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連載:お寺の女性の今、そしてこれから [9] 長野 文さん

こんにちは。未来の住職塾の松﨑香織です。

この連載では、お寺で生活する女性のウェルビーイングを大切にするために、さまざまなお立場にある、お寺に暮らす女性のお声をお届けしています。第9回目のゲストは真宗大谷派・正法寺(長崎県大村市)の長野文さん。

ゲストプロフィール:長野 文(Aya Nagano)
1978年福岡県八女郡のお寺生まれ。現在は、長崎県大村市真宗大谷派寺院正法寺坊守(ぼうもり)。国立音楽大学及び、東京学芸大特専科(特別支援教育)卒。地域に開かれたお寺となるよう寺報やHPの作成をはじめ、お寺をより身近に感じてもらえるような発信を続けている。昨年からは『行いがわたしを導く時間』というワークを取り入れたお寺時間を展開中。
正法寺HP(http://omura-shoboji.jp/)

◉ 「一切皆苦」の原点と仏教への導き

 私はお寺で生まれ育ち、そして住職だった父との死別を二十歳で経験しました。父を亡くしてしばらくは心も体調もとても不安定でしたが、そんな私を助けてくれたのは、やはり父が導いてくれた仏教(真宗の教え)でした。

 20代は、中学校で音楽の教員をして過ごしました。そろそろ仏教に立ち戻って人生を駆けてみたいな…と思うようになった頃に、ふと、お寺の人とのお見合いの話が来て。波長の合ったその人と結婚して、今のお寺へ入りました。

 父は、「どんなことも事実をそのまま受けとめること。安易に目を背けてはいけない」と、日常の折々に語りかけてくれる人でした。病を得たときにも、「文なら受けとめられる」と言って自分の口から伝えてくれて。人生の終わりを病気で苦しみ抜いた父が、「苦しみ(思い通りにならないこと)の連続が生きることだ」と、そしてそこからすべてが始まることを、最後まで見せてくれたという思いがあります。そこに私の「一切皆苦」の原点があるから、自分は今もこうして生きていられるのだろうなと感じています。
お寺に関わる自分はやっぱり、父がそうしてくれたように、人々を仏道へと導く人でありたいですね。

◉ 力を入れずにできること、持続可能なことを地道に

ーー今では坊守(真宗寺院の住職の配偶者)としてご門徒や地域の皆さんに寄り添われている文さんですが、正法寺に入ってからの日々はいかがでしたか。

 とにかく「負担になり過ぎて身動きが取れないようにはしない」をモットーに、何事も持続可能であることを大切にして過ごしています。
 2013年に、未来の住職塾に通いながら目指した「坊守にもできるお寺の改革!」も、紆余曲折しながらではありますが地道に進めています。当時その一環で始めた「正法寺新聞」は、皆さんにどう伝わっているのか分からないながらも年2回の発行を続けてきました。8年を経た今、ようやく繋がりが花開いてきている実感があります。お寺の行事に参加されるようになった方から、「正法寺新聞を通してお寺を身近な存在に感じるようになり、夫婦で参加しました」との言葉をいただいたこともあったりして、自分にできることを続ける大切さを改めて感じています。

ーー文さんは多様な新しい活動を自坊で推進されていますが、アイディアやご縁が突然降って湧いてわけでは決してなくて、時間をかけて育んでこられた結果なのでしょうね。

◉ グリーフケアの実践的な学び

ーーいろんなアンテナを張っておられる文さんですが、最近はどんなことに関心がありますか。

 昨年、僧侶の仲間たちとグリーフケアを学びました。人との接し方やコミュニケーションのあり方といった実践面で変化が出てきたように感じています。例えば、相手の方が安心されるようなお話の仕方や言葉を選んだり、中陰中の方の心境を推し量ったりすることができるようになるなど、ご門徒さんに接するこちらの心持ちもだいぶ落ち着くようになりましたね。

ーー宗教的なお話や教えが心に響いてくるのは、その一歩手前にそうした丁寧な交流があるからなのかもしれませんね。

◉ 「行いがわたしを導く時間」

ー毎月、正法寺で開催されていた学習会も、リニューアルされたとか?

 はい、1年ほど前に。もともとは、親鸞聖人のお命日である28日に、毎月学習会を開いていました。最初に正信偈のお勤めをして、住職による和讃などの解説を聞き、最後に座談する、というスタイルで、いつも何人かのご参加はあったのですが、もっと多くの方に届けられるようになったらいいなと、ずっと思っていて。そこで昨年から「行いがわたしを導く時間」と題して、お勤めや住職のお話に加えて様々なワークも行う、というスタイルにアップデートしてみました。月ごとに、仏具磨きや生け花のお荘厳、親鸞聖人御絵伝の鑑賞やお念珠づくりなどを体験して、12月には正法寺の報恩講(※親鸞聖人の祥月命日の11月28日前後につとめる法要)に皆さんで集います。1年を通して「仏さまの心」に気づき、「わたし」の内面に向き合う中で、感謝と報恩の心につながっていくことを大切にしたいと思っています。

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ーー「行い」に着目したきっかけはどのようなことだったのですか。

 これからのAI社会では教えをどう伝えていけるのだろう、と考えていたときに、小学校もアクティブラーニングを始めていることだし、もっと体を使って教えを表現できると入りやすいのかもしれない、というようなことが思い浮かびました。法話でも「お餅をついたりお磨きをしたり、お花を生けたりすることも含めて仏事ですよ」とお話があるのですが、実際に教えと結びつけることをあまりしてこなかったな、と改めて思い返してみたりして。月ごとに教えを聞く場をだんだんと整えていくのを一緒に体感することが、教えへの導きになればと願っています。

ーー12月の報恩講に向けて自身の内面をも整えていく感じがあってとても良いですね。私も参加してみたい!と思いました。
 文さん、今日はじっくりと深いお話を聞かせてくださり、ありがとうございました。

 この連載記事は、大正大学地域構想研究所BSR(Buddhist Social Responsibility)推進センターが毎月発行する『地域寺院59号』に掲載されました。
地域寺院は、これからの地域社会に必要とされる寺院の在り方を探る情報を発信する月刊誌です。
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インタビュアー プロフィール

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松﨑香織:一般社団法人未来の住職塾 理事。米国Fish Family財団 JWLI (Japanese Women’s Leadership Initiative)フェロー。役員秘書として銀行の経営企画に携わったのち、ロンドンの非営利組織にてマーケティングに従事。2014年より未来の住職塾ならびに塾生コミュニティ(現在約650名)の運営に携わる。全日本仏教会広報委員会委員、WFB(世界仏教徒連盟)日本センター運営委員会委員。

お知らせ:未来の住職塾NEXT R-3は6月開講です(願書〆切 5/25)

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