【スポイラーあり映画レビュー】アニアーラ(2018)

はじめに

なんかまだ日本語のレビューないし、そろそろ上映終わるので書きました。

ただしこの原作付き映画は僕はまったく予備知識なしで見たため、この内容の半分はインターネット検索の要約、半分は個人的な考察となっております。

なお個人的に記事を書くまで知らなかったことを明記しないのが嫌いなので、今調べて知ったことについては文末に【Google検索】の表示が付与されます。


映画アニアーラとは

映画アニアーラ(2018)は、後のノーベル賞作家、スウェーデンのハリー・マーチンソンが執筆し1956年に発行された宇宙ポエムをベースにしたSF映画です。【Google検索】

なお彼がノーベル賞を受賞したのは1974年で、同じスウェーデンのエイヴィンド・ユーンソン氏と連名だったり、本人らがノーベル賞の選考委員だったりでなんか物議を醸したらしいですが、よく調べていません。しかしとにかく、アニアーラ自体は別にノーベル賞受賞作品という訳ではありません(多分)。【Google検索】

原作はともかく、この映画については日本人の大半が知らないと思われます。何故って全然上映していないからです。僕が知る限り、新宿のシネマカリテのみでしかも平日の昼とかにやっていたぐらいで、土日にはまともにやっていませんでした

僕も観た多分現在唯一の視聴方法がこれですが、普通の人は観ないでしょう。何せレンタルのみで1300円ですので。

https://aoyama-theater.jp/pg/3929

たかい

更にこのサイト、デフォルトの再生画面が狭いし、10秒ずつ行ったり戻ったりのボタンもないため使いづらいです(全画面化はある)。おすすめの使い方は単に画面の倍率を上げる手です。ストリーミング自体は特に遅延とかなくよかったです。最近の配信は何でも性能良くてすごいですね。


内容

さてここからが映画レビューですが、まず最初に言及しておかなければならないのが、よくある話ですが煽り文句と異なりこの映画はあんまりサスペンスではありません。どちらかというとドラマ、風刺作品、ドキュメンタリーとかに近い内容になっています。


原作は英文含めすぐには入手が難しいため読んでいませんが、Google検索で見る限り、以下のような大筋の設定はほぼ違いがないようです。

・地球は荒廃が進んでおり、テラフォーミングされた火星への移住が始まっている

・舞台となるアニアーラ号は途中原因不明のトラブルで操作不能になってしまい、火星行きコースから離れ、こと座に向かって宇宙をさまよう

なお原作の地球の荒廃要因は放射能汚染となっており、映画では明確な原因は説明されていませんが、初期のシーンで皮膚腫瘍などを帯びた乗客が描写されるため、そこも設定は同じであるように思われます。

原作を1ミリも読んでいないため合っているか分からないのですが、設定として異なると思われる部分は以下です。

・アニアーラ号は旅客船としてかなり洗練された船となっており、非常に快適な生活が可能になっている

・アニアーラ号には「MIMA」と呼ばれる催眠リラックス装置が目玉として搭載されており、主人公の女性はこのMIMAの操作・整備スタッフとして乗船している

・映画でも初期の段階で火星行きのコースから外れるが、船長はスイングバイにより元のコースに戻れると説明する

3つ目の要素は重要で、これだけ見ると徐々に明らかになる真実と乗客の軋轢…みたいな構図を想像しがちなのですが、結論から言うとこの映画では船長の支配体制が疑われるようなことは最後までありません。

この映画はその後も下記のようなお約束パターンがどんどん出て来ます。

主人公と同室の測量士が実は現在のコース上に他に惑星はないと話したのを、乗客が聞いてしまう

・放浪生活が長引き、需要が増したせいでMIMAのAIが暴走、突如しゃべり始め人々に悪夢を見せながら爆発する

主人公がMIMAを業務後に独占していたことがバレ、しばらく収監される

宇宙カルトが誕生する

・宇宙嵐に巻き込まれ、多くの乗員乗客が死ぬ

・航路上に高速で接近する未知の無人宇宙船らしいものに燃料がある可能性が分かり、急遽若者をVR訓練して回収ミッションを行う

永らく沈黙していた測量士(年配)が遂に真実を話そうとするが、スタッフの前で船長にテーザー銃で殺害される

しかし、上記のようなイベントに遭遇しても乗客は割とみな大人しく、船長も嘘つきで偽りの希望を与えなぜか異様に画質が低いプロパガンダビデオを流しますが、燃料棒らしいものを拾えると分かると素直に喜んだり、宇宙をさまよっているからといって変な独裁国家を作るのに固執しているわけでもなく、カルトも変なイベントを開くばかりで、和気藹々とはしていませんがみな基本的にいい人々です。

