連載:お寺の女性の今、そしてこれから [11] 石田えり子さん
こんにちは。未来の住職塾の松﨑香織です。
この連載では、お寺で生活する女性のウェルビーイングを大切にするために、さまざまなお立場にある、お寺に暮らす女性のお声をお届けしています。第11回目のゲストは浄土真宗本願寺派・信教寺(北海道石狩市)の住職 石田えり子さん。
写真:石田えり子さん提供。ご自坊・信教寺にて
ゲストプロフィール:石田えり子(Eriko Ishida)
釋玅周(みょうしゅう)。浄土真宗本願寺派信教寺住職、本願寺派特別法務員。
1982年 北海道石狩市生まれ。2018年 住職を継職。
宗派を超えた僧侶仲間と2019年に「人と知り合うこと、つながること、それ自体が、その人自身の生きる力になる」というソーシャルキャピタルの発想をたよりに、自主研修会「てらつな」を始め、翌年に任意団体化する。
声明が好きで、そこから伝わる何かがあると思っていつもおとなえしています。
◉ プログラマーから一転、仏教の道に進む
―えり子さんが住職を継がれるまでの道のりについて、お聞かせいただけますか。
えり子 私は、一人娘としてお寺に生まれて育ちました。いつかは何らかの形で継ぐことになるのかな、と思ってはいましたが、学校は工学部へ進み、卒業後もプログラマーとして3年ほど働きました。
勤め始めて1年半が経った頃、父が脳梗塞を患い寝たきりの生活となり、坊守である母が法務をするようになりました。母は得度をしていましたがお寺の出身ではなく、そして仏教を学ぶ機会がなかったので、私の父や祖父母から見聞きしたことや母自身の経験から学んだことを頼りに住職の代わりとしてお寺を支えていました。そのような状況の中でこれからを考えたとき、私は信教寺のことも地元のことも好きでしたので、自分がしよう、と心に決めました。ただ、いかんせん何も分からなかったこともあり、会社を辞めて、教義やお経を学べる中央仏教学院という京都の宗門の学校に通い始めました。
◉ 自信を支える土台
えり子 仏教を学ぶうちに自分はお経や雅楽がすごく好きなことに気づき、人生で初めて心からもっと学びたい、という気持ちになりました。京都での学びは1年という約束でしたが、無理を言って、勤式(ごんしき)指導所という西本願寺の法要に出仕しながら声明(しょうみょう)や雅楽を専門的に学べる所へ行かせてもらいました。女性と男性では声のキーが違うため「一緒にちゃんとお経が読めるのかな」と思われることもありますが、しっかり声明をお勤めできるようになり、自信につながる強みを持つことができて本当に行って良かったと思っています。この京都生活では素晴らしい仲間たちとも出会い、今も私の支えとなっています。
◉ 先代からつながるご縁に支えられ、住職となる
―継職されてから、3年になりますね。
えり子 いずれ結婚をして夫となる人が信教寺の住職を継いで、私はここで坊守になるんだろうな、と心のどこかで思っていたので、まさか自分が住職になり、こんなに人前へ出るようになるとは思いもしませんでした。人生何があるかわかりません(笑)。そんな中で、皆さんに支えられてここまで来られたことを実感しています。父の葬儀を寺葬で勤めたときは、どう執り行えばよいのか、まるでわからなかったのですが、父と縁のあったお寺さんたちがあらゆることを率先して進めてくださって本当に助けてもらいました。継職法要の際も、ご門徒さんをはじめいろんな方が心を向けてくださるのを目の当たりにして、お寺ってこんなふうに支え合って続いてきたんだ、ということを心から感じました。たくさん受けたご恩に感謝して、私も色んな人の支えになれたらいいな、次の世代へと仏教を通して何か伝えていけたら、と思っています。
また、北海道は僧侶の研修会に出てくる宗派内の女性が少なくて、最初は私も男性ばかりの集まりへ出向くことが不安でした。だから、「女性は石田がいるよ」というのが誘い文句の一つになればと思いますし、色々な場に女性僧侶が増えることを願って顔を出し続けています。
◉ 仏教の学びとモチベーション
―それは、さすがの心意気ですね。
えり子さんはいつも新しいことを学ばれていたりと、勉強熱心な印象です。
えり子 京都で仏教を学び始めたとき、今までとは全然違う物事の捉え方に接したとまどいもあり、なかなか理解できませんでした。今思うと、住職に聞くことはできないからしっかり学んで帰らなければ…、という焦りも大きかったんだと思います。果たして自分はこの先やっていけるんだろうか、と不安も感じたりして。でもあるとき、ご門徒さんとの会話の中で、日常の何気ないことを自分なりに仏教とからめてお話ししたら、とても面白いね、と言っていただいたことがあったんです。すごく嬉しくて、それがきっかけでもっと仏教に興味を持ってもらえるように伝えたい、と思うようになりました。それを目指して学びを深めたりアウトプットに挑戦したりすることも、モチベーションにつながっていますし、今は宗派を超えた繋がりもできて、仲間と共に学んだり活動したりもしています。
◉ 人と人を結び、過去と未来をつなぐお寺
―今、興味のある取り組みはどんなことですか。
えり子 この辺りは農家さんが多くて夏は忙しく、冬は吹雪がひどいため、地域の皆さんが集まるような会を催す機会があまりなかったのですが、生活の中でちょっとした楽しみになるようなことをお寺でやれたらいいな、と以前から思っていました。ずっと日々の法務に精一杯でなかなか取り組めなかったのですが、近頃は少し心の余裕ができてきたし思い切って始めてみようとしていた矢先に、コロナが拡大してしまって。いったん様子見をしていましたが、この1年の自粛生活で足腰が弱ったり、お話しがしづらくなっている方も見受けられるので、地元の方が集えるような場づくりをしていきたいと考えています。
それから、地域のことを次の世代へ伝えることもしていきたいですね。この辺り一帯は45年ほど前に石狩川の堤防用地にかかり、街が移転したため様子がガラッと変わったと聞いています。それを機に土地を離れた方もいらして、「誰々さんは元気かい?」と聞かれることもあったり。そういう、昔の町の様子や人々の思いを、後世にも伝えていけたらと思っています。
いずれも、お寺ならではの大切な取り組みになりそうですね。今日は素晴らしいお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
この連載記事は、大正大学地域構想研究所BSR(Buddhist Social Responsibility)推進センターが毎月発行する『地域寺院60号』に掲載されました。
地域寺院は、これからの地域社会に必要とされる寺院の在り方を探る情報を発信する月刊誌です。
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インタビュアー プロフィール
松﨑香織:一般社団法人未来の住職塾 理事。米国Fish Family財団 JWLI (Japanese Women’s Leadership Initiative)フェロー。役員秘書として銀行の経営企画に携わったのち、ロンドンの非営利組織にてマーケティングに従事。2014年より未来の住職塾ならびに塾生コミュニティ(現在約650名)の運営に携わる。全日本仏教会広報委員会委員、WFB(世界仏教徒連盟)日本センター運営委員会委員。