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TRPGの話:2020年までのカミガカリキャラまとめ

武装伝奇RPG『神我狩』

現代舞台、異能もの。たぶん一番好きなTRPGです。やった回数も一番多い。やった回数が多いので、結構キャラクターが溜まってきました。

今回は『神我狩』で動かしたプレイヤーキャラクターを淡々とまとめていく記事です。キャラコンセプトやセッションについては語らず、設定面をまとめただけのものです。

五十音順、全12名。

華原雅美(かばるまさみ)

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公式キャンペーン『少女を焦がす熾火』
GM:モスクワさん(@wawawama

「……俺は卑怯な裏切り者で、他人の目ばかり気にして生きてきた、ちっぽけな存在だ」

華原(かばる)家は、古来より伝わる名門。神秘を宿し、超常存在に対峙する一族である。
歴史の長い家系でありながら、その性質は柔軟で流動的。
時代に合わせて変化を続け、交渉や商売に長け、財力、情報力、技術力に秀で、協会、騎士団、連盟とも関わりを持つ。
その異端ぶりは、近代化の際に洋館へと改修された母屋の姿からも伺えるだろう。

その宗家にあたり、華原の性を名乗ることを許された人物も、今や残すは唯一人。
華原雅美は、一族の運命を背負い立つ、華原家の現当主である。

広すぎる洋館に、ぽつりと一人。使用人こそ出入りはするものの、彼自身は天涯孤独の身だ。

性格は冷静沈着、潔癖で几帳面で完璧主義。記憶力に優れ、頭の回転は早いが、並行処理を好まない一点集中型。
人当たりは良いが少し偏屈で、考え事に集中すると周りが見えなくなる。達筆だが、自分用のメモは異常なまでに字が小さく、本人にしか読めない。
家業ゆえに学校を休みがちながらも、成績優秀、文武両道、人望も厚い。
白眉の若き当主として、今の華原家をほぼ独力で支え続けている。

しかしその裏で、彼は無力感と劣等感に苛まれ苦しんでいた。
彼は人の目が怖かった。
華原家が雅美を残して滅び去る結果を生んだのは、とある超常現象事件の際に彼が見せた甘さが遠因であったからだ。
彼はそれを、自らの浅薄と考えた。事実、彼が判断を誤らなければ、家は滅び去ることはなかっただろう。

次期当主であった彼が、まだ当主としての引き継ぎを終えていなかったことも災いした。
当主交代から、華原家はいくつかの事案から撤退。家名の影響力も落ちぶれ、いまや華原家は全盛期の見る影もない。
繰り上がりで成り上がったお子様の当主に変わってから、家は衰退したと見られた。そしてそれは事実であった。
一族の希望とも持て囃された神童は、その力を振るう土壌を獲られず、今まさに枯れようとしている。

だが、それでも彼は、家を守るために為すべきことを成し遂げなければならない。
居場所のため、生活のため、そして──華原家の当主が代々課せられた、ある「使命」のため。

ひらすらに真面目で真っすぐ。気さくで友達も多い美少年。
その内心は責任感と無力感に押しつぶされて、常に完璧な自身であらねばと努力を続けている等身大の若者である。
本家の壊滅の原因は自身の短慮な行動にあり、それを未だに悔いている。
能力は“裁判”。対峙する相手の罪を暴くことで、彼に力を貸す神が「刑罰相当である」と判断した場合、略式の処刑を行うことができる。極限まで効率化された極めて複雑な魔力式は、彼のペンひとつで空間をねじまげ、対峙するものたちは血すら流さず折り畳まれて、圧縮されて消え失せる。
能力の制約とトラウマゆえに、規律には厳しくあらねばならないが、本来は情の熱い少年であった。
家の当主という立場から責任が重く、恋愛ひとつ取っても、結婚や跡取りの問題を考えなければならない。そのために恋愛経験は皆無で、女性にはひどく初心で純情であった。

* * * * *

クリストファー・ラスカル

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オリジナル単発シナリオ『Pale Rider Protocol』
GM:m2ダ工兵さん(@osusibakuha

「……俺はジジイの一番弟子だ……一番でなくては、ならなかった……」

オーストラリア、バンダバーグの片隅に、小さな村があった。
少年がカミガカリへと覚醒した時、彼の故郷が滅びた。

その少年の能力は極めて凶暴で、超常存在組織ですら彼を引き取ることに二の足を踏んだ。
少年を引き取ったのが“災馬”と呼ばれる稀代の結界術師だった。

難なく少年の能力を抑え込んだ男の腕に、少年は強い薫陶を受けた。
少年の力は、手加減のできない殺しの力。
それは少年の力を抑え込む事ができ、邪神を抑え込む事しかできない達人の居場所となりうる力だ。
少年は一生を懸けて、尊敬する男に尽くすことを誓った。

──彼の名は、クリストファー・ラスカル。“災馬”の一番弟子だ。

ディバイントーカーが授けた言霊の力は、暴風というべきものだった。
彼が毒づけば嵐が起こる。悪口ひとつ、言の葉の刺を少し含ませるだけで周囲は更地となる。
そんなクリスが師から授かったのが、暴走する霊力に名前を与えることで存在を固定化させ、使役する秘奥だ。
彼が霊力に名前を与えれば、その霊力は自ら倒すべき標的の元へと向かい、力の限りを叩き付ける事となる。
何も知らぬ者からは、何かの名を呟いた瞬間、見えない斬撃が標的を叩き潰したように見えるだろう。その裂傷は、巨大な獣の爪痕によく似ている。