アニアーラ号は上述の通り、映画が始まってすぐに事故でコースを逸脱、更に燃料を全て失ってしまいますが、電力と水については何か別のシステムが動いているらしく、最後まで電力と水は供給され続けます。食料としても使われる藻を利用して、何らかの再生水を活用しているらしく、映画内でそれらしいシーンが何度か登場します。

分かりづらかったところ

あまりないタイプの表記のため、僕も見ていてすぐには気付きませんでしたが、映画内の「1年後...」「2年後...」などの表記は実際には放浪を開始してからのトータルの年数を示している点は初見ではかなり分かりづらい気がします(意図的かもしれませんが)。

これは他のシーンではそのまま前回から数年後という意味にも取れるため分かりようがないのですが、途中、主人公のパートナーが妊娠してから出産するまでに「5年後...」みたいな表記が出るため、そこでだいたい気付くことになります。

また各年数の経過テロップの後には副題のようなものが付いており、その後の展開を暗示していますが、前述の通り基本的にそんな大事にはならないため、そこまで印象に残っていません。

覚えてるのは燃料棒が出て来る回の「槍」、そして最後の「石棺」ぐらいでしょうか。

これに関して、最終的にはこの表記方法とした意味は判明することとなります。


アニアーラ号の意味、原作との差異

オチの話をしないと他の説明が出来ないため、早速オチの説明から入ってしまいますが、結論から言うとアニアーラ号はその後一度も軌道修正をすることが出来ず、乗客は秩序を維持しながら緩やかに全滅してしまいます。

最後に「2X年後...」(具体的な数値は覚えてない)というテロップの後に灯りも少なくなり、暗闇や栄養失調のために目が白濁して歌を歌う主人公の姿が映し出され、テロップは即座に「5XX万年後...」(これも数値はよく覚えてない)となります。サブタイトルは「石棺」。あれほど宇宙空間でも輝いていたアニアーラ号には、もはや一つも光は灯っていません。

宇宙船の内部は明確に描写されることはなく、完全に水没し、藻が漂う宇宙船内に光が射す様子が描写されます。どうやら、藻を介した水生成システムは人がコントロールしない限り、永遠に水を作り出していたようです。

そしてアニアーラ号は、到着します。人々が住める星に。

天文系に多少興味のある方はこの時点でピンと来られると思いますが、これは明らかにこと座星系のケプラー62fです。これは現時点で人が住めると考えられている星の一つで、1200光年先に存在します。アニアーラ号は毎秒64kmで進み、光の速度は毎秒約30万kmであるため、計算すると1200/(64/30)*1万≒562万年 であり、だいたい計算は合うことが分かります。

重要なのは、ケプラー62fが発見されたのは2013年だということです。【Google検索】

したがって原作の刊行された1956年にはその事実は知られていませんし、恐らく原作にはそのような展開は用意されていなかったでしょう。

監督は恐らく、このニュースが発表された直後に映画「アニアーラ」にこのオチを持ってくることをすぐに想像したのではないでしょうか。


こうして、アニアーラ号の人々は最後は次に住むことの出来る星に到着することが出来ました。

それは非常な皮肉でもありますが、同時にある種の示唆でもあります。


最初に測量士の話を聞いてしまい、何としても火星へ行きたがる乗客に、主人公は火星が実際には如何に過酷な環境であるかを説明します。下手をすると、火星はアニアーラ号とあまり変わりないか、それ以下の環境だったのかもしれません。

船長は、人々が藻の食事に慣れた頃に「我々だけの惑星を作った」というアナウンスを流すことを決めます。無茶苦茶な話ですが、実際人々はアニアーラ号の中で社会秩序を守り、通貨や教育、娯楽のある環境で過ごしました。

