見出し画像

女神の見えざる手 原題 Miss Sloane

TOHO日本橋にて鑑賞。米国公開が2016/11ですから約1年遅れですね。スター・ウォーズ最後のジェダイと2本立てでした。つっかれた…でも見てよかった!感想覚書き。

*ネタバレしてます

ワシントンD.C.で、スパーリング上院議員(ジョン・リスゴー)による聴聞会が開かれていた。召喚されているのは、敏腕ロビイストとして名高いエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)。大手ロビー会社、コール=クラヴィッツ&W在職中に手がけた仕事で不正を行っていたとされ、その真偽が問われているー   公式サイトより引用


数か月前、大手(コール=クラヴィッツ)を離脱し中小ロビー企業(ピーターソンワイヤット)へ移籍したスローン。元職場が擁護する銃規制法案に対してやり手のスローンは様々な戦略を打ちだすが非常に大きな影響力をもつ彼女の力を恐れた結果、政治家たちの結託により聴聞会へ召喚される、というのがオープニングへのつなぎ。

銃規制法が強化され闇市場でしか買えない、という決着はもちろん空想だけど、怒涛の展開がすばらしかった。タバコ業界の宣伝マンを描いた「サンキュースモーキング」に通ずる政治映画。あれも10年前なんだよなーアーロン・エッカートがめちゃ若い。本作品はロビイスト=根回し屋さんに焦点をあてており、いかに民衆、というより三版(金・コネ・名)のある政治家の指示を得るかの情報戦。コードネームとか監視チームとか使ってボンド気取りか?と雇い主シュミットに嫌味を言われても構わず突き進むスローン女史はぶっ飛んでて素敵。銃擁護団体、つまり大統領選やアカデミー賞にも多大な資金献金をする名高い全米ライフル協会 NRA - National Rifle Associationの名前は使ってない。冒頭にEUROPE Corpがでてきたので調べたらフランス主導で製作されている、さすがにこの脚本はハリウッド向きじゃないわな。しかもトランプ大統領の共和党がリードしているいまじゃよけいに(NRA支持者は共和党が多め)ダビデとゴリアテの戦いのようなラストの描き方はすばらしく、溜飲が下がる。


米国の銃規制(ガンコントロール)について

何度か討論ででてくるThe Second Amendment という言葉、がよく出てくる。これはアメリカ合衆国憲法第2条で、個人が銃を保持する権利を認めている憲法のこと。劇中でも身元調査(background check)や登録制の強化をすべき、精神疾患や過去の犯罪歴をスクリーニングすることで銃の犯罪を防ぐことができる、と訴えている。実際50州のうち身元調査を義務付けているのは半分にも満たない。

先日ネバダ州ラスベガスのホテルで銃乱射事件があったけれど、ネバダ州は身元調査の義務はあっても、武器は誰でも購入できる。州の許可が必要ない。ぶっちゃけウォルマート(全国チェーンのスーパーマーケット)で30ドルとかで置いてあるので、ルクルーゼの鍋とかより安く買える。

ネバダ州の法律では、銃を所有するのに許可は必要なく、届け出も義務付けられていない。個人が所有できる銃の数にも制限はない。全米ライフル協会(NRA)によれば、同州では、連邦法に基づいて届け出を出せば、自動小銃と機関銃を所有することもできる。また、攻撃用武器や50口径ライフル、大容量の弾倉を譲渡したり所有したりすることも禁止されていない。銃器を隠して持ち歩く場合は地元警察の許可証が必要だが、大っぴらに持ち歩くのであれば許可は不要だ。

ネバダ州は銃規制が緩い ーニューズウィーク記事より


2016年の米国銃規制ランキング、トップ5~ワースト5の結果。銃規制が厳しい&銃による死亡率が低いほど上位ランクになります。銃による死亡事故率が最も高いのはアラスカ州(44位)、その次がルイジアナ州(43位)意外にもラ・ラ・ランドなカリフォルニア州が優等生。ハリウッドがあるから?次いでマサチューセッツ州も厳しい銃規制のもと、死亡率は超低めです。

The 2016 Gun Law State Scorecard reveals the strong correlation between smart gun laws and lower gun death rates. States with the weakest laws, like Mississippi and Alaska (ranked 50 and 44 out of 50), have some of the highest gun death rates in the nation (4 and 1, respectively). Meanwhile states with stronger gun laws like California and Massachusetts (ranked 1 and 4 out of 50) have some of the lowest gun death rates in the country (43 and 50, respectively), showing that commonsense solutions like universal background checks are saving lives from gun violence in states across the country.