時は過ぎた。やがて弟弟子も増えた。
カミガカリが彼の元に居るのなら、もはや自分は必要ない。
クリストファーは独立し、師のように、己が力を世界のために振るう道を選んだ。

そして──

口数少なく、冷淡な雰囲気の男。
暴走する魔力を「台風」のイメージに固めて放出する。
彼が台風の名を呼ぶと、地面は強く抉れていく。

大物退魔師の一番弟子。
師匠の死を知り、その真相を探るべく動き出す。
たった一人、真実にたどり着き、葛藤の末に彼が選んだのは、弟弟子の殺害という選択だった──。

* * * * *

轟天童子強燃子(ごうてんどうじつよしもゆるこ)

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オリジナル単発シナリオ『ヒーローは君の心の中に』
GM:ごーやんさん(@chord_gouyan

「ムッ!わかったっス!全部自分におまかせっス!!」

〜轟天童子強家の家訓!
強く、真っ直ぐ、気高くあれ!〜

太陽背にして浮かぶ影
轟天童子強燃子だ

拳の硬さは鋼の意思
拳の重さは覚悟の力
流れる血潮は白いけれど
心(ハート)は熱く脈滾る

しゃかりきの
信念纏い
たくさん殴る
たまに蹴る

縦横無尽の ハリケーンブースト
一打推進 ブラスターカノン
連撃必殺 ガトリングブロー
そこだ自爆だ ウルトラエクスプロージョン

五児の母
長男8歳
守るべきもの
命を賭して

ジャスティスパンチャー 火の玉娘
轟天童子燃子

〜正義とは!
弱きものに手を差し伸べること、そしてそれは無償の奉仕であること。
そこの君も、いつでも助けを呼んでくれ!
その声の先に、燃子は居る!〜

* * *

燃子に母は居ない。
燃子は父が大好きだった。
父は仕事ばかりで燃子にはあまり構ってはくれなかった。
関係が変わったのは12歳の夏からだ。

父はよく、実験という遊びで燃子に構ってくれるようになった。
父が自分を見てくれるのが嬉しかった。
父が自分をどんどん知ってくれて嬉しかった。
身長、体重、スリーサイズ、血液型、レントゲン姿、バイタル。
父に何かを知られるたびに、嬉しさと恥ずかしさが入り混じってムズムズした。
たまに眠らされたり、ベッドに寝かされて、体をいじられた。
だんだんと体が父によって作り変えられていくのが嬉しかった。
自分そのものが父の作品になっていって、やがて父は昔よりも自分を愛してくれるようになった。
幸せだった。

病気がちだった体が頑丈になった。
体力がついた。
血液が白くなった。
体に変な虹色のマークが浮かんだ。
見えなかったものが見えるようになった。オバケとか、ユーレイとか。
細かい事はよくわからないが、父の手によって体が作り変えられていった結果、そういう体質になったと分かった。
父は、正義を為すために、燃子に戦うことを命じた。
燃子は喜んで戦場へと赴いた。正義を為し、父に褒められるのが生きがいだった。

18歳のころ、父が亡くなった。
大人になった燃子は、父の正義がどれほど歪んでいたかを理解していた。
二人の秘密は墓まで持っていくつもりだった。
この鋼の体をどうやって得たのか、それを彼女が語ることはない。
けれど彼女は、この機械の体を誇る。
この体こそが、父の生きた証なのだ。

熱血マッドサイエンティスト『轟天童子強豪剛毅(ごうてんどうじつよし つよしつよしつよし)』の娘。パパの人体改造により人知を超えた力を得た彼女は、人外の怪物を素のパンチで倒す。
正義感溢れる熱血お母さん。子供は5人いる。

* * * * *

御形駆金(ごぎょうくがね)

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オリジナル単発シナリオ『ダンシング・オールナイト』
GM:なれたらいいなさん(@naretaraiina

「富、そして名声。
それらを得るためだけだよ、おれがカミガカリを続ける理由は」

長身痩躯。長い黒髪に黒い瞳の女性。

犯罪歴は0。遅刻、欠席経験も0。任務達成率は100%。
法を尊び、最善の結果をもたらさんと十全の努力を怠らない、白い経歴の持ち主であり──

* * * * * * * * * *

「富、そして名声。それらを得るためだけだよ、おれがカミガカリを続ける理由は。
研究者の才能があって、カネになるから今の仕事なんてやっちゃあいるが、
ボランティアで研究だのなんだのと、クソほどの興味もありゃしないね」

「カミガカリの仕事は金食い虫だ。
だがカネを費やせば、そのぶん新たなカネを産む。
なるほど、これじゃあ会社の経営と変わらんな。もっと楽をして稼ぎかったが、生憎と、おれにゃあ商才がなかった」

「わかるだろ?おれぁフリーランスが肌に合う。
何故って、そりゃあそうさ。仕事で得たカネを、好きなだけ私利私欲に使えるわけだ」

「『これ』はおれが作った『道具』だ。人権のない、ただのモノノケ。
使うも壊すもこっちの勝手。『これ』をどう扱おうと、おたくらが口を出す事じゃあない」

「確かにおれみたいなやつを人は異常と言うのかな。
しかし、己の異常性と世界のシステムとの間でバランスを取りながら、真っ当に生きてゆく……。
これはまさしく『ごく普通の人間』の在り方だと思わんかね?」

