督!
■LGBTQとして感じたところ
私は同性の恋人がいるし、一部にしかカミングアウトしてないので渚、迅のような立場に回ることは往々にしてある。「ふつうのおとこになりたい」「なれたと思ったんだ」という渚の独白。つっかえつっかえにいう姿に昔の自分を重ねてしまった。私も男性と結婚すればどうにかなるって考えてた時期があったので反省。自分を防御するためのアイテム化。それって愛じゃないよね。
前職でホモだのゲイだのいじられた記憶をおしこめ、渚のことを10年かけて忘れられたのに、という迅。いままで押さえつけていた自分に正直に生きたくて隠遁してるんだな、と感じが泣けてくる。迅は言葉少ないけれど、ひとを欺かないし(どこかで信じてるし)そのひとにとって一番大事なものをちゃんと探してくれる。だから玲奈ともうまくやれる気がするんだ。
迅の一世一代のスピーチをだまって聞いてくれるばーさん、酒ついでくれるじーさん。なにより猟師のじーさんがあったかくて嬉しかった。ああいう大人がひとりでもいれば、私は生きていられる。
当事者やアライ、ましてやLGBTなんていう専門用語は聞きたくないから使わないでほしい、とあるひとに面と向かって言われたとき、閉店ガラガラ~の音が聞こえた。なんてわかりやすいシャットダウン。こういう拒絶、シンプルだけど一番胸に来る。この関係は続けたいから、その話だけはしないで。でも「その」話ってのは、私を形作るコアだったりするんだよね。人生の根っこを否定されたような気分になる。どんなに腹を割った話をお互いしていても。
渚役、藤原季節さんのインタビューがじんわりしたので貼っておきます。
「氷魚くんと一緒に自分たちの価値観が正しいのか、誰かを傷付けていないかと考え続けてきました。20何年間生きてきてできた価値観を無理やり変えることはできませんが、こういう考え方もあるんだなっていう視点は持つことができる」「僕は『his』でそれを少しずつ学んでいるので、ぜひ皆さんも変化していく価値観を見つめることから逃げないでほしいです」
チームLGBTQ目線での記事。とてもわかりやすい
主役の宮沢氷魚、THE BOOMの宮沢和史さんの息子だったとは!アルバムもってますよ~ソロも好き。
藤原季節さん、好きな映画で「ウォールフラワー」をあげている。そして娘の「空」をランボーの詩から空想するとか。お目が高い!
「his」にふれたひとが、誰かの生きづらさにちょっとでも気づいて優しくできたらいい。そんな映画です。