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連載:お寺の女性の今、そしてこれから [18] 掬池友絢さん
こんにちは。未来の住職塾の松﨑香織です。
この連載では、お寺で生活する女性のウェルビーイングを大切にするために、さまざまなお立場にある、お寺に暮らす女性のお声をお届けしています。第18回目のゲストは、浄土宗・蓮馨寺(静岡県三島市)の副住職 掬池友絢さんです。
取材・文 ● 松﨑香織
ゲストプロフィール:
掬池友絢(Yuken Kikuchi)
1975年生まれ。浄土宗僧侶。大正大学人間学部臨床心理学専攻卒業。静岡県三島市・蓮馨寺副住職。ILAB(国際仏教文化を学ぶ会)役員。自坊で「お念仏の会」や「お寺BBQ」などのコミュニティ活動を行なうほか、都内では寺小屋ブッダの「友絢さんとお茶を飲む日」(月一回)の講師を務める。著書に『泣きたいときには泣いていい―走り続ける尼僧がすすめる「小さな実践」』(講談社)
キリスト教の学校で「宗教」と出会う
友絢さん 私は三姉妹の次女としてお寺に生まれ、中学から高校までキリスト教教育に力を入れている地元の学校に通いました。思春期で色んな悩みがあり、宗教の先生に「今、苦しいんです」とというような相談をしたときに、「それは、あなたが人生を良くしようとしている証拠だよ」と言ってもらえてとても楽になった記憶があります。「宗教とは、生きることを応援し、支えてくれるものなのかもしれない」と感じた時に、自分の家には仏教という宗教があった!と初めて気づいたんです。
――キリスト教から仏教を見つめるという体験をされたのですね。僧侶になろうと思われたのはいつの頃ですか?
大正大学への進学を決めたときですね。好きな臨床心理学を学べて僧籍も取れる、ということで、そのタイミングで僧侶になろうと思いました。
父は、海外で開教使をしていたこともあり、お寺に海外の方々をよく招いたりして多様な価値観を受け入れるような人でしたから、「女の子が僧侶になると大変なこともあるし、僧籍は取らなくていいよ」と言われた時は少しショックを受けました。心配してくれていたのだと思いますが、それでも「僧侶になろう」と決めたんですよね。やはり宗教は私を支えてくれるという実感があったからだと思います。
留学先で気づいた、ありのままの自分の大切さ
卒業後しばらくは自坊で過ごしたのですが、次第に周りとの折り合いをつけることが難しくなっていきました。住職を継ぐ婿を望む声が耳に届くようになり、「お寺を継いで住職になる」という自身の在りたい姿とのギャップに苦しんでいたのだと思います。自分はこのお寺に望まれないのかな、との思いや、期待に応えられていない感覚、自信のなさ、それでも跡を継いでいく、という様々な思いが複雑に交錯して、寂しい気持ちがこみあげました。
もともと海外に興味はあったのですが、いよいよ外へ出たいという思いが募り、留学しました。その頃の私は自分の世界が狭まってしまうような窮屈さを感じていて、色んな価値観に触れながら世界を広げたくて多様な人種が暮らすサンフランシスコを訪問先に選びました。
ホストファミリーのお父さんはフィーリングがとても合う人で、私の想いをすごく受け止めてもらったという実感があります。自分にないものを求めがちだった私に、「すでに持っているものこそを大切にね」と言ってくださる方でした。人は皆そのままで完璧なんだ、ということを教えてもらった気がします。
世界の仏教徒たちとの交流
帰国後は、浄土宗の宗務庁に就職し、現在は全日本仏教会に出向中です(2021年12月現在)。今は国際関係の仕事をしており、各国の仏教徒の方達と交流する機会が多いです。皆さんと「仏教と平和」をテーマにシンポジウムを開いて一緒にメッセージを発信する中で、「一人一人が慈悲の心で生きることを心がければ世界は本当に平和になるのかもしれない」という希望が湧くようになりました。「仏教と平和」って漠然としていて具現化が難しいように思っていたのですが、そういう力が仏教にあることを今は感じています。
長く地道にゆるやかに、繋がりを大切に育む活動
――広い視野で世界を見ながら仏道を深めておられるのですね。
ご自坊ではどのような活動を?
色んな体験を経て「私がお寺を継ごう」とはっきり思えるようになった10年ほど前から、「お念仏の会」を始めました。お檀家さんに自分のことを知ってもらいたかったし、私も皆さんの求めを知りたいと思い、月に1度開催しています。法話を聞いていただき、一緒にお経を読んで、たくさんお念仏をして、最後にお茶をいただく。そんな会です。最初は仏教のお話をすることに慣れなくて、緊張で心臓が早鐘を打っていましたが、今では皆さんとの距離も縮まり、ゆっくりお茶をご一緒しています。皆さんからも一言お話をいただくなどして、一緒に場を作っている実感があります。
個人的な活動としては、同世代の女性のお悩みをお聞きする「友絢さんとお茶を飲む日」を都内で9年ほど続けています。お寺の世界でも、ジェンダーギャップによって大変な思いをされている方は少なくないですね。私自身も経験があります。次の世代の女性が生きやすい社会になることを願いますし、貢献したいと思っています。
私は「こうあるべき」にいつも苦しんでいたので、気楽にいることが自分には大事なんだな、とわかってきました。「お茶を飲む日」も気持ちをゆるやかに、長く続けられることを心がけています。
仏教とトライアスロン
――どちらの活動もサステナブルなのが素晴らしいですね。
セルフケアはどのようなことを?
トライアスロンに取り組んでいます。このスポーツを通して色んな職業の方と知り合ってたくさんの仲間ができ、ご縁や支えが重なって生きる喜びが広がりました。私が尼僧と知ると仏教やお寺を身近に感じてくれるので、これも自分なりの布教かな、と思っています。
自然相手のトライアスロンはレース中に何が起こるかわからない不確実性に満ちています。ハプニングがあっても、それに捕われず手放しながら進むことが肝要なのですが、すごく仏教的でもあり、気づきの多いスポーツです。子供の頃から体を動かすことが大好きで、童心に帰って心から笑うことのできる大切なセルフケアにもなっています。宗教者として、一人の人として、自分らしくいられるというのは大事なことですね。
――今日は友絢さんの在り方から私も大いに学ばせていただきました。素晴らしいお話をありがとうございました。
この連載記事は、大正大学地域構想研究所BSR(Buddhist Social Responsibility)推進センターが毎月発行する『地域寺院67号』に掲載されました。
地域寺院は、これからの地域社会に必要とされる寺院の在り方を探る情報を発信する月刊誌です。
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インタビュアー プロフィール
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松﨑香織:一般社団法人未来の住職塾 理事。米国Fish Family財団 JWLI (Japanese Women’s Leadership Initiative)フェロー。役員秘書として銀行の経営企画に10年間携わったのち、ロンドンの非営利組織にてマーケティングに従事。2014年より未来の住職塾ならびに塾生コミュニティ(現在約650名)の運営に携わる。全日本仏教会広報委員会委員、WFB(世界仏教徒連盟)日本センター運営委員会委員。