* * * * * * * * * *

──問題児である。

大学時代に断片を宿した彼女は、弁護士から研究者へと志望を改めた。
製薬会社での経験を得つつ、超常存在とのコネクションを得て、自らをカミガカリとして売り込んだ。
仕事をこなすうちに、より安全と効率を求め、自らの体を改造してしまう。
やがてさらに安定して仕事を進めるために、自らモノノケを創造し、それを使役することを覚えた。

彼女は機械の体を用いて戦う。
人工器官、人工血液、皮膚装甲、内燃機関、痛覚遮断、鋭敏感覚、怪力乱神、豊胸手術……その体に手を加えた部分は数知れず。しかしそれらは彼女の戦闘の本質ではない。
彼女の本質は、体内に組み込まれた演算装置。
それは高速化された脳の動きに連動して、リアルタイムで魔術プログラムを構築することができる。
周囲の霊力を取り込み己の霊力と混ぜ合わせ、反響させ、集中させ、特定の座標へと目標を定め、状況や対象に応じて最適化プログラムを構築し、放出される霊力の無駄を極限まで減らし、術式を放ち、術技の軌道を調整し、対象への到達を判定し、対象の霊力と調和させ、霊力の拡散を防ぎ、術式を留まらせる……一連の高度な処理を超短時間のうちに実行することを可能とし、これによって元来の非力な霊力を巨大な力へと増幅させることを可能としているのだ。
そして同時に、彼女はその演算装置と通信機能を用いて、モノノケの自由意志を奪い、高度な命令を出し、自在に操ることができる。
自身とモノノケを操りながら、戦局を見据えて、仲間のサポートをする。その役割を称して、彼女は自身をオペレーターと呼ぶ。

彼女は、常に善悪の尺度を法や規律に照らして生きている。
表世界を堂々と生きられなくなることを好まず、法を侵す行為を非合理的だと考えているからだ。
他人に対しては協力的で友好的だが、その一方、モノノケ使いでありながら、モノノケへの扱いは苛烈。
これがきっかけで他人の不興を買うこともあるが、本人には改めるつもりはないようだ。

斯様に問題行動が目立ちがちな彼女ではあるが、ビジネスパートナーとしては悪い存在ではない。
彼女は正直で誠実で、最善の結果を導くことを重視する。まさしく彼女が自称する通り、ごく普通の人間であり、優秀なカミガカリなのだ。

冷たい心の女性。
より安全に長生きするために自身の身に改造を施し続けるサイボーグ人間。
研究と改造によって作られた電子生命体を隷属させている。
その振る舞いは偽悪的で、一見すると手段を選ばない非道にすら見える。自身の性格を自覚しており、周囲の信用を得るために白い経歴を貫き続ける仕事人。人が好きだが人に嫌われやすい。
機械の身体でありながら、五感と欲求だけはそのまま。食事を楽しみ、睡眠を楽しみ、性を楽しみ、娯楽を楽しみ、そのために富と名声を使う。
人生を楽しむことを最上に重んずるがゆえに、どれほど機械化しようとも、それらの機能に手を加えるつもりはない。

* * * * *

塩津菊之丞(しおつきくのじょう)

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オリジナル単発シナリオ『天翔る恋の心』
GM:ここあんこうさん(@cocoankimo

「僕自身の力は弱いものです。皆様、お願い致します」

“しとねや”という料亭がある。
外観は寂れた民家そのもので、看板もなく、一見お断り。
遡れば創立は元禄、老舗の陰間茶屋であり、女形は表舞台の名声を代償に、実力と富を得たという。
七代目・塩津菊之丞は、そんな料亭の色子であり、妖怪の血を引く魔眼のカミガカリである。

◇塩津家について
初代・塩津菊之丞は江戸時代の女形である。
旧名を四方津片盛(しおつかたもり)、かつての姓は四方津(よもつ)であったとされ、鬼女の妖怪の血を引く悍ましき形相の一族であった。
室町時代には歴史の裏で暗躍をしていたとされる記述があり、四方津一族はこの時すでに非凡な技能を備えていたとされている。
その妖怪の力が、いつからカミガカリへと転じたのかは定かではない。しかし江戸時代、旗本の後ろ盾のもと”しとねや”が立ち上がる頃、既に彼らは密命を受けてカミガカリの力を行使するという裏の顔を持っていた。
カミガカリとして覚醒した彼らは、例外なくみな男で、まるで女のような麗しい顔であったとされている。
そこにはもはや醜女の名残は無い。ただひとつ、直視したものの心を破壊する、恐ろしい瞳の力だけを残して。

◇七代目・塩津菊之丞
“お菊”と呼ばれる。幼名は國彦(くにひこ)。
齢13にして七代目を襲名し、茶屋と陰間、そしてカミガカリの作法をも叩き込まれた少年。
お上の命令には絶対服従としているが、旗本の家系は今や退魔師協会へと所属しており、現代ではその命令の範囲も常識的な”上司からの司令”の範囲に収まっている。
仕事柄ゆえ化粧は欠かさず、切れ長の細目と柔らかな長髪、鈴を転がしたような音色の喉を持ち、白檀の香りを纏わせる。
性格は淑やかで、従順に男性の一歩後ろを付き従う。
しかし今や形骸化した表の顔は現代の倫理観と乖離しており、学業や遊びを犠牲に詰め込まれた数々の教育は、彼の精神に少なからぬ歪みを与えていた。