賢い人々が大衆を不安に陥れることのないようコントロールし、一日の大半をオフィスで過ごす現代の僕らと、アニアーラ号はそれほど大差はないようにも思えます。

だとすると、アニアーラ号の人々は本当に不幸だったのでしょうか。無論、20数年という期間は僕らの今の考えで言えばあまりに短いものですが、作中の火星だって、本当にうまく居住出来ていたかは分かりません。ひょっとすると、火星の居住環境の方が先に滅んでいたかもしれません。

その点、アニアーラ号は最後には地球に似た星に辿り着くことが出来ました。誰一人救われることはありませんでしたが、もし選べるのであれば、僕も宇宙を漂い続けるよりは、地球に似た星に辿り着けることを選ぶでしょう。

そもそも、MIMAが映し出すのがただただ純粋な自然であった、というのもこの映画のポイントであったように思われます。他にリラックス効果のある脳波調整などの効果が含まれていた可能性はありますが、後に再現されたディスプレイも含め、MIMAが提供していたイメージはどの人に対しても一貫して、単なる自然でした。

これはSF的な催眠装置としては些か特殊なものでしょう。他の作品で提示される電子麻薬的なものというのは、もっと現実離れした抽象的空間であったり、本能を満たす非常に肉欲的なものであったりすることが多いものです。

ラピュタの決めセリフではありませんが、この作品のテーマとしては「自然から離れては生きてゆけないこと」があるように思われます。だとすれば、火星よりも遥かに地球らしい、自然に満ちた場所に辿り着けたアニアーラ号の人々は、むしろ幸福だったのではないでしょうか。どこか地球とは全く違う場所で、全く愛せない環境で生きてゆくよりも。

それは、我々が北欧に漠然と抱いている自然と一体化した人生や価値観と一致したものに思われます。


それで

・・・といっても、僕のこのような感想は残念ながら一緒に見た友人にはご理解いただけませんでした。彼は僕と違って都会育ちで、自然は好きですがそこまで帰属意識がある訳ではないのです。

とはいえ、この映画は単純なふわふわポエム映画に比べるとかなり起伏に富んでおり、お決まりの展開が出て「スリラーになる・・・?!」と思うたびにいい意味で肩透かしを食い、結局静かなままに過ぎて行く感じは面白かったです。

そう、作中で様々なイベントがあり結構大変にも関わらず、人々は聞き分けがよく、気楽に働き清潔で、船内の生活水準は一貫して高く、教育や娯楽、広くてお洒落な部屋も維持され続けているのが何とも不思議な感じです。ご都合と言ってしまえばそれまでですが、北欧ではこのレベルの真面目さと生活水準はそもそも普通なんだろうな・・・・・・・・・・・・と思わされてしまい、やっぱ移住してえなーでもコンビニとか神社とかないとこはやだなーみたいな話を友人としておりました。

僕の評価は☆4(派手さにはやや欠けるが、映像の綺麗さ・自然さ・真新しさ・伏線の回収は素晴らしい)、友人の評価は☆3.5(綺麗だったし、話は分からんかったが好みのマイナージャンルとして頑張っているので+0.5)でした。

そもそもなんでこんな上映されてないんだろうな、と思いますがまぁ十中八九主人公のレズカップル相方が望んでないけど同調圧力的に回避できなかったセックスパーティーで妊娠して出産した上で子供と一緒に自殺するせいだよねという感があります。別に原作準拠じゃなさそうだし時節に合っていなさすぎる・・・・・・・

そんなアニアーラも、上記青山シアターでの上映は残すところ8/7(水)までとなっております。まぁ高いですが、マイナーですし。

いずれAmazonビデオでプライム入りする日も来るかもしれませんが、日本もこんな映画が普通に大手の映画館で1ヶ月程度は上映される程度に文化的になってくれないものかな、と話した程度には良い映画でした。


ほしいやつ

https://openlibrary.org/books/OL348685M/Aniara

たかい

なんでこんな高いんだ・・・

しかし往年のMTGをおもわせるイラストの味《よさ》がありますね。

まぁとりあえず大人しく日本語版買います(2014版)。

そもそもなんで2014年にこんなの出版されたんでしょうね?

よく覚えてないんですが、やっぱこと座方面で住める星が見つかった辺りで取り沙汰されたんでしょうか。



クルトタンク

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