Case02|令和の本堂建替えを機に 寺の歴史と仏様を地域につなぎなおす(青森県八戸市・真言宗豊山派・普賢院・品田泰峻さん)
若くして、本堂建替えの大事業にチャレンジした品田泰峻住職。寺の歴史を紐解き、祈りの物語を現代に紡ぎなおし、今の八戸に生きる人々のための新しい本堂を建立した。
※ まちに開く まちを拓く『地域寺院』2023年1月号より転載(文・写真/遠藤卓也)
仏様の居場所を整えること
雨の中、タクシーで坂をあがっていくと目指す普賢院があった。小高い丘にあり見晴らしのいいお寺だ。地元のタクシードライバーがお寺を見て一言「変わったんですね」。普賢院は、本堂や山門の建替え工事をおこなったのだ。大事業の舵をとったのは、住職の品田泰峻さん(39歳)。計画の最中に先代の逝去もあり、様々な苦労があったと思うが爽やかな笑顔で出迎えてくれた。
完成直後の本堂は新しい畳と木の香りが漂っていて気持ちがいい。ご本尊のある中央向かって左側の間には、観音堂の諸仏を安置する予定だ。改築をきっかけに弘前の仏師に修繕してもらった八体仏もこちらにおまつりするという。長年、気になっていた仏像をこの機会になおした。山門内の仁王像は三百年くらい前の仏像だが、門を壊す時しか修繕できない。「良い機会になった」と語る。
もう一方の右側の間は、地蔵堂として、子安地蔵様にご活躍いただく予定だという。子どもの発育・安産祈願、水子供養もお引き受けする。地域の地蔵盆や「おてらおやつクラブ」のお供えにも、この間を活用できる。
配膳室は仏事の小規模化もあり、それなりのサイズに留めた。男女分かれていなかったトイレをようやく分けられたことも良かった。
新本堂の機能は、法事や葬儀における使いやすさが考慮されているが、それ以上に、お寺の仏様をしっかりとおまつりすることで、現代の人々の願いや祈りにわかりやすく応えたいという意図があると感じた。新型コロナの影響で行事の中断もあったが、その分落ち着いて考えることができたという、品田さんの意見が大いに尊重された本堂となった。
寺に伝わる伝説を絵本に
普賢院の起源は平安時代にまで遡る。弘仁初期(810年頃)草創、承安元年(1171年)開基の古刹である。古くは永福寺という寺院名で、南部藩の祈願寺だったという。南部氏が盛岡に拠点を移す際、永福寺も盛岡に改めて建立されることとなり、以後寺院名を普賢院としてこの地に続いている。
その歴史故に普賢院にはたくさんの物語が継承されている。寒さ厳しい季節があり、疫病や飢饉にもむきあってきた地域で、未来に思い馳せながら数々の祈りが重ねられてきたこと。その歴史を今の人達に伝えていくのが、お寺の役割であると品田さんは捉えている。
特に有名なのは「十和田湖伝説」だ。普賢院(当時は永福寺)で修行した子どもが僧侶になり、最後は湖の尊い龍神さまになったという物語。昔は医療が整わず、今と比べて子どもの死亡率が高かった。東北の厳しい自然環境もあり、生まれた子どもを育てていけるかわからない状況だった。そうしたことに思いを向けると、この伝説も見方が変わってくると品田さんは言う。
子どもが修行をして神様になるというストーリーには、幼くして亡くなった子への切実な祈りが込められているのではないか。物語から読み取れる生々しい感情に共感することこそ、祈りの本質だと感じるという。
そこで「十和田湖伝説」を絵本にしようと決めた。歴史上の点を線でつなぎ、物語という形で伝えることで現代の人も向き合いやすくなると思ったからだ。語りで伝わっていた伝説が江戸時代に写本化された。どれも大筋は同じ話なのだが、地域によって少し話が変わる。普賢院に残る写本は観光地などに伝わるものと違い、観音信仰とも密接に関わり合う内容になっている。
独自の方法でクラウドファンディングに挑戦
絵本制作の資金については、クラウドファンディングに挑戦した。「十和田湖伝説」に興味を持ってくれている人に協力を依頼し、多くの人とのご縁で作り上げることに意味があると思ったのだ。当初は、大手クラウドファンディングサイトを使おうと考えたが、審査を待っていると希望するスタート時期に間に合わず、また目的以外の用途には寄付金をまわせないという規約があった。普賢院では以前より、活動により生じた余剰金は、国際協力の寄付にあてるという姿勢を貫いてきた。そこでクラウドファンディングのシステムは利用せずに、独自の方法で寄付を募ることにした。
インターネットのシステムで成り立っている仕組みを手作業で行なうことの煩雑さはあったが、結果的に功を奏した部分も多かったという。例えば、支援を考えてくれる身近な方々には高齢者が多く、クラウドファンディングサイトからの申込みが難しい。平素お寺に懇志を持ってくるのと同じように、プロジェクトの支援ができたことがよかった。システム利用手数料がかからないので、想定よりも多く寄付が集まり、絵本をハードカバーにグレードアップ。更に、残った寄付金を国際協力基金にもまわすことができた。
物語や伝説が「寺のエンジン」になる
1200年以上続く普賢院の歴史を追っていくと様々な「語りの素材」が見つかるという。「そういうものがお寺のエンジンになりうる」のだそう。現代のお寺は葬儀や法事に役割の比重が寄っているが、元々はそこだけではなかった。歴史のある寺の住職として、残っているものを丁寧に調べていくことで、昔の人々の願いや苦しみに気付く。その気付きが、もしかしたらこの生き辛い世の中で誰かの役に立つかもしれないという思いで「お寺の役割」の幅を広げているのだ。そう聞くと、今回の本堂建替えや仏像修復は普賢院のこれからを考える上で欠かせない取り組みだとわかる。
新本堂、建ててみた!