代々続く忍の末裔。
黄泉醜女(よもつしこめ)の恐ろしい魔眼を持ち、ひと睨みで有象無象を退ける。
戦闘では房中術からなる陰陽二気の調和を応用し、仲間たちの霊力を整える役割。一方でその色香で男女を惑わせ、手玉に取ることもあるのだという。

* * * * *

吊崎足柄(つりざきタッシェ)

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公式単発魔境シナリオ『奪われた霊脈(アレンジ版)』
GM:はすのはさん(@hasunohappa3

「神の名は吊崎タッシェだ!ひれふすがよい!」

「オマエは運がいいぞ!神の恩寵をくれてやる!」
「神、そういうむずかしいの、わかんない……」
「んうっ……♡ ぜ、ぜんぜんきいてないぞ……。神……神はつよいから……」
「腰が入ってないぞ!そんなんでいいパンチがだせるかー!」

* * *

生まれながらの神霊。自ら神に至ったのではなく、神霊の両親より生まれた存在。
吊崎という家名(神名とは異なる)を名乗り、人の世で暮らしている。
両親は神へと至った存在であるが、神霊としての格は極めて低く、信仰を集めるために善行を積まなければ、神の形を成すことすらままならない。
また、自身の出自を明かす事は家の掟により禁じられている。

「神の正体なー!秘密なんだよなー!
ほんとはスゴイ神なんだけどなー!ミステリアスなところも神の魅力だから、しかたなくな!」

態度の大きい神霊。親に内緒で人里へ降りては、神様風を吹かせながら人に供物をたかっている。
巻き込まれ体質で、怪異との遭遇も多い。
そんなときは自ら身を挺して下々を守るのだという。
その正体はサンドバッグの付喪神。歴史も浅く、神々の中でも最弱。
戦闘能力に乏しく、神通力も弱弱しい。
だけれど打撃への貪欲さとその身の頑丈さにかけて、右に出る者はいなかった。

* * * * *

蒜山稜平(ひるぜんりょうへい)

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オリジナル単発シナリオ『この子の七つのお祝いに』
GM:なれたらいいなさん(@naretaraiina

「さて、オーディエンス。一曲お付き合いいただこうか。
損はさせないぜ。きっと……“天にも昇る心地”ってやつさ」

目を引く少年だった。
逞しい長身、文武両道、男女隔てなく友人が多く、大人との付き合いも良い。
情に厚く義理堅く、小さい子供たちの面倒見もよい好青年だった。

* * *

「おーおー。久しぶりに見たら、みんな綺麗になっちゃって」

6年の歳月を経て、村へと戻ってきた彼は、すっかりと変わり果てていた。
染め上げた長髪、肩に羽織ったジャケット、耳にはピアス。
ブーツカットのジーンズも、薄くて小奇麗なスニーカーも、田舎の泥道には相応しくない。
大人たちとは話が合わず、若い女性を見れば口説きにかかり、紡がれる言葉は綿のように軽い。
外の事は多くを語らず、村の事へもあまり踏み込みたがらない。

6年の溝は、彼を『他所の人間』へと変えるには十分すぎる時間だったのだ。

* * *

蒜山稜平は、悪鬼を討つ力を持った戦士だ。
矢を番えぬ弓使い。ひとたび弓を引けば、歌うような音色が響く。
それは神に捧ぐが如く、天まで届く祈りの音となり、あらゆるものを破砕する。
彼は自らの力を誰にも打ち明けていない。超常存在、オバケ、ユーレイ、カミサマなど……その気になれば『証明』できるとはいえ、現実と隣合わせの情報飛び交うコンクリートの密林では、それはあまりにも馬鹿げた、胡散臭い話だったからだ。
彼は今日も、弓をひく。誰にも言わずに、誰にも心の内を漏らさずに。

「オレは今も昔も変わりませんよ。
世界を救いたいわけでもなければ、一流の退魔師になりたいわけでもない。
義務だとか、使命だとか、そんな重苦しいのは御免です。

でも、ま……。
目の前で死にそうな人がいたとして、それを何もせずに見捨てたりはせんでしょ。フツー」

嫌いな田舎へと戻って、気の合う少女と再会して、懐かしい時間は再び動き出した。
彼がヴァイオリンを弾くと、その音波はモノノケの身を劈く。
かつてはただ、田舎の閉鎖空間が嫌で飛び出してきた。
この世界を知った今となっては、その景色は少し違って見える。

* * * * *

伏目明(ふしめあかる)

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オリジナル単発シナリオ『ヒーローは君の心の中に』
GM:ごーやんさん(@chord_gouyan

「ヒーロー“プロンプター”!執行します!」

「当プロジェクトのサポーターとしてアサインされました、フリーランスの伏目と申します。
このイシューの解決にあたり、粉骨砕身のフルコミットを推し進めて参りますので、よろしく……おねがいします」

スーツ姿の上に作業着を着込んだ女性はそう言って、過剰な角度で頭を下げた。
いちスタッフのような地味な服装に、事務的な語り口。
片目を覆い隠すほどの長い前髪と眼鏡から覗く瞳には、怯えの色が見て取れる。

