
「ファンド損益取込」という非効率な業務
複数の投資家から資金を集めて不動産や株式等に投資をする場合、ファンドなどを通じて行われるケースが一般的かと思います。
クライアントがファンド投資している場合、「ファンド損益取込」という、とても非効率な業務が発生するため、少し紹介させていただきます。
ファンドの損益取込
ファンドとは
ファンドと聞いて一般的にイメージするものに次のようなものがあると思います。
投資信託
ヘッジ・ファンド
村上ファンド
おそらく「ファンド」という言葉に明確な定義があるわけではないと思いますが、一般的には「複数の投資家から資金を集めて金融商品等で運用する仕組み」のことではないでしょうか。
そして、ファンドにも「会社型」と呼ばれる、法人を投資Vehicleとして活用するファンド、任意組合契約/匿名組合契約などの「契約型」と呼ばれる、Vehicleそのものに法人格がない(投資Vehicleはあくまで契約関係)というファンドなどがあります。
そしてこの「契約型」ファンドのことを「パススルーVehicle」と言ったりします。
なぜ「パススルーVehicle」なのか?と言うと、例えば「任意組合」の場合、民法で以下のように規定されています。
(組合財産の共有)
各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属する。
これは、投資家が契約型ファンドに出資した場合、ファンドの財産はファンド固有の財産ではなく、あくまで各投資家の共有財産ということを意味します。
つまり、ファンドが集めた資金を運用して収益を得た場合、それはファンドの収益ではなく、各投資家の収益ということになるので、こういったファンドを「パススルーVehicle」と言います。
税務上の取扱い
この契約型ファンドの税務上の取扱いはどうなっているか?というと、通達に以下のように規定されています。
(任意組合等の組合事業から生ずる利益等の帰属)
任意組合等において営まれる事業から生ずる利益金額又は損失金額については、各組合員に直接帰属することに留意する。
つまり、税務上も「契約」それ自体は納税義務の主体とはならず、ファンドで生じた収益は各投資家に帰属することになります。
例えば、私が「A任意組合」の出資持分を10%持っているとします。
そしてこの「A任意組合」が1,000の利益を得た場合、私は1,000の10%である100を自分の利益として認識する必要があります。
このファンドの損益から自社の出資持分に応じた損益を集計/認識することを「ファンドの損益取込」と言います。
この業務の課題について
機関投資家を含む金融機関などは膨大な数のファンドに出資しているものの、限られた人員では対応しきれず、この「ファンド損益取込」作業を税理士などに委託しているケースが多いと思います。
作業内容としては、ファンドの決算資料を確認し、ファンドの収益/費用の内、クライアントの出資割合に応じた損益を集計する。というシンプルな作業です(ただし実務上は契約書の内容や複雑なストラクチャー図の理解が必要など、色々と複雑な作業もあります)。
そしてこの「ファンド損益取込」業務の最大の課題は、ファンドからPDFで決算資料が送られてくることです。
ファンドの決算資料は12月や3月など特定の時期にどうしても集中してしまいます。また、決算資料がPDFのため、自社システムへの入力で膨大な手作業の工数が発生します。加えて、決算資料のフォーマットがファンド毎に異なるため、損益取込を行うための会計/税務のある程度の知識が必要になります。
最後に
代表的な金融機関の有価証券報告書などを2年比較してみると、組合出資金の残高が増加していることが確認できます。
ファンド投資は分散が効くため、安定した収益を期待できる資金運用目的のファンド投資は今後も増加していくことが見込まれます。
生成AIの進化により、ファンド決算書のPDFを自動で読込み、決算/税務に必要な数値を自社システムへ連携できるようになると、この業務はとても効率化されると思われます。