本堂建替えを生きがいに感じてくれている檀信徒もいる。「生きているうちに完成を見届けたい」「徐々に完成していく様子にワクワクする」ありがたいことに、地域での注目度は高かった。住職として精一杯の説明努力を果たした。「修繕は不可能なので、建て替えさせてほしい」説明会は8会場にわけて2回ずつ開催したので大変ではあったが、今思えば尊い時間だったと回想する。当時一緒にまわった役員さんも含め、現在は亡くなった方もたくさんいらっしゃる。できる時にできることを精一杯やるべきだと感じたという。お寺の場合、それが最後のコミュニケーションになることも多い。大変ながらも一緒にやりきったからこそ、新しい本堂に皆さんの思いが込められている感じがするのだという。
建築が始まってからは、とにかく臨場感を出していきたいと思い、建築中の様子を動画にしてYoutubeで公開し続けた。寄付者はお金を収めたあとは、本堂が完成するまではアクションがない。そこで、住職自らがカメラを持ち工事の進み具合や、建物の工夫を説明する。編集も自身で行っているが、元々得意なことでもなかった為、4分の動画を作るのに4時間くらいかかっているのだそう。熱意があるからこそやれるのだ。
他にもSNSやブログを活用して檀信徒以外の地域の方でも、遠方の方でも、発信を見て寺に来てくれるようになってほしいという思いで発信に力を入れた。
過去の物語が未来への祈りとなる
と、品田さんは言う。地域は過疎化の中にあり、故郷を重荷と思う人も少なからずいるが、その中で誇りになりうるものとして、歴史・伝説の可能性は大いにある。お寺も歴史・伝説を有する場所として「だからここは尊いんだ」と思ってもらえる筋書き・語りを大切にしたい。普賢院との関係を誇りに思ってもらえるのであれば、代々引き継いできたことへの報いにもなる。それが未来につながっていくような感じもする。ローカルな物語を、今の人々のために活かす新しい普賢院のこれからの歩みが楽しみだ。
【教訓】
本堂は仏様の居場所として、しっかり整える。
クラウドファンディングは現代の勧進と捉える。
歴史に目を向け、寺の役割の幅を広げる。
あとがき
Case01 香川県 金倉寺さんの事例にも共通することとして、お寺でおまつりしてきた諸仏諸神にご活躍いただける場や仕組みを整えているという点があります。特に、本堂建て替えという機会に、そのことを第一に像を修復したり、本堂のデザインを検討したことが功を奏したと感じます。
品田さんは、未来の住職塾NEXT 受講時(2020年)に「八戸の祈祷寺を目指す」という計画書を書かれたことが印象的でした。そのビジョンにむかって着々と歩を進め、本堂建て替えという大事業を終えた今また「未来の住職塾NEXT R-5」を受講なさるとのこと。どんな変化があったのか、共に学ぶことが今から楽しみです。(遠藤卓也/未来の住職塾講師)
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(1) 未来の住職塾NEXT R-5 は、5月の開講にむけて受講生を募集しています。4/5(水)にオンラインまたは東京の配信会場で受講できる「未来の住職塾NEXT 2023年度 説明会&講師×塾生事例対話」を開催いたします。未来の住職塾NEXTに興味のある方は気軽にご参加ください。下記のリンク先Peatixページよりご予約いただけます。
(2) 本記事は、大正大学BSR 推進センターが発行する月刊誌『地域寺院』のご協力をいただき、2022年11月号に掲載された記事を転載させていただきました。
『地域寺院』は、地域寺院倶楽部会員向けに発行する月刊誌です。 寺院が行う地域活動の実践例、インタビューを通じた仏教界の展望、座談会を通じた寺院を取り巻く現状などを紹介し、これからの社会に必要とされる寺院の在り方を探る媒体です。
地域寺院倶楽部は年会費5,000円で入会が可能となっています。詳細は下記のリンク先ページをご確認ください。