彼女は取引先である“特対”の要請を受けて、現場の退魔戦士の補佐を行うフリーランスのスタッフだ。
威厳こそまるでないが、彼女自身もまた高位のカミガカリである。

伏目明、25歳。

多少の生活苦はあれど、ごく一般的な家庭に生まれ育った彼女の人生が狂い始めたのは18歳の頃。
高校卒業後、初めての社会人生活での事だった。

無名の会社からのオファー。初任給40万という破格の給料と、面接での即決、社宅補助つき。
怪しいと考えなかったわけではなかったが、魅力的すぎる待遇に、彼女はすぐさま飛びついた。
主な取引先が環境省、業務内容は気象調査だということも、彼女の警戒心を緩ませた。
公共の福祉に貢献する会社なら、きっと良い会社のはず──無垢な娘は、根拠もなくそう思い込んでいた。
業務は大変かもしれないが、やりたがる人が居ないのかもしれない。
人に喜んでもらえる仕事、人のためになる仕事をしたいと思っていた。
天職と巡り会えたのかもしれない。新しい人生がここから始まるんだ!
それが、明の輝かしい超常世界との出会いであった。

* * *

入社前。
軍隊のような合宿を受けた。
自分の他にも三十人ほどの同期の仲間たちが居た。
限界を超えた運動、人格を否定され、嘔吐すれば叱責、倒れれば叩き起こされ、雨でぬかるんだ道をいつまでも走り続けた。
体を崩して途中で休んだ日には、仲間がそのぶん動かされた。仲間に申し訳ないという気持ちで頭がいっぱいになった。
社長が直々に様子を見にきたときは、緊張で息が苦しくなった。
頑張ってるな、と肩を叩かれて、嬉しさで泣いた。
すべての過程を終えた時には、自分が人として、とても成長したような気がした。
胸を張って、上を見て歩けるようになった。今まで出せなかったような、大きな声が出せるようになった。
同期のみんなと、家族のような連帯感で結ばれた気がして、下の名前で呼びながら抱き合った。皆、泣いていた。
入社式で、貸し切りのホールで全社員の前でマイクを使わずに挨拶をした時。
社長からのお祝いの言葉をもらったとき。
また、皆で泣いた。
同期の仲間たちは、気づけば十人にまで減っていた。

1年目。
新人研修。
超常ナントカだとか、モノノケだとか、神だとか、宗教のような情報を浴びせられた。
御伽噺と陰謀論をごった煮にしたような何かを延々と読まされ、暗記を強いられた。
そんな講義が一月ほど続き、仲間たちの疑心と不満が最大まで高まったある日。
その時を見計らったかのように颯爽と社長が現れて、奇跡のような術を行使してみせた。
種も仕掛けもない、素晴らしい神秘だった。
超常の世界は実在する!自分たちは世界の裏側を知ってしまったんだ!
少しでも社長を疑おうとした己を深く恥じた。素晴らしい会社と出会えたことに感動した。
明は夢中で超常存在の知識を貪っていった。
気象調査という仕事は建前で、実際には特対という組織の下請けとして様々な雑務をこなす超常組織だということは、この時に知った。
同時に、世界の裏側を知らない人たちが、哀れに見えた。
友人たちにその話をしても、白い目で見られたり、心配されたりするばかりで、話が通じない。
この頃から、友人たちと会う事をやめた。

1年目も後半になって、ついに自分も超常の能力の一旦に触れる事を許された。
最初に教わったのは、治癒の術。この日を待ち望んでいた明は、貪るように修業の限りを尽くした。
来る日も来る日も、勉強と訓練の繰り返し。始発から終電まで、血の滲むような苦難の果てに。
とうとう明は、自力の研鑽によって、ただのヒトから、カミガカリの域──デジタルソーサラーへと辿り着いたのだ。
何故この会社では何よりも優先して、最初に治癒を教えさせられるのか。その理由を知るのは、もう少し先の事。
この頃には同期は誰もいなくなっていたが、それに気付くのは2年目になってからの事だった。

2年目。
新人が入ってきた。
この頃には入社時の洗脳も解けつつあり、あの地獄のようなキャンプを終えた後輩たちには同情してしまったし、入社式の挨拶を見たときには、感動ではなく、憐憫の涙が溢れた。
地獄へようこそ。歓迎するよ。どうせ来年までには、皆辞めるんだろうけど。
明は治癒によって身体の疲れを克服し、病や怪我も気にせずに延々と働き続ける事ができるようになった。
会社に泊まり込み、体臭を指摘されれば銭湯に向かい、再びすぐさま職務に戻る。
精神と寿命を削るような体感があったが、それらも訓練次第では克服できると聞いて、仕事と訓練以外のことは考えない事にした。
定時にタイムカードを切らないと強い叱責を受け、手書きで“修正”を強要される。休日や夏季休暇、有給などは「取得している事」にされていた。

3年目。
たまに特対の要請を請けて、現場へ向かうことがあった。
特対職員と会った事はない。
営業に理由を尋ねたら、意識レベルが怪しいため、社外の人間に会わせられるような状態ではないと言われた。
色々覚えられるのが楽しい。それ以外に楽しい事はない。

4年目
記憶がない。
ひどいセクハラを受けていた時期な気がするけど、何も思い出せない。
入社からここまでで、年収が2000円増えた。

5年目
仕事をしながら不意に死にたくなったり、理由もなく涙が流れたりするようになったが、特に仕事を辞めようとは考えなかった。
些細な事ですぐ下痢と嘔吐が訪れる体質になったが、特に仕事を辞めようとは考えなかった。
髪は真っ白になったが、特に仕事を辞めようとは考えなかった。
上司の奥さんに泥棒猫だか何だか言われてひどく罵倒された時も、特に仕事を辞めようとは考えなかった。
彼女の尊厳を繋ぎ止めていたのは、自分の会社が世のためになる事をしているというただ一点の“真実”であった。
しかし、彼女が信仰していたその“真実”もまた、上層部と超常犯罪者によるマッチポンプの露呈という形で、あっけなく崩れ去った。
そのとき、彼女のなにかがプツンと壊れた。