GunLawStateScoreCard より抜粋


よかったところ

兎にも角にもファッションがツボでした。ロビイストというだけあってできるだけ保守的に、でも斬り合う色気は惜しまずな雰囲気がバッチリ出ていた。パンフによると、ブラックルージュのネイル、ピアジェの時計、ヴィトンのバッグ、コートはMichael Kors、チームの服装もコンサバにアン・テイラーやJ.Crewでまとめてたらしい。


先日友人がストレスで不眠症になり睡眠時間が2-3時間だと聞いたばかりなので、寝たくないから起きてられる強い薬(精神剤の一種)を処方してもらうスローンにびっくりした。高級娼婦=エスコートボーイと寝たあとにPCぺちぺちしてる姿は重度のワーカーホリックか、脅迫症にしかみえない。1分でも目をつぶった間に敵に出し抜かれるのが怖いのか…セックスしたあとってめっさ眠くなるよ普通は(副交感神経が優位になるため)

エスコートボーイのフォード君、先日見た「私がワタシをみつけるまで」の歳下彼氏でした。あと「キャロル」テリーズの彼氏。バランス良い顔とガタイしてるあんちゃん。聴聞会でスローンに対して不利な発言しないとこが、プロ意識高くて泣かせる。


ふたりのパダワン

秘蔵っ子、ジェーン。アラレちゃん眼鏡にお団子ヘア。細めながらもむっちりな体のラインをみせるファッションが超ずるい。スローンの切り札でもある彼女は最後の最後に特大プレゼントをして去っていくが、学問の道に戻るため相応の謝礼を受け取ったのかも知れない。退職後も事務所から訴えられないように立ち回ったんでしょう…裏を返せば敬愛するスローンを塀の向こうにぶち込むのに協力するわけだから、そこそこ葛藤はあったんじゃないのか。まぁその辺り湿っぽく書かないのもお上手。

悲惨な銃事件のサバイバー、エズメ。エキスパートなのに野心がみえない、ジェーンとは逆のキャラクター。銃規制法案にスポットライトをあてるため、エズメをコマとして利用する姿勢はあっぱれ。表舞台に立たせてキャリアをあげさせようっていう動きとか、結構好きなんだけどね。コロンバイン高校銃乱射事件がモチーフなんだろうけど、彼女の襲撃~間一髪の救出劇まであっちが仕組んでたとしたら、敵もボーダーライン超えすぎ。この時襲撃に立ち会った一般市民がヒーローになってお茶の間を賑わせるって流れは、アメリカあるある。市民として当たり前のことをしたまでです、愛国心からの行動です。インタビューでこんなセリフがスラスラでてくるからすごいよ。ヒーロー不在の国なんだなとあらためて思う。


愛弟子ジェーンとスローンのやりとり、めちゃ好き。彼女みたことあるなーと思ったらドラマ「ニュースルーム」のマギーでした!

JANE – So a Congressman can technically get rich by sponsoring bills that screw foreign governments and wait for them to buy him off?
ELIZABETH SLOANE – That’s a little too much work for a class of people who exempt themselves from insider trading laws.
JANE – You see? This is why I’m thinking about post-grad.
ELIZABETH SLOANE – Jane, we go to school because it prepares us for the real world. You happen to find yourself at the sharp end of the real world at the age of twenty-nothing.
JANE – I’m not so sure I like the ‘real world.’


俳優陣について

マーク・ストロングこんなにかっこよかったですかね。並ぶとスローン女史がちっちゃくって華奢に見えてしようがなかった。「キングスマン」だとスレンダーな文系マーリンだったのになぁ。ジェシカ・チャスティン作品はビンラディンを追い詰めた「ゼロ・ダーク・サーティ」が好きでした。本作ではアーロン・ソーキン脚本かと見紛うトークスタイルがハマっていたし、キュートな声色でときに熱く、ときに冷たくふるまうスローン女史の手に観客がまんまと落ちてしまうのも納得。

最後にジェーンが上司に渡したメモ。ワイヤット社のシュミットがスローンに移籍をオファーしたときのメモ。連れて行った部下のお給料は確約したとして、自分は無償で受けたのかな。名誉のために。だとしたらすごいよね。日本語訳どうなってたか、確かめたい。

Page one – “A conviction lobbyist can’t only believe in her ability to win”
Page two – “For services rendered Peterson Wyatt offers you $0”


「女神の見えざる手」この邦題もセンスが光る。経済学の「神の見えざる手」an invisible hand にひっかけているんでしょう。たぶん。

以上です!


いただいたサポート費用はnoteのお供のコーヒー、noteコンテンツのネタ、映画に投資します!こんなこと書いてほしい、なリクエストもお待ちしております。