齋藤崇史短編⑤
弁護士の高橋薫は、いつものように事務所で資料に目を向けていた。そんな彼女の元に、一通の電話が入る。それは、幼馴染の江藤からのもので、彼が殺人事件の容疑者として逮捕されたという。
薫は、幼い頃から一緒に育った江藤の無実を確信した。江藤は事件当日、記憶を失っていたという。薫は、すぐに彼のもとへ向かい、事件の状況を詳しく聞いた。
「薫、本当に何も覚えていないんだ。あの日、一体何が起きたんだろう?」
江藤の不安そうな表情に、薫は心を痛めた。彼女は、江藤の無実を証明するため、事件の真相解明に乗り出す決意を固める。
薫は、江藤の家族や周囲の人々から話を聞いた。しかし、誰も事件の目撃者はいなかった。ただ、江藤には過去に辛い経験があり、それが今回の記憶喪失の原因になっているのではないかということが分かった。
薫は、心理学者の協力を得て、江藤の記憶を掘り起こすための催眠療法を試みた。催眠状態の江藤は、断片的な記憶を話し始めた。それは、暗い部屋、血の匂い、そして、誰かの叫び声。しかし、どれもはっきりとしたものではなかった。
そんな中、薫は、事件の関係者から新たな情報を得る。それは、事件現場に、江藤のものとは異なる指紋が残されていたという事実だった。薫は、この指紋の持ち主が、真犯人である可能性に気づいた。
警察のデータベースを調べた結果、その指紋の持ち主は、江藤の会社の同僚だった。薫は、その同僚に会い、事情を聞いた。同僚は、最初は関与を否定したが、次第に動揺し始めた。そして、ついに、事件の真相を語り始めた。
「江藤さんは、何も悪くないんです。すべて、私が仕組んだことなんです。」
同僚は、会社の昇進争いに敗れたことに怒り、江藤を陥れようとしたのだ。
薫は、同僚の自白を証拠に、警察に再捜査を要求した。そして、裁判の結果、江藤の無罪が証明された。
江藤は、失われた記憶を取り戻し、新たな人生を歩み始めることになった。薫は、安堵の表情を浮かべながら、江藤に言った。「これで、やっと、君の無実を証明できた。」
江藤は、感謝の気持ちで薫を抱きしめた。二人の友情は、この事件を乗り越えて、さらに深まった。
事件は解決したが、薫の心には、まだ何かが引っかかっていた。それは、江藤の記憶が、なぜ完全に失われてしまったのかという謎だった。薫は、いつか、その謎を解き明かしたいと考えていた。