辞める事にした。

コピー用紙にシャープペンシルで「辞表」とだけ書いて上司の机に叩きつけた。
上司が何か言う前に服を全て脱ぎ、(おそらく上司との関係を告発するような何かを)叫びながら机に飛び乗り脱糞して、そのまま会社を立ち去った。

* * *

そんな狂態を演じても、意外と人間は終わらないものだと知った。
尊厳の死と引き換えになんとか会社から逃げ切れた彼女の人生は、まだまだ続く。

緊張の糸がほどけた瞬間、全身にガタが来た。
病んでしばらく寝込んだ。
寝込んでいる間はとても辛かった。
最低の会社にいた日々の記憶が自分を襲ってきた。
仕事をしていない自分を許せなくて、無力感と罪悪感に震えた。

そんな明のもとに何処からともなく現れ、手を差し伸べた人がいた。
特対のエージェント“黒衣菊理”だった。
菊理は明の経歴を書面で淡々と読み上げた後、同情も軽蔑もない無感情な声で、一言、こう言った。
──「“特対”からの依頼をお伝えに参りました」──。

それから2年が経った。
伏目明は世のため人のため、今日も働き続けている。

人権のある社会人生活には未だに慣れない。
増え続ける貯蓄の用途は全く思い浮かばないし、
仕事のない日はベッドの上で働かない自分を責め続けるし、
特対は情けで仕事を回してくれているのではと不安ばかり押し寄せるし、
どんな相手にも粗相がないようにと気を張らねばならないし、
ストレスの多い仕事ゆえにすぐに腹が痛くなる。

だが、彼女は今の仕事を天職だと感じている。
この世の役に立っている間だけは、自分が人間でいられる。
そんな確信をこれほど与えてくれる仕事など、他にないのだから。

心が壊れた社畜。
現役を退いて、今は環境省特別対策室のサポートをしている。
手持ちのノートパソコンに事前に用意した術式圧縮メモリーカードを挿入し、コマンドを実行することで奇跡を行使する。
自己評価が極端に低く、態度は卑屈。目上の者には人権を捧げて絶対服従。
人前に出ることは好まず、常に人の下、人の影に生きてきた。
そんな彼女に、依頼主は「ヒーローショーに出て欲しい」と無茶ぶりをするのであった。
「よ、喜んでやらせていただきます!ドラスティックに!フルコミットさせていただきまひゅ!」

* * * * *

山田勇人(やまだゆひと)

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オリジナル単発シナリオ『追憶のメリーゴーランド』
GM:モスクワさん(@wawawama

「ごめんなさいとは、もう言わない! 僕がッ、青樹さんを護る!」

──いつだってそうだ。
僕はヤだって言ったのに。

僕は、男子では一番身長が低い。
女子にはよく好意的に話しかけられるけど──
みんな、おもちゃをからかって楽しむような目をしている。
気まずい空気は苦手だから、そういう時、やめろとは思っていても、本気でやめろとは言えない。
だから、みんな僕が本気で嫌がっているわけではないと考える。
別にいじめとかじゃないんだ。
僕の紛らわしい態度がそうさせるのは、わかっているんだけれど。

今回もそうだった。
学園祭の準備を半ば強引に押し付けられた時、僕は「ヤだ!」って言ったんだ。
だけど本気には取られなかった。
指名された時、僕はことさらに大げさに反応して、ツッコミのように盛り上げて、おいしい立場に見せていた。
だから、みんなは僕が本気で嫌がってるとは思わない。

でも、いざ手伝いを始めてみたら、後悔はしなかった。
自然な成り行きで、青樹さんと一緒に仕事ができた。
青樹さんと話していると、胸がどきどきする。
青樹さんは綺麗で、僕にとっては高嶺の花。
青樹さんが僕を認識している。僕の名前を呼ぶ。
それだけで、何だか現実離れした幸せな心地を感じる。
僕は、自分から行動を起こして彼女に近づく勇気なんてないから、
こうしてただ、幸せな出来事が訪れるのを待っていた。
これから先に、足を踏み込む勇気もない。

また都合よく、進展させるような出来事が起こればいいのに。
……きっとそんな日は来ない。だから僕は願う。
ずっとこんな時間が続けばいいのにな、って。

* * *

山田勇人(ユヒト)はシンデレラのように、訪れる幸せをただ待ち望む少年であった。
人当たりはよくお人好し、主張は控えめで、誰かとの対立は望まない。
人畜無害で流されやすく、何かが起これば守られる側。
か弱い、小動物のような少年だった。

そんな彼にも変身願望があった。
よく見る夢の中では、彼は勇者の装束に身を包み、聖なる剣を振りかざす。
物事をはっきりと言い、悪は見過ごさず、その表情は自信に満ちていた。

物語に現れる勇者のような存在に、彼は憧れていた。
彼はなりたかった、姫を守れる勇者のような存在に。

夢から目覚めると、彼は考える。
勇者って何だろう。

物語の中で見た、勇者たちの姿を思い浮かべる。
彼が思い描く勇者とは──

「勇者とは! “剣をッ、引き抜ける者の事だ”!」

自身の操る剣を“自分にしか抜けなくする”それが山田ユヒトの得た能力だ。
突き刺さった聖剣を抜けるのは彼のみ。彼が“刺さった”と認識すれば、それは決して抜ける事はない。
わずかな傷でもつければ、もはやそれは彼の力なしに、抜ける事はない。
たとえ浜辺の砂だろうと、たとえ敵の革鎧だろうと、たとえ空気だろうと。
それを彼が突き刺せば、それが固定される。
そして彼が剣を引き抜くと、固定によって蓄積されたエネルギーが爆発的に放たれるのだ!

山田ユヒトは、二人いる。

一人は内気で気弱な小動物。
一人は凛々しく気高い勇者様。

その変身が解けた時、彼は少しでも理想の自分に近づくることができるだろうか。

借り物の力で、勇者へと変身した少年。やっぱ勇者は聖剣引き抜かないとな!的な認識の押し付けを、異能の域まで昇華させてしまった男。
その勇者姿は鬱屈した日々を送る彼の変身願望の発露であり、彼が抱えたまま表に出すことのなかったもう一つの彼自身でもある。
好きな人を守るために、そして恩人への恩を少しでも返すために、彼は勇気を出して、その剣を振るった。

* * * * *

楽踊宴(らくよううたげ)

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オリジナル単発シナリオ『全ての子等に祝福を』
GM:モスクワさん(@wawawama

「ちゃんと見てて。成長した、うちらの事」

楽踊家は退魔師協会に身を置く一族。宴はその次期当主である。
先祖代々、次期当主は水底町にて育てられ、やがてその霊脈の一部を管理する。
宴がこの地を任されたのは齢15の頃。今やその大任も3年目だ。
土地神の羽衣姫とは付き合いも長く、母のように慕っているが、着任時は散々に迷惑をかけた事もあって、今でも頭が上がらない。

彼女は底なしに陽気で人懐こく、感情豊かで情に厚く、真面目で愚直で強い正義感を持っている。
あまのじゃくで、自分を避けようとする相手に殊更に興味を覚えるきらいがある。
時としてそれが暑苦しく暴走することもあるが、基本的には善人だ。

善良な陰陽ギャル。一途で友達想い。
ギャル文字でデコったオリジナルの呪符を用いて、うさぎのストラップに神通力を宿らせたり、ヵヮィィ式神を行使したり、氷をまとわせて攻撃したり、傷を癒したりする。
どんな辛い現実も、受け入れられてしまう程度には強く、受け入れるたびに傷付いてしまう程度には弱い。
クラスメイトを守るため、過酷な選択を強いられることとなる。

* * * * *

羅神金烏(らじんきんう)

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オリジナル単発シナリオ『巨人の夢』
GM:モスクワさん(@wawawama

「神秘とは恐ろしいものだ。人とは恐ろしいものだ」

アイルランドの小さな田舎町に、魔術師の一族が移り住んで来た。
彼らはその力を隠さず、人と魔術の共存を謳い、古代魔術を人々のために役立てようとした。
しかし、町の人々は、異端である彼らのことを恐れた。
悲劇が起こるまで、そう長い年月はかからなかった。
暗い空に煙。それを照らす明るい炎。
遠く響く悲鳴、もがく人々。巻き上がる煤、焼けるにおい。
燃え上がる火の手は瞬く間に広がり、大きな屋敷を取り囲む。
火中には、女性が居た。美しい顔は今や無残に灼け爛れ、今やただ焦がされるその時を待つのみ。
彼女は今際の際、1人の男の幸せを願った。
どうか貴方は、弱き者を憎まないで欲しいと。

それが、羅神金烏という男の許婚の物語である。

羅神金烏は、太陽の神に仕え、その力の一部を譲り受けた一族の末裔だ。
その性格は傲岸不遜。自信に満ちた典型的な血統主義で、超常の力は、血を受け継ぐ高潔な一族にこそ相応しいと考える。
しかし、彼は決して、血統を持たぬ者が嫌いなわけではない。
彼は、人が愚かであることを赦す。だからこそ、人と魔術には架け橋が必要なのだと考える。
彼が望んだ道は、人と魔術師の共存。
そしてその手段として選んだのは、学習塾の創設であった。
彼が経営する『日輪塾』は、関東に展開する進学塾。
その裏の顔は、魔術師の素養を持つもの、力を隠し、人に打ち明けられない者を見つけ、寄り添うための施設だ。
力に目覚めた者、力を隠して日々を生きる者。そういった者達に、力の正体を伝え、生き方のヒントを伝え、相談に乗り、望むならばその力の扱い方を教える。
この世界は、まだ神秘の情報を伝えるには未熟すぎる事を、羅神金烏はよく知っている。だからこそ、強くなれる素質を持った弱き者にこそ、羅神金烏は手を差し伸べたい。神秘との付き合い方を教えて、悲劇を生まないようにしたいのだ。
彼が最も許せないのは、力を持つ愚者である。小達人として連盟の魔術師にも教鞭を振るう彼は、愚者を生み出さない事こそ教える者の責務と考えている。
彼は、強い愚者に容赦はない。
魔術結社連盟を抜け、世界の破滅を目論む魔術師などは、その最たる者である。

いかにも現代魔術師といった佇まいの男。
エジプトに赴き修行を重ね、太陽神ラーの瞳の権能を部分的に譲り受けた。
彼はかつて、凄惨な事件に立ち会った。人と神秘が触れたとき、人はパニックになり、思いもよらぬ蛮行を引き起こす。失敗を目に見て学んだ彼は、人と神秘の未来をどう導くかを考えた。
羅神金烏は未来を憂い、教育へと力を注ぐカミガカリである。

* * * * *

レナータ・フロレスク/刻晶霊無(こくしょうレナ)

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オリジナル持ちまわしシナリオ『終末クロックワイズ』
キャンペーンGM:モスクワさん(@wawawama
プレイヤー&GM:こめつぶさん(@cometub)、ごーやんさん(@chord_gouyan)、m2ダ工兵さん(@osusibakuha)、ここあんこうさん(@cocoankimo)、せつこ(@fb15k

「だぁーから、アタシはガキが嫌いなんだわよ!」

レナータ・フロレスクは1756年生まれ、ルーマニア出身のカミガカリ。吸血鬼狩りから逃げ出して日本へと流れ着き、モノノケに殺されたとされている。
彼女を殺したモノノケ『悪食の餓鬼』は人肉を食らう恐ろしい化け物であった。輪廻を逃れ、前世の記憶も持たず、意思も知性も持たず、本能のまま人を殺しては喰らい、見境なく墓を荒らしては喰らい、血肉や骨、糞尿や吐瀉物までも嗅ぎつけて喰らう屍だ。

その餓鬼は『食らった者の性質を取り込む』という性質を持っていた。
人を喰らえば喰らうほど、餓鬼は色々なものを得ていった。知恵が生まれた。やがて言葉も理解した。その餓鬼が、餓鬼であった頃に喰らった最後の食事が、『故』レナータ・フロレスクという夜魔だった。

その日は月の満ちた夜だった。楽な狩りだった。
知恵を得た餓鬼は闇に紛れ、背後から夜魔の頸に食らいついた。
夜魔は絶命した。
夢中でその体を味わった。頭髪も、爪も、骨も、眼球も、歯も、胃腸の内容物に至るまで、何も残さずに。
餓鬼は、夜魔の持つ邪眼と、エレメンタルアデプトの断片を取り込んだ。
苦痛や欠損の錯覚あるいは具現などの幻覚の呪い、死と飢餓と疫病による魔毒の呪い、回復と蘇生の反魂の呪い。それらを邪眼の能力で他者へと押し付ける力を得た。
だが。もう一つ。
餓鬼は、もう一つ、自身の運命を大きく変えるものを得てしまった。
──それは、人の心であった。

連盟が餓鬼に接触したときには、既に餓鬼は人間にとって害ある存在ではなくなっていた。
餓鬼は連盟に、贖罪の機会と、超常存在としての居場所を求めた。
連盟もまた、超常存在として、研究資料としての有用性を餓鬼に求めた。
餓鬼は、自らを形作った存在「レナータ・フロレスク」の名を名乗ることを望んだ。連盟もまた、彼女をこの世に生かすためのカバーストーリーとして「レナータ・フロレスク」の死を利用することを選んだ。

それから200年が経った。
彼女はすっかり人の世界に馴染んでいた。
かつての事情を知る者も、今は連盟内部にすらほとんど残っていない。
だから、周囲も彼女の事を、無害なサキミタマだと思っている。

しかし、忘れてはならない。
人に慣れ、人として暮らしてはいても、その体は今も人肉の美味を求めているのだ。

そして、半年前に至る。

餓鬼は偶然にも、人間を発見した。
交戦の後だったのか、体中は銃弾のようなものに穿たれ、既に事切れていることは明らかだった。

その光景を見た時、強い衝動が彼女の体を駆け巡った。
──誰も傷つけるわけじゃない。誰も殺すわけじゃない。いいじゃないか、少しぐらい。今なら誰も見ていない──
餓鬼は、自らの衝動を抑えられず、犠牲者の女性の体を齧った。

瞬間、深い後悔が彼女を強く責め立てた。
彼女は泣きながら、その場を逃げ出した。

犠牲者の名前は、刻晶地依。
記憶と感情、その一部が流れ込んできた。ある少年を守るための決意と、その少年が抱えたものを知ってしまった。

地依が、餓鬼を許した気がした。
餓鬼もまた、地依の感情に同調した。

その時、餓鬼は刻晶地依の遺志を継いだ。
面識すらない『黒無』という少年を守る、その決意を心に秘めたのだ。

餓鬼は黒無という少年を見つけ、彼を守り続けた。
やがて、その罪も白日の下に暴かれる事となる。
少年は餓鬼を許し、餓鬼は少年を愛した。

魔術結社連盟の大達人。
その正体は永くを生きる大妖怪、餓鬼である。

かつて食らったカミガカリの名を名乗ることはもう止めた。
今の彼女は“レナータ・フロレスク”と“刻晶地依”の遺志を継ぐ一人の女、“刻晶レナ”だ。

少年の前に現れ、保護者面を始める赤の他人。
その正体は親代わりの師匠を食って師匠の記憶を受け継いだ化け物だった。
化け物は少年を我が子のように愛し、かつての師匠のように少年を導き、少年もまた、その化け物を信用した。
だから、全ての罪が明るみになったときも、少年はその化け物を信じた。

* * * * *

年末大掃除のつもりが、年内に間に合いませんでした。
今年もよろしくお願いします。



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